×       ×       ×
 
 清峰 鋭(えい)がおとなしく先生についてゆくと校長室の隣の応接室へと招じ入れられた。
 「失礼します、うちのクラスの生徒がなにか  
 先に立った先生が校長に尋ねる。
 「やァ、やァ、細貝クン。悪い用件ではないようだよ。こちらの御方が清峰クンに話があるというんだ。」
 「小ヶ崎(おがさき)と申します」
 校長と向いあった客人が軽く一礼した。
 
 行儀良く、細貝先生と並んでお辞儀をして腰かけて、初めて目を上げて相手をみたとたん  鋭はひどい悪寒を覚えてギュッと目をつぶった。
生徒のそんな様子には気づかないようで、大人3人は型通りの挨拶などを交しあっている。
 その男はわりあいに小柄で、尊大そうな態度や言葉使いをする反面、ひどく狡猾でいかがわしい雰囲気をもかくし持っているようだ。日に焼けていない黄色い肌に、ひどく分厚い黒ブチ眼鏡をかけて、しきりに唇と舌を突きだすようなしゃべりかたをする。
けれど鋭に、いつかヒルを背中に放りこまれた時のような感じを思いおこさせたのは、どこの町にでもひとりはいそうなその男の陰険さではなかった。
 緑色  だと、気がつくまでにはしばらくかかった。その男の着ていた妙なかたちのスーツのことだ。
それはよく見れば自然の葉っぱの色に似せて作ってあるようでいて、やはりまるっきり違った性質をもっているものだった。木々や草の緑があくまでも優しくてしっとりと湿っているのにひきかえ、そのスーツの色は毒々しく無味乾燥で、ひどく人為的な感じを与える。
奇妙に目のまわるような形の地模様が織りだしてある。
   先生がたはこのスーツが変なことに気がつかないのかな。
 鋭はそっと様子をうかがってみた。2人ともごくあたりまえの顔をしてあたりさわりのない時候の挨拶をとりかわしている。気がついていて礼儀上、表に出さないでいるのとも違うようだ。
 コトン。音をたてそうな調子で不意に大人2人は寝入ってしまった。
 いつのまにか、男は瞳から妙な圧力を発して鋭を見ていた。鋭はそんな眼つきを以前にも見たことがある。  偶然カエルの群れにいきあたった時の、品定めする、蛇の眼。
 「  きみは自分のIQを知っているかね」
 ゆっくりと、抑揚の少ないくぐもった声で男は話しはじめた。
 「わしは Dr.小ヶ崎。J.E.S.S.  国立科学者養成センターの独立研究者じゃ。ふむ、まあ、教授だと思っといてもらおう。」
 その声を聞いているうちにDr.とやらが見かけより歳をとっているらしいことがわかってきた。それに、このまま彼の眼を見つづけてはいけないということも。
 鋭は必死になって視線をそらそうとする。どちらかといえば半そで一枚では肌寒いような梅雨の季節なのに、じっとりと額が湿ってくる。体はぴくりとも動かない。
 ヘンだな  鋭はいぶかしみ始めていた。催眠術かなにかだろうか?
校長も担任も、すっかり寝入ってしまっている。
 「J.E.S.S.  わしらは単に《センター》と呼んでおるが  のことはきみも知っておるじゃろう。例の、国立科・技開発研究所の附属機関として一昨年設立されたヤツじゃ。
この際、面倒な前置きは抜きにするとしよう。わしらの計算によればきみのIQは推定260、科学的方面に著しい興味および特性が見られる。……どうじゃね、《センター》へ来ないかね?」
 今は小ヶ崎教授の不気味に細められた両眼からは手っ取り早く素直にうんと言わせてしまおうという圧力が放射されていた。
 先刻の騒ぎの際に例の“影”からうけたものとはまったく異る圧迫感だった。“影”のそれが たちば的に相手より弱いものの必死さから来ていたのにひきかえ、今、鋭がうけているのは、「おまえなどわしにかなう筈もないのだ」  という、男の絶対的な自信が裏がえったものだ。
 「え、  あの  ……」
 けれどついに、少年の好奇心が他のすべてに勝ってしまった。
 「科学やS・Fがとても好きなのは確かですけれど、僕の知能指数がそんなに高いなんてことがどうして解るんです? それに第一、僕のことをどこで知ったんですか? 今、先生方が眠ってしまってらっしゃるように見えるのは、これは催眠術かなにかの一種なんですか? ……だとしたらどうやって  ……」
 ひとたびアゴを押えつけていた圧力をどこかへやってしまうと、あとは実にスラスラと言葉が口をついて出た。まだ手足の先にはしびれに似た感覚が残っていたがそんなことは何でもない。この、10歳にもならぬ、小柄で大人らしい行儀の良い少年にとって、好奇心  というか向学心、興味を満足させたいという欲求  は唯一、日頃の理性をふっとばさせるシロモノだったのだ。 何度注意されても、疑問点をひとつ見つけたとなると次から次へ、得心のゆくまで一時に質問し続ける、という悪癖は一向になおらない。
一度言われたことは二度と注意されずに従がう、この子供にとっては非常に珍らしいことである。
 ((  う。……))
 顔にも、声にも、態度には一切あらわさなかったが、小ヶ崎“教授”は内心かなりの衝撃をうけていた。
 心理といえばS・Fまがいのパラ・サイコロジー(※)にしか今のところ興味を示していない鋭には知るよしもなかったが、ドクター・オガサキと云えば知る人ぞ知る催眠技術の権威である。
その彼の施術を、破るための専門知識はおろか“破る”という自覚をさえ持たずに この少年は解いてしまった。……小ヶ崎にしてみればはるか昔の未熟なインターン時代以来はじめての事である。((これは。)) 彼は思った。
 一般的にはたで聞こえているほどこの小ヶ崎という男は狭量ではない。それは彼の唯我独尊ともいうべき自尊心がなまなかなことでは揺るぎもしないせいでもあったが、むしろ、ちょっとした理由から気に入ってしまったものにはその是非を問わず肩入れをする、半ば以上マッド・サイエンティストじみた身びいきの強さが見られた。老人にありがちな偏執狂のがあるのである。
  もっとも彼は外面的にはさほど歳をとっているとも思えないのだが。
 「それは」
 コンマ何秒かの沈黙のあと、小ヶ崎は再び自信に満ちて話し始めた。
 
 
 梅雨どきの薄暗い部屋の中には冷気がこもり、そのせいで小ヶ崎はかなり不快なおもいをしているらしかった。
かすかにカビ臭い応接室の雰囲気。窓の外には例の、教授のスーツと同じ色の大型車が見える。
 雨はますます激しく、その校舎や大地にぶちあたる轟音は、ともすれば男のしわがれた話し声をかき消してしまうまでになっていった。……
 
 

 
 ※ パラ・サイコロジー : 超心理学。
   要するに超能力を科学的に解明しようというもの。 

 
       ×       ×       ×
 
 「ここだ、ここだよ、市立『尊臣(とうとおみ)』第2小学校。可能性の最後の1人がいるところだ。」
 すっぽりかぶったレインコートのフードで髪を隠して、双子の片われが快活に走って戻って来た。あまり目立たぬようにと、あとの連中は角をまわった植えこみの陰で待っていたのである。
 「いま何時? 12:35か、昼食中だね。この学校ひる休み何分からだろ。」
 背の高い黒髪そばかすの少年が防水のデジタル時計をのぞきこむ。
 「昼休みはやっぱマズいんじゃない? 校内はいるのはサ」
 「相手の都合もあるだろうし……第一めだつわ。」
 そういう彼らにしてからが、登校中であるべき小学生である。
 
 彼ら6人は学校の角の、紫陽花の大株と大株の間の奥まった所に集まっているのだった。アジサイの生け垣は、不思議なことに校庭の鉄柵の外側にあるのだ。
 「なんか気にくわないんです、る。この学校、どうも嫌な“気”がよどんでいるみたいでする。」
 柵ごしに校内をのぞきこんでいた、一番小さい子が戻って来てそう報告する。
 「なに、おミソ。どういうこと」
 年長の勝ち気そうな少女が聞きかえす。“おミソ”と呼ばれた子はモジモジして風がわりなマントのフードをますます深くひきおろす。
 「よし。」
 リーダーとおぼしき黒髪の少年が云った。
 「雨もひどいし、食事して、さっき見た市立図書館で時間つぶそうよ。……放課後まちぶせすればいい」
 わーい! 双児が歓声をあげ、もう1人の男の子がしみじみとつぶやいた。
 「助かったァ、ミーちゃんもう毛なみがぐしょぐしょヨォ☆」
 女の子が長い髪をなびかせて笑い声をあげる。それほどまでにこの年の梅雨はひどいものなのだ……
 

 


 leader 黒髪、そばかす → のっぽ(黒ずみ)
 twin  金髪ロールヘア   マーク・エンゲル・レッドフラッグ
     金髪ストレート   レーニ・ボリシェ・レッドフラッグ
 a girl 黒髪ローレ色白   ゆりや
 
 
 塔遠見
 尊御々

 
       ×       ×       ×
 
 机を直したりなんだりでいっとう遅くなってしまったリツコは、思い牛乳びんのケースを一人で運び上げなければならなかった。
 5時限目は音楽で、音楽室へ移動して音楽の先生の授業だった。6時限目、教室へ戻ってしばらくしてからも細貝先生はあらわれなかった。生徒たちがみんなして騒ぎはじめた頃になって5組の楠本先生が来て、4組は自習だから帰ってもいいと云った。
 みんないなくなってしまってもリツコは帰らなかった。楠本先生にきけば何か教えてくれるかもしれなかったが、リツコは男の大人の人はどうも苦手で、話しに行くのが恐いのだった。
 あっというまに学級文庫の『世界の名作』シリーズ、残り3巻を読み終ってしまう。はっと気がつくと外はもう暗く、西の方の雲が少し切れて赤い光がさしこんでいた。雨がやんだのだ。時計を見ると6時45分。とうに門限を過ぎていた。……また食事ヌキだ。
 ((まァいいや。))
 リツコは少し首をかしげて考えた。清峰クンはどうしちゃったって言うのかな。細貝先生だって毎日下校時間には、いのこっている生徒を帰すために(たいていの場合リツコ1人だったが、)教室へ見まわりに来るハズなのだ。
 ((おかしいな。今日はおかしいことばかり。))
 首を振ってリツコは教室の中を見わたした。それから校庭を。もう一度室内を。
 何がいつもと違うというわけではなかったが、やはり何かが見慣れた世界とは喰いちがってしまっているのだった。それともそれは今までもずっとあったもので、ただリツコが気づかずにいただけかも知れない。
危険、とか不気味、とか云うのではなく、ただ何かしらあやしくて、間違った、あってはいけないような雰囲気がぴったりとあたりをとりまいているのだ。
 すぐに真っ暗になってしまったが、別に電気をつけたいとも思わなかった。昔から不思議と暗闇を恐がらない子供だったのだ。お腹がすいたけれどそれも慣れていた。清峰クンの席から上着と(鋭はいつでも非常に準備の良い子だ。)枕がわりにザブトンを借りると、リツコは机の上につっぷしてそのまま寝入ってしまった。
 
 翌朝、朝一番の光で目が覚めると5時10分前だった。そうすると清峰クンも先生もついに戻ってこなかったらしい。戻って来てもしリツコを見つければ、先生なら大慌てで送って行ってくれるだろうし清峰クンなら自分の所へ泊めてくれるだろう。リツコはあくびをし、寝ちがえてしまった首をぐるぐるまわした。
 どうりで一晩中風の音がうるさいように感じたわけで、窓の外はすっかり晴れてしまっていた。よい天気だ。
 ((夏が来たのね……))
 なんとはなし そんな風に感じながら清峰クンの荷物と自分のとをまとめ  今日はもう学校へは戻って来ないつもりだった。それどころではない気がするので。  ザブトンをもとにかえし、上着は羽織ったままリツコはそっと学校を出た。校門はもちろん3ヶ所とも閉まっているが、鉄柵が子供1人抜けられるくらいの幅で壊れている所を知っていたのだ。
 一旦ある場所へ寄って隠してあるお財布を持ちだしてき、一軒だけ開いていた牛乳販売店でパンと牛乳を買う。おばさんになんだという顔をされたけれど別に気にもとめなかった。
 公園で朝食を済ませる。午前5時31分。
 それからリツコはてくてくと街はずれへ向って歩きはじめた。
 
 濡れたまんまのバス停のベンチで始発の時間を待つよりも、リツコはこの道をのんびり歩いてゆくのが好きだった。
 朝まだきの白っぽく明るい光のなか、まだ古びていない舗装道路の両脇に新旧とりまぜて小ぎれいな住宅街。朝もや、朝露、なごりの雨滴に虹の色どりをそえられて、紫陽花、緑樹、バラの花などが歩道にのりださんばかりに生き生きと息づいている。
 駅前広場へ通じる国道との交差点を通りすぎて、右へ左へゆるくカーブをえがきながら道は続いてゆく。市街地を外れ果樹林とわずかばかりの段々畑を抜け、となり町との境にあるゆるやかにうねるような山地にさしかかるあたり、リツコの道はバス道路からそれて美しい林のなかへわけ入っていった。
 鳥の声がする、葉ずれの音がする。ひいやりと心持ちうす暗く涼しい木立ちのなか、雨続きで表土をすっかりはぎとられた黄土色の小径が、山頂へと登っている。車のわだちの跡が小川になっている。
 澄んだ黄金色の光が雑木林の中へとさしこみ始めていた。少女の行く手で紗幕  とばり  をひくかのように朝の白い化粧着(ガウン)が姿を消してゆく。
 鳥の声がする。蝶がとんでゆく。
 みどりの空気のなか
 
 すでに小一時間ほども歩いていたがリツコは一向に疲れた様子を見せなかった。むしろ小気味よく息をはずませ、頬を紅潮させて急勾配の坂をはずむように登ってゆく。山頂が近い。
特に枝の繁ったやぶのわきを抜けると目的の場所が見おろせた。清峰鋭のいる、聖光愛育園。キリスト教系の私設孤児院である。自然に足が速くなる。
 と、その時、眼下の渓流の勢いのよい響きにまじって、どこかすぐ近くから人の話し声めいたもの音が聞こえてきた。
 ((え、))
 リツコが足を止めるのと、
 「ほお〜〜〜、ほけきょ!」
 間の抜けた鳴きマネと共にヒョロッとした男の子が道の真ン中に飛び出して来るのとが、ほとんど同時だった。
 みァお〜〜〜!! 男の子は今度はネコのまねをした。ウグイスに比べればはるかに堂に入っていて、身振りも加えて警戒する時の猫の感じが実によく出ている。
ヒョロッとして見えると云ってもそれはむしろ痩せているせいで、実際にはそう背が高いわけでもなく、歳も、せいぜい2つか3つリツコより上というぐらいのようだった。リツコは安心して、少し微笑った。
 「なんだなんだ」
 「なによ、へったくそな合い図ね」
 男の子が飛び出して来た(正確には斜め上くらいの木の枝から飛び降りて来たのだったが)側のやぶ陰から、さらに何人かの子供たちがドヤドヤとかけ出して来た。
 「どうした、登校時間にはまだ早いだろ。それとももう  
 しんがりになった背の高い男の子が、リツコを見つけてひどく慌てた顔をした。「誰だい、その子」
 「ミーちゃんが知ってるワケがないんだもんネ」
 「どっちから来たのよ」
 「逆ホーコー」
 「みはりィ〜〜〜、発見が遅いじゃないか!」
 まぁまてよ、とか云って背の高い大人っぽい男の子を中心にワヤワヤと何やら相談し始めるのを、リツコはキョトンとした面持ちで傍観していた。
 彼ら6人の子供たちは、議題にされている少女には知るべくもないが、昨日小学校脇のアジサイの陰に集まっていた例の連中である。
 「きみ、名前は?」
 すぐに意見はまとまったらしく、6人はリツコの方へ振りかえった。
 ((あの、……))
 「ダメよォ! 礼儀しらず。」
 リツコがあいまいに笑ってすぐには答えないのを見て、すらりとした体つきのカッコ良い女の子が質問した子を叱りとばす。
 「ヒトに名前きく時はまず先に自己しょーかいするもンだって学校で習ったでしょーが。」
 それから、
 「あのね、あたし、ゆりや。こっちのコが“ノッポ”ってってあたし達(ら)の班のリーダーなんだ。で、そっちが“ふたご”のマークとレーニ。後ろにいるのが、ミーおミソ。あたしたち、ちょっとワケがあって、あそこの  (と、あいまいに手を振って聖光愛育園の赤い屋根を示し、)  キヨミネ、って子が登校するのを待ち伏せしてるんだ」
 

 
       ×       ×       ×
 
 その日の午後と夜と次の日の午前中いっぱい、囚人護送車のような造りのその大型自動車は休みなく走り続けた。鋭は頑丈な後部荷台その間中ひとりで乗せられていた。
ひとりぼっちが淋しくて怖い、などという殊勝な子供では最初っからなかったし、本を持ちこんでいたので退屈もしなかったけれど、夜も毛布一枚でそこに寝かされたのには閉口した。なにしろ走り続ける自動車の中の、固くて狭い作りつけのベンチの上だったのだ。揺れは比較的少なかったとはいえ夜中に確実に2回はころがり落ちた。
結局、目がさめてみると床の上にじかに寝ていた。
 いつかの夏休みに川原にテントを張った時のことを思いだす。
 「う〜〜〜……」
 食事はさし入れられたしトイレには2時間おきの小休止があった。
けれど、歯ミガキも着替えも洗顔もなしだったのでひどく不潔な気がして具合が悪かった。風邪をひいてしまったようでもあった。
 「着いたぞ。」
 朝食からだいぶんたってそろそろまた空腹を感じだしていた頃、車が停ったと思うとヘンにピカピカする緑色の制服を着た男たちが鋭をおろしに来た。緑の服  小ヶ崎教授の奇妙な背広と同じ、人工的でよくよく見るうちに背中が粟だってきてしまいそうなヤツである。ただ地紋はなく、織ってあるものなのにまるでビニール布のようなテラテラした光沢。
 「独立研究者(ドクター)・小ヶ崎は他に急用ができたのでこのまままた外部に出向かれる。おまえは正面に見えるあの白い4階建ての棟に行くように。連絡は既についている。これが通行証だ。
ゲートでこれを見せればすぐに迎えの者が出るよう手筈がついている。では。」
 他の2人より階級が上であるらしい制服の男が、口早にそれだけ云ってまたすぐ運転台に戻った。
 「あ・ありが  ……」
 鋭が礼を云う暇もなく、残り2名の隊員をも乗せて、制服や背広と同じ緑色をした車は走り去って行った。
 リツコがいれば その車が昨日校庭に乗り入れてきたあの大型車と同じものだと すぐに気がついたことだろう。
 ともあれ、何が起こったのか、何が起ころうとしているのか……?
 そんな事柄にはまったく気づかぬげに、鋭は、教えられた白い建物へと素直に歩きはじめた。
 ときに19××年6月末日。気象庁は例年より幾分早く、激しかった今年の梅雨がすでにあけたことを宣言した。
 
 
 ○ 邂 逅
 
 《センター》というのは、正確には国立科学者養成学校(J.S.E.S.)のみを限定して指す言葉ではない。同じく国立の、広大な敷地と予算・人員とを持った 科学・技術開発研究所  科技研  全体をもひっくるめて云うのである。正しくは、《センター》の中に2つのセクションがあって、それが実験室の集合体である“科技研”と その将来をになうエリート研究員の養成所たるJ.S.E.S.である  と説明する方が速い。
 したがって科学者の卵たちの授業の何割かは実際の研究の一端を担う  といった形の実地演習として行なわれ、また既に《センター》の研究員として働いている者が、時間をやりくりして専攻以外のジャンルを習得しようとするのもさして珍しい事柄ではなかった。そういった手合いも含めて、J.S.E.S.には現在10歳前後から30代半ばまで、約200人近い学生がいる。彼らは主として理数系統の学問  地学・天文学・宇宙工学・量子物理学等のビッグ・サイエンスから医学・薬学・生体工学・ソフトウェア・ハードウェアに至るまで  を それぞれの適性・指向に合わせて選択し、徹底的な専門・集中教育をほどこされるのだ。
いくらかは人文科学・社会科学系統を志す人間もいるのだが、これも最終的にはデスクワーク中心の専門バカになってしまうという点で大同小異だった。特にこの分野では、《センター》は有機的組織の編成・管理法に関して、目覚ましい成果をあげ得ていた。
 
 
 「…… 《センター》へ行くわ。手続きしなさい、北沢」
報告書の最後の1行に目を通し、既処理のマークを捺(お)しながら云う。
 「視察ですか、何日ほど」
 「引っ越しよ。当分むこうに居つくわ。出発は明後日。」
 「承知しました。」
 北沢は軽く一肯してすぐに出て行く。慎重190cm近い、痩身の、非常で有能な男。奈津城(ナツキ)への忠誠心に少し欠けるとさえ思える、だからこそ信頼のおける、筋金入りの武人。
 「  なにか不服でも!? 遠野!」
 うっそりと部屋のすみからこちらを見ているのは、いつもこの男の方だ。
 「……別に。」 低い声でぼそりと答える。例によって百万言も不平をためこんでいるのは目に見えているというのに。
 「だったら早く行って あたくしの荷物をまとめなさい!」
 ダン!! ぶ厚い書類の束を机の上でそろえて、ひきだしに放りこむ。
 「わかりました」
 いんぎん無礼きわまりない大時代的な辞儀。それから無愛想に背をむけて、皮肉にゆったりした足どりで歩き、扉をあける。
 「お待ち。」
 イライラと爪を噛みながらにらみつけ、よっぽど怒鳴りつけてやろうかとも考える。それからひと呼吸おいて気を鎮めて、
 「これはもう下げていいわ」
 傍らの盆を指さす。
 遠野はかすかに微笑したようだった。比較的小柄で横幅のがっしりした、山男めいた印象を与える彼である。素早く歩み戻って来て飲みさしの茶器を取りあげた。
 「ナツキさま。」
 他には何も云わず、ただそう呼びかけただけで男は一礼して部屋を出て行った。
 「……まったく。妙な男!!」
 奈津城と呼ばれた彼女はまた新たな書類の束を取り出すと、判や文献などを片手に手速く処理を始めた。
 野々宮奈津喜  実はまだ13歳のほんの少女である。没落の一途をたどる旧華族・野々宮家の、戸籍上の唯一正当なる嫡子。
そして、《センター》にゆかりの子供だった。
 
 精子銀行、というものをご存知だろうか。1900年代も後半になってU.S.A.にて設立され、ノーベル賞科学者の精子と遺伝的に優秀な女性の卵子の人工的なかけあわせ実験を行う、一種非人道的でもある研究機関のことである。
《センター》でもそれに相前後して、純国産で極秘裡に同種の実験が行なわれていた。
 そう、野々宮姓を名乗るこの驕慢な少女は、その生きた実験結果であり、数少ない成功例の一人だった。消えゆきつつある旧家の当主・野々宮子爵は、借金のカタに実の妻の生殖機能を売却したのである。世間体のために書類でだけ実の子としてナツキを扱いながら。
 野々宮奈津城を成功例であると書いたが、実際にはそれが成功であるのか、失敗であるのか、判定が難かしいところだった。IQで云えばその異常なほどの高さは確かに成功と言えた。が、優れた後継者、より有能な科学者の出現を期待した当初の実験目的からすれば、《センター》としてはナツキを全くの失敗作と断定せざるを得なかったのである。
おそらくは卵細胞からの影響をより多く受けてしまったのだろう。
奈津城は、小児期から今日に至るまで、自然科学的なものに対しては一切の興味も適性も示そうとしなかった。彼女が激しい魅力を見いだすのは芸術作品に対してであり、哲学や思想・複雑に入り組んだ政治状勢などにであった。その生まれついての自負心は己れを意に染まぬ方向へ誘導しようとする環境に、あえて順おうとはさせないようだった。
 以上のような推移から9歳の冬にこの早熟な少女は戸籍上の実家へ帰されたのである  莫大な養育金つきで。
そして無能な義理の父から家政の権限を奪いとるや、世間一般からは注意深く自分の姿を隠したまま、傾むき切った野々宮の財政を奈津城はたちまちにして建て直してしまった。
 更に4年。
 少女は次第に大きな力を身につけつつあり、それにつれ、何か莫とした野望めいたもの、大胆な計画が、心の奥底で形を成し始めているのが 彼女自身にもはっきりと解るのだった。
 
 
 「……ふん。」
 自ら指定した、出発の日の朝である。北沢も遠野も昨夜のうちには全ての手配をおえていて、あとは主人が出掛ける気になりさえすれば いつでも出られる状態。待機時間である。
 それでもゆったりと優美な細い肢体をソファに埋もれさせて、奈津城は遅れて届いた最後の書類に目を通していた。  これより後のものは直接《センター》あて転送されるよう、手筈はついているはずだ。
片手に紅茶のカップ。
 「この前打った手はどうも無駄になってしまったようね、K物産の株は上昇一方。野々宮K.K.系列のかなりのダメージはこの分だとふせぎ切れないでしょう。  北沢!」
 「は。」
 「後で古物商の大井戸に電話を入れて、3日以内に例のものの買い付けを始めるよう云っといて頂戴。……いつまでも杉谷の好きにさせときゃしないわ。」
 最後の部分は独言で、少女はつぶやきながらペロリと血の色の唇をなめる。対象的に色の薄い淡桃色の舌が、未だ子供の体型から抜け切っていない美少女の顔に、奇妙に妖艶な表情を与える。双眼が光をはじいてきゅっと細められる。
狩るべき獲物を与えられた時の、野性の猫族の微笑み。
 「出掛けるわ。遠野、上着を」
 目的地までは専用のジェットで3時間ほどだ。
 
 
                                  
 
       ×       ×       ×
 
 《センター》の広大な敷地内の西半部中央、J.S.E.S.系の建物の集中しているエリアのひとすみ。周囲のものよりも比較的小規模な“教育・訓練法開発棟”の一角に、ひとまず奈津城の個室はしつらえられていた。
8077のNo.のある、白亜の建物の最上階・4階である。
 一旦、用意された部屋をのぞいた後、準備を整えた係員に2・3の指示を与えて再び奈津城は階下へおりた。
 No.8077棟1階。エントランスからは少し離れたロビー部分の奥、一段高まったところに ちょっとした自給カフェテラスが仕切ってある。
完全な自販制で色気もそっけもない。とは云え《センター》内では特権階級ともいえる独立研究者(ドクター)と独立研究助手(インターン)・制度的にははるか下位だが いざという時には実指揮権を握る警備要員・緑衣隊の士官クラス、そういったエリート専用のエリアである。調度や設備には相応の金がかかっている。
品も上等で種類も多い。
 奈津城はためらわずにそこへ入って行った。
 別に茶を喫みたいというのなら自分の部屋で仕度させれば良い。それだけの設備や物はそろっていた。ただ、奈津城は自室へ慣れない人間が入っているのは好まないのだ。部屋の中を手直しさせておくために人手が必要とあれば、自分が出て行く。
 そしてカフェへ出向いたのにはもうひとつ別の目的があった。
デモンストレーションである。
 奈津城の後には、数歩はなれて、それが本来の彼らのコスチュームである緑の隊服をつけた北沢と遠野がノーマル装備で従がっている。北沢の胸には上級指揮官の徽章。  日ごろ奈津城の命令で私服をつけるように言われてはいるが、彼らも緑衣隊員であり、《センター》内や緑衣隊司令部その他におもむく折には制服に戻る。
彼らは護衛兼側近参謀としての任に着くようにと奈津城のもとへ派遣されているが、主人の行動と緑衣隊との利害関係いかんによっては ためらいなくこの少女を撃殺する可能性もあるのである。
今は上部からの命令は“野々宮に従え”であったが  ……
 そんな部下2人を従えて13歳の少女はカフェテリアへ足を踏み入れた。
結構広い部屋の中にざわっとざわめきがおこる。
 デモンストレーション。さっきも云ったようにこのカフェはエリート専用のエリアである。
 エリート候補たるJ.S.E.S.の教育・訓練生たちもまた別の理由から立ち入りを禁止されている。  彼らは徹底的な生活管理の一端として摂収栄養量を規制されているので。
 奈津城は落ちついて中央やや奥まった席に腰を降ろし、(人間の本能としてこういう場所では壁際から埋まってゆくのが常である。  この時、人の入りは4分くらいのものだった。)北沢に ブランディティー ティ・ロワイヤルをとりにやらせた。
幸い座っている連中の大半はまだ若い独立研究助手(インターン)と、彼らに従がって特権階級のエリアに立ち入っている平研究員ばかり。ここには緑衣隊員も歩哨に立たない。
 1〜2分のうちに、若い  といってもJ.S.E.S.からたたきあげて10年このかたは《センター》に住んでいる連中の間に、5年前実家に戻された あの天才少女の記憶がよみがえってきた。
 帰ってきたのか?!
 まさか。科学分野への関心値のあの低さを覚えてるだろう。
 第一、J.S.E.S.への復帰なら、あんなに堂々とここへ入ってこられる筈がない  ……
 様々な推測、個々の思惑が そちこちのテーブルの間でとり交される。
 奈津城は頃合いを見はからって北沢に用を言いつけて一旦退出させ、遠野に紅茶のおかわりと軽食をとりにやらせた。
暫時、少女はまるで無防備な存在になる。
 「やァ、ナツキちゃん  いゃ、もう奈津城サンとお呼びすべきかナァ。ズイ分 大きくなりましたネェ。」
 予測通り、席をたって話しかけに来る者がある。奈津城は上品に首をまわして声の主を見る。見るからに軽薄そうなこすっからい様子をした男  しかしこの男の、本人もいかに無心げに見せかけようかと苦心している笑い顔にだまされてはいけない。
 「……まあ。イチガネさん、でしたわね。お久し振りです。お元気そうでなによりですわ。  いかがお過ごしですの?」
 確かに少し早熟気味であり、異常なほどの聡明さをそなえてはいるが。そこにいるように思われるのは 上品で育ちの良い、どこから見ても純真無垢な幼ない美少女の見本である。小王女像、と云っても良いだろう。しかしかつてのJ.S.E.S.生活中、世間なみに考えれば学齢に達したかどうか  という奈津城の将来性を早くもねたんでこの壱金という男がどんな陰惨な手口で彼女を潰そうとしたか、都合よく忘れてしまっているほどのお人好しだなどと思われては困る。どころか、何年何月何日の何時何分にどこでどんなチャチな悪事を働いたか、どういう汚い手口で前任の研究助手を陥れて今の地位を手にしたか。この男の動静くらい尋ねるまでもなく、少女は全てを把握しているのである。
 いいですか、などと見かけは丁寧に尋ねながら、返事を待つまでもなく壱金は奈津城の正面に陣どった。しきりにしゃべりまくるのはこのの男には共通の態度だろう。存在感の薄さ、中味の頼りなさを、騒音によって補なおうとでも云うのだろうか。
 戻って来た遠野からトレーを受けとりながら、にこやかに、あでやかに、奈津城は壱金にむけて頬笑みかけた。この男がうまくこの場に居あわせたこと、最初に声をかけて来たのがこの男であったことに対して神に感謝でもしてやりたいような気分になっている  彼女は無神論者だが。
 「……そんなワケで、まァ長年コツコツと地道にやっていたのがむくわれまして、独立研究者(せんせい)のおかげサマで今ではいっぱし、独立研究助手(インターン)として大きなカオをさしていただいてる、とこんなワケなですヨ。」
 実に残念そうに壱金は長広舌にピリオドを打った。
 「まあ、すばらしいですわ。出世なさいましたのね」と奈津城。
 「いや、なに……」男のニキビだらけの鼻がピクピク動めき、途端、奈津城は口の中の食物を飲み下すのが困難になった。
あわててハンカチで口をおさえ、瞬間的な吐き気をこらえる。
 「おや、どうか。顔色が青いようですヨ。」
 「……なんでもありませんわ。慣れない飛行機で着いたばかりなものですから」
 主人のもくろみや内心を知ってか知らずにか、憮然とした表情のまま遠野は待機の姿勢を崩さなかった。
 
 「  ところで、あなたは ここで何を?」
 壱金がようやく本題に入ろうとする。
 ((、しらじらしい))
 奈津城は人畜無害な愛らしい微笑を浮かべたまま内心苦々しく毒づいた。
 通常、ある存在の動静に関して もっとも詳しい情報を握っているのは それに敵対する者であると云われている。
 《センター》屈指の有力者でありJ.S.E.S.関連プロジェクトの主要推進力でもある……
 
 
  
                         (未完)
 
 昔々はるかな昔、僕がまだ本当に幼かった頃。そうあれは小学校の3年だ。孤児院にいた僕の所へ、緑色の護衛を二人つれて白い服の男が緑の服でやって来た。
その白い奴は妙に高圧な態度で院長先生を呼びつけて、話をしながら蛇そのものの目付でこっちをじろじろ見るんだな。
(あ、こいつは気に食わないな)
僕は一目でピンと来たよ。
だけどそいつが持って来た話は魅力的だった。

(前哨線)
 
 市原有枝(アリエ)、12歳。朝日ヶ森魔法隊の子である。姉一人、弟一人、久しぶりに夏期休暇で一家そろって“本家”へ帰る。“本家”は山と海の境にある。
数年前まではまったくの田舎であったが、今は観光地化の波が押し寄せていて本家の一角も民宿に改装されていた。
 “山”の方で幾つかの事件が起る。「何か」と共に消え去った弟を探し出さねばならない。アリエは姉の奇妙な行動を見る。
 父は山の“マ”に対して絶対な安全を持っている。父の血を引く子供たちも同じ。早廻りである山道の方を父と姉と小父たちが登っている間に、自分たちは沢沿いに登って行って見よう、と、不安を抑えられないアリエは母に提案する。中途まで行った時に大音響と共に地震が起り、崖くずれの真っ直中にまきこまれる。
精霊の地を引いているアリエはともかく、母の身は危険。“種”のペンダントを渡し、自分の身を盾に守ろうとする。祈るうちに、“木”の魔力でない何か他のもっと力強いものが混じるが、アリエ自身は気がつかないし、地響きがおさまった後で母に尋かれても覚えていない。母は漠然と、この子には父から受け継いだもの以外の力が秘められているようだと感ずく。
 だが地響は実はアリエ達をおそったものではなかった。父は虜になり、姉は行方不明。小父たちは死体で発見される。戦慄するアリエ。魔法隊の仲間達に招集をかける。
 
 いつの間にか“町”は外部から寸断されたかのような静寂を保っている。新聞が届かない。ラジオがこぞって故障する。(テレビはない) 本家の一部が地震で倒壊し、汽車の都合で直ぐには帰る訳に行かない民宿の客達をアリエはバンガロー代わりのかつての“木小屋”に案内するが、わずかの間にそこの木材は腐蝕しており、何故だか解らないが地震の予調を察知したアリエは慌てて客たちを非難させる。ギリギリで“波”に追いつかれて小屋は倒壊。海辺に向けて下る道すがら、アリエは不思議な勘で“波”から避難しなければいけないもの、じっとしていて大丈夫なものを見わけて声をかけて通る。海辺。顔見知りの子供たちが幾人かの母親に付きそわれて泳いでいる。アリエは客たちを駅に向うバスにのせて、浜に降りる。怖い程の夕焼けが徐々に無彩色の世界に見え始めた時、水の中に足だけ入れて立っていた子供達が順ぐりにバタッバタッと倒れ始める。最初気づかずに子供たちをしかっていたアリエも、やがて彼らが皆『砂の中の見えない手』に引き倒されているのだと気づく。大慌てで土手の上へ上げようとするが、母親たちも黙ったまま、あるいは悲鳴を上げながら砂の中に潜り始め、一旦土手に上げた子供たちも無彩色の夕陽に引きつけられたようにして、アリエの声に耳もかさずに浜へ降りてしまう。絶望しかけた時に魔法隊の仲間達が現われて危機を救った。
 子供と母親たちをそれぞれ家に送り届けた後。再び浜辺へ集まった皆の口から、アリエはこの町に至る交通機関は全て土砂崩れでストップされているのだと聞かされた。海・空・樹の三族全てが故意に人間に害を及ぼしている。まだ大方が“マ”と血縁を持つ者で占められていた魔法隊全体が動揺する。
 
 暗転。再び夕焼け。幾人かはこの事を朝日ヶ森本部に知らせ、指示をあおぐべく引き返して行った。アリエのグループリーダーである“わたし”は、とりあえずこの町で引き続き起きるであろう事件を見張り、人々を保護しておく目的で班を率いて残る事にした。ふと気がついて、当時数少なかったESPERである遠視者に頼んで、他にもこんな事件の起きている箇所がないかを全地球規模で探らせた。世界中を大きな三つの波動が覆っていて、特に自然破壊のひどさで知られる土地に今にも襲いかかりそうにしているという。一ヶ所、あまりに邪悪な念に占られていて眼を向ける事のできない土地がある。
 ……海・空・樹の三族さえもが話に聞く“何者か”と結託して人間を滅亡させる方向へ動き出した? ……全員が確信に似た不安にとらわれた時、突如としてアリエの体が炎色に光を放ち始めた。“彼女”はアリエとは微妙に違う声音で、大地母神の三つ子たちが愛児(まなご)である末つ児を倒す為に動き始めた、大地母神は嘆いていると言う。“わたし”が“彼女”に名を問うと、アリエの輪廻体である、大地母神の血を引く地人(アトラン)の娘、巫女マヤトであると告げた。
 
 
 

 
 恒沙魔矢土の隣世界シリーズ。ブラックファンタジー編
 
 
 今日の放課後、学校帰りの町はずれの道で、今日子は後ろから来た車に……
 
 

 
 
  グーン・ブー
 
  オンクニ

 
 
.

 尾霧竜子(青い花or青い王子の草原)…… 一の木 宮
 楠木りま …… 清瀬律子
 
 あなり
 あいるみや

 外海 錦 …… 竜子の娘? かもしれない
 
 
 一の木 宮 (青い花の草原)の娘「尾霧竜子」、その娘、外海 錦 、楠りま と 妹・律子、その血縁、清瀬律子。
 
 すずかけ台小学校(不死の木村)
 田島団地
 
 十五夜の銀すすき、
 樽台団地 言霊小学校 大和田小学校


 
 
 律子(リツコ)、八歳。
お父さんが死んだ。お兄さんが死んだ。お母さんが行方知らずになった。
それで妹は遠くの小母さんの家(うち)に引きとられて行き、律子はしせつに入った。
九歳。律子はすっかり変わってしまっていた。一人で起き、一人で食べ、一人で寝た。
一人で学校へ行った。学校へ行っても一人だった。先生に当ててもらえなかった日には、一日中、ひとっことも口を利かない日も、めずらしくなかった。
十歳、律子は五年四組になった。……
 
五年四組になっても、律子はあいかわらず一人だったが、もう、学校へ行きたくないとか、お家(うち)に帰りたいとか、死にたいとかは、考えないことにした。五年四組には、尾霧竜子(おぎりたつこ)がいた。
 律子は、尾霧さんとは話をしたことがない。それどころか、むこうでは律子の顔を おぼえていないかもわからないくらいだった。
 

 
1945 「青い鈴の花の草原」
   ……一の木宮おぎりたつこ、“亜空間”に迷い込み、
   青い王子、白い人あなり に出会う。終戦。
 
1960 楠木りま生まれる。同、立子うまれる。
   この年、清瀬、不意に現れ、嫁して楠木清瀬となる。
 
1970 楠木父子、山火事で死亡、清瀬行方不明となる。
 
1980
 
1990
 
2000 “学校” 清峰 鋭 、国立新教育機関実験棟から脱走。
        森の中で緑の少女に助けられる。
 

 
 
 
◎ シリーズ・暗闇の童話集(ブラック・メルヒェン・ファンタジー)について
 
  どうしたって小品の連作である。
  地理的な架空的小宇宙が形を成し始めている他は、
  人物設定、人物相互の関係、年次設定その他一切が
  未完成。むしろそのままで書き始めてしまってよい
  と思う。不可思議さが出て。
  時間的なわくとしては、
  終戦から21世紀つまり2000年までの55年間。
  最初が終戦間際の“青い鈴の花の草原”、終しまいが
  これはもう大分S・F色の濃い“学校”(鋭の話)で、
  登場人物の年齢層も大体この間、つまり活動範囲は
  小学生である。尾霧竜子は例外。
作品を書くに当たっては、心理・人物描写の文章は一切不要。材料は主にわたし自身の空想歴から取り、従って出てくる“不思議”の種類には一切わくを設けない。ひたすら天沢退二郎(と宮沢賢治?)を参考にする事。迫力のありすぎる長寿人は出ない。
 
 
◎ シリーズ・朝日ヶ森小宇宙(仮題)について
 
  国民戦線<>人民戦線
 
  まだH・F(ヒストリー・フィクション)的人民戦線には至らない、前段階的な、学生たち、主として中学、の裏舞台。“暗闇の童話集”の次、“新世界戦隊人民戦線”の前のS・Fとファンタジーがちゃんぽんな世界。マーシャも少し出てくるし、律子(多重生活を強いるしかないようだ)やリーナなんか。 朝日ヶ森周辺の不思議と、その外で確かに動き始めている世界の異常。旧いものと新しく目覚めた者たちの様々な関係。
この時点になると旧いものたちの大部分はあらかた姿を消し、前はごく少数を占めるに過ぎなかった“黒いもの”と緑衣隊とが、不気味なものたちのメインとして浮かび上がってくる。それに引きかえ主人公たちの“味方”である善神たちや“白い力”は姿を失い、ごく強大な力を持つ数人の魔法使いと前哨線エスパー、新たに『科学技術クラブ』が戦列に加わる。
前後のシリーズの過渡期で、やはりブラック・ファンタジーの系列であるから、人物はそれ程大事に扱わなくても良い。このシリーズには、直接、それらしい長寿人・不思議人は登場しない。ほぼ朝日ヶ森中学部のみの閉じた世界である。
 
 
◎ 一の木宮 及び 尾霧竜子について
 
  きつい感じの子。リーダー格。
  宮の力は血統によるもので、不死の木村の不思議人たちに属し、他所者の得体の知れないのと幾晩も行方をくらましたり、たばこめいたものを持ち歩いたりしているので、世間からは不良と目されている。
  竜子が“知って”いるのは『青い鈴の花の草原』以来で、青い王子に与えられた魔力を拠り所に、彼の願いの為に動いている。
  宮があなりの娘、あなりがりまの母親で、ちなみに竜子の娘が外海錦にあたる。
  不思議の才能においては、二人とも、どちらの楠とも対等であるが、与えられた魔力であるので、時、つまり治まる事が治まった時にはその力を失う。ただし宮の場合は封じられるだけで、子の代へと潜在する。二人とも、最後には洋子のように駆け抜けて行く。
 
   竜子14歳時に“お宮”は小5か6?
   姉妹と間違われるほど雰囲気が似ている。

 
(★鉛筆描きのイメージイラストがあるのですが、
 お見せできないのが……以下略★)
 
 色の黒さも手伝ってか、何とはなしにインド人めいた顔だちで、びっくりする程黒眼が大きく、時々には緑がかって光を帯びたりする。
クラスでもすごく目立つ方だが、有馬たちのようにクラスメイトを牛耳ろうとはしない。常に自分のやりたいようにやっていて、邪魔をされた時の怒りようは、余程の相手でない限り即座に逃げ返らせてしまう。

 
 
◎ あなり
  青い王子と共に、封じ込められようとする亜空間に暮らしている女性である。一聞して白痴とわかる話し方をし、はかなげで、幼女のままの“白い女性(ひと)”。
 
 
◎ 楠(くすのき) りま
 
  妹・立?子。縁者に清瀬律子がいる。 7歳(妹3歳)の時に事故で父と兄が死亡、母が失踪し、一人で田島団地のはずれにある孤児院にひきとられた。生まれつき全盲だった妹への光と引きかえに声を奪われているので、話す事はできない。ホームでは教母たちに陰惨にいじめられ、学校ではおしであるために孤独であるが、本人の態度もどちらかといえばかなり反抗的で、しょっちゅう脱走しては木霊台のはずれの古い自分の家で時間を過ごしている。母、清瀬。 清瀬とあなりは同一人でもある。
 
   「暗いものに気をお付なさい。暗黒の邪魔夢に。
    影は木に宿る。人の心をかげらせる。」
      あら、あたしの姓も木の名前だわ。

 
 
 

  朝日ヶ森主要部見取り  
 
     大朝日ヶ森           閃ウラン鉱脈
 

 ○あぜにくる大滝
 |                     
物忘れ沢         
 |
 ○あぜにくる小滝
 |
 ○雹湖                 石炭層
 |                       地下発電所
物忘る谷        □12号棟 −−地下ケーブル−−
 |
 ○霧湖         □本部棟    アーヅマハヤ
 |                        地下水流
 |            □中        
 ○あぜでく洞(どら)   □高
 |            □大学部  地下   有澄家別荘 
 ○月畝州沼         女子寮  組織  林道 
 \
  \  銀百青川(物忘る川)  
                           朝日岳↑
                        登山道
       ↓二面渡野街へ             山小屋
 
  10km  

 
二面渡(戸)野街(間地,魔地): どうしてこんな所に集落が発生し得たのか、朝学生にもよく解らんという不思議な町。起源は学園と同じ位まで逆のぼるらしく、郊外の座敷童子(わらし)つき藁ぶき農家からバラの洋館、ごく一般的なパン屋に至るまでなんでもござれ。“気違い踊り”その他にも関係しているらしいのだがさだかではない。
 
 
◎ 有澄家の朝日ヶ森山荘について。
 

 ※ いにしえの朝日新聞の広告の切り抜きが「イメージイラスト」
   として貼り付けてあるのですが、皆さんに…………以下略w

 隠し階段やら何やらからくりが多くて、忍者屋敷めいた趣きを持つ家である。
 
 
◎ フィルムライブラリー

 ※ いにしえの朝日新聞の記事の切り抜きが「イメージイラスト」
   として貼り付けてあるのですが、皆さんに…………以下略w

 
 
※ 清峰鋭とマーライシャ(日本人に変装中)/ともに12歳?の、
  シャーペン描きのイラストがあるのですが……以下同文w
 
 えのきのひこ …… もしくは おぎのひこ だったかもしれない
 おさのひこ?
 
 
天沢退二郎的ファンタジー
 
年中雨に降りこまれ、雨神と土中の
森の神「えばらすばらの神」(こっちが大玉)をのろいつつ、
のがれられずに洗濯とかに追われてくらしている街。
別地方から来た小学生の一団、不思議な老人。
えのきのひこは、山の中のえぼらおばらの杭を老人に教えられて
たたきわりに行き、 人柱として 犠牲になって、
えばらおばらと共に土中に 消える のみこまれる
「えのきのひこ〜〜!」
 ファンタジーにおいて
 戦いは、こういう風に純精神的に行なわれるべきなのかもしれない。
おぎのひこは強かったし、小悪魔どもを恐れなかった。ただ、死ぬのがつらかった。


○ 上のしらぎく
入園試験
指輪のお話
破った たいこ
きく組の教室に
クラス間大戦争
自伝・すみれ組の章
 
「いつか自由になるんだ……」
から自由に書き始めてごらん。


 
 
 
 りまの記録より   
 
 不思議な事件が次々起こること
 担任の女の先生、 旧暦の15夜、
 夢合はせ、竜子たちの打診、
 黒い小さな おかしなむれ ……etc.……
 
 旧暦15夜
 15夜、すすき、心象世界(はざま)へ。


 「暗いものに気をつけなさい。暗黒の邪魔夢(やまむ)に。
  影は木に宿る。人の心をかげらせる。」
   あら、わたしの姓も木の名前だわ。
 
  竜子たちとは 後半別行動をとり、
  魔法に目覚める。そのことは黙っているが、
  朝日ヶ森へ行く決心をする。

※イメージイラストあり※

 
 

 
 「地球は(いろんなヒーローがいて)にぎやかな星だって
  評論あったでしょ。あんな感じだよね、実際」
 
 「うん、一般の人間は、自分たちが
  どんなにあぶなっかしく住んでるか、知らないんだ。」
 
 「借りものだもんね、『空の民族』にとっては……」

(アイルミヤ)

 

 どちらへ? と尋ねると
「わたしは探しているの。」
 汽車から降りたった
 彼女が言った。
 
 
「知っていますか? この宇宙が生まれる前にも
 ここには宇宙があったということ」
 知っています。この宇宙もわたしたちと同じ。
 生き死んで、生き死んで、はてしない繰り返し
 の中で、何かを探しているのだということ。


 
 

 
 「  この眼?
  ああ、気にしなくてよろしい。わたしは自分の意志で
 (自らこの両目を潰したのです。)
 ※この目が失明するにまかせたのです。(?)
  おかげで 普通の人々のように花や景色や 明るい
  物事の明るい表象をだけ見て過ごすことはできなくなりましたが、
  そのかわり
   このおかげで わたしは暗くよどんだ偽の真実の先の、
  真実の光を信じ見通せるようになりました。

                        「盲目の律子」

 
1985.1.10.
 
 その野原いちめんに、貴人たちは、さきほどまでは確かにいなかったのです。夕暮れの空の星々の群れのように、ひとり、またひとりと、にじむように現われては 草の風ふくなかに立っているのでした。
 
 
 
1985.1.22
 
 もう生きていても しようがないと思うのに それでも腹はへるのだ。
おつうは自分の腹のへるのを おそろしいと思い、悲しいと思い、
それでも気がつくとまるまるとした青虫に手をのばしているのであった。
 
 
                 。

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