『 第1章 ナツキ 』 (@中学2年〜高校3年……のどこか☆)
2006年10月14日 連載(2周目・最終戦争伝説)「
報告書の最後の行に目を通し、既処理のマークを押しながら云う。
「視察ですか、何日ほど」
「引っ越しよ。当分むこうに居つくわ。出発は明後日。」
「承知しました」
北沢は軽く一肯してすぐに出て行く。身長190cm近い、痩身の、有能な男。
「……なにか不服でも?! 遠野!」
うっそりと部屋の隅からこちらを見ているのは、いつもこの男の方だ。
「……別に。」 低い声でぼそりと答える。
「だったら、早く行って、あたくしの荷物をまとめなさい!」
あたくし、野々宮奈津城(ののみや・なつき)。表向きは旧華族・野々宮家の唯一の嫡子ということになっている。表向きは。
精子銀行というのは知っている
あたくしも、それに似た団体によって造られた。純国産で
この事は物心つく以前から知っていたように思う。
なんにせよチューブの中で、まだ大脳が形成されるか否かという時期からはじめられたあたくしの早期全人教育
「う、ぅっわ〜〜お。おわお!」
おれ、あくびしてやる。めいっぱい思いっきり。い〜い気分。
なんつったって休日だもんな。もろ、ひと月ぶりの。なんにもない日。
× × ×
朝おきて顔を洗ってマラソンして朝ご飯を食べて歯をみがきました。
(あ、おれ正明ってんだ。よろしく)
で、いつもならこの後「訓練開始!!」っつうがなり声が響く。……はずなんだけど今日は休暇なんだよな。さて、何するべェ。おとなしく基地ンなか探検したってもいいんだが、きのうの今日なんで、やめた。
やっぱ外を見てこよう。
てんで外出許可証とりに廊下へ出る。
うえ、いつも思ってたけどこーやってちんたら歩いてみると……ひでー所だね、ここは。上から下まですべからくこれ人造! もろ直角と直線とおまけにブルーグレーと銀色ばっかだぜ、見てるだけで寒い。
と、角をまがった所で人間が2人。
「お、おたくも外出?」
ガキの方細っこいんだぜ、これが来るとき車でいっしょだった奴。
「燎野(りょうの)さん。」
心もち首かしげてこっち見上げる。
「わお。覚えててくれたわけ、感激」
……すこ〜〜し、苦笑? ホント表情のとぼしいやっちゃ。
「……そりゃ、覚えますよ。一度聞けば」
おれ忘れたぜ、おたくの名前。
「清峰くん。そちらは?」
神経質なんだが気が弱いんだか、のぞいただけで目、まわりそうな眼鏡かけた男。まだ若いな〜〜清峰あ、鋭ったっけ? のオブザーバーらしい。
「あ、おれ……」
「燎野正明さんです、西谷助手。多分宇宙飛行士(アストロノウツ)訓練生なんだと思いますけど。正明さん?」
「あ? うん。おたくは? やっぱ高知能児なわけ?」
「ええ。」
「清峰くん。」
西谷・青白きインテリ氏がかたい声をだす。
おーおー、わーってるよ。《センター》の独立研究助手としちゃ、大事な大事なモルモットちゃんにはあまり雑菌を近づけたくないわけ。
「じゃな。」
まだ話したい気もしたけどひょいと片手上げて別れる。
「ありゃ、何してんだよ、おたく」
左翼の実務室で外出許可と通行証を手にいれて、戻ってきてみるとボーヤがまだいた。この間約30分。ひとり、だ。
「……西谷助手が……」
少し困ったみたく笑う。
ここ、今いるところは、おれが放りこまれた《教育・能力開発法実験研究棟》てェ長々しい名前の建物の、一階中央。廊下がちょい広がってエントランスになってる、棟の出入口にすぐtの場所だ。ブルーグレーとシルバー一面のすみっこに、
× × ×
「ありゃ、何やってんだよおたく」
左翼の実務管理室で外出許可証と正門(ゲート)の通行証を手に入れて、鼻唄まじりに正明が戻ってきてみると鋭がまだいた。西谷助手とやらはどうしたものか、ひとるつくねんと壁ぎわのイスに腰かけている。