「リツコ。ねえ律子ってば!」
 考えにふけっていた彼女に督促の声。
 律子はあわてて相手のさし出すカードを抜き取ろうとして、自分のカードをそでにひっかけてしまった。
 バササッ。
 手札が全部ひざの上へ落ち、ポーカーフェイスで巧みにかくしておいたババまでが、堂々と顔を並べている。
 「ドジ! まーたやった」
 「あはは丸見えだ」
 あや〜〜。律子はいつもの癖で、ツァッ、ともチッ、ともつかない舌打ちをしてカードを拾い集めた。
 まったくあの野郎のおかげで今日はろくな事がない。
 一枚ひき、一枚ひかせた後、律子は背もたれに重心を移して椅子を後足二本で立つ格好にし、ひざで机につっかえ棒をあてて腕をざっくり組んだままぶ然として足をゆらしていた。
 数人でババ抜きをやっている最中だったので、一人がふてていれば当然、他の連中の興味を引く。
 「どうしたん。めずらしくまともそーに悩んでるじゃん」
 真っ先に首を突っ込みたがるのは小野えりゆ。
 斜め前から身を乗り出して来るその隣りでは、一級上の宇野洋子がいかにもお人好しげに首をかしげて、心配事ならいつでも相談にのるよという眼をしているし、レイラ・ジュンがばっさりした亜麻色の髪を風になぶらせながら、机にひじをつき、手の甲にあごをつっかけて、例の横眼で律子をながめている。
 律子は軽く握ったこぶしで額をコンコン叩きながらしばらくうつむいて考えこんでいたが、もとよりこういった腹にたまる物事を人にぶちまけずにおくのは性に合わない。
 「ん〜〜〜、実はね」
 律子が話すと見て全員がカードを放り出した。
 面白い話題がないとなればトランプも百人一首も喜んでやるが、元来ここ朝日ヶ森学園の生徒って連中は、ひたすら話し合うのやなぞかけが大好きで、悪趣味で低俗なうわさ話以外なら、どんな事でも話の種にして2時間3時間話し続けられるのだ。普段は男子も女子もごったになって、それこそ政治論からSF談義、禅問答まがいの人生論まで、それこそずれにずれこむ大討論会になるのもめずらしくないのだが、今日に限ってなぜか教室には女子しか残っていなかった。
 律子は二つに結んだ髪の房の先をいじりながら芝居っけたっぷりに間を置いてから、言った。
 「実は、このわたしめにラブレターをよこしたバカが一匹おりまして  ……」
 「ええ〜〜っ!?」
 全員が全員、一瞬信じられない顔をして問い返したので、律子は面白くもあったがやや頭にも来た。
 「なによ。人がせっかく真面目に……」
 「あ、悪い悪い、ちゃんと聞く」
 一人がそう言い、みんながガタガタと座りなおした。
 「それで? 相手だれよ」
 
     ×     ×     ×
 
 ウラジミール・パブロフは亡命ロシア貴族の血をひくフランス人。13歳。律子に端的に言わせれば「いけすかないキザったらした、うらなり野郎、」で、一年落第しての小等部最上級生。
 特待生クラス  俗称『金持牧場』  の生徒であり、例のお茶会の主催者の一人でもあった。
 特待生クラスと言うのはその名の示すとうり、世界的な名門私立校朝日ヶ森学園が、苦学生に支給する奨学金を捻出するために開設しているクラスであり、成績順は下位でも寄付金額は上位という人間が多く集まっている。
 
 
                        次号に続く。
 
 
(※注: 続いてません★) (-_-;)d"
 
 


 香山 秋  朝日ヶ森学園中等課2−E
       テニス部/ミュージカルクラブ

 立川アンナ 朝日ヶ森学園中等課1−F
       ミュージカルクラブ/志望サークル:ピアニスト

 宇野洋子  朝日ヶ森学園中等課2−A 
       ミュージカルクラブ副部長

 清瀬律子  朝日ヶ森学園中等課2−B/図書委員
       バレエ部/ミュージカルクラブ/志望サークル:作家


 

 『パラレルワールド・千一夜』 主人公: 山吹サラ

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