市原有枝(アリエ)、12歳。朝日ヶ森魔法隊の子である。姉一人、弟一人、久しぶりに夏期休暇で一家そろって“本家”へ帰る。“本家”は山と海の境にある。
数年前まではまったくの田舎であったが、今は観光地化の波が押し寄せていて本家の一角も民宿に改装されていた。
“山”の方で幾つかの事件が起る。「何か」と共に消え去った弟を探し出さねばならない。アリエは姉の奇妙な行動を見る。
父は山の“マ”に対して絶対な安全を持っている。父の血を引く子供たちも同じ。早廻りである山道の方を父と姉と小父たちが登っている間に、自分たちは沢沿いに登って行って見よう、と、不安を抑えられないアリエは母に提案する。中途まで行った時に大音響と共に地震が起り、崖くずれの真っ直中にまきこまれる。
精霊の地を引いているアリエはともかく、母の身は危険。“種”のペンダントを渡し、自分の身を盾に守ろうとする。祈るうちに、“木”の魔力でない何か他のもっと力強いものが混じるが、アリエ自身は気がつかないし、地響きがおさまった後で母に尋かれても覚えていない。母は漠然と、この子には父から受け継いだもの以外の力が秘められているようだと感ずく。
だが地響は実はアリエ達をおそったものではなかった。父は虜になり、姉は行方不明。小父たちは死体で発見される。戦慄するアリエ。魔法隊の仲間達に招集をかける。
いつの間にか“町”は外部から寸断されたかのような静寂を保っている。新聞が届かない。ラジオがこぞって故障する。(テレビはない) 本家の一部が地震で倒壊し、汽車の都合で直ぐには帰る訳に行かない民宿の客達をアリエはバンガロー代わりのかつての“木小屋”に案内するが、わずかの間にそこの木材は腐蝕しており、何故だか解らないが地震の予調を察知したアリエは慌てて客たちを非難させる。ギリギリで“波”に追いつかれて小屋は倒壊。海辺に向けて下る道すがら、アリエは不思議な勘で“波”から避難しなければいけないもの、じっとしていて大丈夫なものを見わけて声をかけて通る。海辺。顔見知りの子供たちが幾人かの母親に付きそわれて泳いでいる。アリエは客たちを駅に向うバスにのせて、浜に降りる。怖い程の夕焼けが徐々に無彩色の世界に見え始めた時、水の中に足だけ入れて立っていた子供達が順ぐりにバタッバタッと倒れ始める。最初気づかずに子供たちをしかっていたアリエも、やがて彼らが皆『砂の中の見えない手』に引き倒されているのだと気づく。大慌てで土手の上へ上げようとするが、母親たちも黙ったまま、あるいは悲鳴を上げながら砂の中に潜り始め、一旦土手に上げた子供たちも無彩色の夕陽に引きつけられたようにして、アリエの声に耳もかさずに浜へ降りてしまう。絶望しかけた時に魔法隊の仲間達が現われて危機を救った。
子供と母親たちをそれぞれ家に送り届けた後。再び浜辺へ集まった皆の口から、アリエはこの町に至る交通機関は全て土砂崩れでストップされているのだと聞かされた。海・空・樹の三族全てが故意に人間に害を及ぼしている。まだ大方が“マ”と血縁を持つ者で占められていた魔法隊全体が動揺する。
暗転。再び夕焼け。幾人かはこの事を朝日ヶ森本部に知らせ、指示をあおぐべく引き返して行った。アリエのグループリーダーである“わたし”は、とりあえずこの町で引き続き起きるであろう事件を見張り、人々を保護しておく目的で班を率いて残る事にした。ふと気がついて、当時数少なかったESPERである遠視者に頼んで、他にもこんな事件の起きている箇所がないかを全地球規模で探らせた。世界中を大きな三つの波動が覆っていて、特に自然破壊のひどさで知られる土地に今にも襲いかかりそうにしているという。一ヶ所、あまりに邪悪な念に占られていて眼を向ける事のできない土地がある。
……海・空・樹の三族さえもが話に聞く“何者か”と結託して人間を滅亡させる方向へ動き出した? ……全員が確信に似た不安にとらわれた時、突如としてアリエの体が炎色に光を放ち始めた。“彼女”はアリエとは微妙に違う声音で、大地母神の三つ子たちが愛児(まなご)である末つ児を倒す為に動き始めた、大地母神は嘆いていると言う。“わたし”が“彼女”に名を問うと、アリエの輪廻体である、大地母神の血を引く地人(アトラン)の娘、巫女マヤトであると告げた。
恒沙魔矢土の隣世界シリーズ。ブラックファンタジー編
今日の放課後、学校帰りの町はずれの道で、今日子は後ろから来た車に……
グーン・ブー
オンクニ
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