ある晩あなたは見たんだ。
 夜中の三時にトイレに起きて、したへと降りる階段で、窓から漏れる月明かり。
   じゃない。
 鋭どく突きさす白光に、ついと立ちより、サッシをあけた。
 
 戦車が、走っている。
 眼下を戦車が整然と、列をなして行軍する。
 幾十台、幾百台?
 あまりの冷気に息が凍り、けれどあなたは寒さも忘れる。

 
 あまりの冷気に凍りつき、けれどあなたは寒さも忘れた。
 戦車が、はしっている。
 ひるまはあかるい国道沿いを、幾十台、幾百台の、砲塔の列が整然と、兵をしたがえ行軍する。
 サーチライトと緑の軍服。ビルの谷間を横断し。
 戦車は、音もたてなかった。
 特殊なゴムのキャタピラは、都会の深夜をのりこえてゆく。
 
 しずかに。
 中枢へと向けて。
 
 「誰だ!!」
 とつぜんライトが窓のあたりを狙う。あなたは突嗟に身をよける。
 「どうした。」
 「はっ。大佐殿、あの窓です!」
 哨戒灯がガラスをつらぬく。半分ひらいたそのうえを。
 「  このあたりの警備会社はすべておさえたはずだ。首都圏に、深夜に誰が居るはずが……
 「どういたしますか」
 「ひまがない。念のため、麻酔弾を。」
 「はっ!」
 撃ちこまれる、それを、投げかえすわけにもいかずあなたは昏倒し。
 
 翌朝、肺炎をおこしかけて発見されたあなたが確かめたときには、工事現場すらひとつとない、明るいいつもの首都圏だったけど。
 
 ある晩あなたは見たんだ。新聞には載らない、もうひとつの真実(せんそう)を。
 
 

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