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 その日の午後と夜と次の日の午前中いっぱい、囚人護送車のような造りのその大型自動車は休みなく走り続けた。鋭は頑丈な後部荷台その間中ひとりで乗せられていた。
ひとりぼっちが淋しくて怖い、などという殊勝な子供では最初っからなかったし、本を持ちこんでいたので退屈もしなかったけれど、夜も毛布一枚でそこに寝かされたのには閉口した。なにしろ走り続ける自動車の中の、固くて狭い作りつけのベンチの上だったのだ。揺れは比較的少なかったとはいえ夜中に確実に2回はころがり落ちた。
結局、目がさめてみると床の上にじかに寝ていた。
 いつかの夏休みに川原にテントを張った時のことを思いだす。
 「う〜〜〜……」
 食事はさし入れられたしトイレには2時間おきの小休止があった。
けれど、歯ミガキも着替えも洗顔もなしだったのでひどく不潔な気がして具合が悪かった。風邪をひいてしまったようでもあった。
 「着いたぞ。」
 朝食からだいぶんたってそろそろまた空腹を感じだしていた頃、車が停ったと思うとヘンにピカピカする緑色の制服を着た男たちが鋭をおろしに来た。緑の服  小ヶ崎教授の奇妙な背広と同じ、人工的でよくよく見るうちに背中が粟だってきてしまいそうなヤツである。ただ地紋はなく、織ってあるものなのにまるでビニール布のようなテラテラした光沢。
 「独立研究者(ドクター)・小ヶ崎は他に急用ができたのでこのまままた外部に出向かれる。おまえは正面に見えるあの白い4階建ての棟に行くように。連絡は既についている。これが通行証だ。
ゲートでこれを見せればすぐに迎えの者が出るよう手筈がついている。では。」
 他の2人より階級が上であるらしい制服の男が、口早にそれだけ云ってまたすぐ運転台に戻った。
 「あ・ありが  ……」
 鋭が礼を云う暇もなく、残り2名の隊員をも乗せて、制服や背広と同じ緑色をした車は走り去って行った。
 リツコがいれば その車が昨日校庭に乗り入れてきたあの大型車と同じものだと すぐに気がついたことだろう。
 ともあれ、何が起こったのか、何が起ころうとしているのか……?
 そんな事柄にはまったく気づかぬげに、鋭は、教えられた白い建物へと素直に歩きはじめた。
 ときに19××年6月末日。気象庁は例年より幾分早く、激しかった今年の梅雨がすでにあけたことを宣言した。
 

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