広大な宇宙のまっただなかに浮かぶ、巨大な中継所(ストップオーバー)。それは、片道2年に渡る地球
ファーツアロウの地球人留学生団は、まず宙港(ポート)で簡単な人員照合をうけ、無重力地帯である中心部のスリップダウンを利用して、2分たらずでS.S.S.側の玄関ホールにたどりつく。
サキを始めとした中央委員30名を先頭に、一同は厳かに、かつ胸をはって堂々と、そのS.S.S.全生徒の待ちうけているホールの中へと歩みでて行った。
転入式、対面式、歓迎パーティーと、にぎにぎしい歓迎騒ぎの中で、ある一瞬からずっと、サキは、だれかに“視られ”ているという感じから逃れられなかった。
首筋をつかむような視線を感じて、油断なくあたりを見渡してみても、騒がしさの中でだれ一人それらしい人物は見当たらない。
それでいて、“見つけた”“捕まえた”といった感じの視線が体じゅうはっしりと抑えこんで、息苦しいくらいなのだ。
耐えきれなくなって、サキは早めに歓迎パーティを抜けだした。
疲れたからと偽わると、心配して、サキの憂慮の的だった現S.S.S.生徒会長フォーラが部屋まで送りましょうとついて来た。
一見して評判どうりの超人としれる彼女は12歳。3年生。実際にはサキと一つしか違わないにもかかわらず、体格、頭脳、対人の折衝など、全ての点で、4つか5つ分は差をつけられているなァとサキは思い、年不相応に大人びた物腰に、9ヶ月前に別れて来た姉、サユリと共通する、一種の冷(れい)らかなふんいきを見出して、深層心理に複雑な波がたつのをふせげなかった。
『なにか一種、離れている。』
と、サキはこう日記に残している。
『ガラス張りの向うから、眠ったままの心で“優しさ”を造り届けているような感じがする』と。
この時から半年後の中央委員会選挙※までの間の、この二人の会長候補の心の経移こそが、後々の悲劇をひきおこすことになるのである。が、これはまだ当分の間表面に浮かんではこない。
※ S.S.S.に生徒自治は発達しておらず、生徒会は存在しない。
二週ほどの間、サキの日記にはしばしばフォーラに関する酷評が書かれた。
セイ・ハヤミの事も含めて、S.S.S.に来て以来、急に、他人(ひと)には言うべきでない秘密がふえたサキは、平常のおしゃべりは前にも増してにぎやかになたのに、もう容易に実のある真の心をこぼさなくなって、その分、おもしろいほどのスピードで、“雑記帳”ノートが増えていった。
そんなサキが、ノートを人に見せなくなって、以前の、イラストとだじゃれでいっぱいだった頃からの愛読者たちは、つまらないと文句を言っては、「反抗期ね」とからかったが……
(未完)
S.S.S.名物の教課委員長、通商ティリーさんことティリス・ヴェザリオである。
「……ねえ。」
眠くなって、なんとはなしにpけらっとしているサキのかたわらへ、つつつっと一人の少女がよってきた。
長い黒髪を二つのお下げにした、S.S.S.名物の教課委員長、ティリーさんことティリス・ヴェザリオ。
2級上点つまりヘレナたちと同学年の彼女は、背の低さにおいてサキと張り合っている。
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ユリスがサユリに育てられ、アリサがエリーの娘であると考えられないこともないのじゃない。
いや、エリーが結婚しちゃまズいのかなァ、逆でもよい。あるいは“ソレル女史及びエスパッション・スクールの保護下”ということで、ユリスはだれを養母としても育たなかったかもしれない。
地球リスタルラーナ 1500光年
1年 25 35
2年 30 30
3年 35 25 15 20
ユリスの育ての親ってケイじゃなかったっけ? May.19 (by姉)
アリサは放っぽらかしても、ユリスには誰かついてた方がいいんじゃないかねぇ May.19 (by姉)
2.
1ヶ月後、何年かぶりにサキは完全に自由な休暇を得た。
スクランブルでたたき起されることも、活動費かせぎにアルバイトに出かける必要もない、まったく自由な時間。
この上もなく空の美しい一日を選って、サキは出かけることにした。
透みわたった空に銀の風が吹き、既に葉のひとひらもない白い木々のこずえには、かんくああん…… サキはついに見ることができなかった、収穫祭の鳴る子が、置き忘れたままに冬の朝を響いていった。
サキが古びたドアをたたいた時、彼の部屋にはもう一人、サキの見知らぬ青年が来ていた。
妙に騒々しくにぎやかな男で、サキがあっけにとられ、彼が苦笑いしている中で、一人で景気よくしゃべり続けた。
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虹 夢
1.
サキが最初に彼に会ったのは、秋の終りの暗く寂しい夜だった。
その晩、サキは闘って、深い傷を負い、無数にはりめぐらされた敵の目に、仲間との連絡を断たれたまま、ずたぼろになった身体(からだ)と心で深夜の街をさ迷っていた。
傷の出血はひどくなるばかり。もうろうとした意識の中で、ビルの一画の、ただひとつ灯(ともしび)の薄明るくもれちた彼の部屋に援助(たすけ)を求めた。
彼は、サキが示した身分証明カードにさして驚く風もなく何一つ聞かずにだまって傷の手当てをしてくれた。
その手馴れた様子に、医学生ですかと、傷のためのにわかな熱の下からサキが尋ねると、いや、と彼は少しさびしげに答えた。
「自分が病弱だかr、医局通いのうちに自然に覚えたんだよ。」
壁がはげ落ち、ドアのゆがんだ、その殺風景な部屋には、雑然と積みかさねられた幾十枚ものキャンヴァスと、油絵の具と、イーゼルとが、使い古されて置かれていた。
少し落ちついてからそれに気づいたサキはああ、と思った。
「迷惑をかけてしまったみたい。徹夜で描いていたのでしょう。このお礼はきっとするから……」
お礼という言葉を彼は否定した。
彼の方でサキに感謝したいくらいだと言った。
なぜかとサキが問い返すと彼は、言いにくそうに暗い顔でちょっと笑って、
「君が来なかったら、今ごろおれはこの世にいなかったからさ」
そこのコードで首でも吊って
サキのよく知っている名前を彼はあげた。
それは確かにサキのよく知っている名前だったので、サキはぼんやりとうなずいた。
わたしの生きざまを知っているから、それで自分が恥かしくなって死ぬのをやめたと言うの?
サキは語りかけはしなかった。
横たわったままじっと彼のうつむいた横顔を見つめていた。
もっと何か話したかったのだが、疲れて、体がいうことを聞かない。
それに、眠って、少しでも回復しておく必要があった。
彼女は戦わなければならないのだから。
サキはふうっと目を閉じた。
夜半、サキはひどくうなされて、眠ったまま、声をたてずに泣いた。
深く眠っているのにも関ず、サキは、声を秘めて泣いたのである。
彼はじっとサキを見つめていたが、そのうちに思いついたように画帳をとりだして彼女を描きはじめた。
そうして時折サキがひどく苦しそうな時には、手を休めて、サキのきつく握りしめられた指を優しく解き放してやった。
彼の眼は一瞬閉じられ、それから床の上n、彼が今日破り捨てたばかりの一枚のカレンダーの上にそそがれた。
彼はカレンダーを拾いあげた。
彼自身が口に出して認めたごとく、サキが来るえの死のうと思った気持ちは不思議におだやかに静まり、ただ静かな決意だけが胸の中を満たしていた。
残されたわずかな時間、やれるだけはやってから
なぜそんなにもあっさりと覚悟が決まったのか、彼自身にもわからなかった。
翌朝、夜明けてすぐに受けとった緊急事態発生(スクランブル)信号のために、サキは熱の引かない、わずかに出血が止まっただけという状態をおして出て行った。
出際に、
「一ヶ月、待っていてもらえるかな。あと一ヶ月以内には、わたしらが今追っている
きびしくこたえているに違いない傷の苦痛をおして笑うことのできるサキを彼はただ見つめた。
「それじゃ。」
サキは一歩さがって右手をさしだした。
まるで、けがをしたのが左手でよかった、とでも言うように、自然に。
彼はその手を両手で握りかえし、目顔で、なぜそうしてまで戦いに行くのかと尋ねた。
サキはふっと笑って、
「本業は、
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この話はわたししか知らない。
まだ、だれにも話していないから。
彼の所へ2度目にでかけたのは、ある
この話とは直接関係しない所に少々差し障りがあるので日付はふせます。
たぶんみんなはその日の事はよく覚えていると思う。
あの時期には珍しく、ゆるゆると安心感のあった一日で、かなり多勢がエスパッションに集まっていたから。
おかげでわたしはだれにも見つからないようにと思っていたのに、見つかってあらぬ詮議をかけられてしまった。
無理もない。
このわたしが、公用で出かけるのでも正装でもない、全くのプライベート・タイムにスカートはいてでかけようというのだったから。
(……しかしみなさま発想がせまいね。デートと信じて、てんから疑わないでいらっしゃる。)
別段、何を着ていっても、それはかまわなかったのだけれど、わかってくれるかな
ついでながら風景を描写。
空はまっ青。はるかに白いひつじ雲が部分部分を群れ歩いていて、旧市街へ向けて車を飛ばしていく間も、わたしは辺りばっかりながめてた。
既に葉を残さない白い街路樹が冴え冴えとして、冬の午前中のあの透徹した風が、空とこずえとの間を不思議なほとはっきりと染めわけ染めあげて、それがどこまでもからからとかすかに高い音をたてながら、前にも、後ろにも、ずっとずっと、はるかに見はるかす程続いていた。
もっとももちろん心象(イメージ)で、実際にはすぐに街はずれまで来てしまったけどね。
わたしは
ちょっと古代地球風のふんいきの布の流れがあって、お気に入りの一つだった。
(* 街着スカートはいてるサキのシャーペン描きイラストあり。)
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エスパッション・シリーズ 第一話
仮題 S.S.S.の悲劇
第一章 第一節
1.
「……“まず心があって……それから行動がある”か、……ふーん……。」
通信室のデスクでティリス・ヴェザリオこと通称ティリーがハンドタイプをほっぽらかしにしたまま本に読みふけっていた。
「えい! やっぱ設定が甘すぎるんだ。主人公の性格がはっきり決まってもいないんじゃ、ストーリーの展開だけになっちまう」
彼女は本来ここの中等部の生徒なのだけれども顔慣染(なじみ)の通信士がデートだとかで、無理矢理交替させられたのだ。
ツーン ツーン ツーン ツーン ビーッ!!
彼女が私淑と仰ぐ作家の書いた“小説論”に熱中していたおかげで、相手(むこう)が完全に周波数をあわせてくるまで呼び出し音(コールサイン)に気づかなかった。
「わっ! はいっはいっ!}
ティリーはこの時間、通信のくる予定はなかったはず……と思いながら通話スイッチを入れようとしてハッとした。
コールサインがこんなに大きいということは発信源が近くにあるということになる。
「まさか
とびつくようにスイッチを押すと、目前のスクリーン一杯にまちかねたように映像がひろがった。
「アルウ。S.S.S.(スリーエス)! こちらファーストアロウ。こちらファーストアロウ。……S.S.S.(スリーエス)、聞こえますか?」
ファーストアロウ号の通信士はティリーさんがあまり幼ないので驚いたらしい。
実際、ティリーは年よりも3つ4つ小さく、せいぜい10〜11歳くらいにしか見えないのだ。
突然の事に、あ然としていた彼女は内心すっかりあわてながらも、やっとこれだけ、自分でも結構堂々としてるなと思える調子で言った。
「アルウ。ファーストアロウ! こちらS.S.S.(スリーエス)、感度良好。あいにく通信士は不在ですが、あなたがたの無事到着をお祝い申し上げます。……少々お待ち下さい。ただいま司令室に切りかえます。」
これは正体がバレないように内線のモニターは切って司令室に報告し、了解を得た上でスイッチを切りかえる。
ふ
ティリーは手の甲で額(ひたい)をぬぐった。
「三日分もよけいにワープするなんて! さすが地球系だ、エネルギーの使い方がハデだね!」
それから彼女は、通信室には自分一人しかいないことに気づいてニッと笑った。
窓からは遠くの恒星以外なにも見えなかった。
しかし、そのどこかに、
(未完)
一、スクール オブ 宙間中継基地(スペース・ストップオーバー)
地球−リスタルラーナを結ぶ長い長い、二年間にも渡るワープ航路のちょうど中間点、つまり地球から一年行程のところに巨大な人工衛星があった。
それは長い航海の際に燈台の役目をし、また疲れた船の修理やエネルギーの補給をすることも可能だった。
そして、二星間国家(地球系星間国家連邦とリスタルラーナ系連合国)間の国交樹立とともに建造されたこの宙間中継基地にはもう一つの機能(システム)があった。
すなわち、リスタルラーナ最高の教育機関であるスリナエロス・ソロン・スレルナン。
各国の学生たちは、地球語の『スクール オブ スペース・ストップオーバー』と掛け合わせて、三年前にリスタルラーナ首都惑星上から移転して来たこの学校をS.S.S.(スリーエス)と呼んでいた。
S.S.S.(スリーエス)には幼児科(3〜5歳)と基本科(6〜8歳)を除いた全ての教育施設といくつかの専属研究所があり、位置の関係から必然的に全寮制、両連邦最高の教育を受けられる上に、授業料その他は一切無料である。
ただし、この学校に入学するには、基本科卒業の際に全星の生徒が受ける学力適性検査をへて、およそ千倍近い競争率の各星立の特殊要員(エリート)養成学校(スクール)に入学し、その中からさらに二百分の一の割合で選ばれるのを待たねばならなかった。
しかも、こうして入学した百二十名の生徒も、半年おきの進級試験のために、卒業時には3分の2の八十名に減っているのだった。
(※「天上にかかる雲の上の道のはるかかなたに輝く虹の橋の向こうのお城」……という、実にハヅカシイ絵が色鉛筆で描いてあります………………☆(+^◇^;+)☆ )
(*ついでに言うなら日記や作文用の「たてがきノート」使用だ!!)
.
二、地球留学生
リスタルラーナ連合政府がS.S.S.(スリーエス)への地球留学生の編入を認めてから三年。地球の教育制度が改変されてから五年。
今、第一回留学生の乗った船がS.S.S.(スリーエス)内部に入ろうとしていた。
ファーツアロウという名のその船は地球系連邦から選び抜かれた精鋭、100名の学生たちを一年間かけて運んで来たのだ。
(※「金色に輝く弓と矢の形の宇宙船」と、それを司る
宇宙のトリトン神(?)みたいな色鉛筆のイラストあり……☆)
(ていうか、この原稿は挿し絵が多い「絵物語」形式です☆)
(^_^;)>”
「どうしたの、サキ?」
ヘレナが、ぼんやりしているサキを優しくつっついた。
「足をはさむわよ。」
彼女たちは、ファーツアロウとS.S.S.(スリーエス)をつないでいるベルトウェイを、ファーツアロウの生徒たちの先頭になって通っていた。
なぜなら、彼女たちは生徒会役員だったので。
とりわけサキの方は一年生にして生徒会長になった人気者で、今年13歳のヘレナと11歳のサキは、いつでもいっしょにいた。
というより、一人っ子のヘレナにはサキが妹のように思え、一方、地球にいるサユリと別れてきた姉さんっ子のサキは、なにかあるたびにヘレナの所へ相談に行った。
二人とも見かけによらずさびしがりやなのだ。
(※制服姿のサキとヘレナのツー・バストショット。)
「どうしたの?」
もう一度ヘレナが聞いた。
サキがすぐに返事をしないとは珍しい。
「ん、ちょっとね。」
ファーツアロウの一行はベルトウェイから降りて歩きだした。
いよいよS.S.S.(スリーエス)の内部に入ったのだ。
広いロビーで身分証明書(カード)との照合。
(※ セイ・ハヤミの正方形のカードのイラスト。)
なにしろS.S.S.(スリーエス)は政府が経営しているにもかかわらず、政府の干渉を許さない。
学生と教師だけで独立した国、より良い教育環境を造りあげることだけを目的とした完全に自由な場所なのだ。
照合といってもコンピュータが処理するのだからたいして時間はかからないのだが、それでも一度に百名となれば大変だ。
コンピュータにカードをさしこみ、各自の指紋、網膜、声紋と照らし合わせて本人かどうかを確認する。
最初に済ませたサキが、次に検査機(チェッカー)から出てきたヘレナに言った。
「ねえヘレナ。わたし心配になってきちゃった。」
「? ……なにが?」
いつも用件ぬきで結論を言ってしまうのはサキの悪癖のひとつ。
「ほら、あの……なんていったっけ!? S.S.S.(スリーエス)の生徒会長。」
「ああ、たしかフォ……なんとかベルアイルって名前よ。それがどうかしたの?」
. (※悩みをうちあけるサキと応じているヘレナの絵。)
「……うん。つまりねェ、聞くところによるとそのフォ……なんとかさんってすごい超人的な人らしいじゃない。」
実際、そのフォなんとか、つまりS.S.S.(スリーエス)の中央委員長フォレル・シェットランド・ベルアイルという少女は、ある日突然、転入不可能といわれていたS.S.S.(スリーエス)に現れて以来、毎期毎期全科目首席という離れわざをやってのけ、さらに、だれにでも優しいその人柄と適格でいつも冷静な判断からおして、これも毎期連続で中央委員長をつとめていた。つまり、地球で言う生徒会長のような役である。
(※ 自信なげに首をかしげていじけるサキの絵。)
「それにひきかえ、わたしの方は苦手科目は及第ギリギリしかとってないでしょ!? もし生徒代表ってことで比較されたりしたら……」
「バッカねえ!!」
要するにそれが不安なのだ、とサキが話しを続ける間もなく、後ろからマーメイドとセイが割り込んで来た。
(※ 手にカードを提げて勢いよく歩いてくるマーメイドの絵。)
マーメイドは遅刻常習犯ナンバーワン。生徒会新聞の腕利き編集長、兼、生徒会書記だ。実際どちらが本業なのか本人にもわからない。
そのマーメイドがバンとサキの背中をたたいて言った。
「そのくらい心配しなさんな。会長は悪くても生徒は優秀なんだから。ファーツアロウの生徒はS.S.S.(スリーエス)なんかにひけはとらないわよ。」
それでもサキの気は晴れず、彼女は抗議するように言った。
「
「え!?」
「なんだかわたし、すごおく嫌な予感がするのよ。それにそのフォなんとかって生徒会長のことが頭から離れないの。」
サキのその真剣な口調に三人は一瞬しんとなった。
なぜならサキの予感の的中率といえば生徒間でも評判で、試験前ともなれば多勢で出題のヤマを聞きに来るぐらいなのだ。
(※ 「悪い予感」を訴えるサキの顔。)
しばらくしてからセイがほがらかに、(それでも少し心配そうな顔をしながら)断固とした口調で言った。
「心配するなよ、なにかあってもオレたちがついてる。」
(……そうとも! オレのサキを泣かせるようなやつがいればオレが許さん!!………………)
実際、背が高く色のあさ黒い、スポーツマンタイプの生徒会副会長セイ・ハヤミは、半年前の生徒会役員選挙の前後からサキが気になりはじめ、今では心の中でサキの名を呼ぶ時、必ず「オレの」と修飾して呼んでいるのだった。
もちろん、体格、精神年齢ともに成長の遅いサキは、およそそんな事を考えたためしもなく、セイとしても当分うちあける気はなかったが……。
(※ とか言いつつサキの肩に手を置いてカッコつけてるセイの絵……☆)
(^◇^;)”
……セイに言われたサキは、自分が彼らを心配させていることに気がついたので、大急ぎで今までのゆううつそうな顔を引っこめ、さも安心したという風ににっこり笑って一言、言った。
「それもそうね!!」
(※ にっこり元気なサキの絵)
サキがあまりにも自然に、本当に必然的とでも言えるぐらいにごく当然という顔をしてそう言ったので、マーメイドやそばで四人の話を聞いていた他の生徒会役員たちはすっかりだまされてしまい、ファーツアロウの中では一番良くサキを知っているセイやヘレナでさえしばらくはその自然な不自然さに気づかなかった。
つまり、まるでセイの一言で本当に安心したように見えるサキが、実際は自分を愛してくれている二人
実際、巧みに話題を切り換えて、セイといつもの(面白いと評判の)痴話ゲンカを始めたサキはとても無邪気にかわいらしく笑っていたので、仮にサキの本心を知っている人がいたとしてもかえってその事を疑いたくなっただろう。
それでも、にぎやかなだじゃれの応酬の合間にサキがふっと遠い目をしたのをヘレナは見逃さなかった。
ヘレナは心の中で大きなため息をついたがなにも言わなかった。
サキがわたしたちに心配をかけたくない……と思っているのなら、だまされたふりをしていなければ、今度はサキがよけいな気を使うようになるわ。
(※ 憂鬱に落ち込むヘレナの絵。)
やがて生徒全員の照合が終り、生徒たちは再びベルトウェイに乗った。
次のエアロックを通りぬければ、そおにはS.S.S.(スリーエス)の生徒が待っているのだった。
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三、中央委員長フォーラ
フォーラは、地球留学生歓迎のために広い集会室に並んだ生徒たちの中央に、ひどい頭痛を抑えながら立っていた。
中央委員長として留学生歓迎の準備の指揮をしてきた彼女はここ数日間ろくに寝ておらず、そのためにちう30分前にも貧血を起して倒れたばかりだった。
にもかかわらず彼女は強制覚醒剤を服用してでてきたのだ。
実際、歴代のただの中央委員長たちならいざしらず、フォレル第三百五十二代委員長の出席しない重要式典などとても考えられない。
フォーラの後見人であり、先程気を失った彼女を医療セクションまで運んで行った星間屈指の女性科学者マリア・ソレル女史も、親友のティリーと共に医師(ドク)の注意を無視して起き出してきたフォーラを見つけると、まだ顔色も青いままなのに、と思ったが、無理に休ませることはしなかった。
それにしてもフォーラの頭痛はまったくひどいもので、フォーラは、彼女を心配してそばにピッタリとついているティリーにまで頭のガンガンいう音が聞こえるのではないか……と、混乱した頭で考えるともなく思っていた。
(未完)
その日、後に“地球の目覚めの日”と呼ばれることになる四月三日。
地球と、月を始めとする十一の太陽系内開発都市、および七つの系外開発惑星の路上には人っ子一人見当りませんでした。
時に地球平和歴五十三年。
最終戦争後何百年にも渡った無政府状態に終止符が打たれてから半世紀が過ぎ、新しい地球統合政府による計画的で安定した政治は人々に輝やかしい未来を約束していました。
そう、万事が“計画”に基づいて順調に進められていたのです。
地球統一者リースマリアルの後、歴代の連邦総長が全力をそそいだのは、いかに予定どうり“計画”を実行するかということでした。
ところが、突如、“計画”を計算する際に予測されなかった一大事件が持ちあがったのです。
そう。一ダースにものぼる恒星系に足をのばした地球人たちが今だにその気配さえ感じとれず、若者や子供らの夢の中にしまわれたままだった
彼らが現れたことによって予想、いや計画されていた地球人類の未来像が大きく変わることになったのです。
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