家族構成
父 リーオ・アークトゥールス=ラン 39歳
地球(テラ)本星厚生省所属、民生に関する行政勤務。
(サキにとっちゃ空気か水みたいなもん)
母 サエム・ラン=アークトゥールス(死亡・39歳)
言語、及び、神話民俗学者。
姉 サユリ・ラン=アークトゥールス 15歳
地球(テラ)星連立 舞踊学校(バリエナス)所属。職業舞踊手。
現在9歳、あと一と月足らずで10歳になろうというサキは、いつものくせでツァツァツァッと舌打ちして、
「あー、なんてへたくそな字だろ!」
と、ぼやきつつ、それでもせっせと、入学手続きの書類の中に入っていた身上調査書に書き込んでいた。
頃は初春。
ユアミ市外縁部のこのあたりでは、すでに傾き始めた西陽がゆらゆらとかげろうを舞わせていて、閉めきった部屋の中ではむしろ汗ばんでくるくらいだ。
サキは行儀の悪いことに、器用に足の指で窓を押し開けて、最後の一行を書きあげると、窓わくの上に引っ越して声をあげて読みなおした。
「名前、サキ・ラン=アークトゥールス。女子。9歳。生年月日SP元年4月3日。本籍地……アジア・極東地区北列島……あ、ここ間違ってる。」
サキは書きなおしながら、ふっと手をやすめて、はるか窓の向うを見やった。
下書きが終ったらやはり姉さんのところへ持って行かねばならないだろう。
彼女の字は公の文書を書くには幼稚すぎるのだ。
それでも、やっぱり、せっかく受験地獄(!?)
いや、それよりも何よりも、サキには最近のサユリ姉さんがわからない、いや、わかりたくない。
不信に陥っていると言っていいだろう。
そんな姉に対して自分がどう思っているのかさえはっきり捕めていなかったから、できる事なら近寄りたくなかった。
……が、書類も下書きは全部終ってしまい、明後日にはその書類をたずさえて入学式に赴くのだ。
サキはすぐに、思い切りよく立ちあがり、階下へ行ってくったくなく姉さんにたの……もうとは思ったが、実際にやったのはぶっきらぼうに書類の束をつき出して、
「これ、明日までに清書して。」
つまりは必要最低限外の口は一切きかずに、逃げだしてしまったのだ。
サユリはもうせんからと同じ深い悩みの瞳をして、ただうなずいてうけとっただけだった。
事の次第もなにもかも。
しかし、彼女のその分裂した想いを是認することは、つまりは自分の存在を否定する事になる
9歳という年令に不相応な程の鋭い感受性と洞察力を見につけてしまっているサキは、年齢から来る未経験さで、まだ、人を思いやるゆとりというものは持っていなかった。
本当に、サキにはわかっていたのだ。
サユリの心の中に、平静の彼女のサキに対する態度からはおよそ考えもつかない葛藤が渦巻いている事を知ったのは、まだたった3歳の時だった。
物心つくかつかぬかの頃だったのに、その時の事ばかりは、わからないままにサキの心に“世界”に対する最初の不安として長く留められている。
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