エスパッション・シリーズ 第一話
仮題 S.S.S.の悲劇
第一章 第一節
1.
「……“まず心があって……それから行動がある”か、……ふーん……。」
通信室のデスクでティリス・ヴェザリオこと通称ティリーがハンドタイプをほっぽらかしにしたまま本に読みふけっていた。
「えい! やっぱ設定が甘すぎるんだ。主人公の性格がはっきり決まってもいないんじゃ、ストーリーの展開だけになっちまう」
彼女は本来ここの中等部の生徒なのだけれども顔慣染(なじみ)の通信士がデートだとかで、無理矢理交替させられたのだ。
ツーン ツーン ツーン ツーン ビーッ!!
彼女が私淑と仰ぐ作家の書いた“小説論”に熱中していたおかげで、相手(むこう)が完全に周波数をあわせてくるまで呼び出し音(コールサイン)に気づかなかった。
「わっ! はいっはいっ!}
ティリーはこの時間、通信のくる予定はなかったはず……と思いながら通話スイッチを入れようとしてハッとした。
コールサインがこんなに大きいということは発信源が近くにあるということになる。
「まさか
とびつくようにスイッチを押すと、目前のスクリーン一杯にまちかねたように映像がひろがった。
「アルウ。S.S.S.(スリーエス)! こちらファーストアロウ。こちらファーストアロウ。……S.S.S.(スリーエス)、聞こえますか?」
ファーストアロウ号の通信士はティリーさんがあまり幼ないので驚いたらしい。
実際、ティリーは年よりも3つ4つ小さく、せいぜい10〜11歳くらいにしか見えないのだ。
突然の事に、あ然としていた彼女は内心すっかりあわてながらも、やっとこれだけ、自分でも結構堂々としてるなと思える調子で言った。
「アルウ。ファーストアロウ! こちらS.S.S.(スリーエス)、感度良好。あいにく通信士は不在ですが、あなたがたの無事到着をお祝い申し上げます。……少々お待ち下さい。ただいま司令室に切りかえます。」
これは正体がバレないように内線のモニターは切って司令室に報告し、了解を得た上でスイッチを切りかえる。
ふ
ティリーは手の甲で額(ひたい)をぬぐった。
「三日分もよけいにワープするなんて! さすが地球系だ、エネルギーの使い方がハデだね!」
それから彼女は、通信室には自分一人しかいないことに気づいてニッと笑った。
窓からは遠くの恒星以外なにも見えなかった。
しかし、そのどこかに、
(未完)