第一章 スリナエロス・ソロン・スレルナン
 
   1.
 
 「推進装置全機停止。ガントリーロック着結。」
「安全(セーフティ)確認せよ」
「全機能O.K。異常ありません」
「よし、メインエンジンストップ」
「メインエンジンストップ!」
「アイ、サー! 出力9000……7000……6000…………200…………0。エンジンストップ」
「ドッキング終了!!」
 ドッキング終了  
この言葉と共に、大パネルに投影された船橋風景にかたずをのんで見入っていた生徒たちは、皆、安全ベルト解除の緑色灯(グリーンランプ)がつくのももどかしく、わぁっと一斉に立ちあがった。
「着いた!」
「着いたわ」
「S.S.S(スリーエス)だ!!」
 まる一年かかって、ようやく留学先であるS.S.S.(リナエロス・ロン・レルナン  リスタルラーナ語で“橋わたしをする”学校)にたどりついたのである。
加速が消えて無重量状態となった船内で、だれかが機密服(スーツ)のヘルメットを放り上げる。
「ヒヤッホ〜〜〜!」
「全員、5分以内に荷物を持って、大ホールに整列〜〜〜!!」
かんだかいサキのソプラノと、セイのテノールが、同時に船室内にひびきわたった。
「アイ・サー!!」
 いきおいつけて宇宙遊泳をやった奴と、まじめに走って行った者とがかちあって、出入口で一騒動おこったが、とまれ全員、時間どうりに集合した。
 「あなたがたの一挙一動がそのまま地球の評価につながることを……」
 「いずれ君たちこそが地球を担う……」
教授たちの一言一言は、短く、はっきりと生徒全員の胸に根をおろした。
彼ら教授連の大半は、S.S.S.にはとどまらない。
このままリスタルラーナ本星まで、更に一年を費やしておもむくのである。
 「一年という短い間でしたけれども、わたしたちの意気込みに応え、熱心に指導していただいて、本当にありがとうございました……」
答辞などというバカげた下書きは抜きで、サキは生徒代表として一生懸命お礼の言葉をのべた。
「健闘を祈ります。」
「ありがとうございました!」
短い一言に生徒全員が心をこめて、一礼すると、生徒会、中央委員会を先頭に、皆次々と憧れの巨大な構築物の中へと歩み入った。
「さあ、これからが本番だぞ」
「そうよ、地球人代表がどこまでやれるか、リスタルラーナに見せてやりましょうよ」
「その意気だ。この一年の特訓であたしたち全員、リスタルラーナの教育水準にちゃんと追いついているんだから」
「追いつけ追いこせ」
「ホント、あとはどこまで自分を磨けるかよね」
「努力あるのみ!」
「オ  ッ!」
アッハッハ    
 ほんの少し不安の入り混じった興奮で、だれもが口々に未来への希望を語りあった。
「1学年、10クラス、300名でしょ? なんとしても上位50位リストにくいこもうよ。」
「なんの。卒業までには総代になってやらあ:
「お  っ! このやろー大きくでたなっ」
 サキもまた例外でなく、ヘレナやセイ、マーミドたちを相手にして、一同の先頭でにぎやかに笑いあっていた。
  自分の身の上にこれから何が起きようとしているのか、その時のサキには予測だにできない事であったから。
 が、慣れ親しんだファーツアロウ船内から出、さすがに緊張からぴんと静かになって、S.S.S.への移乗通路を渡って行く一行の先頭にあって、彼女はだれにともなくつぶやいた。
「S.S.Sの現生徒会長って、人間離れして優秀な人なんだってね……。」
 サキが何を思ってそうつぶやいたものか、今となってはもう知るすべもない。
 
 
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