一、総会本部
リスタルラーナ星間連合本部の最上階にある総会会議場。
臨時総会を終えて退場して行く各星代表の通るロビーからは少し離れた、専ら参考のために会議に招待される学者たちが使用することになっている小ロビーの一つで、今度のような重大会議に関係を持つにしてはおよそそれらしく見えないような少女が二人、じれったそうに立ったりすわったりしながらだれかを待っていました。
一人は、海のほの蒼い夜霧のような長い灰色の髪に、不思議によく光る黒い瞳をした一四、五歳の、背の高いスラリとした少女で、頭を動かすにつれて髪の間から見え隠れするやや黄色みのかかった白い丸い耳から見て、地球人のようでした。
そしてもう一人の方はまだ十一、二歳、小柄でかわいらしい少女で、やわらかくカールした薄茶色の髪にふちどられた色白の顔に、大きなエメラルドの瞳が並び、そのななめ上につきだしたつんととがった幅の広い耳が、彼女がリスタルラーナ人であることを証明していました。
「遅いなあ。なにをやってるんだろう。」
背の高い方の少女がまたつぶやきました。これで三度目です。
「あわてても仕様がないわよサキ。」
「だけどケイ、会議が終ってから十分はたってるんだよ。」
ケイと呼ばれた方はそんなやりとりをしながらもゆったりとソファーに腰かけて悠然と本を読みつづけていましたが、サキの方は立ったり座ったり、一時もじっとしてはいられません。
「あ、来た!!」
会議場の自動扉が静かに開いて、連邦屈指の女性科学者であるリスタルラーナ人のソレル女史ともう一人、青い髪にチラチラ光る金色の瞳(め)をした背の高い少女が出てきました。
この二人こそが今日の会議の中心だったのです。
「や!サキ。はてたよ〜〜。なにせお偉方の面前で一時間も説明させられてさ。言葉使いは気をつけなきゃならんし思わぬ質問は飛びだすし……もう冷や汗のかきっぱなしよ。」
そうサキに話しながら、なおも持っているレポートで顔をあおいでいる少女は、名前をシスターナ・レイズと言い、その瞳の色や細長い耳の形から、地球・リスタルラーナのどちらにも属さない種族であることはあきらかでした。
『ごくろうさまレイ。で、どうでした?ソレル女史。』
ここからが重要会議です。サキは預かっていたバッグと上着を二人に渡しながらテレパシーを使いました。
『まあまあのできですよ。ほとんどの星は賛成しましたし、あと二、三の案件が改正されるのを待って……そうね。順調に行けば次の臨時総会には九十九パーセント決定するでしょう。』
やはりテレパシーで答えながら無造作にコートをはおったソレル女史は、今度は口を使って、どこかで食事でもしましょう。と三人を誘いました。
大ロビーほどではないとは言え、けっこう人の通るここで、テレパシーだけの会話を交わしていてはあやしまれます。
「それとも」と、女史は笑ってつづけました。
「“果ててしまった”レイは一刻も早くエスパッション号へ帰りたいのかしらね?」
これを聞いて三人とも笑いだしました。
あとはもう例の“あやとり会話”のやりとりです。
これは、サキが始めてこの訓練を受けた時につけた名前で、一つの話題をテレパシーで、他の話題を声を使って、たがいちがいに切り換えながら並行して話すのです。
普段から彼女たちがよくやるゲームで、たとえば二人組でスムーズに会話を進めようとしたりすると、声で話しながらテレパシーを聞き、すぐまた交替して……ということになり、しかもことばの長さはまちまちなため、へたをすると同時に両方を使ってしゃべるはめになる、というわけです。
けれどこの場合は四人で気楽に話しあえばよかったので、ともすれば“心”の話題と“声”の話題を取りちがえるクセのあるサキも、一度もとちらずに続けることができました。
『この廊下一つ見ただけで、いかにリスタルラーナのエネルギーが不足しているかがわかるでしょう。』
表玄関へと通じる主要通路の一つを歩きながら、ソレル女史が言いました。
『この連盟本部ビルは50年前、リスタルラーナの経済最盛期に建てられたものです。そして愚かなことに私たちはエネルギーを使いすぎました。』
彼女は広い廊下の動かない自動送路(ベルトウェイ)を、始めのうち常に働き続けていたその送路を、廊下に人がいる時のみ動くように調節した機械を、そしてその機械すらここ十年来停止させられたままであることを3人に示しました。
『わずか50mたらずの通路にまで送路をつけて、物質文明の便利さにのぼせあがっていた人たちは、エネルギーには限りがあるということを失念していました。
『今でも覚えていますよ、』
そう言って、女史はさもおかしそうにクスクスと笑いだしました。まるで、なにかおかしい思い出でもあるようでしたが、幼ない時から女史のもとで教育されたケイにしかその理由はわかりませんでした。
『……それが』と、女史は続けました。『ちょうど20年前のことです。』
『それ以来、私たち科学者は新しいエネルギー源の開発に努めて来ましたし、政府は惑星開発に力を入れました。』
『ついでに地球にまで足を伸ばしてね!』
ケイがチョロリと口をはさんで笑いました。
『ま、わたしもサキもそのおかげでこの世に生まれることができたのだけど……』
『そう。13年前にリスタルラーナの代表が始めて地球へ訪れ、その1年後には地球・リスタルラーナ両連邦間に友好通商条約が結ばれました。
でも、地球から送られてくるエネルギーはとても少ない。リスタルラーナ産のエネルギーと合わせても最低限必要なだけしか使うことができません。』
『エネルギーさえあればもっともっと科学を発展させることができたのに……』
「本当に、物事ってなにが幸いするかわからないなあ!」
サキが始めて知ったとでもいうような大声を出したので、隣を歩いていたレイは大急ぎでサキをつねらなければなりませんでした。
ついに“あやとり”を“取りそこね”たのです。
しかし人気の少ない通路には、痴話ゲンカの合間のこのとんきょうなセリフに特に注意を払うような人はいないようでした。
『すみません。』サキは素直に謝まってから話を続けました。
『実際、もしリスタルラーナにエネルギーがありあまっていたとしたら、13年前にわたしは生まれることができなかった。ケイだってたぶんそうだろう? そして今度はエネルギーの不足が原因で、女史の作戦がスムーズに運んだ。この作戦がうまくいけば、わたしたちの“仲間”が大勢できて女史の夢が実現できるようになるし、レイは故郷(ふるさと)に帰ることができる。』
『宇宙嵐で歯医者がもうかるような話ね』と、ケイ。
『あとは地球連邦議会の方の決定しだいか。
『無理よォレイ。いくらソレル女史でも手紙一本じゃ地球政府を説得できないのよ。……せめて音声だけででもじかに話せれば別だけど……。』
そう。リスタルラーナ連邦がこんなにも早く賛同を示したのは、まえもってソレル女史が説得して歩いた結果でした。
連邦屈指の科学者で、しかも政界・財界通して知人の多い女史は、連邦会議の議員一人一人の性格や主義を計算に入れて、暗にほのめかしたり正面切って頼み込んだり、実に巧みに持ちかけるので、ほとんどの人はあっというまに説き伏せられてしまうのです。
これは、彼女がかなり強力な超能力者だったおかげなのですが、知らない人はこれを、彼女の若さと美しい姿態のせいだろうと思っていました。
実際、もし彼女が超能者ではなかったとしても、物静かなアルトで熱心に話す女史に向って反論しようとする人は滅多にいなかったでしょう。
そのソレル女史が謎めいた笑いかたをして言いました。
『地球連邦中央議会の方針はもう決まりましたよ。賛成するそうです。』
(※「アラク星とリスラエル星が戦争」……(^◇^;)げっ……。
えぇ。言うまでもなく、コレ書いた当時は、昭和の「オイルショック」の直後でありましたとも……☆☆(^◇^;)☆☆
でも、なんで「イラクとイスラエルが戦争」なんだろう?ヨルダンの立場はどーなる…………??(^◇^;)”??