おかしいなぁ……
11歳のサキ・ラン=アークタスはさっきからしきりに後ろの方ばかり振りかえって見ていました。
どうやらあのここへ着いて以来つきまとってくる視線は二つ別々の方向から来ているようで、一つはわりあい近くの、年長の(リスタルラーナの)生徒たちが固まっている方、もう一つはずっとむこうの壁面の、中二階ほどの高さにもうけられた、ホールを見おろす廻廊

 
      ヘレナから見て
 
 
 地球人留学生団のための歓迎パーティーは、会場の準備もすっかり終って、あと15分ちょっとで開会宣言がなされるはずでした。
すらりとした薄桃色の上品な民俗衣裳(ドレス)の、胸に澄んだ真珠色のバラのつぼみのコサージュをつけて、ヘレナは静かな色合いの肩にうちかかる金髪は結い上げずにおいたままで、少し早めに会場へ出て来ました。(*ヘレナのドレス姿のイラストあり。
見ると、ホールの反対はずれの方で、妹同様でもある三つ年下の“かわいい生徒会長”(リトル・チェアマン)サキが、しきりにそわそわきょときょとしています。
何かしらと思って近づいて行くと、向うも気づいて寄ってきました。
「どうかしたの? サキ」
 
 
 
 そろそろ開会になろうかという、地球人交換留学生団歓迎のパーティ会場で、11歳のサキはなぜかしら落ちつかなくさせる二つの視線を感じて、そわそわと不安げにあたりを見回していました。
不可解なそのうちの一つは、どうやらリスタルラーナ側の、S.S.S.(スリーエス)スクール中央委員長、フォレル・シェットランド・ベルアイル  通称フォーラ  からのものであるようです。
サキが振り向いて見た限りでは、彼女は決してサキの方を見ていたりはしなかったのですが、それでもサキには不思議な事に、フォーラの全神経が自分の上へ集中しているのがわかりました。
  もう一人、見つめているのはだれだろう?
いや、それより、サキにとってはフォーラの視線の中に混じっている、淡い憎悪のようなさしこむような鈍痛感の方がより気にかかることでした。
  どこかで感じた事のある感覚………………。
サキの瞳はぼおっとかすんで可視光線を捕えなくなり、束の間彼女は無意識層の中で古い記憶をまさぐってみました。
 ぽん!
だれかに肩をたたかれて、サキは思わず声をたてるところです。
「ぼうっとしてどうしたの? サキ。かわいい生徒会長さんはあたしたち第一陣留学生(ファーツアロウ)の代表なんですからね。しっかりしててちょうだいな。」
三つ年上の親友・ヘレナ・ストール。
「そんなの知らないよォ副会長。……あのね」
“オチ・カ”のサキは伸びあがってヘレナに耳うちしました。
いつものようになるべく甘えた素振りでと努力はしましたが、忌まわしい記憶がからまって、どうしてでも声だけは不安な響きをともなってしまいます。
「あそこにいる中央委員長(フォーラ)ね、昔のサユリ姉さんと同じ目をしてわたしを見てる。」
ヘレナの顔がさっとこわばりました。
言わない方が良かったのかも知れないと後悔するけれど、いつも考えるより先に舌が滑りだしてしまうのがサキの欠点なのです。
ヘレナが目顔で問い返すのに、サキはうなずいて考えました。
何にしても、一度としてはずれた事のないサキのかんが不安を告げている以上、少なくともヘレナにだけは話をしておいた方がいい  何が起こるのかはわからなくても。
 
 
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