[総括]
地球と呼ばれる惑星と重なりあう、もしくは隣接して存在したとされる空間、エルシャムリア・ボルドガスドム・ダレムアスの三界は、地球(ティカーセラス)とあわせて[かつてありし四世界]と呼び慣されている。各世界を統べる四柱の神は兄弟姉妹であると人間には解釈されていた。
神代末期の争いにより長姉リーシェンソルの開いたエルシャムリアは滅び、残る三界を結ぶ通廊は封印された。長い(地球時間で約2万年)時の流れのなかで互いの存在自体が忘れられた頃、主神グァヒーギルに飽きられたボルドガスドムの崩壊が始まった。が、造物主に見捨てられても、ひとたび存在することを始めた生命は死なないものである。かくてボルドガスムの皇帝ガザルアジャールは禁じられた扉を破り、隣世界ダレムアスへの侵攻を開始する。
[鬼]と呼ぶボルドム人の侵略によって緒戦で統皇そのひとを失った大地世界ダレムアスは泥沼の局地抵抗戦を余儀なくされた。地球世界に難を逃れていた皇女マーライシャが帰還し、分裂しかけていた各勢力を束ねて大規模な反撃にうつる。形勢不利とみたボルドムが地球の「地下勢力」(と考えた)セブンス・コングロマリットと手を結んだことにより、ことは三つ巴の争いとなる。
いっときボルドガスムに拉致されたマーライシャは侵略戦の直接原因がグァヒーギルにあると知り、生還の後、ダレムアスの眠れる女神マライアヌを尋ねあて、万物を造る[神]たるものへの疑問を投げかけた。
女神の娘である同名の神女マーライシャの助力を得て最後の決戦に勝利をおさめた皇女。ボルドムからの移住民をも受け入れ再び境界の通廊を封印するが、同時に彼女は半身である地球人の少年を失わなければならなかった。
[皇女を中心とした動きの概要]
(前生編)
幼くして西皇子クアロスと婚約。兄皇子マリシアルとの淡い恋に惑い、大局を誤って皇都ルア・マルラインとともに落命。
(転生編)
不死戦士アズユライ(黒百合)によって記憶を封じられ、地球世界で「幸福な少女時代」というやつを取り戻す。翼 雄輝・清峰 鋭 の二名とともに帰還。はじめ地球へ戻ろうとし、月女神レリナルディを訪ねた。記憶(人格)回復の後、兄皇子の死[>宝玉物語]を知る。[>記憶の旅]
叔母である斎姫を訪ね、斎都戦にあたって指揮をふるうが、男装のため「皇子復活!」の報が各地に飛ぶ。圧政を敷くボルドム地方部隊を撃退しつつ、探索網をかいくぐり、地球人国・南都・北荒野などを巡り、大地世界全土の戦線の再統一を図る。[>(複数)]
西への砂漠の旅の途路、軍司令のボルドム帝子を殺害。その双子の兄に捕らえられ地洞世界に幽閉される。無事脱出するが、鬼族を単純な「悪」と決めつけることはできなくなる。[>暗夜]
帰還した皇女を出迎えたのは許婚者である西皇子クアロスだった。
七つの門のうち四までを封じ込め、大地軍を統率して大規模な会戦を迫る。が、地球人将軍マダロ・シャサ(雄輝)を失った皇女は自失し、敗退した。[>遼恋(りょうれん)]
雄輝、生還。再び戦線のたてなおしを図るが、地球人の介入により大地の力がそがれ、事態は深刻化した。西皇帝クアロス、皇女をかばって死去。女神に意思を問うて始源平野マドリアウィを訪ねる。神女の力を得た決戦の前夜、皇女は地球人としとねを共にした。
外伝[宝玉物語]
放浪中の薬師のおばば(実は黒百合という説も)に拾われ、山奥の「道の果ての村」で育った〈星の娘〉マシカ。皇都戦から落ちのびた飛仙フェルラダルを救ったことから大地世界の危機を知る。[>山百合と銀の楡]
飛仙にもらった宝玉〈女神ルマルウンのかけら〉を胸に、復活した〈鬼〉族の出没に脅えつつ山で暮らすマシカ。冬も近いある日、「道の果ての村」には珍しい下界からの客人が訪れた。偽名をなのり、疲れはてたふうの少年をもてなすうちに二人の間に淡い恋が芽生える。が、マシカは鬼の首領から望まれた身だった。気を揉んだ首領に期限より早く連れ去られるマシカ。譲られた宝玉を懐に、追う少年。鬼の城に忍びこみ、少女を救って落命した少年こそ、大地世界の皇子マリシアルだった。[>宝玉物語]
皇子落命の報を皇女に告げ、
外伝[地球干渉編]
[リツコ冒険記]
朝日ヶ森学園から三人の生徒が姿を消して五十年。新理事長となった 楠 律子の孫、高原リツコ十二歳は、「夏休みを利用してアルバイトをしないか?」ともちかけられ、離婚訴訟中の両親から離れられるとばかりに森の奥の通路へでかける。
[惑恋]
大地世界へ侵入した地球人商社軍の強制キャンプに拉致され、男達のなぐさみものにされた少年、セネ。逃亡後、皇女軍の参謀役として働くが、口にすることも出来ない過去と、皇女への報われない片恋が彼を苦しめていた。
地球と呼ばれる惑星と重なりあう、もしくは隣接して存在したとされる空間、エルシャムリア・ボルドガスドム・ダレムアスの三界は、地球(ティカーセラス)とあわせて[かつてありし四世界]と呼び慣されている。各世界を統べる四柱の神は兄弟姉妹であると人間には解釈されていた。
神代末期の争いにより長姉リーシェンソルの開いたエルシャムリアは滅び、残る三界を結ぶ通廊は封印された。長い(地球時間で約2万年)時の流れのなかで互いの存在自体が忘れられた頃、主神グァヒーギルに飽きられたボルドガスドムの崩壊が始まった。が、造物主に見捨てられても、ひとたび存在することを始めた生命は死なないものである。かくてボルドガスムの皇帝ガザルアジャールは禁じられた扉を破り、隣世界ダレムアスへの侵攻を開始する。
[鬼]と呼ぶボルドム人の侵略によって緒戦で統皇そのひとを失った大地世界ダレムアスは泥沼の局地抵抗戦を余儀なくされた。地球世界に難を逃れていた皇女マーライシャが帰還し、分裂しかけていた各勢力を束ねて大規模な反撃にうつる。形勢不利とみたボルドムが地球の「地下勢力」(と考えた)セブンス・コングロマリットと手を結んだことにより、ことは三つ巴の争いとなる。
いっときボルドガスムに拉致されたマーライシャは侵略戦の直接原因がグァヒーギルにあると知り、生還の後、ダレムアスの眠れる女神マライアヌを尋ねあて、万物を造る[神]たるものへの疑問を投げかけた。
女神の娘である同名の神女マーライシャの助力を得て最後の決戦に勝利をおさめた皇女。ボルドムからの移住民をも受け入れ再び境界の通廊を封印するが、同時に彼女は半身である地球人の少年を失わなければならなかった。
[皇女を中心とした動きの概要]
(前生編)
幼くして西皇子クアロスと婚約。兄皇子マリシアルとの淡い恋に惑い、大局を誤って皇都ルア・マルラインとともに落命。
(転生編)
不死戦士アズユライ(黒百合)によって記憶を封じられ、地球世界で「幸福な少女時代」というやつを取り戻す。翼 雄輝・清峰 鋭 の二名とともに帰還。はじめ地球へ戻ろうとし、月女神レリナルディを訪ねた。記憶(人格)回復の後、兄皇子の死[>宝玉物語]を知る。[>記憶の旅]
叔母である斎姫を訪ね、斎都戦にあたって指揮をふるうが、男装のため「皇子復活!」の報が各地に飛ぶ。圧政を敷くボルドム地方部隊を撃退しつつ、探索網をかいくぐり、地球人国・南都・北荒野などを巡り、大地世界全土の戦線の再統一を図る。[>(複数)]
西への砂漠の旅の途路、軍司令のボルドム帝子を殺害。その双子の兄に捕らえられ地洞世界に幽閉される。無事脱出するが、鬼族を単純な「悪」と決めつけることはできなくなる。[>暗夜]
帰還した皇女を出迎えたのは許婚者である西皇子クアロスだった。
七つの門のうち四までを封じ込め、大地軍を統率して大規模な会戦を迫る。が、地球人将軍マダロ・シャサ(雄輝)を失った皇女は自失し、敗退した。[>遼恋(りょうれん)]
雄輝、生還。再び戦線のたてなおしを図るが、地球人の介入により大地の力がそがれ、事態は深刻化した。西皇帝クアロス、皇女をかばって死去。女神に意思を問うて始源平野マドリアウィを訪ねる。神女の力を得た決戦の前夜、皇女は地球人としとねを共にした。
外伝[宝玉物語]
放浪中の薬師のおばば(実は黒百合という説も)に拾われ、山奥の「道の果ての村」で育った〈星の娘〉マシカ。皇都戦から落ちのびた飛仙フェルラダルを救ったことから大地世界の危機を知る。[>山百合と銀の楡]
飛仙にもらった宝玉〈女神ルマルウンのかけら〉を胸に、復活した〈鬼〉族の出没に脅えつつ山で暮らすマシカ。冬も近いある日、「道の果ての村」には珍しい下界からの客人が訪れた。偽名をなのり、疲れはてたふうの少年をもてなすうちに二人の間に淡い恋が芽生える。が、マシカは鬼の首領から望まれた身だった。気を揉んだ首領に期限より早く連れ去られるマシカ。譲られた宝玉を懐に、追う少年。鬼の城に忍びこみ、少女を救って落命した少年こそ、大地世界の皇子マリシアルだった。[>宝玉物語]
皇子落命の報を皇女に告げ、
外伝[地球干渉編]
[リツコ冒険記]
朝日ヶ森学園から三人の生徒が姿を消して五十年。新理事長となった 楠 律子の孫、高原リツコ十二歳は、「夏休みを利用してアルバイトをしないか?」ともちかけられ、離婚訴訟中の両親から離れられるとばかりに森の奥の通路へでかける。
[惑恋]
大地世界へ侵入した地球人商社軍の強制キャンプに拉致され、男達のなぐさみものにされた少年、セネ。逃亡後、皇女軍の参謀役として働くが、口にすることも出来ない過去と、皇女への報われない片恋が彼を苦しめていた。
『 (無題) 』 (@高校在学中?)
2006年7月18日 連載(2周目・大地世界物語) コメント (1) 扉はきつく閉ざされておりました。そろそろと火の手がのまわりはじめた奥宮の広間の中央に、彼女はひとり毅然と立ち尽して何事かを待っていました。足音が聞こえて来ます。疲れ切った、けれどどんな深傷の痛みをも忘れて果てて、ただにひた走って来る足音なのでした。待っていた貴女はわずかに扉に、歩み寄りたげにして止めました。
「マーイアラフ!」
彼は取りつくなり激しく扉を打ち始めました。
打ち砕かんばかりに扉は激しく乱打されました。
「マーイアラフ! 居るのだろうそこに。マーイア!」
青銀の光が輪郭を透かし、飛仙の力が扉を押し開こうとします。貴女はためらわずたおやかな腕をあげ、碧の輝やきが放たれて扉を包みこみました。
「マーイアラフ、何をする?!」
「お静かに、兄上様」
飛仙一族の貴女は、 ました。
「皇(おう)陛下にはすでに御他界なされました。今や奥津城になろうとするこの宮へ、何の用がおありで騒ぎを持ち込まれようというのです。」
「マーイアラフ! そなたは……」
扉の外で、妹の決然とした声を耳にしながらなおもその結界力を打ち砕こうとむなしく振り当てた両腕に、がくりと体を預けて彼は声を絞り出しました。
「……頼む。出て来るのだ。マーイアラフ。私達にならまだいくらでも逃げのびる途はある。出て来るのだ。死が怖ろしくはないのか。」
「兄上様、皇は亡くなられたのです」
「マーイアラフ! そなたは未だ千年と生きてはいないのだぞ!」
「……故意に、お忘れですか、お兄さま?」
燃え広がる炎の広間の中で妹は美しく微笑みました。
「節を通させて下さいませ。わたくしは、皇に嫁した、ダレムアスの女皇(めのきみ)なのですよ。人の子たる皇陛下の命数に、殉じます」
「マーイアラフ!」
「仙女皇セイラ。あなたがたを悲しませた娘(セイ ウィラ ノリ ウィラ ウァマ)、ですわ。お許し下さいませ、皆を嘆かせたわたくしの、これが最後の我がままですわ」
エルフエリは力を失い、扉に背をもたせました。
「そうか……」
「わたくしは、短き生を自ら選び取ったのですから。それが予定より早まってしまったとは言え」
「そなたはこの日の来る事を予覚していたのだな。未来(さき)を視る瞳の陛下」
若々しい女皇は答えず、兄もそれ以上言葉を継ぎませんでした。炎が静かに城中を飲みつくそうとしていました。明るい広間の内ではオレンジの炎が。崩折れるエルフエリの囲りでは暗く昏い赤い焔が。
「お兄さま? 御逃げ下さいませ」
「……小さかった私のマーイアー。酷い事を言うな」
「皇女と皇子達は逃げのびました。子供達をお願い申します」
「マーイアラフ!」
打ち砕かんばかりに扉は激しく乱打されました。
「マーイアラフ! 居るのだろうそこに。マーイア!」
青銀の光が輪郭を透かし、飛仙の力が扉を押し開こうとします。貴女はためらわずたおやかな腕をあげ、碧の輝やきが放たれて扉を包みこみました。
「マーイアラフ、何をする?!」
「お静かに、兄上様」
飛仙一族の貴女は、 ました。
「皇(おう)陛下にはすでに御他界なされました。今や奥津城になろうとするこの宮へ、何の用がおありで騒ぎを持ち込まれようというのです。」
「マーイアラフ! そなたは……」
扉の外で、妹の決然とした声を耳にしながらなおもその結界力を打ち砕こうとむなしく振り当てた両腕に、がくりと体を預けて彼は声を絞り出しました。
「……頼む。出て来るのだ。マーイアラフ。私達にならまだいくらでも逃げのびる途はある。出て来るのだ。死が怖ろしくはないのか。」
「兄上様、皇は亡くなられたのです」
「マーイアラフ! そなたは未だ千年と生きてはいないのだぞ!」
「……故意に、お忘れですか、お兄さま?」
燃え広がる炎の広間の中で妹は美しく微笑みました。
「節を通させて下さいませ。わたくしは、皇に嫁した、ダレムアスの女皇(めのきみ)なのですよ。人の子たる皇陛下の命数に、殉じます」
「マーイアラフ!」
「仙女皇セイラ。あなたがたを悲しませた娘(セイ ウィラ ノリ ウィラ ウァマ)、ですわ。お許し下さいませ、皆を嘆かせたわたくしの、これが最後の我がままですわ」
エルフエリは力を失い、扉に背をもたせました。
「そうか……」
「わたくしは、短き生を自ら選び取ったのですから。それが予定より早まってしまったとは言え」
「そなたはこの日の来る事を予覚していたのだな。未来(さき)を視る瞳の陛下」
若々しい女皇は答えず、兄もそれ以上言葉を継ぎませんでした。炎が静かに城中を飲みつくそうとしていました。明るい広間の内ではオレンジの炎が。崩折れるエルフエリの囲りでは暗く昏い赤い焔が。
「お兄さま? 御逃げ下さいませ」
「……小さかった私のマーイアー。酷い事を言うな」
「皇女と皇子達は逃げのびました。子供達をお願い申します」