改訂事項リストアップ

◎「赤い月と黒の山」風にさりげない巧みな書き出しを考えること。

◎真里砂を、もっと真里砂らしく描く事。

 12歳

 
 序章

「ねえ」
森の中の道なき道を四苦八苦わけ進みながら鋭が言い出した。
「転入して来て以来、君らとはずっとわけのわからない事にでも付き合っているけどさ、事がここまで来た以上……自分が何のためにこんな真似やってるかくらい教えてよ。」
ん? と言う風に雄輝が軽く振り向いたのが、暗闇の中でもなぜか鋭にははっきりわかった。
雄輝は先に立ってガサゴソ木々の下枝を押しのけながら、しばらく何かに考えを巡らしているようだった。
「う……ん、そうだな。もう話してもいい頃だ。
  真里砂の髪が緑色だって事は知ってるんだな?」
……「うん。転入して一月たった頃に本人から聞いた。」
 やっぱりあれに関係する事だったのか、と鋭はうなづいた。
「その他の……たとえば奴が養女だって事なんかは?」
「いや……知らない。本当?! うそだろ?」
……「よし、それじゃ俺の知ってる限りの事は全部話してやるよ。」
 雄輝は話し始めた。
 
       ×       ×       ×
 
「今を去る事 丁度6年前、有澄の小母さまは結婚後4年も待ってた赤ん坊赤ちゃんを、“母体に危険”て事で中絶しなけりゃならなかったんだ。
で、それだけなら良かったんだが、その後  婦人病の一種だと思う  にかかっちまって、子宮摘出術を受けたんだな。つまり、今後子供が産まれる望みは全くない。
小母さまは知っての通り無類の子供好きだろ? 自分のせいで育ちかけてた子供を殺したっ、て罪の意識とあいまって、ノイローゼ通り越して半発狂状態になっちまったんだ。
 そんな時、療養に来たのが、ほら、この朝日ヶ森の別荘だ。
小父さまは大事な忙しい時期に仕事休んで半年間も付き添ってたんだぜ。
で、ある日、10月の9日ン事だな。夕方から予報にはまったくなかった大暴風雨大雷雨が始まったんだそうだ。ま、季節柄それ程不思議な事もないと思うが……。
その頃俺は丁度親父たちにくっついてヨーロッパ行ってたからその嵐の事はよく知らないんだが、ちょっと異常と言える程ものすごかったって言うな。
とにかく突発的極地的異常気象的大嵐は、丸一晩暴れまくると、次の朝にはあっさり虹まで置いて引きあげていっちまった。
 問題は、その嵐のおさまる少し前、10日未明の3時半。寝つかれずに一晩夜明かししていた小母さまとそれに付き添ってた小父さまとが、稲光の中で川からはい上がろうとしている女の子を見つけたんだ。
推定年齢6歳。見なれない奇妙な服を着て、髪の色は緑だった……。」
「それがマーシャだね?」
「……まあ聞けよ。その子供は小母さまに助け起こされるなり気を失ったそうだ。全身傷だらけで高熱をだして、三日三晩昏睡状態が続いた後、目を覚まして、ああよかった、さあ身元を聞きましょう……と思ったら、その子は日本語を話せなかった!、いや、日本語どころか、現存する地球上の言葉はどれも解らなかったんだな。
いいか? 言語学博士号を持ってる小母さまがそう判断したんだぞ。
 さあ、緑色の髪の上に言葉が通じないと来ては、うっかり警察に届け出るわけにもいかない。
おまけにその子の世話を焼き始めた途端に、小母さまの精神状態がすっかり復調しちまったんだ。
小父さまとしちゃ、小母さまの情が移り過ぎた時の事を心配しながらも、どうすることもできやしないだろ?
で、人目がない森のど真中で暮らしているのを好都合と思ってうことにして、とにかくその子から事情を聞きだせるようになるまでは、手元に置いて世間には隠しとくことになったんだ。
 もちろんこれがマーシャなんだが、奴は知っての通り、こと語学に関しちゃ人間離れした勘の良さを持ってる。一ヶ月でだいたい正確ななんとか日本語をマスターものにしちまった。
……まあ小母さまの教えかたが良かったせいもあるとは思うが……。
で、一ヶ月して改めて素性を尋ねたら、何て言ったと思う。けろっとして、“記憶がない”、って言ったっていうんだ。そこのいきさつはよく知らないんだがな……。


         (若宮)   .

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