(大学ノートにシャーペン横書き)
P1.

 
 昔、はるかなるダレムアスの大地に幸せの花が咲き乱れていた頃、王の中の王の都、ルア・マルラインが美しく栄えていた頃、国中の祝福の中で、王の第2子、王女マーライシャが生まれました。
 王女は、母君の美わしきエルフェリヌ(エルフ乙女)、水面月のフェイリーシャ様に似て、透けるような白い肌と美しい声を、そして、王家の誇りたる豊かな黒髪と星の光る夜の空の色の瞳をしていました。
 ただ、その髪の色は普通の黒ではありませんでした。
母君の深緑色の髪のせいか、陽の光のもとでは濃い緑色に見えるのです。殊に王女が笑っている時には緑の色が強くなるようで、兄君と一緒に遊んでいる時などには、夏の山のような緑色の炎が王女のまわりでゆれました。
 
 ある年のこと、ダレムアス全体に、わけもなく不安な空気が広がりました。
草も、木も、太陽の色も、どことは言えず、なにかがおかしいのです。
賢者や魔法使いなど、ダレムアスに住む力有る者たちはこれを神々からの警告であると判断しました。
 即座に賢者会議が開かれ、魔法使いや賢者は言うまでもなく、天翔けるエルフェリ族や、異世界から来たエルシャマーリャ(天上人)、名高い王侯騎士たちなど、ダレムアス世界の主だった力有る者が続々と王都ルア・マルラインの城中に集まってきました。
 彼らは城の奥深くにこもり、異変を告げる数々の兆候を、ありとあらゆる角度から調べ上げ、検討し、数週間に渡る会議のあげくに、遂に一つの恐ろしい結論にたどりつきました。
「 おのおのがたにけしてこのことを他言なさらぬようお願い申す。」
賢者団の議長、予見者グラウドは老いと数週間の心痛のあまりにふるえる声で、しかし厳しく一同に言いわたしました。
 
 そして更に数週間、語るべきことは全て語りつくして、会議の出席者たちは旅出って行きました。
ある者は故郷へ、またある者は長い放浪の旅路へ、不安げな顔もあり、悲痛な面持ちもあり、ただ、皆一様に厳しい決意の色を表して、来るべき嵐を向え打つために、長い孤独な戦いに踏み出しました。
 
 
P2.
 
 けれど、最も苛酷な運命を負うことになったのは、まだやっと馬に乗り始めたばかりの幼ない王女でした。
王女は、万ヶ一王城が陥ちた時の事を考えて、王家の血統を絶やさぬため、また来たるべき日のための隠し刀として、今は絶えて行き来のない、かつての姉弟世界、異世界ティカースへ移されることになったのです。
 ある月の晩、うばとたった二人の騎士と共に、王女は異世界へ抜ける魔法の通路(みち)を歩いて行きました。
丸い大地の国(ティカース)へ。
 王女も、また、他のだれもが、かの恐るべきボルドムの魔手がすでにティカースへさえ伸びていることを知りませんでした。
 そして、それがこの物語の始まりだったのです。
 
(☆8歳ぐらい?の略武装の剣と宝冠を身に付けて暗い不安げな表情の
 王女マーライシャのシャーペン描きのイラストあり)

 
 

 
     1.嵐の晩に
 
 「ひどい嵐になったわね」と、有澄夫人。
窓ガラスに両手をあてて、雄輝は外の暗がりをながめていました。
「うん。まるで川の中にいるみたいだよ、おばさん」
外の景色があまりものすごいもので、この嵐のせいで小学校最初の運動会が流れてしまったことなど、すっかり忘れてしまった様子です。
 ピカッと光った雷に「キャ  !!」とすっとんきょうな声。
これは雄輝の母、翼夫人です。間髪を入れずに
 グァラ グァラ グァラ ドッシーン!!
「うわあ、今のはどこかに落ちたぞ」
森の中の一軒家は気楽なものです。
「カーテンをひいて下さらない、冴子さん。わたし雷って苦手で。」
「なァんでさ、お母さん。こんなにおもしろいのに」
 こんなやりとりをしり目に、翼氏と有澄氏は優雅にチェスに興じています。
旧式の大きな暖炉に、照り返しでチカチカ光る石炭をたすと、ゴォッとかすかな音をたてて燃え上がりました。
 
 時計が9時を打った時、
  

(未完)
               .

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