『 序章 一、 』 (@たぶん中学1年の?)
2007年6月16日 連載(2周目・最終戦争伝説)序章 一、
深夜、満月の晩。
人間言う所の妖精の輪(フェアリー・リング)に繰り広げられる饗宴の、お祭り騒ぎの中央ややはずれ、一つの大きな車座の一環に、真里砂(マーシャ)は歌い、手を打ち、笑いさんざめきながら座っていました。
なにも世間一般には普通の人間で通っているところの連中が彼女の他に混じっていないわけではなく、それどころか同じ朝日ヶ森学園の仲間たちなど一人二人に限らず、(全地球的に見れば)かなりの高率でまぎれ混んているに違いないと彼女は踏んでいたのだが、それでもやはり誰かにその場を目撃されたとしたら、
「気が狂っておりました。」
以外思いつける言いわけはなかったでしょう。
けれど無論、彼女はそんな事を心配してはいなかったのです。
なぜか磁石(コンパス)の利かない人跡稀な大森林。
とりわけ険しい山崖に囲まれて、自然の力で十重にも二十重にも注意深く隠されているからこその集会場です。
仲間、友人、もしくは味方でも客でもない人間に発見される可能性は万に一つもありませんでした。
あかあかと篝り火は燃えさかり、虹の火花の尾を引いて、極彩色の虎が天空高く駆け上りました。
それを追うかのように別の一角から極楽鳥が舞い上ります。
魔法の大家たちが、余興にとその技を一部披露し始めたのです。
青い帽子に銀のスカーフを身につけた、かの老魔法使いの姿も見られるようでした。
夜空が彩られる度に、気のいい野次と、嘆息と、掛け値なしの喝采が上がります。
森の彼方の小さな街(まち)に、もしまだ起きている人間がいたとしたら、雲一つない星だらけの空の、小さな雷ほどにも見えるのでしょうか。
だれかが舞い装束の真里砂を描きだして見せたので、返礼に彼女は、その術の主の頭上に銀の流星を十ほども降らせました。
その流星の最後の一つが地面に落ちて、青色のほっそりした草に姿を変えた丁度その時です。
真里砂の脳裏、心の奥深くに、誰かの救けを求める声が響きました。
その声を捕えた途端
いきなり目の前の空間に現われ出た人物に皆は騒然となりました。
年の頃十二・三の、真里砂と同年代。
一見して黄白混血とわかる顔だちと、日本人にしては明るい髪の色。
包帯がわりに巻かけた血に染まったシャツの切れ端が痛々しい大腿。
飢え渇き疲弊した青く冷えきった体
誰?
誰だ。
この少年は誰!?
すぐさま、その場を取りしきる立場にある、不思議の長老たちが中央に歩み出て来て声高に呼ばわりました。
「静かに。皆静かにしてくれ! この者をここに呼び寄せたのはだれ。この少年は何者?」
「私です。」
真里砂は立って素直に前へ出てゆきました。
「突然の非礼おわび申し上げます。救けを求める声が聞こえたので咄嗟に呼び寄せてしまいました。いったい誰なのかは存じません。
彼女は振り返って呼ばわりました。
「すみません。この人が危険と感じているものが何なのか、教えてもらえませんか。
フィフィシス。
フィと呼ばれたその女性は、足もとまでも長く流れる緑の髪をひいて盲いた瞳で横たわっている少年のそばへ歩り寄り、ひざまづいて、すっ、とさしのばした両手の平を、ぴたりと彼の額に押し当てました。
「……(キ・ケ・ン……)」
少年の頭から読みとれる、きれぎれの思考の断片が、低い少女の声で語られました。
「(見ツカリタクナイ)……(見ツカレバ、記憶ノ消去)……(洗脳・科学者養成せんたあ)
フィは立ち上がると、出て来た時と同じように静かに人の輪の外へ戻ってゆきました。
事情の飲み込めた者(主として混じっている人間たちですが)たちの間に低いざわめきが起り、長老たちが再び真里砂の方へ向き直りました。
(……で? どうするつもりですか?)
真里砂は考える時の癖で少し右の眉をつり上げていましたが、すぐに
「……呼び寄せた以上、わたしには責任がありますし……それにどうやら、どのみちわたしの仕事のようですから。」
それだけ言うと一礼して、少年の体を負い上げて歩き出します。
有難い事に少年の体は思ったより重くなく、真里砂は楽に歩く事ができました。
はるかに年上の友人たちと別れの挨拶を交わし、草地を横切って岩まで来る頃には、背後では再び歌と踊りが始まったようです。
ひとまず少年の傷の手当てができる泉の所まで歩くつもりで、12歳の美少女は慣れた足つきで真暗な地下道の中へ降りてゆきました。
(☆「人間言う所の妖精の輪」と、「魔法の大家たち」だの「青い帽子に銀のスカーフを身につけた、かの老魔法使い」(^^;)”……たぶんこのフレーズが出て来るということは、甲斐悠紀子の『フェネラ』を読んだ直後で、英文直訳体である「〜ところの」を習ったばかり、くわえて既に『指輪物語』の影響下にもある……、中学1年後半(二学期以降)時点の原稿です……☆ A^-^;)” )