『 (無題) 』 (@たぶん中学2年。)
2007年6月21日 連載(2周目・最終戦争伝説)鋭(えい)のトランクを持ったまま、真里砂(まりさ)は一息に階段を飛び降りた。
「大体の所はママから聞いたわ。
真っ黒なストレートヘアがぱさりと顔にかかるのをうるさそうにふりはらって彼女は振り向いた。瞳がわずかに緑がかって見えるのは気のせいなのかな。
無用心に朝日の中へ出てしまった鋭は目がくらんで一番下の段を踏みはずした。
「うわっ!!」
悪気でなしに真里砂は笑った。
「ほうら、ね。やっぱりトランクはわたしが持っていてよかったでしょう。鋭! あなた疲れているのね。緑衣隊(りょくいたい)の追跡をまいて来たんじゃ無理ないけれど。」
彼女はまだ彼がどんな目つきで自分を見ているのか気づいていなかった。気づいていたとしても信じなかったろう。
彼女のまわりにそんな物の考え方をする人はいなかったから。
屈託なく手をさしだした真里砂に対して、鋭はできるだけひややかな薄ら笑いを浮かべて見せた。
「結構。女の子なんかの手を借りなくても起きられるさ。」
「え!?なあに、鋭。」
真里砂は一瞬彼のいんぎん無礼さに鼻白んだ。
鋭は言葉通り一人で立ちあがると服のほこりをはたきながら言をついだ。
「……それから呼び捨てにするのはよしてほしいな。なれてない。」
「あらっごめんなさい。気にさわって?わたしたちはいつも名前かあだ名で呼びあっているものだから……じゃ、清峰(きよみね)君ね。これでよくて?」
鋭は返事をしなかった。
冷静なふりはしていても彼も内心かなり面くらっていたのだ。
彼は落ちつくためにざっとこの一風変わった女の子の観察記録をまとめてみた。
○髪、黒。眼、黒。身長−やや小柄−20cmくらい。やせ型。はだの色、かなり白い。ぼくと同じ混血(ハーフ)か?
○運動神経かなり良し、おてんばというべきか。頭も良さそうである。
○性格的にかなり風変りである。ぼくと同学年であるなら11〜12歳。ああもずうずうしく堂々と男子の手をつかもうとする女子は見たことがない。
○典型的なおじょうさん育ちらしい。
以上。
真里砂は真里砂で、鋭が不気嫌なのは一ヶ月近かった逃避行で神経がとがっているせいなのだろうと勝手に納得していました。
奇跡的にここへたどりつくまでにはそれこそ命がけだったのでしょうから。
この次点でかなり重大な誤りを犯してしまったことに二人は気づきませんでした。
「じゃ、清峰君。先に寄宿舎へ行ってこの荷物を置いてきましょうよ。その後(あと)で構内を案内してあげる。……どうしたの?今日は土曜日だから一般授業はお休みなのよ。」
鋭は彼女と並んで歩き始めた時から苦虫をかみつぶしたような顔をしていましたが、彼女が一日自分につきあうつもりだと聞かされた時には苦虫どころかワサビとカラシとコショウとタバスコを一時(いちどき)に飲まされたような顔になりました。
「ご免こうむりたいね、おじょーさま!」
「え!?何か言った?」
「……別に。」
早朝であたりに人影のないのが鋭にとっては不幸中の幸(さいわい)でした。
女と並んで歩いてるなんて!
転校初日からひやかされるはめになるとはなんたる不運だ! こいつよく平然としてるな。どっかおかしいんじゃないか
「あらいけない。まだ7時前なのね。」
鋭の心配など気にもかけないようすで真里砂がつぶやきました。
のぞきこんだ腕時計の下、白い手首に薄く静脈が浮いています。
「ここでは朝7時から夜の十時までしか異性の寮には入れないの。」
「へえっ。普通は女人・男子禁制だろうに。」
言ってしまってから鋭はあわてて口をつぐんだ。
(未完)
(Okinaの20x20原稿用紙、シャーペンで縦書き)