まえの村でさちうすい孤児たちのために有り金ほとんど投げだした。その結果がこれである。
 「財華(ザイカ)の入市税はひとり七銅貨(ソル)。三年前にはそうだったはずだが」
 憮然としてうでをくむ男は長旅に汚れた姿に長剣をはき、荷駄の一頭もつれてはおらぬ。
 市門をまもる兵たちは軽侮もあらわに槍杖(そうじょう)を交差させ、
 「あいにくと昨秋の祭りから、ひとり三銀貨(ラソル)になってな」
 「暴利だ。ここは自由な商いが謳(うた)いの都邑だろう」
 「さればこそ、食いつめ者など市(いち)には無用との、大公様のおおせよ」
 治安が乱れるだけで役にもたたぬ穀潰し、とはまた紋章をカサにきて、放言したものだ。

 富裕な都に雇われるだけあって腕も確かであろう衛兵の一小隊は片手で黙らせて押し通るというわけにも行かぬ。
 もとより無用な騒ぎを起こすのは本意ではないのだ。そうこうするうちにも検門の順番を待ってうしろに行列ができはじめるし。
 「〜〜っ。やつの言いそうなこったぜっ、あの×××の××××!」
 肉体的欠陥をあげつらうのがけして上品とはいえないのは万国共通なのだが。
 為政者と知己でもあるような不遜な悪態をつく血の気の多い男は、兵どもの反応なぞどこ吹く風で、ほこりまみれの陽に灼けた顔を背後のつれにふりむけた。
 「どうする? マラーサ」
 問われたのは女である。揶揄する口調で、
 「ウード、わざわざ喧嘩を売りに来たのか?」

 

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