(p.5)
 「ん。ちょいとね。衣装とか小道具がもっと資料欲しいって言うんで、地球(うち)まで取りに戻ってた。」
 「実家(うち)って……極東平野出身だっけサキは? え、資料って  
 「母の遺した書庫にね、あの時代の古書がごっそりある。」
 「ウソだろだって、俺いま図書館行ってた帰りなんだけど、前アーマゲドン期の伝説に関しちゃそもそも出版点数自体が極端に少ないって」
 「司書コンピューターが言ってた、だろ?」
 「そーそー。いったい作者(まやと)がどうやって脚本を書いたのか今不思議に思ってたとこ。……あれ、どうして……」
 ニッ、とずるがしこっぽくサキが微笑んだ。
 「誰が…

(p.9)
…球的レベルの文化遺産じゃない、かなり個人的な資料が紙に書かれた形のまま大量に保存されてあったってところなんだ。」
 「カミに。へー、そりゃ貴重……」
 「だろ。で、そこの所有権とか版権とかは全部わたしにあるんだよね。管理と研究は一応考古学会に全面委嘱してあって、今、リスタルラーナ科技庁の協力で、研究者用の分子レベルまでの完全コピー、限定制作しているんだけれど  これがで手にはいる。」
 コホム。効果をねらってサキは一息ついた。
 「早い話が資料、翻訳して真谷人のところに持ちこんだの、わたしなんだ。磯原清の日記帳とか、アルバトーレの予言の書の写しとか  まあいろいろあってね。」
 「ぐわっ」
 “清”はうなった。
 「冗談だろ!? まさか、じゃ、あれ全部  ……」
 「実話だよ?」

(p.10/ver.1)
 微笑んだその横顔が光に透ける。
 「地球人は  、わたしらはもっと自信を持っていい。リスタルラーナには5000年の昔からの整理された記録があるからって、みんなついコンプレックスを抱きがちだけれど……地球にだって1000年の『大空白時代』をさらに逆のぼれば、神代の伝説として伝えられた最終戦争前の、6000年以上の有史時代があるんだからね」
 「6000! う〜〜、概念の外だな。神々が世界を創りたもうたのが一千の時の彼方だってェのに俺ンとこの信仰じゃ」
 「あは、何所もそうだよ、地球はね。だからこそいいんじゃない? 若い世界でさ。」
 「10もの世紀をつかまえて若いなんぞと言わんでくれ!」
 悲鳴をあげる“清”をサキはケラケラと笑いとばして。
 「甘い。知りあいでリスタルラーノ考古学かじってる奴がいるけどね。なんと研究の対…

(p.10/ver.2)
 からからっと笑ってのけてサキは平然と言う。
 「う〜〜。ンなわやくちゃなっ」
 伝説はあくまでも架空のものであって欲しい  んだよね、“清”みたいな現実主義者(リアリスト)にとっては。
 「大体あの話、フィクション臭い挿話(エピソード)の方がよっぽど多いじゃないか! 磯原清が実は超能力者(まほうつかい)だった、とか精霊の意志がどうとか、リスタルラーノには理解できないだろう古い概念(ものがたり)ばっかし」
 「ESPと言って欲しい……。すいませんねェ、現実に穴をあけちゃって。」
 「まさかサキは信じてるわけ。その  
 「いわゆる超常現象ってものが実在するってことを知ってるよ
 余裕  というか、かすかな自信とも呼べるものをサキはきらめかせて微笑み。
 それからくしゃくしゃっと前…
 

(p.10上欄(枠外)のMemo)

「連盟文化吸収の弊害だなァ。つい20年前までは地球人は代々のその伝え語りが現実を示しているってことを知っていた筈なのに。なにも『先進(リスタルラーナノ)』文明に染まって自分の“現実”の範ちゅう(境界)をせばめてしまう必要はないんじゃないの?」

 
 
               .
 エスパッション通信。
                        翻訳・(本名)

  その1.我が悪友どものこと。
 
 こんにちわ。
 (夜読んでる人、イチャモンつけるのはやめましょうね)皆様のだしゃべり作家、通称ティリーさん、ことティリス・ヴェザリオでございます。
 いやあ。お陰様で。
 人気投票で賞なんか貰っちゃったおかげで晴れて編集部づとめを引退、今度っからは毎号連載だもんね、毎号連載。いつもいつも、一定のスペースが空いていて、好きなことが書かせてもらえる。
 うわあ。まるで本当に作家になっちゃったみたい。
 (編集部註:この人、まだ自覚がないんですかね)
 もっともこんなミニコミ同然誌3流雑文書の端くれに混ぜて貰っただけじゃ自慢にもなりやしないけど。
 (後日談:編集長がイジケました)
 ともあれ  ですねェ、ともあれ。
 自分が〆切り……なんという響きだ!……に負われる身でありながら他の人の〆切り追いかける、ってのも変な話だろうし。で、やめたんですよね、あたし。“ギャウザー”の編集部。
 もともとが安月給でしょう。科学庁統計局時代の貯金なんてのも既に使い果たしちゃってから久しかったし、退職金でまたマイクロ・カセット棚(ほんだな)増やしてしまった。それでいて、今のところまだ、確実に定期の仕事っちゃこれ1本。うーむ、我ながら無謀だなァとは、思う……
 それで今、生活費をせめて浮かす為、某所にころがりこんでいます。
 
 某所。  《エスパッション号》、という。リスタルラーナ星間連盟内でも屈指の女性科学者・某S女史(ぜんぜん名前を伏せた事になっとらんなー、ハハ☆)の、私設研究所兼長距離航行(ワープ)船。所在と研究内容はナイショね。なんでこんな所にころがり込んだかというと、伝手(コネ)があった。
 自慢じゃないけどと云いつつ何度でも書いてるけれど、実はあたし、天下のスリーナエロスの卒業生でして。(えらいだろー)
そこでひと頃同級生やってたサキって子が、地球人(テラズ)の第1期留学生だったんだけど、その後某S女史に委託教育生(でしいり)して、今、助手兼護衛兼居候  みたいな事をやっている。そこへ頼りついたわけです。
 以前にも何度か遊びに行った事はあったんだけど、割にいー加減なフネでねー、これが。
 研究所区と私邸区とに分かれてて、研究所区の方はもうばっちし、研究用設備と所員用の個室しかない。問題は私邸区でね、素性の知れないのがウロウロいんの。皆んな、一応、S女史の研究目的の理解者でね、出来る事があれば手伝ったりはしてるらしいんだけど  生活費が浮くから、って理由でズブとく居座ってるの、あたしだけ、では談じてないと思う。言い訳だけど。
 この、得体の知れない集団、あたしも含め勝手に寝泊まりしてはまたふらりと出ていく連中を、《エスパッション》では“エスパッション・サークリスト”とか“サークラー”、あるいは単に“お仲間”と呼んでいる。
 “エスパッション”
 この言葉の意味の説明は、とりあえず、はぶくね。
 それで、ですよ。ここ、この《エスパッション》に集まってる人間て、み〜んなユニークな変り者で、スゴイ奴ばっかりなのよね〜〜。某S女史を初めとする諸氏の了解も取りつけた事だし、あたし、これから当分の間、“ギヤウザー”のこのスペースをこの船、と乗り込んでる人間達、に関するレポートで埋めて行きたいと思いますわん♪
 なまじっかなフィクションなんぞより余っ程面白くなることうけあいなので、乞う御期待!!……
 
 さて、今号“ギャウザー”この欄は、あたしの近況報告とこれからの予告を書いておけ  との、編集部サマからの御命令でござえますので……
とりあえず当《エスパッション》シリーズの主要メンバー紹介なんぞに、行っちゃいたいかと。何故か意図もなくこの船は女性上位ですが。
 某S女史:言わずと知れた有名人。研究所長であり全ての運営・出資の責任者でもあるのだけれど、他の仕事あまりにも多忙を極め、不在がち。
 ミズ・クラレン:その個人秘書(パーソナル・セクレタリ)。《エスパッション》関連の全ての実務と、ひと時とじっとしていたためしのない“サークリスト”相互の連絡係を一手に引きうける。血キュ連邦(テラズ)系グリムストン星出身の有能な女性。
 サキ:前述のあたしの元同級生。事実上の《エスパッション》私邸区域中心人物。何か騒ぎがある時には必ずこのコが1枚噛んでいる☆という、やっかいかつ観察対象としては最っ高に興味深い人間。連邦系首都惑星(テラ)出身、現代史に詳しい人ならすぐに彼女の本名を見つけ出せるかも知れない。当年とって20歳。
 レイ:彼女の正体はあらかじめバラしておいてしまおう。
 
 
             (未完)
 
 
 
 ティリーさんは今メゲテいます。とっても落ち込んでいます。直截に言うと、ひどく深刻に悩んでいるのです。
 ティリーさんの友人たちは、いつも大抵おしゃべりなので、何かしらお互いの間で問題が起こった時にでも、相方言いたいだけ自分の言い分を話してしまうと、あらかたのゴタゴタは解決してしまうのです。
だけど、今度はちょっと勝手が違いました。
 ティリーさんのお友だちのサキが相談を持ち込んで来たのは二日前でした。(つまりティリーさんはそれからずっと悩んでいるわけです。)サキは友だちの一人を自分の友人たちのグループの仲間に入れようと思って遠くの町から連れて来たのですが、サキがどうしても抜けられない用事で一週間程留守にしている間に、どういうわけかその人は  女の人です  何かにひどく腹を立てて、飛び出して行ってしまったのです。
 帰って来たサキは慌てました。連絡しても、その人は元居た所へは戻っていないと言うのです。サキは、その人がもう十分自分の仲間たちに慣れていると思っていたと言いました。その人が何に傷ついて飛び出して行ったのか、解らないと  ……。
 サキがあんなに饒舌に人に愚痴をこぼして行くなんて、あれはいつも自分一人で悩み事を解消しようとしている彼女にしてみれば、泣くのと同じ事なのです。それなのにティリーさんは、彼女の為に何もして上げる事ができないのです。飛び出して行ったその人に理由を聞きに行ってあげようにも、行方が知れないのですから……。
 それでティリーさんは自分の無力さが哀しくて、腹立たしくて、人間がどうしてこんなにも  口に出して言わなければどんなささいな想いも伝わらない程に、そして精一杯想いを込めて語ってさえ、しばしば相手に真っ直ぐには伝わらないほど  悲しくできているのかが解らなくて、やはりどうしても落ち込んでしまうのでした。
 
 
                .
 
 
 
 『ねえ、ティリーさん、おかしな話かな』
 たくさんの、どうでもいいエアメールの束と共に届けられて来た彼女のぶ厚い日記帳には、まずのっけからこんな風に唐突な調子で、いかにも彼女らしく少し行儀の悪い大きく整った字  それでいてどこかに繊細な感情をうかがわせる  でびっしり埋められていた。
 
    四月三日  (第4月23日)
 ねえ、ティリーさん、おかしな話かな。  なんて、あはは、我ながら凄じい書き出し方だとは、思う。しかし、しかしですよティリー女史、約束したのに書き始めが一月も遅れてしまった事への言い訳ってわけでもないけど、元来筆不精で有名なこのわたしに向って、「毎日、日記をつけて来い」って  それはないでしょうが! おまけに結局のところ船旅なんて……何と言ってもこの宇宙船(ふね)、少々快適に過ぎちゃってね、毎日毎日短調でとても日記つけようなんて気分にはなれなかった。
 さて、我らが居住船《スターダスト・エスパッション》は当所の予定通り、現在第一の目的地点である辺境惑星イムニダ目指し、眠くなる程の快適さの中で平穏無事に航行中。万事異常なし。この状態はあとたっぷり二ヶ月は続く予定でありまして、唯一最大の被害は乗り組み員全員の体重が増え始めて来てしまった……と言うくらいのもの。起きて、食べて、読書か調べ物してまた食事。雑談してるとなんとなくお茶の時間になって、そのまま引き続いて夕食。さすがに皆さん食後には何かしら運動してるんだけどね。連日連日その繰り返し。
 で、その調子でだらだらごくのんびり一ヶ月を過した挙げ句にどうして今日になってこの日記帳の事を思い出したかと言うと  それは最初の書き出しに戻って説明しないとならない。つまり、夢を見たのです。
 夢の中でね、わたしは母さんに会った。というよりはそこは夢の夢たる由縁で、わたし、母さんだった。
母さんの目を通して小さかった頃のわたしと姉さんの姿が見えたり、わたし自身が母さんに話しかけている光景を母さんの目とわたしの目とそれから第三者の  おそらくは姉さんの  眼から同時に見ていたり。まあそんな事はどうでもいいんだけれど、中でワンカットだけ、まるで切り抜いてポートレートにでもしたような母さんの立ち姿が出て来た。
他のは全て『オールカラー総立体画像!!』ってところだったのに、その時の母さんだけは無彩色で、白と黒だけの画面  なんて言い方、おかしいか  ……が、「灰色の貴婦人」と異名を取る程だった母さんの、短かい生涯を象徴していたようで、起きてからも目に焼き付いて離れなかった。
 それで、本当におかしな話なんだけどね、ティリーさん、夢の中で小さかった  本当に幼なかった頃のわたしの瞳は、初めて会った頃のお宅と同じで、混じりっ気なしにキラキラ輝やいていた。それなのに、白と黒の世界の中でじっと立ちつくして彼方を  どこかこの世の果てのような厳しく、淋しくてしようがない土地を  見つめている母さんの眼は、今現在のわたしと同じ表情なんだ。
おかしな話だよね、一体どうしたら一人の人間の心があんなにも変わってしまえるんだろう。“あんな”という言い方は、自分自身の上に起った事なんだから妙に聞こえるだろうけれど、実際わたし自身が宇宙のこっち側に立って傍観しているうちに全てが  他でもないやはりわたし自身の  変わってしまった。そんな感じなんだ。
 
    四月五日  第4月26日
 ご免、ティリーさん。昨夜、一昨夜と続けて日記をつけるのを忘れ、そしてやはり、二た晩続けてあの夢を見た。
生活の単調さはあい変わらず。退屈って程でもないが、そろそろ、飽きて来たなあ……
 なんて、ティリーさん、我が精神衛生上の主治医殿。しらばっくれても無駄だろうと思うから素直に白状致しますですがね、約束したにも関ず、わあしが丸一ヶ月と二日もの間これを書くのをサボったのは、いくらなんでも『うっかり』忘れていたからじゃあ、ない。実は  半ばわざと書かないでいたんだ。
とは言えまたぞろ落ち込んでいた訳でも、早くもホームシックにかかっている訳でもないんだから気をまわ過ぎないでよね。
理由の一つは、確かに、毎日が単調で特筆すべき事が何も無かったからという事もある。
だけど、それよりもわたしは考えていたんだ。あなたがわたしに日記をつけろなんて言うからには、どーせまた小説のネタ話の材料にする気な訳でしょう?……って、事は。
毎日食後のディスカッションでどんな事を話しているかなんていうのは共同でとっている議事録見ればいいだろうし、日常的なこまごましい事はケイかエリーの日記の方が余程細かく書いてある。航行記録的な事とか我々全体の中での感情的動静の観察についてなら、レイのあの驚畏的記憶力に頼れば良い。(つけ足りながら、どういう風の吹きまわしか彼女も日記を付け始めた由(よし)。)
つまりわたしが  文章なんぞ書かせたらどの程度のものかって事はよく知っているでしょう  インクの無駄使いをした所で何の意義があるとも思えない訳。で、あなたの期待したものがわたしの心理状態についての報告書だったとするならば、ちょっとわけありで、わたしはこの三ヶ月間  少くとも《イムニダ》へ近づくまでは、一切の考え事悩み事を頭ン中から締め出しておくつもりだしね。
 それで、実は、え〜、早い話が  ちっとも早くないけど  何を言いたかったかと言うとでありますね、この期間を利…
 
             (未完★)(^^;)
 
◎ アリサ・ラン=エフレモヴナ、は、
  サユリ・ラン=エフレモヴナの一人娘。
  したがって、サキの活動年数はもう少し短くいたしませう。
 
「あたしはどうしてもサキが好きになれないのよ。読んでいるとなんだか自分の欠点を見せつけられてるみたいな気がして。」
「ヘエ! そう!? 実を言うとわたしはレイが気にくわない。やっぱりあなたと同じ理由(わけ)でね。」……ふむ。でもいくら作中人物扱いとはいえ、自分の叔母さんの悪口を言われるってのはいい気持ではないねェ。」
「叔母!? だれが!?」
「……あれ〜〜っ! 知らなかったの? わりと有名なんだけどなァ。……あのね、あなた。わたしはサキ・ランの姪っ子なの。」
「え……。ってことは、サユリ・ランの娘?!」
「Yes.ちなみにわたくしめの本名はアリサ・ラン=エフレモヴナと申しま〜す。」
「……! 知らなかった………………。」
「やれやれ、その調子だとユリスの事も知らんのでしょうね。
 ちょっとおいで。」
「……ちょ……ちょっと! どこへ行くの? そっちは生徒の立入り禁止よ。ユリスてだれ?!」
「普通の生徒ならね。わたしは特権階級なの。従姉の所へ行くのに許可なぞいるか」
「従姉!? だってサユリ・ランは二人姉妹で…… ああ、お父さんの方ね?」
「いーや、ユリスは母方。」
「……え  っ!? それじゃ…… サキに子供いたの?!」
 
 
 
               . 

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