サキは追い詰められている。歩いている。本当は走りだしたいのだが、それもできずに、歩いている。
右を見る。
左を見る。
雑踏。人混み。騒がしくさんざめきながら通り過ぎて行く人々の群れ。初夏の太陽。風。
汗。汗。じっとりと冷たい汗が全身を覆う。
サキは耐え切れず、わけもわからない言葉を。喚き、叫び始めた。
頭をかかえこむ
驚き。好奇。そして疑問に満ちた眼が。
サキは恐怖に駆られて走り始める。恐慌状態
長い灰色の髪に、灰色の眼。寄宿舎を抜け出して来たままの、ぞろっとしたネイビーブルーの制服姿。
名門私立校の記章のついたベレー帽を、つかんでいる。無意識につかんでいる。
いつの間にか川べりについていた。人影がまばらになる。サキは歩調を落とす。
木陰にベンチ。サキは腰を降ろす。
自分がESPERである事は、十二の年に知った。それから三年間、サキは仲間たちばかりの環境で暮らしていた。四年目に、彼女はそこから飛びだす事を願った。そうして今の学校に入ったのである。
善良な人々の間に居る事は耐えられなかった。何の迷いもなしに街を歩いて行く人々。外見だけに魅かれて、サキに慕い寄ってくる無邪気な下級生たち。それら、何の穢さも持ち合わせてはいない顔をした、他愛もない人間。
むしろ、サキは、自分のドロドロした穢らしさから逃れたくて、逃げまわっていたのだったかも知れない。
市民からの通報を受けたのだろう、素行不良な生徒を捕まえて処罰する為に、川上の方から教師と数人の警官たちが歩いて来ていた。
サキは再び恐怖心に駆られて、見つからないうちにと盲滅法に走り出す。
どすん。
「気ィつけろ!」
サキは
「
一瞬間。相手の方が速い。サキは二の腕を捕まれていた。
「
極度の緊張からか、それとも逆に気が緩んだものなのか、腕を抑えられたまま気を失って、サキはのけぞるように倒れてしまった。
(未完).