『 (P1〜P6!) 』 (@中学。)
2007年5月16日 連載(2周目・地球統一〜ESPA)P1
「おーいだれか、サキ知らないか?」
「知らないっスよ監督。」
「あら、さっき映話室の方へ行くのを見かけたけど?」
「またなんか事件なんじゃないのかい」
『監督』は大袈裟に詠嘆を演じてみせた。
「ああったくもー! 月に一度の撮影日ぐらいちゃんとスケジュールを開けとけないのかね!」
スタジオ中で笑った。みんな忙しい。多忙な中、無理に一日開けて、月に一度は必ず集まって来るのだ。
サキ他数人が特に忙しく、定期的に生活できない仕事にたずさわっているらしい事は、みんな承知していた。
にも関わらず、サキが女主人公(ヒロイン)役を引き受けたのは、全員の熱望と数人の策略
によるものだった。
だから彼女になにか不都合が生じて、その日の撮影が予定通りに進まなかったとしても、だれも怒る者はいなかったのだ。
そもそもこのアマチュア総合芸術集団『オリ・キャラズ』自体が、あっちこっちから集まってきたきさくな若い連中ばかりだったから。
(ああったくもー! 月に一度の撮影日ぐらいスケジュールを……)
建物からかけだそうというサキの頭に、ひょいと“監督”の思考
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……が飛びこんできて、サキの感情と重なった。
まったくだとサキも思う。本業副業アルバイトに学校と、一日百時間あってもたりなくなりそうな多重生活者サキは、平日の夜や午後の練習に顔を出せる機会も少ない。
せめて撮影日くらいは、
いや、正確には映話でなく、相手によってあらかじめスクリーンスイッチの切られた、密告電話である。
信憑性がまるで無いばかりか、なんらかのわなである危険性さえもないとは言い切れないのだが、今サキが追っている事件は泥沼で、それこそわらでもつかみたいのだ。
ことわらずに出て来たのは悪かったかとサキは一瞬ちゅうちょしたが、確認するだけですぐに戻ってくれば、午後までには戻って来られるだろうと考えて車に飛びこんだ。
密告電話というのはこうである。
『
ジンヴィーズ通りというのは、首都惑星リスタルラーナの商業区と緑地帯の中間部にある、レストラン等の多いちょっとした街の事だ。
無論このふざけた名前は隠語であるが、そこのとあるこじんまりとしたカフェテラスが、実は裏の世界と表との接点の一つであることは
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サキも先刻承知していた。
そこへ言われた通りに一時間でつく。
サキは幾人か顔見知りの情報屋たちの姿をおもいうかべてみたが、そこにいるのは一般の、何の関係も無さそうな人々ばかりである。
しばらくたたずんでいたが声をかけてくる者もない。
思念波を探ってみても、見つからぬ。
サキは拍子抜けして車に戻った。一体なんだっていうんだろう。
再びエンジンを始動させて緑地帯
スピード制限があるため徐行しながら、あっちこっちへ考えを巡らせていると、角を曲がった所で、不意に一人の子供が視界に飛び込んできた。
ようやっと歩き始めたばかりの頃なのだろう。小さいのが、たっぷり5mはある木のてっぺんでちょこなんと枝に腰かけている。
年のわりにはみごとにバランスを保っているのだが、いかんせん、枝の根かたが重みにたえかねて今にも
ドアを開けるのももどかしく、サキは車から飛び降りた。
そういう時、エア・カーは自動的に停止するようセットしてあるから問題はない。
サキは子供を一旦、一段下の枝にひっかけたが、すぐまたその
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枝も折れてしまった。
ざざざっ!
悲鳴もあげず、その子は垂直に落下してくる。
3m 2m 1m
ぎりぎりの所で、サキは子供を抱きとめた。
ショックをやわらげるため、そのまま地面にころがりこむ。
「う〜〜〜!」
サキはうなった。
もろに頭を木の根っこにたたきつけたのだ。
ドジさ加減だけは一生直らない。
子供は怯えた様子もなく、きょとんとして空を見上げている。
サキはなんだかおかしくなった。
「それにしても、まあ、いったいどうやって登ったのかいな」
5mである。
サキは頭をさすりながら上を見あげた。
本当なら距離から言っても念動力(サイコキネシス)で落下を食い止める方がよほど簡単なのである。
が、場所は人出の多い公園の中。だれにも見られずにすむ心配だけはまずなかったから、めだつことはなはだしいまねは避けねばならなqい。
サキは子供を抱いたまま、ようやっとの事で上半身を起した。
服が泥だらけ。とんだ災難だ。
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「あっ痛っ!!」
ついでに足までくじいたらしい。
「ペル、ペリル!」
若い父親らしい動てんした声がかけつけてくる。
サキは子供を抱えあげた。
「大丈夫!ほんのかすり傷ぐらいしか負っていませんよ」
ちょうど逆光になって、若い父親の顔はよく見えない。
彼は子供を受け取ろうと両腕を伸ばしたまま、サキに気づくなり、はたと動きをとめた。
「
「え?!」
まぶしくてしかたがないので、サキは木の幹に体をささえて用心しいしい立ちあがった。
手ぐらい貸してくれればいいのにと思う。
わたしを見て驚いているようだけど
左手を上げてちょっと光をさえぎるようにして、サキはそのよく光る切れ長な灰色の瞳で相手を見やった。
「あっ!」
それに気づいた時、なぜだかサキは不意に逃げだそうとした。
背後の木をよけるために不自然な方向へ体をひるがえし、
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ためにサキは今くじいたばかりの足をさらにねじってしまった。
「痛(つ)っ!!」
がくんと前のめりに倒れそうになった彼女の腕を、危うい所でセイが捕えた。
がっしりした力でサキをひき起こし、小刻みに息を荒くしている彼女を、小鳥でも扱うかのように包みこんだ。
「
サキは軽いショックで青ざめている。めまいがして過去にひきもどされそうだ。
セイもこの再会にとまどっているようだった。
「なぜ、逃げるんだ……?」
ジーイ ジーイ とセミによく似たリスタルラーナの昆虫が鳴いている。
木もれ日が、芝生にもサキの肩にもまだらを作り、ペリルと呼ばれた男の子は、親指をくわえたママ、きょとんとして二人を見あげていた。
一分たったか、十分たったか、かなりに思われる時間が過ぎて、サキはようやく平静をとりもどした。
「ごめん。もう大丈夫。」
なにが大丈夫なのか、サキはゆっくり振りかえった。
「久しぶりだね、セイ。」
(未完).