リゲルB
デネブA
「!
見えた! ソレル女史。あれがジーティ太陽系ですよ」
ワープ終了と同時の航法士の声に、まずまっ先にレイがパネルの下へすっ飛んで行った。
続いてサキが後を追う。
「……あれが、……ジーティ? ……」
レイの視線は喰い入るようだ。自分の国の首都惑星を照らしている太陽を始めて見るってのは、いったいどんな感じなんだろう。サキはそんな事を考えながら、恒星(ジーティ)とレイの顔を交互に見比べていた。
あ、あのB型恒星はまるでレイの髪と同じ色合いじゃないか。
してみるとレイの見事な青髪は、地球人の金髪みたいな感覚になるんだな……。
サキは全く無関係に、常々レイが自分の髪をあるごとに自慢しては大事に伸ばしていた理由を納得した。レイの髪はサラサラに長く伸びて、今はもう背中の半分ぐらいを見えなくしているのだ。
向うではソレル女史、エリー、ケイの三人が、安全ベルトを外したまま、リクライニング・シートに腰掛けて何か話し始めている。右から順ぐりに銀髪、金髪、つややかな栗色。
無意識に自分の、灰色がかった薄茶色い髪に手をやっている事に気がついて、サキは慌てて頭を振った。
この髪は昔からこんな色をしていたわけではない。全ては二年前、十二の年に変わってしまったのだ。そう…………。
けれど、それを思い出してはならない事を今ではサキも知っていた。あの事件を思い起こせば、サキは再び自己の暗闇に陥ち込んでしまう事だろう。
つとめて忌わしい記憶を呼び起こすまいとしているそんな彼女を知ってか知らずか、航法室を出しなにソレル女史が振り向いて声をかけた。
「サキ、レイ、いらっしゃい。最後の打ち合わせをしておきましょう。」
「へ〜〜い、サキ、行こ」 いつもの調子で返事をすると、これはパネルを見ながらも、ちゃんとサキの表情に気がついていたらしい。レイがやや乱暴かつ強引にサキの腕を引っ張った。
時は新暦の14年10月。地球−リスタルラーナ、二星間国家が初めて接触してより15年目の秋である。
リスタルラーナの進んだ技術と、つい40年程前に地球本星内の統一を終えて宇宙に乗りだした地球の未だ枯渇していない資源とが結びついて、両国は順調に発展の輪を広げつつあった。
が、「枯渇していない」はあくまでも欠乏状態にない、というだけの事であって、「満ち足りている」には程遠いのだ。殊にエネルギー問題は深刻だった。
リスタルラーナ系星間連盟では、20数年前にエネルギーの主要産出国、リランとラクの2星を相互間の戦争で失ってから、エネルギー鉱業は事実上破綻していると言って良く、地球系星間連邦でも国交開通当時に期待された程には輸出量を伸ばせていない。
リスタルラーナと違って技術的にはまだまだ遅れている地球系は、国内で効率悪く使用されてしまう燃料が多いのだ。
そんな時、第三の星間国家、ジーストが、全くの偶然からソレル女史に発見された。ジースト星間帝国は技術レベルにおいては地球・リスタルラーナに比べてはるかに貧弱で、わずかに危険度の高いワープ航法が行われる他は恒星間航行のほとんどを未だに光速飛行に頼っている。
しかし利用法のまずさから大部分を宇宙空間に帰納させてしまっているとは言え、ジーストの帝国内では地球・リスタルラーナで知られているどんなものにもましてはるかに効率の良いエネルギー鉱石“ゼン”が採れる。
リスタルラーナ使節団は、今、ソレル女史を始めとした多数の科学者をも含めて、友好通商条約調印の為にジースト本星へ降下しようとしている所だった。
(速いもんだねえ、2週間か。」
(150パーセクの道程(みちのり)を?)
かつて地球−リスタルラーナ間を2年の年月をかけて旅して来た経験を持つサキは、近づきつつある青い恒星をながめて、あらためてそう思う。
(女史が研究室で合成した疑似“ゼン”でさえこうなんだもの。本物をリスタルラーナ科学技術の中に放り込んだら、いったいどれほどの事ができるようになるだろう。地球−リスタルラーナ定期便はきっとわずか1週間くらいって事になっちゃうよ。辺境星域の探険船も、きっとひんぱんに飛びたつようになるだろうねえ)
× × ×
デネブA
ジースト到着時点から開始すること!
「!
見えた! ソレル女史。あれがジーティ太陽系ですよ」
ワープ終了と同時の航法士の声に、まずまっ先にレイがパネルの下へすっ飛んで行った。
続いてサキが後を追う。
「……あれが、……ジーティ? ……」
レイの視線は喰い入るようだ。自分の国の首都惑星を照らしている太陽を始めて見るってのは、いったいどんな感じなんだろう。サキはそんな事を考えながら、恒星(ジーティ)とレイの顔を交互に見比べていた。
あ、あのB型恒星はまるでレイの髪と同じ色合いじゃないか。
してみるとレイの見事な青髪は、地球人の金髪みたいな感覚になるんだな……。
サキは全く無関係に、常々レイが自分の髪をあるごとに自慢しては大事に伸ばしていた理由を納得した。レイの髪はサラサラに長く伸びて、今はもう背中の半分ぐらいを見えなくしているのだ。
向うではソレル女史、エリー、ケイの三人が、安全ベルトを外したまま、リクライニング・シートに腰掛けて何か話し始めている。右から順ぐりに銀髪、金髪、つややかな栗色。
無意識に自分の、灰色がかった薄茶色い髪に手をやっている事に気がついて、サキは慌てて頭を振った。
けれど、それを思い出してはならない事を今ではサキも知っていた。あの事件を思い起こせば、サキは再び自己の暗闇に陥ち込んでしまう事だろう。
つとめて忌わしい記憶を呼び起こすまいとしているそんな
「サキ、レイ、いらっしゃい。最後の打ち合わせをしておきましょう。」
「へ〜〜い、サキ、行こ」 いつもの調子で返事をすると、これはパネルを見ながらも、ちゃんとサキの表情に気がついていたらしい。レイがやや乱暴かつ強引にサキの腕を引っ張った。
時は新暦の14年10月。地球−リスタルラーナ、二星間国家が初めて接触してより15年目の秋である。
リスタルラーナの進んだ技術と、つい40年程前に地球本星内の統一を終えて宇宙に乗りだした地球の未だ枯渇していない資源とが結びついて、両国は順調に発展の輪を広げつつあった。
が、「枯渇していない」はあくまでも欠乏状態にない、というだけの事であって、「満ち足りている」には程遠いのだ。殊にエネルギー問題は深刻だった。
リスタルラーナ系星間連盟では、20数年前にエネルギーの主要産出国、リランとラクの2星を相互間の戦争で失ってから、エネルギー鉱業は事実上破綻していると言って良く、地球系星間連邦でも国交開通当時に期待された程には輸出量を伸ばせていない。
リスタルラーナと違って技術的にはまだまだ遅れている地球系は、国内で効率悪く使用されてしまう燃料が多いのだ。
そんな時、第三の星間国家、ジーストが、全くの偶然からソレル女史に発見された。ジースト星間帝国は技術レベルにおいては地球・リスタルラーナに比べてはるかに貧弱で、わずかに危険度の高いワープ航法が行われる他は恒星間航行のほとんどを未だに光速飛行に頼っている。
しかし利用法のまずさから大部分を宇宙空間に帰納させてしまっているとは言え、ジーストの帝国内では地球・リスタルラーナで知られているどんなものにもましてはるかに効率の良いエネルギー鉱石“ゼン”が採れる。
リスタルラーナ使節団は、今、ソレル女史を始めとした多数の科学者をも含めて、友好通商条約調印の為にジースト本星へ降下しようとしている所だった。
(速いもんだねえ、2週間か。」
(150パーセクの道程(みちのり)を?)
かつて地球−リスタルラーナ間を2年の年月をかけて旅して来た経験を持つサキは、近づきつつある青い恒星をながめて、あらためてそう思う。
(女史が研究室で合成した疑似“ゼン”でさえこうなんだもの。本物をリスタルラーナ科学技術の中に放り込んだら、いったいどれほどの事ができるようになるだろう。地球−リスタルラーナ定期便はきっとわずか1週間くらいって事になっちゃうよ。辺境星域の探険船も、きっとひんぱんに飛びたつようになるだろうねえ)
× × ×