そして語られた通りに、星間連盟と呼ばれるリスタルラーナ文明圏と、地球系・開拓惑星連邦が国交を結んでから十年の歳月がながれた。
 その、サキ。
 サキ・ラン=アークタスという名で戸籍登録された少女は、ひとけのない自習室で最後の入力をすませようとしていた。
 もと稿は、植物の繊維でできた、あまり厚さが均等ではない、紙である。紙を、動物質の糸で幾重にもつづりあわせたものである。
 そこにいっぱいにプリントコピーされた古代文明文字  前アーマゲドン期文化の  まわりいっぱいに少女みずからの手で紙面が黒くなるほどに注釈や構文が書きこまれ、ところどころ、あたらしいプラ紙を耐性のりではりこんで、あるていどまとめた対訳がつけてある。
 それを目で追って、ディスプレイのうえの指が、 うごく はしる。
 翻訳のさいごの一行を打ちおえて、少女はいすの背にもたれかかり、かるくため息をつく。机の卓のコンピューターにメモリーパックの注出を命じ、ほおづえをついた
 ……ほおずえをついてついた少女は確認のために画面にうかんでくる全文(今日うちこんだ分の、だ、もちろん。作業自体にはここ半年以上かかずらっていたのだから)にすばやく目を通してGOのボタンを押す。
 カタリ、と2巻目のパックが少女の手におちた。

     ☆ここでセイ登場でもいい。
 
   妖精、魔法使い、導師、仙人、小鬼。
 これらの概念は“神”や悪魔、宗教という単語とともに、リスタルラーナ文明にはすでにないものだった。
 かたや地球には、統一後、4半世紀をこえるいまにいたっても、それらに類する能力をもつといわれる人々が、たしかにいる。
 なるほど、地球の文化を理解するうえで、これらの研究はたしかに欠かせないものだろう。(  ほんとうにそれだけだろうか?)それだけの目的で、たんに口頭にレクチャーにたよるだけでなく、これだけの量の資料の、翻訳をたのむものだろうか。
 
 正確に知りたい、という要求は、ただ好奇心、探求心というものをこえる、より深い必要に根ざすものであるはずだ。…………
 
 
   ☆サエム夫人、16即位、18解散、20婚姻、
          22出産、28サキ、35死亡、
 
 
 「どう思い考えますか? これらの概念について。」
 かつて存在実在していたものが、時をへて語り草に変化していったものか、それともやはり、文化文明の救いのない闇と恐怖の夜が、人類の心理にふきこんだ数多な想像力にすぎないもんか……」
 
 「原典は、あったのだとおもいます。たとえそれが噂やらによって後代にどれほどゆがめられたにしても。」
 現に、わたしの母は……」
 「あなたは? サキ・ラン」
 
 「……そうして、それに類する現象が……
  あらわれはじめていると言ったら、どうします?
  このリスタルラーナに。」

 
 
(リ)のコンピューター、“糸でんわ”操作にすること。
 
              .

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