あえて嬉しいと、
弟は心底思った。
その水を寄こせ!
と、兄は叫んだ。

《いちばん弱い》が守られていた、
《ははのなみだ》のさいごの沼の、
ちいさなからだのちいさなかげの、
さいごにのこったどろみずだまり。

それを寄こせ!!と兄は叫んだ。
狂った顔して、突進してきた。
奪られたら死ぬと弟は思った。
怖くてその後、覚えていない。

よろめくからだにつめのないうででくみついて、
さけぶあいてのはなをまだみじかいおでうって、
ひびわれたはだにきばのないくちでかみついて、
くちのなかにしみでたちのあじに歓喜し叫んだ。

「 お い し い 」 ……………… !!!!
 
 
 
 
そしてきづいたときにはただひとり。
そらは蒼くてくらくてがらんどうで。
すべてのものがにくくて悔しかった。
たべられたほうがましだったはずと。

はやくしにたい。
はやくしにたい。
はやくしにたい。
はやくしにたい。

いちばんよわいはよろぼいあるいた。
ははのなみだにあたいもせぬおのれ。
あにのちのしみからさまよいはなれ。
てんなるちちよはやくきてころせと。

するととおくでひくくうめく声がする。
あにあねのむくろにうもれすすり泣く、
いちばんよわくていちばんあいされて、
かばわれむくろのかげにまもられた牝。
 
 
 
 
 

 

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