【年代記】II

[大分裂]
 大地世界の最多の生命である地人族は、おおむね《銀波青流》の流れに沿って長い年月をかけ移住と拡散を繰り返した。拡散につれ集落相互の連絡も途絶えがちとなり、多くの場合、《本家》と呼ばれる《神統主》の他に、各集落の統治を司る《分統主》や、河筋や街道筋を束ねる《神統補》が選ばれた。やがて各地の様々な《神統》家を支持する者同士で派閥が分かれ、争いが多発し、魔族の残党もまたこれに便乗して跳梁跋扈し、各地方は孤立して、安全な往来が途絶える時代となった。
 
[再統治]
 《神統》家系のはしくれとは言え産まれながらに《血の薄い娘》と蔑称で呼ばれる無力な少女と、その地人族の従兄弟と、偶然知り合った智水学派の青年とが、往来の絶えた大地のありようを憂えて長い長い旅に出た。大地をあまねく経巡り、各地の主たちを説得し、ついには大地の自由な往来を取り戻す。埋もれし古道は整備されて《白の街道》と名付けられ、初の貨幣と貢納(税)制度が定められて、界全体の交易が始まった。
 
[双統家]
 《血の薄い娘》は成人し《女神の遠い孫》の美称を得て大地世界全体を束ねる《白王家》の開祖となり、交易の要衝たる大いなる《銀波青流》の《瀬分けの丘》の一帯の森を開いて《白の都》と定めた。
 しかしここで自らの聖統を唱える《最も濃い家系》からの横やりが入った。《血の薄い娘》が大地再統一の功績をもって《神統主》の位に就くのは構わぬが、その後継づくりを考慮すれば、統主の伴侶は《最も濃い家系》の者が務めるべきだというのである。
 女皇はこれを拒否して、従兄弟である地人族をみずからの夫とし、幾人かの後継者を産んだ。これにより、以後の諸皇の寿命はほとんど一般の地人と変わらぬまでに短いものとなった。
 聖性を誇る《最も濃い家系》は彼らを《ただびと》と蔑み、これに臣従するを不服とし、自ら《聖帝家》を名乗り離反した。初代女皇の必死の懇請により戦は回避されたが、彼らは袂を分かち、《帝家》とその眷属は、再び移住と拡散の徒についた。
  
 《白の皇都》の西方には、いにしえの暗洞界軍の魔厄によって永遠に緑の育たぬ《うつほの岩漠》が広がる。後代、それを西南に迂回して更に進んだ厳しい環境の中に、聖なる真力の強い者のみが入都を許される、《西の帝都》が築かれるに至った。
 
 
 
 
 《東の白》と《西の聖》。
 疎遠ながらも自由と和平を保つ双都の時代が終わりを告げるのは、はるか後の代に、《皇女戦記編》において語られる物語である。
 
 
 
 
 

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