【年代記】I
[神統譜]
 女神の娘の無名のひとたりは地人族として生き、逝きし《智水神》の道半ばであった指導を惜しんでその智慧を祀る《智水神殿》を建て《智水学派》の開祖となった。短い寿命を全うし大地のめぐりに還った。
 女神の娘の名のあるひとたりは半神女として在ることを選び、残された地人族を統治し、また半神たる真力を以て魔族の残党を狩り、あらゆる大地の生命の守護者となった。地人の寿命の数倍のあいだ大地に留まり、幾人かの地人の夫との間に多くの子を産んだ。半神女であり帰天は叶わず、大地のめぐりに還る(※)にしては聖位にすぎる存在であったので、やがてその生ある暮らしに飽いた時、母なる女神の眠る大地の真奥の洞窟の門を守護する形で、やはり界果てまでの眠りについた。
 女神の娘の血を継ぐ者たちは《神統》と呼ばれ、特に血の濃い者や能力識見に優れた者の間でゆるやかな互選制を敷いて、一族の統治者たる役目を委譲し繋いだ。

 ※ひとつの人格として、大地人または獣人・鳥人族の、転生の輪に還ること。

[大移住]
 数代を経て、地人族の最初の居住地であった《太古の平原》は、隆起を続ける背骨山脈に取り囲まれる形で大気の稀薄な高原盆地となり、また《最初の泉》の水位上昇につれ湿地域が広がり、増え続ける人口に比して農耕・居住条件が劣化する一方だった。
 どのような対策を採るべきかについて有力な《神統》同士の間でも激しく意見が分かれた(※)が、やがて北東壁の《界果て峠》が水圧に耐えかねて崩落し、平原外に出る道が開かれると、積極的に山脈外縁部へと移住を重ねる者たちが増えてきた。
 しかしこれに反対し、聖圏結界外への移住をあくまで拒否する残留者たちとの間にはしだいに距離が広がり、疎遠となっていった。
 
 ※この時の口論がもとで、移住組の各《神統》同士の間でも親睦が失われ、後の[大分裂]の遠因となったとも言われる。

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