1. 転校初日は3日目
 2. 合わせたくもない顔(ツラ)
 3. 家庭科は地獄の時間
 4. エプロンに三ツ編み……
 5. 豆腐屋小町の弟。
 
 番外編。無言の下駄箱争奪戦


 


 『 転校初日は三日目(仮)』 by 柊実真紅(とうみ・まこ)

 いー天気だなぁ……
 ぽっかりの見開いた両眼でかすむように青い空を見上げる。視界のすみで わずかにピンクがかった白い枝 ほぼ咲きそろった桜の枝が揺れている。
 い〜天……と。え!?
 
 ……でええええぇっ!!
 
 寝起きでかすれた、声にならない叫び。
 磯原清(いそはら・きよし)は飛び起きた。
 時計は、八時半を指している。
 「かーさん、恨むよ〜〜〜〜っっ」
 うめいたところで無駄である。一度は起こしてくれた証拠に、窓とカーテンはきっちり開いている。
 少し寒いが、良い天気だ。今は見とれる暇がない。
 どだだっ、と制服片手にかけおりて行くとダイニングには 早起きの 10歳違いの長兄がとぐろをまいていた。
 両親は、とっくに出かけた後である。
 「よー、なんだ中坊、おまえ、まだいたのか」
 「うるさい! 大学は春休み長ぐていーねっ」
 語尾がいちいち撥音になるのは弱冠11歳の彼が持病の胃痛に苛立っている証拠である。
 「そう云うな。これでも荷造り大変なんだぞ」
 「さっさと下宿でも寮でも行っちまえっ」
 「冷てぇなぁ……」
 大仰に胸に手をあてて嘆く彼は温厚な性格で周囲に知れている。
 「タマゴどーする?}
  自力構成 自給自足が原則の磯原家にあって、不憫な弟のためにわざわざフライパンを握ってやった彼の好意は、踏みにじられた。
 「ヒマないっ」
 虫歯ひとつない口の中を泡だらけにして叫ぶ。鏡をのぞき、長めのくせっ毛は梳かすだけ無駄なので指でかきまわして終わりにする。
 「……てきまっ」
 ばたーん、と凄い勢いでドアが閉まった。
 

 

 
 (俺と好シリーズ・学園編)
 
 『 桜の日。 』 …… 転校初日は三日目 ……  柊実真紅
 
 いー天気だなぁ……
 ぽっかりと見開いた黒褐色の瞳にかすむような青い空がうつる。
 雲かと見えるのは家の軒先までも張りだしている、ようやく八分咲きの桜の枝だ。
 白とピンクの濃淡が陽光のもと微風にひるがえる。
 ほんっとおに、いい天……
 え?
 
 「でえええぇっ!!」
 
 寝起きでかすれた、声にならない叫び。
 時計は八時半を指している。
 「かーさん、恨むよ〜〜っ」
 うめいたところで無駄である。一度は起こしてくれた証拠に、窓とカーテンはきっちり開いている。
  どだだっ、と制服片手にかけおりて行くとダイニングには十歳ちがいの長兄がとぐろをまいていた。両親は、とっくに出かけた後である。
 「よー、なんだ中坊。おまえ、まだいたのか」
 「うるさい! 大学は春休み長ぐていーねっ」
 語尾がいちいち切り上がるのは弱冠十一歳の弟が持病の胃痛に苛立っているせいだ。
 「そう云うな。これでも荷造り大変なんだぞ」
 「さっさと下宿でも寮でも行っちまえっ」
 「冷てぇなぁ……タマゴどーする?}
 自給自足が磯原家の原則だ。不憫な末っ子のためにわざわざフライパンを握ってやった彼の好意は、あっさり踏みにじられた。
 「ヒマないっ」
 虫歯ひとつない口の中を泡だらけにして叫ぶ。鏡をのぞき、長めのくせっ毛は梳かすだけ無駄なので指でかきまわして終わりにする。
 ため息をついて、兄はミルク鍋を火にかけた。手早く香料入りの紅茶を煮込む。
 「ほれ。飲め。」
 カップをさし出された時には遅刻者は、真新しい学ランのボタン相手に苦闘しているところだった。
 「もう歯、磨いちゃっ……」
 「いいから飲め。」
 ほとんどそのまま口に押しつけそうな態度と、猫舌用に放りこまれた氷のかけらを見て、しぶしぶ受け取る。
 ずずずずず。
 行儀悪く音をたててすすり込む。熱と糖分と、ハーヴの香気が痩せた体に浸みわたるにつれて、 ずっと、 しかめたままだった眉がふっと緩んで肩の力が抜けた。
 「……サンキュ、ヒロ兄(にぃ)」
 「おう。頑張んな」
 渡されたカップを卓の上に置いて、三年ほど前に制服から卒業した兄は襟のホックを留めてやった。
 ……長い登校拒否で中学に上がるのは無理かとも思われた。それが、自分から行く、と言い切って、努力をしているのだから。
 気を使われていることは本人も知っている。
 もそもそと靴をはくと、とっくの九時をまわった時計に恨めしげな視線を向けつつ、玄関を出て行った。
 

 

 
 彼、磯原清(いそはら・きよし)は、ちょっと複雑だ。
 日本国籍の十一歳。平凡な中学教師である父の妻はなぜか異国の女性で、それでも三人いる兄達はちょっと浅黒い肌にクセの強い髪……という、まあ日本人で通る顔立ちをしていたのだが。
 どんな遺伝子のいたずらか、金褐色の髪にミルクココアのなめらかな肌色、ぱっちりと吊り上がった深い輝きの瞳。
 母方の、少数民族そのままの外見を、末っ子は持って生まれてしまった。それをたぐい稀(まれ)な美童と見るかは、受けとる側の感性の問題だ。
 「やだー、きもちわるいーい」
 クラスの子にそう言われたのは、清が小学校四年のときだ。
 運の悪いことにもともと体の弱かったこの子 は前の学年の終わりにかなりの長期入院をしている。その間に、学区編成が変わった。
 おわかれ会もなにも経験しないままに見知らぬ学校へ連れて行かれて、最初の言葉が。
 [違う]ということは子供のあい……
 

 
 異伝子
 
 

 
 『透の日記より』   外海真扉(とうみ・まさと)
 
 「磯原家の四兄弟」といわれてずっと育った。正確には、男の子が五人いる。
 末っ子がからだの弱い内弁慶でめったに門から外には出なかったので、御近所はそれを外して数えていたのだろうが……[四]という数をきくたびにぼくは自分の名前を考えずにはいられなかった。
 ほかの兄弟は、上からヒロシ、タカシ、アツシ、キヨシ。三男のぼくは……トオル。
 これだけならべつにたいしたことはない、よくある子供の被害妄想を笑われてすむかもしれない。
 報道カメラマンだった父について異国からやってきた母マリセはチョコレート色の肌に縮れ毛の美しい女性で、四人は多少なりとその砂漠の民族性を受け継いでいたけれど、ひとり日本人としてさえ色白の部類のぼくは、「いっしょくたに寝ているとマーブルケーキのようね」と、料理を母に習いに来ていた近所の女性に他愛もなく笑われて、夏休みの一日、海岸でただひたすら寝ころがっていたことがあった。あげく……全身火傷にちかい状態で救急車に運ばれて三日も寝込んだ割に、起きだして鏡を見ればあいかわらずの生白い顔に、まっすぐな髪だけがみごとに日に褪せて赤茶色になっていた。
 五年分くらい、まとめて泣いたね。
 ぼくは母の子供ではないそうだ。そしてたぶん、父の子ですらないのだろうと、思う。
 
 

 

 
 [俺と好] the laugh sketches
 
 『 食 卓 三 景 』  by. 遠野真谷人(とおの・まやと)
 
 
 その1.……
 
 「あ、おはよう。おかえりなさい」
 ドアを開けると妹(ユミ)がお玉を持ったまま振りかえった。腹が鳴るような匂いの湯気で台所(キッチン)は白っぽく曇りかけている。
 「お兄ィちゃん、このごろ朝、どこへ出掛けてるの?」
 「……ロードワーク」
 首のタオルを洗濯場に放りこみながら答える。
 ばれたか。
 なるべく、ユミが目を覚ます前には帰ろうと思ってたんだが。運動不足=(イコール)欲求不満がたまってくるとつい時間をかけてしまう。おまけに、今日は妙な兄弟にひっかかっちまったし。
 ……明日からはきっともっと遅く帰るはめになるだろう。
 「あ、やっぱり?」
 おれの思考などにはおかまいなく、よく磨いてある歯並びをひょいと見せてユミは笑った。
 「じゃあ、お腹(なか)空いたでしょう。そうじゃないかと思って、特別メニューにしといたの♪」
 

 

 
 『ナジャと北王』
 
 それは俺のひそかな愛読書で、 俺の ほかにも 何度か読み返している奴らがいるらしい くりかえし読む奴らがいるらしいのは、見るたび手ずれていくその様子でも伺えたけれど、それが。
 俺がサボったある日のHR(ホームルーム)で文化祭の演目(だしもの)に決まっているとは思ってもみなかった。
 
 「でええっ! おれっ!?」
 んで姫役(ヒロイン)だれ〜っと無責任に口にした質問への解答の反応が、これだった。
 「やだっ、おれ脚本のほうがいいっ」
 「脚本はすでに出来ている」
 どんとのたまうのは文芸部の御大だ。
 「陰謀だ〜女なんてやだ〜っっっ」
 モノはなにって数代前の文芸部OBが書き残したらしい個人誌で、たいして長くもないその話のタイトルは『北陵』。古代インドかどこかが舞台の悲劇の王とその侍女の、熱恋モノだ。
 

 
 アガラジャーダのナジュリシア
 


 
 二十一世紀。
 とはいえなにぶんにもいなかである。
 辺境への文化の伝ぱ速度はとうぜんのように遅く……
 はやいはなし、三十年まえの首都周辺とさしてかわらない、ってのがここでの生活だった。
 

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