三、
それらの印刷物になっている資料は、戦前に、強制的な国の徴兵によって戦場で命を落とす者が増えたために、それによって大昔より語り伝えられて来た〈神代秘事〉(かむなぃひめじ)を継承する者が絶えることを恐れた神事衆(かみごし)……〈八十一家〉の家長たちによる寄り合い……が、“銃後”に残る女性たちを、(それまでの善野では性別に関係なしに、生まれた順序か本人の適性によって、家督を管理する長子衆と、善野を警護する末子衆とに分かれていたのであるが)、姫御衆(秘護衆/ひめごし)として再組織して、秘め事を後の世に託そうとして編纂したものが、基盤になっている。
(それまでは完全に口承であって、さして重要ではない伝統についても、神聖なことに関しては、決して文字に書いてはいけないとされていた)。