「えな、納得行きまっせん!」
気が立ったのか、ずいと立ち上がり、忍が息まいた。
「栄田の晴樹(はるき)も友達ですが、それとこれとは別です!」
そもそも当の事件の詳細を、そのころ子供であった自分たちは知らされてもいない。何の説明もなく、ただ付き合うのを禁じると言われても……、
かつて家が近くて遊んだ記憶を残している者は、自分と同じ世代には、多い。
せめて納得の行く説明をと締めくくり、非礼を詫びて腰を降ろす。
そうだそうだと、周囲にいた同世代の……警護衆としては最年少である……子供らが、意見を同調させた。
む……、と。
困りこむのは長老衆である。
「青(わか)ん衆(し)な懐柔(てぇなず)るま巧(うま)ぇな、父親と一緒なやぁーっ!」
昏い響きのからかいが投げられた。
「……俺らも正確なところは知りません」
その頃ちょうど留学中だった沢木の双子も、言われてみれば噂の積み重ねばかりで、事件を直接知る者からの詳しい話は聞いた事がない。
しかもその噂の中には当時五歳だった好一自身が父の猟銃を使って誘拐犯人を射殺したのだとまで無責任な尾鰭が付いている。
確かに山林に囲まれている善野には猟銃を所持する者も多く猟友会もあり、邦彦とてそこの会員ではあるが。
わずか五歳の子供の手の届く所に猟を置き、あまつさえその扱いを教える親などいる筈もないし。
仮に万が一うわさのほうが真実だったとしても、それは立派な正当防衛ではないか……。
(後日、「せやからアンタ達を担任に付けたんやもん」と、二中の職員室で、あっさり学年主任は言ったものだったが。)