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エスパッション号のコンピュータールームでは2人の少女が仕事を続けていた。そこへ2つのかげがあらわれ、またたくまにソレル女史とサキの姿になった。
「あら! おかえりなさいパトロン。おかえりサキ。クラース長官はなんていってましたか?」
「大丈夫、賛成してくれました。それよりあながたたの方はどうレイ? 有能な超能力者がどれくらいいるかしら?」
「ばっちりです。ケイの作った超能力反応装置はすごいんだから。ねぇケイ!」 ケイと呼ばれた少女はちょっとはずかしそうに笑って言った。
「今
「そう。じゃあジースト星と地球への発送準備は私たちがやるから、あなた方は記録を続けてちょうだい。サキ、手伝って」
「はい」
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調査の結果、特に強力と思われる超能力者は、リスタルラーナ星にはシシリィ・カーク、ビスタ・バタケット、レニオン・シーザの3人。ジースト星にはトリーニ・ユウ、コーナ・フレークスの2人、地球にはマリーネ・ノザキと、エリザヴェッタ・アリス・ドン・レニエータの2人がいることが判明した。
「合計7人。これじゃ、あなた方全員にとびまわってもらわなくちゃなりませんね。」
「ふえ〜〜。パトロンひと休みしましょうよ」
「なにいってるんですか。サキ、あなたは地球へ行ってちょうだい。レイはジースト星へ、ケイはここに残ってね。調査期間は1週間。時間の余った人は休かにしていいわ。パスポートはクラース長官に頼んでおきます。」
「わお、行ってきまァす」
「サキったら!」レイがさけんだ「地球までいっきにテレポートしようなんて考えないでよ。あなたってば自信過じょうなんだから」
「あなた方にはワープ客船を使ってもらいます。出発は今日の20時30分、1週間後に折り返しでもどってくるからそれに乗ってね。」
「あらやだわ、あと30分しかないじゃない。サキも荷作り急いだ方がいいわよ」レイはそう言うと自分の個室へ飛びこんで行った。
「荷作り!? あたしそんなもの苦手ちゅうの苦手。ケイいっしょに見てくれる?」
間もなく3人はそれぞれの部屋
「ねえケイ。なんだってこんな大きな荷物になったの?」サキが言った
「ごめんなさい。だけど最低限必要なものだけよ。お金とパスポートとねまきとタオルと超能力者メモと薬を少しと着がえを6組と……」
「着がえが6組もいるもんですか、たかだか1週間! それに薬なんて!」
「やめなさいよサキ。ケイに荷作り頼んだのはだれでしたっけねえ?」
「お客さん。そろそろ宇宙空港に着きますよ」
サキとレイがワープ客船に乗りこんだのは発進10分前だった。
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ベルト着用のランプが消えるとサキはあらためて窓の外を見た。
何度見ても見あきることのない光景だった。黒い空間とついいましがた後にしたリスタルラーナ星の緑の輝きがおどろくほど調和し、そのむこうにはリスタルラーナの太陽、デネブが青白い光を放っている。
サキは宇宙は6度めだったが思わず感嘆のため息をついた。
やがてリスタルラーナ星の光が消えかかるころ、ワープに入る。
距離は1500光年、時間にして数秒、再びベルト着用のランプがついた。
「これよりワープを行います。お客様はベルトをしめ、座席によりかかって下さい。
秒読み開始。10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0!」
サキはエレベーターに乗ったようにすっと体が浮くのを感じた。
目の前がぼーっと暗くなり、どこかで女の子が「ママ!」と呼ぶのが聞こえた…………。
はっと気がつくと船内はざわめきを取り戻していた。
『困ったな。ワープするたびにこうぼんやりしていたんじゃ宇宙では手も足も出ない。なんとかしなくちゃ……』
その時、客席の片すみで、地球だ!の声があがった。
リスタルラーナの緑とはまた違った美しさを持つ蒼い地球は、すでにその姿を大きくのぞかせている。
地球人はもちろん、リスタルラーナ人もジースト人もそれを見つめた。中には、リスタルラーナと地球の美しさを競って口論を始めた者もいる。
宇宙船はバン・アレン帯を通過し大気けんに突入した。
窓は熱に強いジースト産の亜けい砂性クリスタルなので、
とざされはしなかったが、断熱性はないので船内の温度は少しずつ上り始めた。窓の外には紅の炎が流れている。気温は30℃をこえた。冷静で事務的なアナウンスが聞こえた。
「本船ではただ今、冷房をフルに活用してしております。もうしばらくのごしんぼうを願います。放射熱をさけたい方は右手の黒いボタンを押して下さい」
重力コントロール装置が発明されている現在では、ものすごい加速度も無重力もまったく気にする必要がなかった。そしてジーストの真夏よりははるかに楽な大気けん突破が終わると宇宙客船は水より数倍も比熱の大きい特しゅ冷きゃく用水の底にほてる体をしずめた。
数分後、サキは半年ぶりに地球の土を踏み、地球の空気をすいながら日本へ帰りたいと思った。南極であろうとサハラ砂漠であろうと、ここアメリカNASAの宇宙空港であろうと地球にはかわりなかった。なつかしい地球。しかし日本にはわが家と家族が待っていた。幼いころ近所の子とけんかするたびに、おまえは優れているのだとかばってくれた母。だれよりもサキに似て超能力の素質のある父。10才近くも離れていて、めったにけんかをしたこともない弟。
そう、仕事が先だ。
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