平和暦43年4月1日
  わたしたちはわたしの妻サエムのために
  騒々しい集中管理都市(ドーム)を離れて
  別荘で暮らしていた。
 
  サエムは生まれつき体が弱い上に
  長女サユリの出産で心臓をこわし
  5年たっても回復の見込みがたたないままに
  次の子供を産もうとしていた
 
  彼女は知らなかったが
  彼女には中絶手術に耐えるだけの
  体力もなく
  まして出産や心臓移植など
  考えるだけムダだった
 
  今思えば妊娠8ヶ月まで生きのびていたことすら
  奇跡に近かったのだ
 
  彼女は彼女自身も知らぬうちに
  一歩一歩 着実に死へ向って歩いていたのだった  
 
 
 
 
 (擬音:キィッキィッ キィッキィッ キィッキィッ)

 (揺り椅子に腰掛けた妊娠後期の女性の横顔、クローズアップ)
 
 
夫「なにをしているんだいサエム、薬の時間だ。
  ……サエム?」
妻「あ……」
 
 (ピクッと動く右手の中に守り像)
 
夫「なんだ、またお祈りかい。
  あまり根をつめるのはよくないぞ」
 
妻「だって、あなた  
  お料理もそうじも、本を読むのまで禁止でしょ。
  他にやることがないんですもの……」
 
 (守り像のアップ)
 
妻「心臓に負担をかけないためだってことは
  よくわかっているのよ。
  でも  
 
 (夫の持って来た薬を飲みながら)
 
妻「わたし  、本当に産めるのかしら」
 
 (ギクッとする夫)
 
夫「……サエム……」
 
妻「 ! いやね、あなた。そんな顔しないでよ。
  だ・い・じょ・お・ぶ。
  ちゃあんと産んでみせるから  、ね?」
 
  せっかくあなたが承知してくれたんですもの、
  堕ろさなくちゃいけないかと思っていたのに。
    ね、男の子がいい? 女の子がいい?
  上が女の子だから今度は男の方がいい?」
 
夫「丈夫でありさえすれば、どっちだって可愛いものさ」
 
妻「……あなた?! どうかなさったの?」
 
夫「いや! なんでもないよ」
 
 (慌てて首をふる夫)
 
妻「ごめんなさい。
  わたしが病弱なばっかりに
  心配ばかりかけるわね……」
 
 (壁に埋め込まれた端末画面が、
  ヴーンヴーンヴーンという音とともに自動で回線開く。)
 
 (擬音: ヅヅー!)
 (壁の端末と、夫の腰のベルトに装着した通信機と、
  同時に同じ音声)
 
声「地球および各惑星の
  星間統合政府全役員!!
 
  緊急臨時総会を開きます
  5時間以内に最寄りの
  臨時総会会議場へ集合して
  下さい!!」
 
夫「!」
 
声「くりかえします!!
  星間統合政府役員は
  全員5時間以内に……」
 
 (擬音:カチッ)
 (夫、腰の通信機を切る。)
 
夫「なにが起こったんだろう……
  とにかく行ってくるよ」
 
妻「  あなた」

夫「ん?」
 
 (妻の父、幼女を抱いて、画面の隅より「スッ」と入室。)

父「呼び出し(コール)を聞いたかね、トキヤ君」
 
夫「あ、お義父(とう)さん。すぐにしたくします」
 
父「いったいなにごとだと思うかね」
 
夫「さぁ……」
 
 (幼女、祖父の腕から「トン」と降りる。)
 
妻「あ……」(部屋から出て行く夫を呼び止めようとするが、
       間に合わない)
 
 (場面転換。家の外。外出できず、窓から見送る妻の遠景)
 (孫娘を抱いて見送りに出る妻の母と、扉を開けたエアカー)
 (上着を羽織りながら、先に乗り込む義父)
 
夫「  じゃ、行ってきます、お義母(かあ)さん。
  いい子にしてるんだぞ、サユリ」

娘「うん♪ いってらっしゃ〜い♪」
 
 
 
 

 
※ 無地の大学ノートにシャーペン描き
 (下書きや絵コンテなしの一発書き!!)による、
 未完のストーリーマンガより、ネームのみを抜粋 ※
 
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