『 第1章 ここは地球じゃない。 (2) 』 (@高校1年。)
2007年7月21日 連載(2周目・大地世界物語)p9
本来なら真里砂は、まず翼をつけた少年のが出現にしたことに驚ろいて然るべきだったのだろう。しかし彼女は少年の背中の翼よりも彼のしゃべった言葉に気をとられていて、自分が有翼人を見ても驚かなかった事や、むしろ、あら?!と思った程度であたりまえの事実として受け入れてしまった子との奇妙さにさえ気づくゆとりがなかった。
その言葉は何か不思議なリズムと抑揚を持ち、生き生きとしていて、聞きようによっては少年が何かの歌を口ずさんだ、ともとれるような感じだった。
そして、全く聞き覚えもないはずのこの言葉が、まるで生まれてこの方、使い続けているような自然さで真里砂の脳に伝達されたのだ。 真里砂には聞いた瞬間にその言葉をが理解できていた。
「 どうして いえ、そうよ。え、え。そう。もちろんわたしは真里砂(マ・リシャ)……マーライシャに決まっているわ。」
一人言ち独りごちたこの言葉は少年の質問と同時に自分の内部への技もに答える為でもあったのだが、いつのまにやら自分自身の声までが不可解な抑揚を帯びているのに気がついて真里砂は背中がゾッと鳥肌立つのを感じた。(わたし、前にもこの言葉を使っていた事があるわ!!)
直感だった。理屈もなにもありはしない。それに加えて真里砂(マリサ) マ・リシャ マーシャ マーライシャ。!
(どうしてこれがわたしの名前だなんて思ったの? わたしの名前? え?! ?! )
その時になって初めて、真里砂は自分が両親の本当の娘ではなかった事を思い出す始末だった。
日頃あまりむつまじい親娘だったので、ともすれば自分の記憶の無さも髪の色の事すらも忘れきっている時の方が多かったのだ。
それに、6年も前の事だ。
「わたしは……マ・リシャ……マーライシャ店」
では、ここは、わたしの故郷なのかしら? 緑の髪の人間がいて、魔法が世界を支配している……?
真里砂はがくぜんとして突っ立っていた。
だが、恐怖感よりは理性と好奇心の方がかろうじて勝った。
それとも、勇気を保てたのは、初対面のしかも自分より年下の
らしい男の子の前でしゅう態をさらしたくない という、真里砂本来の自尊心の高さゆえであったのかもしれない。
とにかく真里砂はもちこたえた。
(つづく) .
本来なら真里砂は、まず翼をつけた少年
その言葉は何か不思議なリズムと抑揚を持ち、生き生きとして
そして、全く聞き覚えもないはずのこの言葉が、まるで生まれてこの方、使い続けているような自然さで真里砂の脳に伝達されたのだ。 真里砂には聞いた瞬間にその言葉
「
(どうしてこれがわたしの名前だなんて思ったの? わたしの名前? え?! ?! )
その時になって初めて、真里砂は自分が両親の本当の娘ではなかった事を思い出す始末だった。
日頃あまりむつまじい親娘だったので、ともすれば自分の記憶の無さも髪の色の事すらも忘れきっている時の方が多かったのだ。
それに、6年も前の事だ。
「わたしは……マ・リシャ……マーライシャ店」
では、ここは、わたしの故郷なのかしら? 緑の髪の人間がいて、魔法が世界を支配している……?
真里砂はがくぜんとして突っ立っていた。
だが、恐怖感よりは理性と好奇心の方がかろうじて勝った。
それとも、勇気を保てたのは、初対面のしかも自分より年下
とにかく真里砂はもちこたえた。
(つづく) .
p10
「あなたは誰なの?」
真里砂に尋ねられて少年は真っ赤になった。
「あ、無礼な真似してすいません。もし人違いでもしたら大変だって、そればっかり気にして来たもんで……。ぼくはルンド家の第一子(パスタ)・クラダ。父はこの森の翼人(よくんど)鳥人族の族長だったんだけど、“会議”のすぐ後で病気で死んじゃって……dから今はぼくの母さんが族長です。それで……」
真里砂は耳まで真赤にして話すその話し方を聞いていてすっかり楽しくなってしまった。
「そんな訳で、帰って来たあなたを最初に出迎えるって名誉な役がぼくのものになった人間がぼくしかいないことになっちゃったんです。」
「帰って来た、ですって?」 真里砂は少なからずろうばいしておうむがえしに聞き返した。それじゃあ、じゃあ、じゃあ、本当に……?
「もちろん、あなたは『やって来た。』って言おうとしたのでしょうよね?」
少年は不意の質問にあきらかに気分を害されたようだった。
「 ああ、。それはもちろんあなたが本当に帰るべき所はもっとずっと南の美しの白き都(ルア・マルライン)だけど。遠いどこか別の土地なんだろうけど。ぼくが言いたかったのは、あなたがティカースからこのダレムアスの土の上に戻って来たって事ですよ。」
「……ティカース……丸い地の国……。ダレムアス……大地の国……。」
真里砂はぼうっとくりかえした。
丸い地の国(ティカース)が地球の事であるのならとしたら、大地の国(ダレムアス)……これは……
「じゃじゃ、あ、じゃあ!」真里砂の声は思わずつっかかった。「ここは地球上ではないのね? それで……帰って来た、っていう事は、わたしは本当にここの国 大地の国(ダレムアス) の人間なの?!」
真里砂の、驚きと、歓喜と、恐怖の入り混じった奇妙な表情には気づかずに、パスタはからかわれているととって怒り始めた。ので、そんなつもりではないと真里砂は大慌てで謝らなければならなかった。
こうなったら正直に話した方が良い、と判断して、「ねえ驚かないで聞いてちょうだい。実はわたし……」
先刻から使っている例の奇妙な言葉の中から“記憶喪失”の単語を見つける事ができなくて、真里砂は少し言いよどんだ。
(つづく) .
「あなたは誰なの?」
真里砂に尋ねられて少年は真っ赤になった。
「あ、無礼な真似してすいません。もし人違いでもしたら大変だって、そればっかり気にして来たもんで……。ぼくはルンド家の第一子(パスタ)・クラダ。父はこの森の
真里砂は耳まで真赤にして話すその話し方を聞いていてすっかり楽しくなってしまった。
「そんな訳で、帰って来たあなたを最初に出迎える
「帰って来た、ですって?」 真里砂は少なからずろうばいしておうむがえしに聞き返した。
「もちろん、あなたは『やって来た。』って言おうとしたの
少年は不意の質問にあきらかに気分を害されたようだった。
「
「……ティカース……丸い地の国……。ダレムアス……大地の国……。」
真里砂はぼうっとくりかえした。
丸い地の国(ティカース)が地球の事である
「じゃじゃ、あ、じゃあ!」真里砂の声は思わずつっかかった。「ここは地球上ではないのね? それで……帰って来た、っていう事は、わたしは本当にここの国
真里砂の、
こうなったら正直に話した方が良い、と判断して、「ねえ驚かないで聞いてちょうだい。実はわたし……」
先刻から使っている例の奇妙な言葉の中から“記憶喪失”の単語を見つける事ができなくて、真里砂は少し言いよどんだ。
(つづく) .
(P11)
すると、突然、急を告げる角笛の叫びが森中に響き渡って真里砂を驚ろかせた。
高く、低く、高く。危険を知らせるかのようにせわしなく音色が変わって行くのだが、困った事に、それを聞きつけたとたんにパスタの顔がさっとこわばった。
「あの吹き方は“異変”の笛だ! 館で何が起ったのんだろう?!」
それから抱えるようにして持っていた大きな袋包みを真里砂に渡して、
「大変だ。ぼくはすぐに館に戻らなくちゃ! この中には着換えと、当座の食糧と、粗末なやつだけど届けられたてた旅の道具一式。それに路銀も少々入れておきました入ってますから。それじゃっ!」
余程慌てていたるのかそれだけ言うとパッと翼を開げて広げて飛び立とうとしたパスタを、真里砂は慌ててギョッとして引き止めた。その場に一人とり残される事に恐怖を感じたのだ。パスタは持ち上げた翼もそのままにいとももどかしそうに首だけで振り向いた。
「なにか ……」
「あ、いいえ! なんでもないの。あの……あなたはわたしの事を名前正体を知っているの?」
「いいえ……呼び名以外は聞いてません」と、あとなにかわけがあって地球(ティカース)からへ行ってた身分の高い姫宮だって事以外聞いてません。」
「あの、 そう。ありがとう。気をつけて、ね」
真里砂はしかたなく言った。
「マーライシャ様もお元気で。」
言うが早いか、あっというまに少年の姿は木々梢の向うへ飛び去ってしまった。
真里砂が、溜め息をつき、急にのしかかってくるような静寂の恐しさに怯えた時 。
真里砂の背後で下枝ややぶのしげみをかきわけ押しのける音がして、「おーっ!! いた、居た!!」
声と共に2人の少年達が姿を現したわした。
「雄輝! 鋭! ……どうして ?!」
(つづく) .
高く、低く、高く。危険を知らせるかのようにせわしなく音色が変わって行くのだが、困った事に、それを聞きつけたとたん
「あの吹き方は“異変”の笛だ! 館で何が起った
それから抱えるようにして持っていた大きな袋包みを真里砂に渡して、
「大変だ。ぼくはすぐに館に戻らなくちゃ! この中には着換えと、当座の食糧と、
余程慌ててい
「なにか
「あ、いいえ! なんでもないの。あの……あなたはわたしの
「いいえ……呼び名
「あの、
真里砂はしかたなく言った。
「マーライシャ様もお元気で。」
言うが早いか、あっというまに少年の姿は
真里砂が、溜め息をつき、急にのしかかってくるような静寂の恐しさに怯えた時
真里砂の背後で下枝ややぶのしげみをかきわけ押しのける音がして、「おーっ!! いた、居た!!」
声と共に2人の少年
「雄輝! 鋭! ……どうして
(つづく) .
P12
つかんで押した枝を、そのままへし折って前に出ながら、雄輝は空いている方の手でバサバアサになった髪をかき上げた。
ただでさえ切るのを面倒がって伸ばしっ放しだった蓬黒髪が、小枝やらくもの巣やらでひどい有様だ。
「どうしてって……何が“どうして”だよ?」雄輝が聞きかえす。
「だってだって なんだってあなた達がここにいるのよ」
「決まってんだろ。おまえを追っかけて来たんだ。……ふう! あ〜あ、ひでえ目に会った。」雄輝は中途半ぱに言葉を切って髪をかきあげ、足りない分を鋭が注意深く捕捉する。「つまり、僕らもあの“穴”に飛び込んだんだ。君と違ったのは自由意志だって点だけで」
しかし、それを聞いて真里砂はあきれかえった。あきれるとそうすると言葉がひどく速くなる。
「なァんですってェ!? 馬鹿な! 何が起こったのだか解っているの? 帰れないかも知れないのよ!!」
と、翼(つばさ)雄輝の答えて曰く、
「面白そうじゃん!」
「おも☆」 ズル。
真里砂は絶句した。大いにズッこけた。
(なんて神経! これでわたしよりも年上だなんて……)
いや、だが、何の事はない。確かに雄輝は無邪気にできているが、それにも増して真里砂が、並の子供にしては年不相応に大人びているだけなのである。
それにしても、雄輝はともかく普段は科学者ぶっている冷静な筈の鋭までがここにつっ立っているのは何とも言えない。
「鋭! あなたもなの?!」……面白がっているのか、と、詰め寄る、という言葉がぴったりの表情で顔で形相で真里砂は問いつめた。
無論、そうだとでも答えようものならひっぱたいてやろう と完全に頭に来ている。
「いや、僕は……」返事に窮した鋭の報こそいい迷惑であるだった。
(つづく) .
つかんで押した枝を、そのままへし折って前に出ながら、雄輝は空いている方の手でバサバアサになった髪をかき上げた。
ただでさえ切るのを面倒がって伸ばしっ放しだった
「どうしてって……何が“どうして”だよ?」雄輝が聞きかえす。
「だってだって
「決まってんだろ。おまえを追っかけて来たんだ。……ふう! あ〜あ、ひでえ目に会った。」雄輝は中途半ぱに言葉を切って髪をかきあげ、足りない分を鋭が注意深く捕捉する。「つまり、僕らもあの“穴”に飛び込んだんだ。君と違ったのは自由意志だって点だけで」
しかし、それを聞いて真里砂はあきれかえった。
「なァんですってェ!? 馬鹿な! 何が起こったのだか解っているの? 帰れないかも知れないのよ!!」
と、
「面白そうじゃん!」
「おも☆」
真里砂は絶句した。大いにズッこけた。
(なんて神経! これでわたしよりも年上だなんて……)
いや、だが、何の事はない。確かに雄輝は無邪気にできているが、それにも増して真里砂が、並の子供にしては年不相応に大人びているだけなのである。
「鋭! あなたもなの?!」……面白がっているのか、と、詰め寄る、という言葉がぴったりの
無論、そうだとでも答えようものならひっぱたいてやろう
「いや、僕は……」返事に窮した鋭の報こそいい迷惑
(つづく) .
P13
「僕はまずあのブラックホールまがいの正体を突きとめてやろうと思ってたんだよ。それを雄輝が先に飛び込んじゃったんでやむなく……さ、」
前半は真実だが、後半、特にやむなくの4文字はまったくの言い訳だった。
“コンピューター”と異名をとる鋭ではあっても、バロウズの非科学(S・F)的冒険小説(スペースオペラ)に憧れるくらいの人間味はなら有り余る程持っていたちあわせていたのである。とは言え、興奮している真里砂はそんな事には気がつかない。
「そう ……」と真里砂。「なら、まあ、あなたは許してあげるわ。 雄輝!」
「あん?」
真里砂が凄まじい(例の口調の、かつて友人達から“母親みたい”と評された)剣幕でまくしたてようとした時である。
「くしゃん! くしゃん! くしゃん!」
不意に鋭がくしゃみを始めた。
一旦は三回で止んだもので、真里砂が「あら、3でほれられ、ね……」と言おうとからかおうとした途端にまた「くしゃん!」
後はたて居たに水の勢いで、くしゃん! くしゃん! くしゃん! くしゃん! ……くしゃみの大洪水である。
そのうちに真里砂までが鼻をむずむずさせだしたので雄輝が笑った。しかし、
「わ、笑っている場合じゃないわよ雄輝。 くしゃん! わたしもだけど、あなたたちの服だって濡れているじゃないの。それに、そうでなくってもここ、随分寒いと思わない?」
それを聞いて始めて雄輝も少しばかり真面目な顔になった。
「確かにこりゃ12月頃の気温だよな……」
上下ジャージの雄輝はともかく、真里砂に到っては競技の時のままの短パン半袖姿でふるえていたのである。それから気づいて、
「マーシャ、それは何だ?」
抱えていた袋の事を尋ねられて、真里砂は今さっき起った事を手短かに説明した。
有翼人種の話を聞かされて、雄輝と鋭は明らかに不信の色を顔に浮かべたが、とにかくその袋はおこに存在するのであり、その中味は役に立つものなのだ。
「とにかく……」と雄輝が言った。
(つづく) .
「僕はまずあのブラックホールまがいの正体を突きとめてやろうと思ってたんだよ。それを雄輝が先に飛び込んじゃったんでやむなく……さ、」
前半は真実だが、後半、特にやむなくの4文字はまったくの言い訳だった。
“コンピューター”と異名をとる鋭ではあっても、バロウズの非科学(S・F)的冒険小説(スペースオペラ)に憧れるくらいの人間味
「そう
「あん?」
真里砂が凄まじい(例の口調の、かつて友人達から“母親みたい”と評された)剣幕でまくしたてようとした時である。
「くしゃん! くしゃん! くしゃん!」
不意に鋭がくしゃみを始めた。
一旦は三回で止んだもので、真里砂が「あら、3でほれられ、ね……」
後はたて居たに水の勢いで、くしゃん! くしゃん! くしゃん! くしゃん! ……くしゃみの大洪水である。
そのうちに真里砂までが鼻をむずむずさせだしたので雄輝が笑った。しかし、
「わ、笑っている場合じゃないわよ雄輝。
それを聞いて始めて雄輝も少しばかり真面目な顔になった。
「確かにこりゃ12月頃の気温だよな……」
上下ジャージの雄輝はともかく、真里砂に到っては競技の時のままの短パン半袖姿でふるえていたのである。それから気づいて、
「マーシャ、それは何だ?」
抱えていた袋の事を尋ねられて、真里砂は今さっき起った事を手短かに説明した。
有翼人種の話を聞かされて、雄輝と鋭は明らかに不信の色を顔に浮かべたが、とにかくその袋はおこに存在するのであり、その中味は役に立つものなのだ。
「とにかく……」と雄輝が言った。
(つづく) .
P14.
「野営できそうな場所を探そう。」雄輝が言った。
袋の中には真里砂用の着変えも入っているという事だったが、袋の口は固く縛ってあって、開けると、後が面倒そうだった。
不意に「あ、」と鋭がかすかな驚きの声をあげた。「雪だ……」。
確かに白いものがちらつき始めていた。
多分風向きが変わったのだろう、先程までわずかにさしこんでいた薄陽は姿を消して、代わりに灰色の厚くたれこめた雲が空を覆っている。「雪雲だわ……」と真里砂。
樹木の間にいて風から守護られているのがせめてもの幸いだった。
下やぶを押しのけかきわけ悪戦苦闘しながら、先頭にたっていた雄輝が、手の空いたすきにジャージの上着を脱いで雄輝が後ろに袋を持ってついて来るかかえて続く真里砂に手渡した。
「あ、いいんだ。僕は?」最後尾の鋭が半畳入れると雄輝があきれて
「おまえなあ、一応男だろ」「あら、女だからって特別扱いになんかしないでちょうだい!」
憤慨して鋭にジャージを渡そうとしたする真里砂の腕を、振り返った雄輝が素速く引き戻した。「真里砂。マーシャ半袖だろ。」
いつになく有無を言わせぬ口調である。 それでも真里砂がぐずぐずしていると、
「俺は妹に借してやったんだぞ。兄貴の言う事が聞けないのか?を聞かない気か」
「 はいはい。……兄上サマ?」
なんとなくとはないsに気押された感じで真里砂はやむなく引き下がった。
確かに幼な慣じみ兄妹同然に育ってはいるが、たまたま一つ年が違ったというだけで兄貴風を吹かされるのはどうも気に喰わない。
とは言え、正直な所、朝昼抜きプラス5000mの全力疾走の後では、この寒さはひどくこたえていたのだ。真里砂は幼な慣じみの荒っぽい優しさに感謝した。
湿ったジャージがなぜだかとても暖かかった。
そんな二人のやりとりを見て、すねたのはまだつきあいの浅い転校生中途編入生の鋭である。
(つづく) .
「野営できそうな場所を探そう。」
袋の中には真里砂用の着変えも入っているという事だったが、袋の口は固く縛ってあって、開けると、後が面倒そうだった。
確かに白いものがちらつき始めていた。
多分風向きが変わったのだろう、先程までわずかにさしこんでいた薄陽は姿を消して、代わりに灰色の厚くたれこめた雲が空を覆っている。「雪雲だわ……」と真里砂。
樹木の間にいて風から
下やぶを押しのけかきわけ悪戦苦闘しながら、先頭にたっていた雄輝が、手の空いたすきにジャージの上着を脱いで
「あ、いいんだ。僕は?」最後尾の鋭が半畳入れると雄輝があきれて
「おまえなあ、一応男だろ」「あら、女だからって特別扱いになんかしないでちょうだい!」
憤慨して鋭にジャージを渡そうと
いつになく有無を言わせぬ口調である。 それでも真里砂がぐずぐずしていると、
「俺は妹に借してやったんだぞ。兄貴の言う事
「
なん
確かに幼な慣じみ兄妹同然に育ってはいるが、たまたま一つ年が違ったというだけで兄貴風を吹かされるのはどうも気に喰わない。
とは言え、正直な所、朝昼抜きプラス5000mの全力疾走の後では、この寒さはひどくこたえていたのだ。真里砂は幼な慣じみの荒っぽい優しさに感謝した。
湿ったジャージがなぜだかとても暖かかった。
そんな二人のやりとりを見て、すねたのはまだつきあいの浅い
(つづく) .
P15.
おまけに鋭は最後尾で、並はずれた図体でぐいぐい枝を押しのけてゆく雄輝と、その後ろにちゃっかり小判ざめよろしく張りついてほとんど枝にさわりもせずに歩く真里砂のはねっかえりを全部うけて、とを通した後の枝のはねっかえりをもろに受けていたもので、もう不平たらたら、悪態ばかりついていた。
おまけに、加えて、くしゃみ、である。
「ちぇっ、ちぇっ、ちぇ!! くしゃん!くしゃん!くしゃん! ちぇっ!」
とうとう雄輝が笑いだして、
「腐るな、腐るな。しかし、“河童”でも風邪はひくんだなァ……」
妙な事に感心するものだが、実際転校早々に“河童”のニックネームを頂だいした鋭は転校以来1日も欠かさず、10月に入ってもまだ、元気いn天然屋外プールへ飛び込んでいたのだ。
「“コンピューター”は温度変化に弱いんだよ。」と鋭がやりかえす。「雄輝こそよく平然としてるね。まあ、ナントカは風邪ひかないって言うからなァ、あ、僕はだれかさんと違って夏風邪はひかなかった。」
「抜かせ☆」
……と、自称“コンピューター”で“河童”の鋭が相手では、単細胞の雄輝ははるかに分が悪い。
雄輝のぶ然とした表情に、真里砂と鋭は顔を見合わせてクスクス笑った。
辺りの様子は、鋭に言わせれば冷温帯性の安定樹林だそうで、小さい頃から朝日ヶ森のただ中で育っている真里砂と雄輝にはおなじみの風景だったが、鋭にはひどく古びていて寂しげに見えた。 冬の森、はまるで廃跡のようなのだ。
天気のせいか鳥影一つ見えず、暗い枝々を通して時折のぞける空模様は、ますます重苦しく雪雲がたれこめている。
雪は少しずつはげしさを増している様子で、小一時間も歩く頃には、かきわけた枝から積りたての綿雪が降りかかってくるまでになった。
「どんどん暗くなって行くなね」 鋭がつぶやいた。「夜までには避難場所を見つけないと……」
「太陽系」第四号連載分。
(つづく) .
おまけに鋭は最後尾で、並はずれた図体でぐいぐい枝を押しのけてゆく雄輝と、その後ろにちゃっかり小判ざめよろしく張りついてほとんど枝にさわりもせずに歩く真里砂
「ちぇっ、ちぇっ、ちぇ!! くしゃん!くしゃん!くしゃん! ちぇっ!」
とうとう雄輝が笑いだして、
「腐るな、腐るな。しかし、“河童”でも風邪はひくんだなァ……」
妙な事に感心するものだが、実際
「“コンピューター”は温度変化に弱いんだよ。」と鋭がやりかえす。「雄輝こそよく平然としてるね。まあ、ナントカは風邪ひかないって言うからなァ、あ、僕はだれかさんと違って夏風邪はひかなかった。」
「抜かせ☆」
……と、自称“コンピューター”で“河童”の鋭が相手では、単細胞の雄輝ははるかに分が悪い。
雄輝のぶ然とした表情に、真里砂と鋭は顔を見合わせてクスクス笑った。
辺りの様子は、鋭に言わせれば
天気のせいか鳥影一つ見えず、暗い枝々を通して時折のぞける空模様は、ますます重苦しく雪雲がたれこめている。
雪は少しずつはげしさを増している様子で、小一時間も歩く頃には、かきわけた枝から積りたての綿雪が降りかかってくるまでになった。
「どんどん暗くなって行く
「太陽系」第四号連載分。
(つづく) .
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