3.雄輝と鋭が見たもの
 
『今夜は野宿』の覚悟を決めて、三人はパチパチと小気味よくはぜている焚き火を背に、それぞれが体験した不思議なできごとを話し合っていました。
 普段、たとえば遠足ではぐれていたのが落ち合った時などだったならば、三人はお互いを見つけたとたんに、途中で見た景色のことやら、その感想やらをしゃべりだしたでしょう。
でも今日おこったことと言えば、およそ信じがたいことばかりで、案外今日あった事は全部夢で、わたしたちは単に霧の中で朝日ヶ森に迷い込んだだけなのじゃないかしらと、それぞれよけいな方へ想いを巡らせては話すきっかけを失って、とうとう夕御飯の後までのばしのばしにしてしまったのでした。
 みごとな夕焼色の空の下、枯れ草の土手に腰を降して、それぞれ離ればなれになっている時に見た物、感じた事、あの不思議な霧の正体についての推測などを準ぐりに話していって、ちょうど最後に真里砂が話し終えた時、頭上に一番星が現れました。
それは、まるでマッチをすったようにいきなりぱっと輝やきはじめ、青空のジュースのひとしずくのような深く澄んだ光をあたりになげかけたものですから、真里砂はいっぺんに心の中まで明るくされたように感じました。
「アルテ! ルマルウン デア!」
思わずそう言ってしまってから、真里砂は慌てて口をつむぎました。
「……いま、君、何語でしゃべったんだい?」
鋭が眉に唾でもつけたいような奇妙な目をして聞き、一瞬、気まずい沈黙が訪れました。
ところが、じゃあ、やっぱりここは、と、瞳をきらきら輝やかせて雄輝が言ったのです。
おまえの生まれた国なんだな、と。
この一言は、かえって真里砂を驚かせました。
自分でも半信半偽でいるものを、いったいどうして雄輝にわかるのでしょう?
雄輝がなかなか話したがらないので、真里砂と鋭が二人がかりで責めたてると、昔々、真里砂が有澄の家に現れたその日に、彼女が同じ言葉を使ったのだと白状しました。
「うそよ。わたしは覚えていないわ。いつ?」
 
 
 
            (未完)

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