☆       ☆       ☆
 
 サキ、レイ、ケイ、ソレル女史の四人が、四人も入るとやや狭く感じられるマンションのLDKで遅い朝食をとっていると、これまたずいぶん遅めに朝のニューズカセットが配送されて来た。
ケイがすぐ壁の映写盤にセットする。
と、聞き慣れた旋律が流れ見慣れたアナウンサーの顔が映り、“昨日午前10時より夜8時まで、2度の休憩をはさんで延々8時間に渡って行われました、第3回臨時星間連合総会の模様をお伝えします……」の声と共に、なんと他ならぬレイの横顔がパネル全体にアップで映った。
「あ! ちょっと! レイよ、レイ!」
「わーっ すごい。あの真面目そーな顔ったら!」
「“そーな”たあなんあのさ、サキ!」
おかげでソレル女史は最初の部分を聞きのがしてしまったのである。
女史が手を上げて制するまでの30秒間、部屋の中では少女たち3人の喚声以外何も聞こえる状態ではなかった。
「……時20分までは、ソレル女史の提出された資料に関する、弱冠の質疑に対して、医師、科学者からなる調査団から応答がなされました。その後1時間半の休憩をはさんでソレル女史の簡単な経緯説明があり……」
 その辺の進行は、むしろアナウンサーよりサキの方が詳しいくらいだろう。なにせ当事者のレイとソレル女史から昨夜たっぷり聞かせてもらってあるのだから。
 
       ☆       ☆       ☆
 
 レイはリスタルラーナでも地球でもない。第三の国、ジースト星間帝国の人間である。帝国とは言っても実際の帝制及び皇帝家の血統は途絶えてしまってから何代にも渡り、現在では数人の枢機卿から互選される宰相職が実権の大半を握っていた。
帝国の首都惑星は、黄色い小粒の太陽“ジーティ神”の回りを巡る、ジレイシャとアンガヴァスの2連星で、地球・リスタルラーナがそうであるように、やはり最長の歴史を持つ文明発祥の地だった。

“ジースト”とは「“太陽(ジーティ)神”の征服地」の意であり、その版図には必ずしも、発生を異にする人類が存在していなかったわけではない。
殊に、首都惑星を形成している二連星、ジレイシャとアンガヴァスの間には、現在に至るまでジーストの文化と政治形態に多大な影響を与え続けている長い確執の歴史があった。
 
 
 詳しい経緯をお知りになりたい方は、図書館へ行って14年7月からのニューズカセットを参照されたい。ほとんど連日関連記事が乗っているはずである。
歴史の苦手な方の為にあえてここで説明を加えるならば、要は、現在ソレル女史始め友人の科学者達数人は、新しい星間国家ジーストの発見と、そことの……

 
             没。
 
 地球統和紀元41年、つまり新紀元  宇宙暦  1年に、ここに居合わせているケイ(ケイト・エレンヌ)の両親で、まだ未婚だったケティア・サーク、カート・エレンヌ両大使が、友好通商及び全面的な文化交流をも含んだリスタルラーナ=地球間完全平和条約を取りつけてから、はや13年たつ。
新しい宇宙時代の黎明期を迎えて、リスタルラーナ星間国家連合と地球連邦政府とは、従来の10パーセク内外という守備範囲を一挙に越え、互いに結びつかんとして空漠とした宇宙空間へ着々と植民の腕を伸ばしつつあった。
エネルギー源の絶対的不足を訴え続けて来たリスタルラーナの、進んだ技術に、若い国地球が結びついて初めて成し得る好挙である。
 (わたしは宇宙時代の一番最初の人間だ)
サキはごく幼ない頃から自分の誕生日を誇りに感じて来た。
つまり、14年前のその日、4月3日に、宇宙人“襲来”の最初の誤報にショックを受けた病弱なサキの母は、その記念すべき日のうちに7ヶ月目だったサキを早産したのだ。
その母も無理なお産から回復せずに6年後サキの初等課入学に安心したかのように息をひきとり、その後サキは殆ど6つ歳上の姉サユリに育てられた。
 誕生の際、「母子ともに危険」だと宣告された難産から無事サキを救い出してくれたのは、女性大使ケティア・サークのとっさの最良でまわされて来た、リスタルラーナの宇宙船医だった。
その話を繰り返し聞かされて育った少女が、いつかリスタルラーナへ行ってみたいと憧れるようになるのも、まあ当然と言えば言えるかも知れない。
当時はまだエネルギー源の問題から、地球−リスタルラーナ間の定期航路は最低でも丸二年はかかると言われていた。
 したがって有資格者以外の一般人の渡航はまだまだ難しく、ましてや初等課2年の児童に許可がおりる可能性など、万に一つもなかったのである。
が、宇宙暦8年に公表された“二国家間交換留学生団募集要項”が、憧れを実現可能な夢に変えた。
幼児教育課程において既に一年飛び級(※)をしていたサキは、両親から譲られたIQの高さをフル活用してなんとかかんとかもう一年をかせぎだし、浮いた一年を徹底した受験準備に費した。
(※) サキの場合、4歳時に幼育課2・3年の進級試験を同時に受け、両方ともうかったので、2年の課程はとらずに3年へ上った。ただし誕生日が微妙なので当人はそのことをすっかり忘れていた。

そして留学メンバー選考を一手にまかされ、地球系最高の水準を誇っている教育機関アロウ・スクールを経て、なんとかかんとかギリギリの成績で留学資格を手に入れてしまったのである。
留学先は、地球−リスタルラーナ定期航路のまっただ中。
両系の親密な発展と繁栄を祈って、どちら側からも一年行程という空間にわざわざリスタルラーナ本星から移転して来た、リスタルラーナ系の最高教育機関S.S.S.(スリーエス)(スリナエロス・ソロン・スレルナン)(と、地球学生から憧れと尊敬をもって呼ばれている)科学部門だった。
 が、サキは留学後半年、12歳の時にそのS.S.S.(スリーエス)からソレル女史のもとに引きとられている。
事情があって、そこにいることができなくなったのである。
以来2年半。
2星系屈指の女性科学者ソレル女史が秘密裡に運営しているESP研究所、可動性宇宙基地(ベース)エスパッション号で、高等教育とESP能力の訓練を受けながら、表向きはソレル女史の側近兼ボディガード(!?)として、サキは現在けっこう優雅な毎日を送っている。
そして……
 
       ☆       ☆       ☆
 
 
 
 
 
☆ 大使が条約を取り付けたって表現はどんなもんかね。大使1人の力じゃないだろうに Sep.20<by例によって姉★( ̄^ ̄;)★
……う〜るせぇっ★ 2歳も下の人間の学力にイチイチ難癖つけて「偉ぶりたがる」テメェのほーが、よっぽど大人げも教養も無いわっ!! ★( ̄^ ̄;)★ 
 
 仙魔人(エスパッション)集団(サークル)
 
   1.
 
 残暑のきびしい秋だった。
巨大都市リスタルラニア  いや、実は首都惑星リスタルラーナそのものが一つの超巨大都市なのだが  でも、この辺りまで来ると説明不足。、“真夏”というのは暦(こよみ)の6〜7月にかけてなのである。したがって、8月の今は、“秋”。
が、小部屋の窓は『非自然的』な冷暖房を迫害したがるサキの好みで開け放ってあり、内部は朝っぱらからかなりの蒸し暑さだった。
加えてご丁寧な事には、すぐ窓下から始まる公園地区の雑木林の中で、リスタルラーナゼミがギンギンワンワン鳴きたてているのである。
極寒地育ちのレイには、とてもじゃないが寝ていられるものではなかったらしい。ベッドの隣でごそごそやっている物音にせっつかれて、サキもしかたなく眠りからひきずりだされた。
無精がってまずは片方だけ薄目を開け、壁に埋め込み式の時計に目を遣る。
まだ、かなり早いはずだ。
 が、壁にはいつもの時計はなかった。
   ああ、そうだったっけ……。
サキはようやく思い出して、のそのそ起き上がった。
ここは船の中の自分の部屋ではないのである。
周回軌道上にある研究所兼居住用宇宙船エスパッション号に戻る暇がなくて、昨夜はそのままこのソレル女史の小さな臨時用マンションに泊まり込んだのだ。
「……あ、ふ……」
眠い目をしばたいてあくびをする。枕もとのナイトテーブルから腕時計を取り上げると……あれ、もう8時半だ。9時間の眠っちゃったのか  やれやれ。
何がやれやれなのか、とにかくしかたがないので起きる事にした。
レイはと言えばもう既に服を着がえて  彼女はいつも毛布の中で着がえてしまうのだ。幼少時からの習慣で  ベッドから出て行くところだった。
サキもベッドの端に腰掛けて、頭から服をひっかぶる。
なんだか靴をはくのがおっくうだった。が、仕様もない。ここは自分の生まれ育った家ではないのだ。
地球でも、リスタルラーナでも、常に床面を清潔に保って裸足で生活する素晴らしい  サキにとって  風習は、既に事実上姿を消して久しかった。
 さて着変えると言っても替えの服なぞ持って来ているわけはない。どうせ昨日と同じ服に、いい加減摩耗しだした髪止めでとかしもせずに伸び放題の髪をひっくくると、それだけで朝の仕度は終りだった。後はお腹になにか詰めこめば良い。
 化粧? 整髪? ……!?
例えそろそろさほどおかしくはない顔つきになりつつはあったとしても、14歳と14歳半のサキとレイとはどちらも自分の持つ美しさに気がついてはおらず、したがって自分を飾る事に対してもまだ何の興味も持っていないのだ。少なくとも普段の時は。
 「サキ」
「うん?」
なおもぼけっと覚めきらない顔で腰かけている彼女にレイが窓辺から声をかけた。
「来てみ、ちょっといいながめ」
乗りだしつつ言うレイ自身も、白い肌に青色の髪がよく映える。
声の調子につられて立ち上がったサキは、レイの気紛れな金色の瞳を見ながら、もうずいぶんの間朝日というものを見ていないと思った。 それにしても、どうしてこう気分が晴れないのかな。あながち眠気のせいばかりでもないようだけれど。
「ああ、わ、ほんとだ。」
確かに一日の始めにながめるには素適な景色だった。
窓下5m、距離にして10mくらいのところから種々の緑がそよぐ公園地区の木立ちが始まっており、太陽は朝日と呼ぶにはやや昇りすぎのきらいもあったが、それでも遠く小さく青白色の安定した光を投げかけて来る。
空は、金緑色のかかった水色だった。(※)
 二人ともしばらくは無言のままたたずんでいたが、しばらくすると
「あ、あ、あ。また会議場かあ」レイの方が先に口をきいた。
「あは、大変でしょう。マス・コミ相手にするのは」
「そーおサ。それを昨日は車をまわして来るとかなんとか言っちゃ先に逃げちまって、この薄情モン。」
「だってあの場合わたしら関係ないもん。それにちゃんと頃合い見はからって助けに行ったじゃない」
「よく言うよ。10分も人を質問責めに合わせといて」
「それが“頃合い”だったんだよ」
「はっ!」
 レイがすねてみせるのを横目に、サキはくつくつ笑いだした。
 サキ・ラン=アークタス14歳と4ヶ月目。なる顔のイラストあり。
(……だって。レイが真面目な顔してあんなに行儀良くしてる図なんて……そうそう見られたものじゃないんだもの……)
 
聞きつけてレイが、サキの額のすぐ横の所でパチンと軽く空気を弾けさせた。
サキは慌てて“遮蔽”を降ろし、さっと瞬時に臨戦体制に入る。
  つまり、背後のベッドに飛び乗って取っ組み合いのために身構えたのである。
このいたって効率の良い原始的スキンシップ法を二人の間に持ち込んだのは、もちろんレイの方だ。
 が、その時、ちょうど階下から  この建て物は丁度上二部屋下二部屋の2階層式マンションになっていたので  お呼びがかかった。
「サーキ! レイ! 食事ができたってー、降りて来て!」
お仲間兼二人の被保護者、2つ年下のケイが叫んでいる。
サキとレイはちらりと互いに見交すと、無言のまま先を争ってドアへ突進した。
サキは目覚めた時の心の曇りを、すっかり忘れてしまっていた。
 
              ☆
 
 
「視ていましたよ。またやってましたね、あなたがた。」
階下  実は三階  のLDKに飛びこんだ途端、珍しくエプロンなどした姿のソレル女史が、非難と言うよりはあきれかえったという声でいきなり話しかけた。
「まったく嘆かわしいですよ二人とも。14歳にもなったというのに……」
「おはようございます女史。レイはもう3ヶ月で15になりますよ」
 サキが朝のキスで、さっさとその口をふさいでしまった。
 
        ☆         ☆
 
 

(※「空は金緑色のかかった水色だった。<ちょっとたんま! 教科書見て考えておくから! Sep.15」なる姉の書き込みあり。……ってことは、姉が高校で地学を取ってて、私がまだ中学2年時点……の文章だということだ? ☆(^◇^;)☆
 
★さらにラスト部分に「ごちゃごちゃぬかす割にはイギリスファンタジイ風対応だな Sep.20」とか書いてあるし……★( ̄^ ̄;)★

 
 うぅ〜るせぇぇぇぇっ!!
 中坊にそんな高踏的なSF設定ができるわけないだろうっ!

★( ̄^ ̄;)( ̄^ ̄;)( ̄^ ̄;)( ̄^ ̄;)( ̄^ ̄;)( ̄^ ̄;)★””””
 
 
 
 ってことで、そろそろこの辺りから姉に自分の原稿を見せないように隠し始めた頃……だと思われます★ (^◇^;)d

 
 仙魔人(エスパッション)集団(サークル)

☆ 11〜17歳位にかけてのサキの百面相(w)のイラスト群あり。
 
  5000÷3.26=154
  163÷50=3.26   1パーセク≒3.26光年
 
 
 統和 6年 地球統一、遂に完了。
 統和12年 統一者リースマリアル没す。開発途上惑星20余となる。
 統和40年 リスタルラーナ星間連合より全権大使飛来。
 統和41年
(宇宙暦元年)リ・地平和条約締結。

宇宙暦 2年 文化発展15ヶ年計画開始。
        第一回研修団リスタルラーナへ。
 
宇宙暦10年 S.S.S.(スリーエス)
       (リスタルラーナ最高の教育機関)へ、
       第一期交換留学生団出発。
 
        ×   ×   ×
 
宇宙暦14年 リスタルラーナのソレル女史、第三の星間国家
       ジーストを発見。
 
 
そして14年 8月 9日 ……
 
 
               .
 
        ×     ×     ×
 
「さ、では」とソレル女史が言った。
「各自、自分のやるべき事は了解していますね?」
細いシガレロを取り出して優雅に唇にくわえる。紫煙がたなびくが、無論これは一昔前のような喫煙者以外にまで害を及ぼすものではない。リスタルラーナに地球からこの因襲が伝わった時、化学者たちがいたって有効なフィルターと金属筒で、すっかりそれの性質を変えてしまったのである。
ソレル女史の言った各自、はるばるジーストまでソレル女史にくっついて来たサキ、レイ、エリー、ケイの4人は、そろって女史の執務室とも言うべき部屋に集まっていた。部屋、と言ったがこれを船室と呼ぶのは正確でない。ブルーを基調にした飾り気のない部屋はしっとりとした雰囲気をかもしだしていたし、そもそもこのエスパッション号自体が“船”ではない、可動性の基地(ベース)なのだから。
「はーい、女史」
最年少、今年12歳のケイがなんとも愛くるしい声で答える。
サキはこの子を見るたびに思うのだ。このと言ったってサキと2つ違うだけなのだが、(うっそでしょ〜〜〜。わたし12ん時だってこんなに無邪気じゃなかったよーーー)。……。
栗色とこげ茶色の中間あたりだろうか、髪と同系色の瞳がいかにも素直な性格を思わせる。やはり3歳この方宇宙空間で純粋培養されていると、こういう子ができてしまうのだろう。
「まず」とエリー(エリザヴェッタ・アリス・ドン=レニエータ!)が話を引き次ぐ。
「ジースト本星の周回軌道に乗った時点で、あたくし達4人は各自別れて行動する事になります。ケイは御両親のエレンヌ大使夫妻の乗っていらっしゃる船へ移動して、そちらの資格で入国。  これは年齢が足りないからですが、あたくしとサキ、サキは少し変装しなければなりませんわね  あたくし達は女史の秘書兼身辺警護(ボディガード)という事になりますわ。そして……」
「あたしとミス・クラレンが留守番さ。」とレイ。
ミス・クラレンはソレル女史の私的秘書(プライベート・セクレタリー)だ。今はソレル女史のすぐ後ろにひかえているが、身障者排斥の風潮が強いジースト上流社会に降りて行くのは、いくら賓客扱いとは言っても安全ではないだろう。彼女は盲目なのである。
「はっ」レイが両手をホールドアップ、といった感じに開いて、行儀悪く椅子を後脚立ちにした。どうせ留守居役などと言っても、着陸してから頃合いを見計らってさっさと地表までテレポートしてしまうもぐりこんでしまう心算りだが、元ジースト帝国人で帝国最大のお訪ね者であるレイは、正体がバレでもしたら“安全でない”どころのさわぎではない。見つかったその瞬間に最高の悪意をもって帝国警察に迎え入れられるだろう。レイはそんな自分の故国の状態が腹だたしくてならないのだ。
 レイとエリーはすこぶる仲が悪い。レイにとってブルジョア階級とは“敵”の代名詞に他ならないし、まして王侯貴族の娘ときては何をか言わんやである。そして、エリーにはレイの粗暴な態度とむきだしの敵意がなんとも我慢¥まんできないのだ。
今も、レイの悪意は転嫁してエリーに向けられていた。
《何ですの!? その眼は》
《眼? 眼は目だけどね。あんたちっとあ普通の言葉使えんの?》
エリーがぐっと詰まる。テレパシーで二人だけにしか通じない会話だったとは言え、顔つきを見ればまわりの人間にわからないはずがない。
しばし、気まずい沈黙。慌てたサキとケイが同時に口を開いた。
「ま、まあまあレイ……」
「それで? 女史。そこから後の予定は変更ないの?」
ソレル女史がケイに合わせて本題に戻る気配を見せたので、その場はひとまず治まったが、レイの凄じい目つきを見て、いつエリーがかんしゃく玉を爆発させるかとサキは気が気ではなかった。
……ったく☆
 
 結局、ソレル女史はたいして予定(スケジュール)を変更する気はないようだった。
着陸まであと3時間。ケイは若い航法士の一人に送られて、使節団の母船に乗っている両親のもとへ小型船で「お引っ越し」して行った。
レイは、仲の良いサキがここ当分エリーと組んで出歩く事になるのが気に喰わないらしく、すこぶるヒステリックな顔で自室に引き上げてしまっている。
「さ、サキさん」
反対にエリーはひどくうれしそうだ。彼女はまだエスパッションに加わって間もないので、一番友好的なサキと行動できるのにほっとしたのだろう。ま、レイと組んだらどーいう事になるやら察しはつくが。
「あたくしはこれでも16歳にしては大人っぽい方だから良いのですけれどもね、あなたはまだ14歳で就職年齢に達していないのでしょう。身分証明書は偽造してあるのだから、奇異に思われないよう少し姿を変えなければなりませんよ。」
サキはエリーの口調に思わず苦笑した。考えてみれば、ひと月前にエリーがやって来て以来、2人っきりで話す機会はこれが初めてだ。
小国とは言え一国の王の長女として目一杯気位高く育って来たエリザヴェッタは、連邦屈指の科学者であるソレル女史に対しては非常にいんぎんで社交的な態度を取るが、大使夫妻の娘のケイはともかくとして、代々西欧諸国家では蛮族と見なされて来た東方騎馬民族の血をひくサキや、故国では(いわれのない罪ではあるけれども)返逆罪で最高刑が待っているレイを相手にした時、どういう態度をとるべきなのかさっぱりわからずにいるようだった。
へりくだった口をきいてみたり、今のように侍女をさとすような口調になったり、下男に命令する声音を出してみたり、いろいろするのである。
 時代錯誤(アナクロ)だ、とサキは思う。地球において全ての身分制度が禁止されてから既に半世紀はたっているのである。祖父が、アイン族(ヌウマ)最後の族長として統一政府と戦った時代だ。
「ねえ。」 たいして考えもしないうちに、声の方が先に口に上った。
「わたし達がソレル女史について一つの目的を仕上げようとして集まって来ているのである以上、わたし達は“仲間”だと思うんだけど、どう?」
突然の質問に、明らかにエリザヴェッタは面喰らったようだ。
……「あたくしは、これまで他人(ひと)と対等な交際、というものをした事がないのですわ」
いきなりへりくだった口調になる。あーもうやだ。頭痛がして来る。
サキは頭をかかえこんだ。う〜〜と一声。うなる。
「いいや、いいよ。要はお化粧しろって言うんでしょ。面倒みてよ。」
そして何か、エリーの顔がとてもなつかしいもの  どうしても思いだせない  に似ているように思われてくるのだ。
その後長い間、サキはそれを思いだしたくて記憶巣をさぐりつづける事になった。
 
 
 
 
 ジースト到着時点から始めて、ミステリー風に描写を続けながら続々挿話をぶっこんで行き、リア、サキの恋、レイの想い、過去回想など全部通してオーダの事へうづく、ひとつのミステリー大系。

リゲルB
デネブA
 
 ジースト到着時点から開始すること!

 
 
「!
 見えた! ソレル女史。あれがジーティ太陽系ですよ」
ワープ終了と同時の航法士の声に、まずまっ先にレイがパネルの下へすっ飛んで行った。
続いてサキが後を追う。
「……あれが、……ジーティ? ……」
レイの視線は喰い入るようだ。自分の国の首都惑星を照らしている太陽を始めて見るってのは、いったいどんな感じなんだろう。サキはそんな事を考えながら、恒星(ジーティ)とレイの顔を交互に見比べていた。
あ、あのB型恒星はまるでレイの髪と同じ色合いじゃないか。
してみるとレイの見事な青髪は、地球人の金髪みたいな感覚になるんだな……。
サキは全く無関係に、常々レイが自分の髪をあるごとに自慢しては大事に伸ばしていた理由を納得した。レイの髪はサラサラに長く伸びて、今はもう背中の半分ぐらいを見えなくしているのだ。
向うではソレル女史、エリー、ケイの三人が、安全ベルトを外したまま、リクライニング・シートに腰掛けて何か話し始めている。右から順ぐりに銀髪、金髪、つややかな栗色。
無意識に自分の、灰色がかった薄茶色い髪に手をやっている事に気がついて、サキは慌てて頭を振った。
この髪は昔からこんな色をしていたわけではない。全ては二年前、十二の年に変わってしまったのだ。そう…………。
けれど、それを思い出してはならない事を今ではサキも知っていた。あの事件を思い起こせば、サキは再び自己の暗闇に陥ち込んでしまう事だろう。
つとめて忌わしい記憶を呼び起こすまいとしているそんな
彼女を知ってか知らずか、航法室を出しなにソレル女史が振り向いて声をかけた。
「サキ、レイ、いらっしゃい。最後の打ち合わせをしておきましょう。」
「へ〜〜い、サキ、行こ」 いつもの調子で返事をすると、これはパネルを見ながらも、ちゃんとサキの表情に気がついていたらしい。レイがやや乱暴かつ強引にサキの腕を引っ張った。
 
 時は新暦の14年10月。地球−リスタルラーナ、二星間国家が初めて接触してより15年目の秋である。
リスタルラーナの進んだ技術と、つい40年程前に地球本星内の統一を終えて宇宙に乗りだした地球の未だ枯渇していない資源とが結びついて、両国は順調に発展の輪を広げつつあった。
が、「枯渇していない」はあくまでも欠乏状態にない、というだけの事であって、「満ち足りている」には程遠いのだ。殊にエネルギー問題は深刻だった。
リスタルラーナ系星間連盟では、20数年前にエネルギーの主要産出国、リランとラクの2星を相互間の戦争で失ってから、エネルギー鉱業は事実上破綻していると言って良く、地球系星間連邦でも国交開通当時に期待された程には輸出量を伸ばせていない。
リスタルラーナと違って技術的にはまだまだ遅れている地球系は、国内で効率悪く使用されてしまう燃料が多いのだ。
そんな時、第三の星間国家、ジーストが、全くの偶然からソレル女史に発見された。ジースト星間帝国は技術レベルにおいては地球・リスタルラーナに比べてはるかに貧弱で、わずかに危険度の高いワープ航法が行われる他は恒星間航行のほとんどを未だに光速飛行に頼っている。
しかし利用法のまずさから大部分を宇宙空間に帰納させてしまっているとは言え、ジーストの帝国内では地球・リスタルラーナで知られているどんなものにもましてはるかに効率の良いエネルギー鉱石“ゼン”が採れる。
リスタルラーナ使節団は、今、ソレル女史を始めとした多数の科学者をも含めて、友好通商条約調印の為にジースト本星へ降下しようとしている所だった。
 
(速いもんだねえ、2週間か。」
(150パーセクの道程(みちのり)を?)
かつて地球−リスタルラーナ間を2年の年月をかけて旅して来た経験を持つサキは、近づきつつある青い恒星をながめて、あらためてそう思う。
(女史が研究室で合成した疑似“ゼン”でさえこうなんだもの。本物をリスタルラーナ科学技術の中に放り込んだら、いったいどれほどの事ができるようになるだろう。地球−リスタルラーナ定期便はきっとわずか1週間くらいって事になっちゃうよ。辺境星域の探険船も、きっとひんぱんに飛びたつようになるだろうねえ)
 
 
          ×     ×     ×
 
 
   おかしいなぁ……
11歳のサキ・ラン=アークタスはさっきからしきりに後ろの方ばかり振りかえって見ていました。
どうやらあのここへ着いて以来つきまとってくる視線は二つ別々の方向から来ているようで、一つはわりあい近くの、年長の(リスタルラーナの)生徒たちが固まっている方、もう一つはずっとむこうの壁面の、中二階ほどの高さにもうけられた、ホールを見おろす廻廊

 
      ヘレナから見て
 
 
 地球人留学生団のための歓迎パーティーは、会場の準備もすっかり終って、あと15分ちょっとで開会宣言がなされるはずでした。
すらりとした薄桃色の上品な民俗衣裳(ドレス)の、胸に澄んだ真珠色のバラのつぼみのコサージュをつけて、ヘレナは静かな色合いの肩にうちかかる金髪は結い上げずにおいたままで、少し早めに会場へ出て来ました。(*ヘレナのドレス姿のイラストあり。
見ると、ホールの反対はずれの方で、妹同様でもある三つ年下の“かわいい生徒会長”(リトル・チェアマン)サキが、しきりにそわそわきょときょとしています。
何かしらと思って近づいて行くと、向うも気づいて寄ってきました。
「どうかしたの? サキ」
 
 
 
 そろそろ開会になろうかという、地球人交換留学生団歓迎のパーティ会場で、11歳のサキはなぜかしら落ちつかなくさせる二つの視線を感じて、そわそわと不安げにあたりを見回していました。
不可解なそのうちの一つは、どうやらリスタルラーナ側の、S.S.S.(スリーエス)スクール中央委員長、フォレル・シェットランド・ベルアイル  通称フォーラ  からのものであるようです。
サキが振り向いて見た限りでは、彼女は決してサキの方を見ていたりはしなかったのですが、それでもサキには不思議な事に、フォーラの全神経が自分の上へ集中しているのがわかりました。
  もう一人、見つめているのはだれだろう?
いや、それより、サキにとってはフォーラの視線の中に混じっている、淡い憎悪のようなさしこむような鈍痛感の方がより気にかかることでした。
  どこかで感じた事のある感覚………………。
サキの瞳はぼおっとかすんで可視光線を捕えなくなり、束の間彼女は無意識層の中で古い記憶をまさぐってみました。
 ぽん!
だれかに肩をたたかれて、サキは思わず声をたてるところです。
「ぼうっとしてどうしたの? サキ。かわいい生徒会長さんはあたしたち第一陣留学生(ファーツアロウ)の代表なんですからね。しっかりしててちょうだいな。」
三つ年上の親友・ヘレナ・ストール。
「そんなの知らないよォ副会長。……あのね」
“オチ・カ”のサキは伸びあがってヘレナに耳うちしました。
いつものようになるべく甘えた素振りでと努力はしましたが、忌まわしい記憶がからまって、どうしてでも声だけは不安な響きをともなってしまいます。
「あそこにいる中央委員長(フォーラ)ね、昔のサユリ姉さんと同じ目をしてわたしを見てる。」
ヘレナの顔がさっとこわばりました。
言わない方が良かったのかも知れないと後悔するけれど、いつも考えるより先に舌が滑りだしてしまうのがサキの欠点なのです。
ヘレナが目顔で問い返すのに、サキはうなずいて考えました。
何にしても、一度としてはずれた事のないサキのかんが不安を告げている以上、少なくともヘレナにだけは話をしておいた方がいい  何が起こるのかはわからなくても。
 
 
               .
 
◎二人はごくあたりまえな普通の人間でした。
 その二人に、人をしてとんびが鷹を生んだと言わせるような美しい娘ができました。
その子の顔立ちはやや異常と言えるほどによく整っていて、赤ん坊nふさわしい愛らしさというものには欠けていましたが、十年後、二十年後の姿が今から予想されました。
  なんて美しい目をしてるんでしょう。まるで冬の空のような澄んだ金色に光っているじゃありませんか。
  それにどう? この髪。こんなみごとな青髪は見たことがありませんわ。
  これなら、未来の一級市民夫人だって、夢じゃありませんわねェ。
上品ぶった、(もう少しで一級市民権に手の届く)二級市民夫人が思わせぶりに言いました。
この夫人には今年三歳のドラ息子がいたので……。
 二人はつい最近やっと二級市民権を得たばかりで、まだ気の遠くなるほどの借金が残っていました。
そんな中で子供を育てるのは楽ではありませんでしたが、一生懸命働き、むだなお金は使わず、役人の目をごまかせそうな時にはぬかりなく立ちまわって、そでの下をきかせることも覚え、小さな二人の商店は着実に収入(あがり)を額を増やしていきました。
  うん。そうだな。
夫は、よく娘の寝顔をながめて言ったものです。
 
 
 
(未完/レイの乳児時代のエピソード〜☆)
 
     二、記 者 団
 
 サキたち三人は一瞬ソレル女史の言った意味がわからずにキョトンとした顔になりました。
地球連邦の会議はリスタルラーナ側と同じ時間に行われたはずです。
と、いうことは、地球側の会議の結果がリスタルラーナに届くのは、早くとも今日の夕方までということになるのです。
『なにをそんなに驚ろいているの?』と、ソレル女史。
こういう時の女史は、ケイがいたずらを考えている時と同じ目をして笑いました。
『だけど女史、いったいどうやって……?』とレイ。
『まだ地球国内にも公布されていない時間ですよ。』
『私の勢力範囲がリスタルラーナだけだと思っていたのなら間違いですよ。古来から自分が行く事のできない場所に代理人(エージェント)を置くのは当然の事とされていますけれどね。』
ソレル女史はいったん口を切って三人が納得したかどうかを確めました。
『ケイの試作したテレパシー感知器の性能がいいと言って喜んでいましたよ』
 わあっ と、三人は喜びの声を上げました。
『それじゃわたしたちの“仲間”なのね!?』とケイが言いました。
『どんな人なんですか。名前は? 年は?』とサキが言いました。
『何級能力者なんですか』と、超能力者を別段珍しいとは思っていないレイが落ち着き払って聞きました。
『そうですね。正確には計った事がないけれど、だいたいBの上かA級ぐらいでしょうね。』
ソレル女史は最後の質問にだけ答えました。
その話は食事をしながらゆっくりすることにしましょう、と言うのです。
『今はその暇がありませんからね』
 女史の言う通り、四人が歩いて行く先、連合本部ビルの表玄関には、多勢の新聞記者がたむろしていました。
 「ギャア!!」 レイがいつもの癖で叫びました。
「ひょっとしてあの連中、あたしたちのこと待ってるんじゃない!?」
「そりゃしかたないよ。なんていったってレイが今日の会議の主役だったんだから。」
「そうそう。ね、サキ、わたしたちは先に行って反重力車(くるま)を出して来ましょうよ。」
「う……ん。そうだなァ。わたしらは今のところ関係ないんだし……」
 サキはしばらくためらっていました。レイを見すてるのも悪いんだけど……。
でも結局、目の前の記者陣にはかないません。
ケイに引っぱられて走りだしたサキにレイが一言、
「裏切り者ぉ!!」
ソレル女史が笑いました。
「さ、行(ゆ)きますよ、レイ。話していい事と悪い事と、うっかり言葉じりをとられないように気をつけなさい。なにしろ総会専門の記者のしつこさと言えば、ことわざに引用されるぐらいのものですからね。」
「だいじょうぶですよ女史、間違えやしませんから。……しっかし、議員集団の次は新聞記者か……。ウエーッ。」
 ソレル女史が、かつてはいつでも動いていたリスタルラーナ式の自動回転扉を手で押して一歩外へ踏み出すと、……わっ、と記者の群れが押し寄せて来ました。
 
(☆Gペン入れた「挿し絵風」絵柄の正装の女史とレイのイラストあり)
 
初めの十分程はレイもあまりひどい目に合わずに済みました。
記者たちが、異星人に好奇の目を向けながらも、まず取材しなれているソレル女史に話しかけたからです。
彼らは、かつての地球の新聞記者ほど無作法ではなく、質問を始める前にはかならず挨拶を交わすことになっていました。
ことにソレル女史には礼儀正しく振る舞います。
彼女が優れた科学者であるということより、彼らにしばしば特ダネを提供するということのために。
 ソレル女史は彼らに、レイの母国ジースト星間帝国のことや、レイが女史のもとに来た時のてんまつ、ジースト星系で産出される多量のそして地球=リスタルラーナにはないエネルギー鉱石のことを、かいつまんで話しました。そして、会議で話したと同じ演説をもっと手短かに、わかりやすく話し、最後にこう言って口を切りました。
「わたくしは、リスタルラーナの頭脳たる連邦議員のみなさまが、母星の利害などにひきずられて判断力を失ってしまうようなことはしないと信じています。」
 もちろん、この言葉が活字になり、各議員が母星と連絡を取る前に目を通すことを予想した上でのセリフです。
いつも自星の首脳陣としめし合わせて来る何人かの議員に、先手を打ってクギをさしておいたわけです。
 ともあれ、これでソレル女史が話すことはなくなりました。
レイは(内心嘆息をつきながら)にこやか〜に笑って、やつぎばやな質問に答え始めました。
  リスタルラーナに来たのは何年前? どこへ?
4年前、10の時です。女史の宇宙船の中にいきなりはきだされた。
  そこのところがよくわからないのだけど、あなたの口から説明してくれる?
はい。ええと、ジーストはあまり科学が発達してないんです。それで宇宙での事故がよく起こるんだけど、その時できた空間のゆがみではじきとばされて来たらしいんです。まあ、一種のワープみたいなものだと思うんだけど……
  『らしい』というのは?
実は、あたしにもよく解らないんです。事故の時のケガでところどころ記憶がなくなっちゃってるんですよね。
  なるほど。
  ところで、二ヶ月前と先週と、二回に渡ってジースト政府との交信がありましたが、あなたも参加しましたか?
はい、一度目の呼び出しの時に。
  その時だけ?
ジーストは身分制度がうるさいんです。帝政ですから。それであたしみたいな身分の低い人間は、元首と会うことは許されない。
  もう一度聞くけどあなたの名前は?
レイ。シスターナ・レイズです。
  自分の星に帰りたい?
 かなり鋭い質問から愚問としか言いようのないものまで、実に延々と長々しく質問が続きます。
最初のうちは落ちついていたレイも、20分もたったころにはすっかり混乱してしまいました。
『女史!!』
ぐあいの悪い質問に黙秘権を行使しながら
『この連中、いつもこんな早口なんですか。』と聞きました。
異国人というのはこういう時に便利です。都合が悪い時は意味がわからないふりをしていればいいのですから。
『そうですよ。むしろ普段より遅いくらいですね。』
 いつもこんなのとつき合っていられるなんて、女史はいったいどういう神経をしているのでしょう!!
レイは(もともと短気なので)もう質問を聞くのもいやになりました。
 
 
               (未完)
  
 
 
(※推測するに、コレ書いてたのは『指輪物語』(原典)を読んだ後で、アニメ映画版を見る前。かな? 竹宮の『地球へ』と萩尾の『11人いる!』の影響モロうけまくり……ていうか既に「模写」状態だった……から脱却して、「海外児童文学または海外幻想文学(翻訳ファンタジー物)の挿し絵風絵柄で、「自分で文章書いて挿し絵も描く!とか、考えていた頃のやつ……☆(^◇^;)☆)
 
     一、総会本部
 
 リスタルラーナ星間連合本部の最上階にある総会会議場。
臨時総会を終えて退場して行く各星代表の通るロビーからは少し離れた、専ら参考のために会議に招待される学者たちが使用することになっている小ロビーの一つで、今度のような重大会議に関係を持つにしてはおよそそれらしく見えないような少女が二人、じれったそうに立ったりすわったりしながらだれかを待っていました。
 一人は、海のほの蒼い夜霧のような長い灰色の髪に、不思議によく光る黒い瞳をした一四、五歳の、背の高いスラリとした少女で、頭を動かすにつれて髪の間から見え隠れするやや黄色みのかかった白い丸い耳から見て、地球人のようでした。
 そしてもう一人の方はまだ十一、二歳、小柄でかわいらしい少女で、やわらかくカールした薄茶色の髪にふちどられた色白の顔に、大きなエメラルドの瞳が並び、そのななめ上につきだしたつんととがった幅の広い耳が、彼女がリスタルラーナ人であることを証明していました。
「遅いなあ。なにをやってるんだろう。」
背の高い方の少女がまたつぶやきました。これで三度目です。
「あわてても仕様がないわよサキ。」
「だけどケイ、会議が終ってから十分はたってるんだよ。」
ケイと呼ばれた方はそんなやりとりをしながらもゆったりとソファーに腰かけて悠然と本を読みつづけていましたが、サキの方は立ったり座ったり、一時もじっとしてはいられません。
「あ、来た!!」
 会議場の自動扉が静かに開いて、連邦屈指の女性科学者であるリスタルラーナ人のソレル女史ともう一人、青い髪にチラチラ光る金色の瞳(め)をした背の高い少女が出てきました。
この二人こそが今日の会議の中心だったのです。
「や!サキ。はてたよ〜〜。なにせお偉方の面前で一時間も説明させられてさ。言葉使いは気をつけなきゃならんし思わぬ質問は飛びだすし……もう冷や汗のかきっぱなしよ。」
 そうサキに話しながら、なおも持っているレポートで顔をあおいでいる少女は、名前をシスターナ・レイズと言い、その瞳の色や細長い耳の形から、地球・リスタルラーナのどちらにも属さない種族であることはあきらかでした。
『ごくろうさまレイ。で、どうでした?ソレル女史。』
ここからが重要会議です。サキは預かっていたバッグと上着を二人に渡しながらテレパシーを使いました。
『まあまあのできですよ。ほとんどの星は賛成しましたし、あと二、三の案件が改正されるのを待って……そうね。順調に行けば次の臨時総会には九十九パーセント決定するでしょう。』
やはりテレパシーで答えながら無造作にコートをはおったソレル女史は、今度は口を使って、どこかで食事でもしましょう。と三人を誘いました。
大ロビーほどではないとは言え、けっこう人の通るここで、テレパシーだけの会話を交わしていてはあやしまれます。
「それとも」と、女史は笑ってつづけました。
「“果ててしまった”レイは一刻も早くエスパッション号へ帰りたいのかしらね?」
これを聞いて三人とも笑いだしました。
 あとはもう例の“あやとり会話”のやりとりです。
これは、サキが始めてこの訓練を受けた時につけた名前で、一つの話題をテレパシーで、他の話題を声を使って、たがいちがいに切り換えながら並行して話すのです。
普段から彼女たちがよくやるゲームで、たとえば二人組でスムーズに会話を進めようとしたりすると、声で話しながらテレパシーを聞き、すぐまた交替して……ということになり、しかもことばの長さはまちまちなため、へたをすると同時に両方を使ってしゃべるはめになる、というわけです。
 けれどこの場合は四人で気楽に話しあえばよかったので、ともすれば“心”の話題と“声”の話題を取りちがえるクセのあるサキも、一度もとちらずに続けることができました。
『この廊下一つ見ただけで、いかにリスタルラーナのエネルギーが不足しているかがわかるでしょう。』
表玄関へと通じる主要通路の一つを歩きながら、ソレル女史が言いました。
『この連盟本部ビルは50年前、リスタルラーナの経済最盛期に建てられたものです。そして愚かなことに私たちはエネルギーを使いすぎました。』
 彼女は広い廊下の動かない自動送路(ベルトウェイ)を、始めのうち常に働き続けていたその送路を、廊下に人がいる時のみ動くように調節した機械を、そしてその機械すらここ十年来停止させられたままであることを3人に示しました。
『わずか50mたらずの通路にまで送路をつけて、物質文明の便利さにのぼせあがっていた人たちは、エネルギーには限りがあるということを失念していました。  人々の異常な程の浪費に、エネルギーはまたたくまに減少し、それでも人々は気楽に考えました。新しい惑星を開発すればすぐにもエネルギーが手に入ると。そんな時、連合最大のエネルギー供給源であったアラク星とリスラエル星が戦争を始め、両星が産出するエネルギーのほとんどがこの戦争につぎこまれてしまいました。
『今でも覚えていますよ、』
そう言って、女史はさもおかしそうにクスクスと笑いだしました。まるで、なにかおかしい思い出でもあるようでしたが、幼ない時から女史のもとで教育されたケイにしかその理由はわかりませんでした。
『……それが』と、女史は続けました。『ちょうど20年前のことです。』
『それ以来、私たち科学者は新しいエネルギー源の開発に努めて来ましたし、政府は惑星開発に力を入れました。』
『ついでに地球にまで足を伸ばしてね!』
ケイがチョロリと口をはさんで笑いました。
『ま、わたしもサキもそのおかげでこの世に生まれることができたのだけど……』
『そう。13年前にリスタルラーナの代表が始めて地球へ訪れ、その1年後には地球・リスタルラーナ両連邦間に友好通商条約が結ばれました。
でも、地球から送られてくるエネルギーはとても少ない。リスタルラーナ産のエネルギーと合わせても最低限必要なだけしか使うことができません。』
『エネルギーさえあればもっともっと科学を発展させることができたのに……』
「本当に、物事ってなにが幸いするかわからないなあ!」
サキが始めて知ったとでもいうような大声を出したので、隣を歩いていたレイは大急ぎでサキをつねらなければなりませんでした。
ついに“あやとり”を“取りそこね”たのです。
しかし人気の少ない通路には、痴話ゲンカの合間のこのとんきょうなセリフに特に注意を払うような人はいないようでした。
『すみません。』サキは素直に謝まってから話を続けました。
『実際、もしリスタルラーナにエネルギーがありあまっていたとしたら、13年前にわたしは生まれることができなかった。ケイだってたぶんそうだろう? そして今度はエネルギーの不足が原因で、女史の作戦がスムーズに運んだ。この作戦がうまくいけば、わたしたちの“仲間”が大勢できて女史の夢が実現できるようになるし、レイは故郷(ふるさと)に帰ることができる。』
『宇宙嵐で歯医者がもうかるような話ね』と、ケイ。
『あとは地球連邦議会の方の決定しだいか。  どうなるか見当つきませんか、女史』
『無理よォレイ。いくらソレル女史でも手紙一本じゃ地球政府を説得できないのよ。……せめて音声だけででもじかに話せれば別だけど……。』
 そう。リスタルラーナ連邦がこんなにも早く賛同を示したのは、まえもってソレル女史が説得して歩いた結果でした。
連邦屈指の科学者で、しかも政界・財界通して知人の多い女史は、連邦会議の議員一人一人の性格や主義を計算に入れて、暗にほのめかしたり正面切って頼み込んだり、実に巧みに持ちかけるので、ほとんどの人はあっというまに説き伏せられてしまうのです。
 これは、彼女がかなり強力な超能力者だったおかげなのですが、知らない人はこれを、彼女の若さと美しい姿態のせいだろうと思っていました。
実際、もし彼女が超能者ではなかったとしても、物静かなアルトで熱心に話す女史に向って反論しようとする人は滅多にいなかったでしょう。
 そのソレル女史が謎めいた笑いかたをして言いました。
『地球連邦中央議会の方針はもう決まりましたよ。賛成するそうです。』
 
 
 
 
 
(※「アラク星とリスラエル星が戦争」……(^◇^;)げっ……。
 えぇ。言うまでもなく、コレ書いた当時は、昭和の「オイルショック」の直後でありましたとも……☆☆(^◇^;)☆☆
 でも、なんで「イラクとイスラエルが戦争」なんだろう?ヨルダンの立場はどーなる…………??(^◇^;)”??

 
 ほの暗い部屋の中、そこだけが明るい机の上で、一人の少女が手紙を書いていた。少女の名は白蘭(びゃくらん)咲子(さきこ)。戸籍には単にサキ・ランと記(しる)されていた。
 それというのも、彼女の故郷(ふるさと)地球では、すでにこの雅(みや)びな言語が公用語として使われなくなってから久しかったのだ。
彼女は、その長く伸びすぎてしまった髪の、陽光のもとでは銀ねずみ色に輝やき闇の中では蒼暗い夜の海の灰色となって目をふさぐ、ひたいにかかった邪馬なひとふさを左手で払いのけながら、なおも右手でペンを走らせていた。
彼女は、古風にもペンと紙で書いていたのだ、録音転写機を使わずに。
   心配しないで下さい。
彼女の、やや右上りかげんにかっちりと整(ととの)えられた文字は、なおも書き進められた。
 わたしは安全な所にいるし、健康状態も良好です。
 ただ、なんのためにここに来た、いえ、来なければならなくなったのか、
 あれだけ愛した学校からなぜ離れたのか、それは聞かないで下さい。
 いずれ  わたし自身、起った事の意味がはっきりとつかめたら、
 その時に話します。
 突然の失踪でずい分みんなに心配をかけたろうと思います。
 でも姉さん、こうしなければならなかったのだと言うことを
 わかって下さい。
 まだたったの12歳にしかならない、しかも他人(ひと)よりも
 はるかに無邪気に育ってきたわたしには、これ以外に取るべき道が
 見つからなかったのです。
 
サキは、ここでしばらく筆を止めた。
あらかじめ書くべきことを考えていたとはいえ、あの恐ろしい事件にふれずに事を説明するのは不可能だった。
書くにつれあの時の恐怖、宇宙の深遠にいきなり放り出されたような恐ろしさを思い出して文章あ脈絡のないものになってくるのだ。
 しかたなく彼女はあきらめた。
自分自身が、あれ以来強制睡眠剤なしには眠れないような状態の中で、あの敏感な姉を安心させられるような手紙を書けるわけがない。
 とにかく。と、彼女は再び書き始めた。
 現在わたしはソレル女史の小さな特殊研究所の一つで暮し、女史の
 保護を受けています。
 今後の教育はたぶん、ずっとここで受けることになると思います。
 わたしの他にもここで暮している女の子が二人いるし、ソレル女史の
 部下の数人の研究所員と、ひまな時には女史自身が話し相手になって
 くれると言っていましたからさびしくなることはないでしょう。
 それに、ソレル女史の秘書の糸がわたしたちの学課と生活の管理を
 しているから、今までいた学校と大して生活に差はありません。
   遠すぎて卒業するまで地球に帰れないという点も。
 
 サキは、再び読みかえしてため息をついた。
 今はこれ以上ましなものは書けないわ……。
 
 レイが部屋の中へ入ると、赤い非常灯だけがともっている暗闇の中でサキがかすかに動いた。
「だれ?」
それには答えずに照明のスイッチをひねって、レイは
「ここはあたしの部屋でもあるんだけどね。……はん。また泣いてたの」
 
 

 
(※「録音転写機」……自動口述筆記とプリントアウトをしてくれる未来機械のこと。う〜ん……。1970年代の中学1年生が考えつく未来像にしては、なかなかのセンスだと思うんですけど……♪( ̄ー ̄)♪ <自画自賛賞賛委員会@MIXI所属。w)
 
 その日、後に“地球の目覚めの日”と呼ばれることになる四月三日。
 地球と、月を始めとする十一の太陽系内開発都市、および七つの系外開発惑星の路上には人っ子一人見当りませんでした。
時に地球平和歴五十三年。
最終戦争後何百年にも渡った無政府状態に終止符が打たれてから半世紀が過ぎ、新しい地球統合政府による計画的で安定した政治は人々に輝やかしい未来を約束していました。
 そう、万事が“計画”に基づいて順調に進められていたのです。
地球統一者リースマリアルの後、歴代の連邦総長が全力をそそいだのは、いかに予定どうり“計画”を実行するかということでした。
 ところが、突如、“計画”を計算する際に予測されなかった一大事件が持ちあがったのです。
そう。一ダースにものぼる恒星系に足をのばした地球人たちが今だにその気配さえ感じとれず、若者や子供らの夢の中にしまわれたままだった  宇宙人。
彼らが現れたことによって予想、いや計画されていた地球人類の未来像が大きく変わることになったのです。
 
 
                .
 
   三、中央委員長フォーラ
 
 フォーラは、地球留学生歓迎のために広い集会室に並んだ生徒たちの中央に、ひどい頭痛を抑えながら立っていた。
中央委員長として留学生歓迎の準備の指揮をしてきた彼女はここ数日間ろくに寝ておらず、そのためにちう30分前にも貧血を起して倒れたばかりだった。
 にもかかわらず彼女は強制覚醒剤を服用してでてきたのだ。
実際、歴代のただの中央委員長たちならいざしらず、フォレル第三百五十二代委員長の出席しない重要式典などとても考えられない。
 フォーラの後見人であり、先程気を失った彼女を医療セクションまで運んで行った星間屈指の女性科学者マリア・ソレル女史も、親友のティリーと共に医師(ドク)の注意を無視して起き出してきたフォーラを見つけると、まだ顔色も青いままなのに、と思ったが、無理に休ませることはしなかった。
 それにしてもフォーラの頭痛はまったくひどいもので、フォーラは、彼女を心配してそばにピッタリとついているティリーにまで頭のガンガンいう音が聞こえるのではないか……と、混乱した頭で考えるともなく思っていた。
 
             (未完)
 
   二、地球留学生
 
 リスタルラーナ連合政府がS.S.S.(スリーエス)への地球留学生の編入を認めてから三年。地球の教育制度が改変されてから五年。
今、第一回留学生の乗った船がS.S.S.(スリーエス)内部に入ろうとしていた。
 ファーツアロウという名のその船は地球系連邦から選び抜かれた精鋭、100名の学生たちを一年間かけて運んで来たのだ。
 
 
 (※「金色に輝く弓と矢の形の宇宙船」と、それを司る
  宇宙のトリトン神(?)みたいな色鉛筆のイラストあり……☆)

 (ていうか、この原稿は挿し絵が多い「絵物語」形式です☆)

  (^_^;)>” 

 
 
 「どうしたの、サキ?」
ヘレナが、ぼんやりしているサキを優しくつっついた。
「足をはさむわよ。」
 彼女たちは、ファーツアロウとS.S.S.(スリーエス)をつないでいるベルトウェイを、ファーツアロウの生徒たちの先頭になって通っていた。
 なぜなら、彼女たちは生徒会役員だったので。
とりわけサキの方は一年生にして生徒会長になった人気者で、今年13歳のヘレナと11歳のサキは、いつでもいっしょにいた。
 というより、一人っ子のヘレナにはサキが妹のように思え、一方、地球にいるサユリと別れてきた姉さんっ子のサキは、なにかあるたびにヘレナの所へ相談に行った。
二人とも見かけによらずさびしがりやなのだ。

(※制服姿のサキとヘレナのツー・バストショット。)
 
「どうしたの?」
もう一度ヘレナが聞いた。
サキがすぐに返事をしないとは珍しい。
「ん、ちょっとね。」
 ファーツアロウの一行はベルトウェイから降りて歩きだした。
いよいよS.S.S.(スリーエス)の内部に入ったのだ。
 広いロビーで身分証明書(カード)との照合。

 (※ セイ・ハヤミの正方形のカードのイラスト。)

なにしろS.S.S.(スリーエス)は政府が経営しているにもかかわらず、政府の干渉を許さない。
学生と教師だけで独立した国、より良い教育環境を造りあげることだけを目的とした完全に自由な場所なのだ。
 照合といってもコンピュータが処理するのだからたいして時間はかからないのだが、それでも一度に百名となれば大変だ。
コンピュータにカードをさしこみ、各自の指紋、網膜、声紋と照らし合わせて本人かどうかを確認する。
最初に済ませたサキが、次に検査機(チェッカー)から出てきたヘレナに言った。
「ねえヘレナ。わたし心配になってきちゃった。」
「? ……なにが?」
いつも用件ぬきで結論を言ってしまうのはサキの悪癖のひとつ。
「ほら、あの……なんていったっけ!? S.S.S.(スリーエス)の生徒会長。」
「ああ、たしかフォ……なんとかベルアイルって名前よ。それがどうかしたの?」

. (※悩みをうちあけるサキと応じているヘレナの絵。)
 
「……うん。つまりねェ、聞くところによるとそのフォ……なんとかさんってすごい超人的な人らしいじゃない。」
 実際、そのフォなんとか、つまりS.S.S.(スリーエス)の中央委員長フォレル・シェットランド・ベルアイルという少女は、ある日突然、転入不可能といわれていたS.S.S.(スリーエス)に現れて以来、毎期毎期全科目首席という離れわざをやってのけ、さらに、だれにでも優しいその人柄と適格でいつも冷静な判断からおして、これも毎期連続で中央委員長をつとめていた。つまり、地球で言う生徒会長のような役である。

 (※ 自信なげに首をかしげていじけるサキの絵。)

「それにひきかえ、わたしの方は苦手科目は及第ギリギリしかとってないでしょ!? もし生徒代表ってことで比較されたりしたら……」
「バッカねえ!!」
要するにそれが不安なのだ、とサキが話しを続ける間もなく、後ろからマーメイドとセイが割り込んで来た。

 (※ 手にカードを提げて勢いよく歩いてくるマーメイドの絵。)
 
 マーメイドは遅刻常習犯ナンバーワン。生徒会新聞の腕利き編集長、兼、生徒会書記だ。実際どちらが本業なのか本人にもわからない。
そのマーメイドがバンとサキの背中をたたいて言った。
「そのくらい心配しなさんな。会長は悪くても生徒は優秀なんだから。ファーツアロウの生徒はS.S.S.(スリーエス)なんかにひけはとらないわよ。」
それでもサキの気は晴れず、彼女は抗議するように言った。
  でも!!」
「え!?」
「なんだかわたし、すごおく嫌な予感がするのよ。それにそのフォなんとかって生徒会長のことが頭から離れないの。」
サキのその真剣な口調に三人は一瞬しんとなった。
なぜならサキの予感の的中率といえば生徒間でも評判で、試験前ともなれば多勢で出題のヤマを聞きに来るぐらいなのだ。
 
 (※ 「悪い予感」を訴えるサキの顔。)
 
 しばらくしてからセイがほがらかに、(それでも少し心配そうな顔をしながら)断固とした口調で言った。
「心配するなよ、なにかあってもオレたちがついてる。」
(……そうとも! オレのサキを泣かせるようなやつがいればオレが許さん!!………………)
実際、背が高く色のあさ黒い、スポーツマンタイプの生徒会副会長セイ・ハヤミは、半年前の生徒会役員選挙の前後からサキが気になりはじめ、今では心の中でサキの名を呼ぶ時、必ず「オレの」と修飾して呼んでいるのだった。
 もちろん、体格、精神年齢ともに成長の遅いサキは、およそそんな事を考えたためしもなく、セイとしても当分うちあける気はなかったが……。

 (※ とか言いつつサキの肩に手を置いてカッコつけてるセイの絵……☆)
 (^◇^;)”

 
……セイに言われたサキは、自分が彼らを心配させていることに気がついたので、大急ぎで今までのゆううつそうな顔を引っこめ、さも安心したという風ににっこり笑って一言、言った。
「それもそうね!!」

 (※ にっこり元気なサキの絵)

サキがあまりにも自然に、本当に必然的とでも言えるぐらいにごく当然という顔をしてそう言ったので、マーメイドやそばで四人の話を聞いていた他の生徒会役員たちはすっかりだまされてしまい、ファーツアロウの中では一番良くサキを知っているセイやヘレナでさえしばらくはその自然な不自然さに気づかなかった。
 つまり、まるでセイの一言で本当に安心したように見えるサキが、実際は自分を愛してくれている二人  セイとヘレナ  に心配をかけまいとして無理に自分の心を隠してしまったことにだれも気がつかなかったのだ。
実際、巧みに話題を切り換えて、セイといつもの(面白いと評判の)痴話ゲンカを始めたサキはとても無邪気にかわいらしく笑っていたので、仮にサキの本心を知っている人がいたとしてもかえってその事を疑いたくなっただろう。
 それでも、にぎやかなだじゃれの応酬の合間にサキがふっと遠い目をしたのをヘレナは見逃さなかった。
  しかたがないわ。
ヘレナは心の中で大きなため息をついたがなにも言わなかった。
サキがわたしたちに心配をかけたくない……と思っているのなら、だまされたふりをしていなければ、今度はサキがよけいな気を使うようになるわ。

 (※ 憂鬱に落ち込むヘレナの絵。)
 
 やがて生徒全員の照合が終り、生徒たちは再びベルトウェイに乗った。
次のエアロックを通りぬければ、そおにはS.S.S.(スリーエス)の生徒が待っているのだった。
 
 
                .
 
 一、スクール オブ 宙間中継基地(スペース・ストップオーバー)
 
 地球−リスタルラーナを結ぶ長い長い、二年間にも渡るワープ航路のちょうど中間点、つまり地球から一年行程のところに巨大な人工衛星があった。
それは長い航海の際に燈台の役目をし、また疲れた船の修理やエネルギーの補給をすることも可能だった。
 そして、二星間国家(地球系星間国家連邦とリスタルラーナ系連合国)間の国交樹立とともに建造されたこの宙間中継基地にはもう一つの機能(システム)があった。
すなわち、リスタルラーナ最高の教育機関であるスリナエロス・ソロン・スレルナン。
各国の学生たちは、地球語の『スクール オブ スペース・ストップオーバー』と掛け合わせて、三年前にリスタルラーナ首都惑星上から移転して来たこの学校をS.S.S.(スリーエス)と呼んでいた。
 S.S.S.(スリーエス)には幼児科(3〜5歳)と基本科(6〜8歳)を除いた全ての教育施設といくつかの専属研究所があり、位置の関係から必然的に全寮制、両連邦最高の教育を受けられる上に、授業料その他は一切無料である。
 ただし、この学校に入学するには、基本科卒業の際に全星の生徒が受ける学力適性検査をへて、およそ千倍近い競争率の各星立の特殊要員(エリート)養成学校(スクール)に入学し、その中からさらに二百分の一の割合で選ばれるのを待たねばならなかった。
しかも、こうして入学した百二十名の生徒も、半年おきの進級試験のために、卒業時には3分の2の八十名に減っているのだった。
 
 
 
(※「天上にかかる雲の上の道のはるかかなたに輝く虹の橋の向こうのお城」……という、実にハヅカシイ絵が色鉛筆で描いてあります………………☆(+^◇^;+)☆ )

(*ついでに言うなら日記や作文用の「たてがきノート」使用だ!!)
 
              .
 
 エスパッション・シリーズ 第一話
 
  仮題 S.S.S.の悲劇
 
 第一章 第一節
 
 
     1.
 
 「……“まず心があって……それから行動がある”か、……ふーん……。」
通信室のデスクでティリス・ヴェザリオこと通称ティリーがハンドタイプをほっぽらかしにしたまま本に読みふけっていた。
「えい! やっぱ設定が甘すぎるんだ。主人公の性格がはっきり決まってもいないんじゃ、ストーリーの展開だけになっちまう」
彼女は本来ここの中等部の生徒なのだけれども顔慣染(なじみ)の通信士がデートだとかで、無理矢理交替させられたのだ。
 ツーン ツーン ツーン ツーン ビーッ!!
彼女が私淑と仰ぐ作家の書いた“小説論”に熱中していたおかげで、相手(むこう)が完全に周波数をあわせてくるまで呼び出し音(コールサイン)に気づかなかった。
「わっ! はいっはいっ!}
ティリーはこの時間、通信のくる予定はなかったはず……と思いながら通話スイッチを入れようとしてハッとした。
コールサインがこんなに大きいということは発信源が近くにあるということになる。
「まさか  !?」
とびつくようにスイッチを押すと、目前のスクリーン一杯にまちかねたように映像がひろがった。
「アルウ。S.S.S.(スリーエス)! こちらファーストアロウ。こちらファーストアロウ。……S.S.S.(スリーエス)、聞こえますか?」
ファーストアロウ号の通信士はティリーさんがあまり幼ないので驚いたらしい。
実際、ティリーは年よりも3つ4つ小さく、せいぜい10〜11歳くらいにしか見えないのだ。
突然の事に、あ然としていた彼女は内心すっかりあわてながらも、やっとこれだけ、自分でも結構堂々としてるなと思える調子で言った。
「アルウ。ファーストアロウ! こちらS.S.S.(スリーエス)、感度良好。あいにく通信士は不在ですが、あなたがたの無事到着をお祝い申し上げます。……少々お待ち下さい。ただいま司令室に切りかえます。」
 これは正体がバレないように内線のモニターは切って司令室に報告し、了解を得た上でスイッチを切りかえる。
  っ!
ティリーは手の甲で額(ひたい)をぬぐった。
「三日分もよけいにワープするなんて! さすが地球系だ、エネルギーの使い方がハデだね!」
それから彼女は、通信室には自分一人しかいないことに気づいてニッと笑った。
  さすがのあたしでも、あせるとみえる……。
 窓からは遠くの恒星以外なにも見えなかった。
しかし、そのどこかに、
 
             (未完)
 
 この話はわたししか知らない。
まだ、だれにも話していないから。
彼の所へ2度目にでかけたのは、ある  小春日和とかたづけてしまうには、あまりにもできすぎたぐらいに上天気な一日。
この話とは直接関係しない所に少々差し障りがあるので日付はふせます。
 
 たぶんみんなはその日の事はよく覚えていると思う。
あの時期には珍しく、ゆるゆると安心感のあった一日で、かなり多勢がエスパッションに集まっていたから。
おかげでわたしはだれにも見つからないようにと思っていたのに、見つかってあらぬ詮議をかけられてしまった。
無理もない。
このわたしが、公用で出かけるのでも正装でもない、全くのプライベート・タイムにスカートはいてでかけようというのだったから。
(……しかしみなさま発想がせまいね。デートと信じて、てんから疑わないでいらっしゃる。)
 別段、何を着ていっても、それはかまわなかったのだけれど、わかってくれるかな  、あの時期は特に疲れていて、他人(ひと)から戦士と見られるのが嫌だったんだ。
 ついでながら風景を描写。
空はまっ青。はるかに白いひつじ雲が部分部分を群れ歩いていて、旧市街へ向けて車を飛ばしていく間も、わたしは辺りばっかりながめてた。
既に葉を残さない白い街路樹が冴え冴えとして、冬の午前中のあの透徹した風が、空とこずえとの間を不思議なほとはっきりと染めわけ染めあげて、それがどこまでもからからとかすかに高い音をたてながら、前にも、後ろにも、ずっとずっと、はるかに見はるかす程続いていた。
もっとももちろん心象(イメージ)で、実際にはすぐに街はずれまで来てしまったけどね。
 わたしは  何色だったかなあ、数少ないドレスのうちでもわりあい線のかっちりしていないのを選んでいたから、そう、あれはほとんどステッチの入っていない、普段着用にってエリーが選んでくれた、ふうわりとやさしい若草  色の、少し長めのひとそろいだ。
ちょっと古代地球風のふんいきの布の流れがあって、お気に入りの一つだった。
  置いて来たけれど。
 
 
 
(* 街着スカートはいてるサキのシャーペン描きイラストあり。)
 
              .
 
 
     虹 夢
 
 
     1.
 
 サキが最初に彼に会ったのは、秋の終りの暗く寂しい夜だった。
その晩、サキは闘って、深い傷を負い、無数にはりめぐらされた敵の目に、仲間との連絡を断たれたまま、ずたぼろになった身体(からだ)と心で深夜の街をさ迷っていた。
傷の出血はひどくなるばかり。もうろうとした意識の中で、ビルの一画の、ただひとつ灯(ともしび)の薄明るくもれちた彼の部屋に援助(たすけ)を求めた。
 彼は、サキが示した身分証明カードにさして驚く風もなく何一つ聞かずにだまって傷の手当てをしてくれた。
その手馴れた様子に、医学生ですかと、傷のためのにわかな熱の下からサキが尋ねると、いや、と彼は少しさびしげに答えた。
「自分が病弱だかr、医局通いのうちに自然に覚えたんだよ。」
 壁がはげ落ち、ドアのゆがんだ、その殺風景な部屋には、雑然と積みかさねられた幾十枚ものキャンヴァスと、油絵の具と、イーゼルとが、使い古されて置かれていた。
少し落ちついてからそれに気づいたサキはああ、と思った。
「迷惑をかけてしまったみたい。徹夜で描いていたのでしょう。このお礼はきっとするから……」
お礼という言葉を彼は否定した。
彼の方でサキに感謝したいくらいだと言った。
なぜかとサキが問い返すと彼は、言いにくそうに暗い顔でちょっと笑って、
「君が来なかったら、今ごろおれはこの世にいなかったからさ」
そこのコードで首でも吊って  と、彼は天井にあごをしゃくってみせた。
「おれは君たちのことはある程度知ってる。絵描き仲間の一人から聞いたんだ。」
 サキのよく知っている名前を彼はあげた。
それは確かにサキのよく知っている名前だったので、サキはぼんやりとうなずいた。
  わたしの生きざまを知っているから、それで自分が恥かしくなって死ぬのをやめたと言うの?

サキは語りかけはしなかった。
横たわったままじっと彼のうつむいた横顔を見つめていた。
もっと何か話したかったのだが、疲れて、体がいうことを聞かない。
それに、眠って、少しでも回復しておく必要があった。
彼女は戦わなければならないのだから。
 サキはふうっと目を閉じた。
  逃げたいのは、わたしなのに。いつだって。
 夜半、サキはひどくうなされて、眠ったまま、声をたてずに泣いた。
深く眠っているのにも関ず、サキは、声を秘めて泣いたのである。
 彼はじっとサキを見つめていたが、そのうちに思いついたように画帳をとりだして彼女を描きはじめた。
そうして時折サキがひどく苦しそうな時には、手を休めて、サキのきつく握りしめられた指を優しく解き放してやった。
 彼の眼は一瞬閉じられ、それから床の上n、彼が今日破り捨てたばかりの一枚のカレンダーの上にそそがれた。
  しかたがないじゃないか。
彼はカレンダーを拾いあげた。
彼自身が口に出して認めたごとく、サキが来るえの死のうと思った気持ちは不思議におだやかに静まり、ただ静かな決意だけが胸の中を満たしていた。
残されたわずかな時間、やれるだけはやってから  と、彼は思った。
なぜそんなにもあっさりと覚悟が決まったのか、彼自身にもわからなかった。
 
 翌朝、夜明けてすぐに受けとった緊急事態発生(スクランブル)信号のために、サキは熱の引かない、わずかに出血が止まっただけという状態をおして出て行った。
出際に、
「一ヶ月、待っていてもらえるかな。あと一ヶ月以内には、わたしらが今追っている  現存の悪の組織(マフィア)の総元締めなんだけど  をたたく。良かれ悪しかれ、その時まで無事でいられたら、きっとお礼に来るから。」
 きびしくこたえているに違いない傷の苦痛をおして笑うことのできるサキを彼はただ見つめた。
「それじゃ。」
サキは一歩さがって右手をさしだした。
まるで、けがをしたのが左手でよかった、とでも言うように、自然に。
彼はその手を両手で握りかえし、目顔で、なぜそうしてまで戦いに行くのかと尋ねた。
 サキはふっと笑って、何も答えぬままに朝の光の中へ出ていた。
 
「本業は、  スパイなんかじゃないんだよ……」
 
 
 
                .
 
 
   2.
 
 1ヶ月後、何年かぶりにサキは完全に自由な休暇を得た。
スクランブルでたたき起されることも、活動費かせぎにアルバイトに出かける必要もない、まったく自由な時間。
この上もなく空の美しい一日を選って、サキは出かけることにした。
透みわたった空に銀の風が吹き、既に葉のひとひらもない白い木々のこずえには、かんくああん…… サキはついに見ることができなかった、収穫祭の鳴る子が、置き忘れたままに冬の朝を響いていった。
 サキが古びたドアをたたいた時、彼の部屋にはもう一人、サキの見知らぬ青年が来ていた。
妙に騒々しくにぎやかな男で、サキがあっけにとられ、彼が苦笑いしている中で、一人で景気よくしゃべり続けた。


 
               .
 

 ユリスがサユリに育てられ、アリサがエリーの娘であると  考えられないこともないのじゃない。
いや、エリーが結婚しちゃまズいのかなァ、逆でもよい。あるいは“ソレル女史及びエスパッション・スクールの保護下”ということで、ユリスはだれを養母としても育たなかったかもしれない。
 
 地球  リスタルラーナ 1500光年
 
1年 25 35
2年 30 30 
3年 35 25  15  20

ユリスの育ての親ってケイじゃなかったっけ? May.19 (by姉)
アリサは放っぽらかしても、ユリスには誰かついてた方がいいんじゃないかねぇ May.19 (by姉)
     

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