(1頁目)
 
ティリー「静かにしろ〜〜〜」(@教壇から怒鳴っている)(ワイワイガヤガヤ)
ティリー(みんな無視しやがって☆)
 
生徒「ねえフォーラはどうしたの?」
生徒「知らん」
生徒「委員長(フォーラ)も教授(プロフェッサー)もいないんじゃ授業が始まらないわ」
 
ティリー「そこしゃべるなァ!」キーッ
生徒(べー、だ)

(シュン……と、自動ドア開く) 
フォーラ「あら、ティリー、すごいさわぎじゃない!」
 
ティリー「フォーラッ」
 
ティリー「助けてェ!」「みんなで私のことをバカにするのよォ!」
(オーバーアクションで泣き&抱きつく)
フォーラ「(ヨイケドネェ)ソレル女史はどうしたの?」
 
ティリー「いたらこんなに苦労しないわよ!」「代理たのむわね!」
フォーラ「またァ!?」
 
ティリー「しょーがないでしょ、あなた、教課委員長の私より頭いいんだもの」「全課目首席(オールトップ)」
 
フォーラ「ハイハイ」(教壇に立って)「フィルムNo.1801のA−5図を写して!」
 
ティリー(ため息をつきながらの独白)『私13、フォーラは12、クラスの大半は13か14。最低2年はかかる初等課を彼女(フォーラ)は半分できりぬけた。』『  今度の定期試験で彼女(フォーラ)は実習生(インターン)になるだろう)』『全課首席(オールトップ)で教授(プロフェッサー)代理、  加えて中央委員長  
『ハ ねたみたくもなる』
 
 
(2頁目)
 
フォーラ「したがってこの公式は……」
ピンポーン ピンポーン
アナウンス「緊急招集 緊急招集 中央委員はただちに第一通信室に集合せよ くりかえす……」
フォーラ「あら、何かしら?」
 
フォーラ「各自自習してて」「ティリー教課委員長
ティリー「Yes 中央委員長(フォーラ)」(ガタッと席を立つ)
 
(エレベーターで降下する二人)
(レトロSF風コンピュータールームの自動ドア開く)

 
フォーラ(敬礼して)「高等課(ハイクラス)中央委員長ならびに教課委員長、参りました」
 
ソレル「全員席につきなさい」「ただ今から地球使節団との直結通信を開始します!」
 
ティリー「地球(テラ!)」
フォーラ「地球(テラ)ですって!」
(生徒一同、ワッと盛り上がる)
 
通信士「電波受信(キャッチ)!! 大パネルにきりかえます!」
 
(静まりかえる生徒達と、ごくりとつばをのむフォーラ)
 
ピーユー(通信雑音/顔は見えない)
 
サキ「リスタルラーナ宇宙基地学校(スペース・ステーション・スクール)のみなさん、こちら地球使節団ファースト・アロウ号、司令室(キャビン)!」
 
 
(3頁目)
 
サキ「こちら地球使節ファースト・アロウ司令室(キャビン)!! 生徒会長としてあいさつをおくります」「リスタルラーナS・S・S(スリーエス)のみなさん……」(ヘレナとセイを左右に従えた、サキのアップ)
 
生徒「聞いた!? 生徒会長ですって!」
生徒「あの子フォーラより小さいのに!?
生徒「うそよ! 信じられない!」
生徒「ハンサム♪」
 
ティリー「ピューウ(口笛の音)
お株とられたねフォーラ、ぜいぜい12歳だよあの少年(コ)。ボーイソプラノだもの」
 
ティリー「ねえフォー…………!…………」「フォーラ…………?」
(きつく青ざめているフォーラ)
 
ティリー『どうしたのかな、気分でも悪いのかしら…………??』
 
 
(4頁目)
 
(フォーラの心象風景/雨の降りしきる中、立ちつくす孤独な少女)
 
マリア「よろしい、気がついたようだ」
(注射器を持つ女医、意識を取り戻すフォーラ、安堵するティリー)
 
マリア「ただの貧血だと思うがね、今日一日安静にしといで」「まったく何やったんだか知らないけど、人に心配かけないでくれよ」(コチトラいそがしいんだよ。)
 
フォーラ『  夢か  』『いやな夢  
「ねえティリー、私どのぐらい眠ってたの?」(ベッドから起きあがる)
 
ティリー「20分ぐらいだよ?」
フォーラ「え〜〜っ!? ファースト・アロウはっ!?」
 
ティリー「さっきついたよ、だから急いで起こしたんじゃない」「ハイ制服(ユニフォーム)!」「ドク・マリアは一日眠らせとけっていったんだけどね」「急がなきゃ遅刻するよ」
 
 
(5頁目)
 
フォーラ「OK!」(手早く制服に着替えるフォーラ)
 
 
(例によって……未完☆ (^◇^;) )
(1頁目)
 
ティリー「ワ〜〜〜っ フォーラ!! フォーラっ!!」
(ジタバタバタバタ! と走ってくるティリー)

フォーラ「いったい何があったの!?」
ティリー「実は  

ティリー「つまりねェ あーで こーで こーなって だから そーで そのとおりなの!」
(欄外に、「なんのこっちゃ」「マックス風(※)説明の仕方」「とか書いてある……☆)
(※「マックス」……三原順『はみだしっ子』のマックスのこと。)

 
フォーラ(独白)「なんですってェ? ファーストアロウを生徒が操縦!? バカな……!」
ズキンと頭痛の擬音。)
 
  憎メ  
アレハオマエノテキダ!
(謎の影と謎の声)
ズキィ…………ン!
フォーラ「アウッ
 
 
(2頁目)
 
ティリー「フォーラッ!?」
(ダ……ンと気絶して倒れるフォーラ)
  憎メ!
 
さき・らんハオマエノ敵ダ
ナンノ苦モナク育ッタ娘ダ
代償ナシニ幸福ニナルコトヲ許スナ!
オマエノ過去ヲ思イダスノダ
思イダセ! 過去ヲ  

 
 
(3頁目)
 
過去を    
 
ソレル「静かになさい! さわぐんじゃありません」
(気絶したフォーラを抱き上げる)
ソレル「ティリス、ドクターを呼んできてちょうだい」
ティリー「はい、ソレル女史」(ホッと息をつく)
ソレル「ロジャー中央議長は地球使節かんげいじゅんびの指揮をとりなさい」
ロジャー「Yes! 教授(プロフェッサー)」
 
 
(4頁目)(フォーラの回想)
 
えーん えーん えーん (泣きじゃくる幼女)

姉「親がいないからって泣いててはだめよ。フォーラにはねえさんがいるでしょ?」
フォーラ「うん」
 
(姉の棺)
フォーラ「姉さん!」
親戚「いらっしゃい! あなたはおばさんの家でくらすんですよ!」
 
親戚「このやっかい者!」
(バシィ……ン と、頬を張るオバ)
(ガシャーン! 家事の途中で壷を割るフォーラ)
親戚「出ておいき!」
 
 
 
 
 
………………(^◇^;)………………
ク、クサイ……☆ くさすぎる……………………っ☆

 
 

(キャラ設定?イラストあり)

1/26 若き日のソレル女史

1/28 サキ、11歳のとき。
 
  ティリス・ヴェザリオ(リスタルラーナ人)
 
  フォレル・シェットランド・ベルアイル(リスタルラーナ人)
  (愛称フォーラ)

By M. T
制作協力 K.T

 
 
(1頁)
 
  父さん
母さん
元気ですか?
 (カチカチ・カタタタ……とキーボードを叩く両手指)(※)
 
  もうじき
姉さんの定期公演が
ありますね  
今年は見に行け
ないので残念です
  テープを送って
ください (カタカタカチカチ擬音と、サキの横顔)
 
ここの生活は順調です  
この間S・S・S(スリーエス)と交信しました
今日、向こうとドッキングします
 
  地球(テラ)からの留学第一期生
生徒会長としての役目も
もうじき終りです
 
SSS(スリーエス)の生徒会長は  

 
「サキィ〜ッ」
 
「ここよ  
 何か用!?」
 
「ああ サキ
 ここにいたの  
「あなた電話(テレホン)のスイッチ
 切ってるわよ」
「教授(プロフェッサー)が
 呼んでるわ
 30分後に集合」
「生徒会役員は15分前に集まれって」
 
「サンキュー
 ヘレナ
 すぐ行くわ」 
「どういたしまして
 小さな生徒会長さん♪」(サキの額の横にキスするヘレナ)
 
「じゃーね♪」(去って行くヘレナ)
 
呼び出しがかかりました
30分後にドッキングです
  では またあとで  

 
 
(2頁)
 
「急いで  っ!
 委員はあと三分で
 集合よ!」 (廊下を走る委員たち)
 
(走るサキを追い抜くマーメイド)
「生徒会長が
 ちこく!?」
 
「面目ない
 マーメイド」
「ま
 私も
 同罪だけどネ」
 
オーやっとついた!
「ちこく
 してなきゃ
 いいんだけど
 通算15回目!
 
(シュ……と開く「自動ドア」)
 
「お……そ〜〜〜い!」
 
「生徒会長のくせに
 だらしないぞサキ」
「15秒前
 ギリギリ
 じゃないか」(セイ)
 
スゴイ声!
「じゃ とにかく
 まにあったのね」(マーメイド)
 
(ドッと笑いころげる生徒一同)
 
「よく言うわ
 他の人は
 全員
 来てるのよ」
「すぐ来るって言ったくせに」(ヘレナ)
 
「スイマセン……
 ヘレナ副会長」(しょげるサキと笑い転げる生徒たち)
 
「静かに!!」
「ただ今から
 S・S・S(スリーエス)との
 ドッキングを
 行います!」(ヘレナ、片手を上げて宣言。静まりかえる生徒一同)
 
 
(3頁)
 
「計画どおり
 ぼくたち
 だけの
 手で」(ヘレナを追いやってウィンクしながらセイ)
 
(サキの笑顔のアップと、わぁっと盛り上がる生徒一同)
 
「そうと決まれば
 こっちのものよ♪」
「全員
 配置につけ!」
(いきなり仕切るサキ)
 
「お〜〜〜っ!」(拳をあげる生徒一同)
 
「『念願かなったり』
 ね!! サキ!」(シートにすべりこみながらヘレナ)
「アハ♪」(同、サキ。背後で慌ただしい準備の風景)
 
「S.S.S.(スリーエス)
 前方二〇〇〇!!
 相対速度〇.三五」
「メインエンジン停止!!
 進路5……3……1……ストップ!」
「右前方にアステロイド!!」
「ミサイル発射!」
 
「重力
 太陽3.5
 月0.8
 アステロイド0.05!!」
「アステロイド破壊」
「針路修正0.05!!」
「動かない!!」
「急いで!!」

「こちらファーストアロウ
 S.S.S.(スリーエス)司令部(キャビン)!?
 接続(ドッキング)位置を
 指示願います……」(サキ)
 
 
 
 
 
(※ サキの打っているコンピューターの画面に、
「Himana hito ha yome !
Hima de nai hito ha
Musi site kekko~
Baka banasi ni
Tuki ai tai hito ilu ka

gika n no mu da da
a a iso gasii」……とか、書いてあったりする……w)

(1頁) *フォーラ(耳のとんがってる「宇宙人」な美少女)の横顔アップ
 
 サキ  
 明るくてむじゃきなあなた
 きっと 地球(テラ)の黄色い太陽(ソル)は
 あなたのようにあたたかいのでしょうね  
 
  私はあなたが好きでした
  もしもあの時
  あんな所へ行かなければ……
 
 
(2〜3頁) *航行中の「宇宙船ファースト・アロウ号」
(矢型のアポロ宇宙船に弓型の推進装置をつけたようなやつ)全景。

 
三××〇年 一月 リゲルより波動宇宙船(ワープロケット)飛来
         リスタルラーナよりの和平使節と名乗る
三××一年 五月 リスタルラーナ・地球間に和平・通商条約定結
三××三年 二月 地球側和平使節および一流学者陣リスタルラーナへ
三××五年 九月 両星の中間点に宇宙中継基地
         (スペース・ステーション)を設立
         これにより両星間が二年に短縮される
三×一〇年 四月 宇宙中継基地学校
         (スペース・ステーション・スクール)設立
         両星間の優秀な人材の教育・養生を目的とする
三×一一年十一月 地球側のS・S・S留学生
         ファースト・アロウIにて出発
 
     二星間国交略歴 三×一二年十一月 記
 
 
S.S.S.(スリーエス)  宇宙中継基地学校  の悲劇
 
 
(4頁)
 1コマ目 パン! パチパチ パパパ(擬音)
 *古典SF風「未来のコンピュータ」のキーボードを叩く手指
 2コマ目 「ON」のスイッチを押す指アップ
 3コマ目 「S.S.S. SPACE・SCHOOL  
 宇宙中継基地学校 NAN TOKA KAN TOKA
 BUTU BUTU ANTA YONDA ?」……と、
 書いてある紙がプリントアウトして出て来る……
A^−^;)
 4コマ目 それを破り取るサキの手。
 5コマ目(大ゴマで)古典SF風衣装のサキの全身像と、
 「ウフッ」とか満足そうにウィンクしながら笑っている顔アップ。
 「サキ・ラン12歳  のコメント

 
 
(5頁)
 
 もう何回めかな
 こうやってS・S・Sの
 写真を見るの   遠い目のサキ
 
「でも 
 もうまつことは
 ないんだ!
 あと1時間  
「そう
 あと1時間で
 S・S・Sに着く!!」 劇的に振り返るサキ
 
「なんたって くん練期間は
 長かったもんねー♪
 いくらリスタルラーナの
 教育水準に合わせる
 ためとはいえ」 無意味に踊り出すサキ
「地球で一年
 船内で一年
 計二年☆」
 
「やっと着いた!」
 きゃ〜♪と、バレエのポーズで喜ぶサキ
 
「生徒会長」 ぎくっとするサキ
 
「あ、あヘレナか!」赤面しつつ振り向くサキ
「あいかわらずねサキ!」壁になついてクスクス笑うヘレナ
 
 ヘレナ・ストール 13歳(コメント)
「あなたでなきゃやらないわよ こんなアホなマネ……」
 
「フンドーセ!」赤面してムクレかえるサキ
 
 
(6頁)
 
「で、何の用? 副会長」

「教授がね
 接続(ドッキング)操じゅう
 私たちにやらせてくれるって」
 
「ホント!?」
「集合は30分後!」
 
「じゃ、おくれないでね」
「by」
 
「OK! すぐ行くわ」
 
「すごい! 最高だ!!
 接続(ドッキング)なんて高等技術じゃない!!」
(再びクルっと踊り出すサキ)
 
「中等課で
 高等実習できるとは
 思ってもみなかった♪」 ルンルン
「今日はついてるな  (部屋から駆け出すサキ)
 
「……ルン!?」 (はたと気が付くサキ)
 
 
(7頁)
 
「わ〜〜〜っ!!」
 
「うかれてて
 おくれちゃった〜〜
 まにあう
 かしらん!」
 あと一分 カンカンと靴音させて走るサキ
 
「オッハヨー!!
 生徒会長が遅こく?」 (後ろから追いついてきたマーメイド)
「マーメイド」
 
「ま、私も
 人のことは
 言えないけどね」(舌を出すマーメイド)
 通算15回目!
「アハハ♪」

 
「笑うな!」
「アハ♪
 すべりこみだよ〜」(二人して廊下をバタバタ走る)
 
シュッ (「自動ドア」!!が開く音)
 
「おそ〜〜〜い!!」
 
「二人ともたるんでるぞ!!
 十五秒前
 ギリギリじゃないか」(セイ)
「すぐ来るって言ったくせに」(ヘレナ)
 
「「すみません」」(二人一緒)
(口笛吹いてあさって向きながらのマーと、ひたすら頭を下げるサキ)

 
(ドッと笑いころげる生徒一同)
 
 
(8頁)
 
「静かに!!」
「各自席(シート)に
 つきなさい
 これより
 接続実習を始めます!」
 
 
                .
(1頁)
 
 最終戦争(アーマゲドン)後数百年
 人々は部落ごとに
 孤立して次第に
 その科学力を失い、
 領主たちは王の座
 を求めて争った。   ☆戦乱の絵☆
 
   民衆は飢え、人種
   差別が横行し、幾
   度かの世界統一の
   試みもみな失敗に
   終って二度と平和
   が訪ずれることは
   ないように思われ
   たちょうどその時 ☆奴隷・拷問・暗殺などの絵。
 
 どこからか
 かの女性(ひと)リースマリアルが
 あらわれた  

 ☆希望の太陽に向って差し伸べられる無数の手の図。
 
 
(2頁)
 
 彼女と彼女の一族は
 高度の科学力を維持
 し、少数部族として
 長い間 時が熟する
 のを待っていた
 
   彼女は始めてから
   わずか五年で地球
   の大部分を併合し
   混乱した弱肉強食
   の時代に終止符を
   打った。
 
 彼女は学校や病院を作り
 近代的な都市を再建し、
 人々の間に文明と科学と
 学問と発展をとりもどし
 身分制度や封建制奴隷制
 資本主義などのあらゆる
 悪い慣習を禁止して
 まったく新しい体制の
 政治と経済を創りあげ
 
   そして委員会を指揮し
   憲法を定め、
   国内を巡回して国民の
   一人一人の意見を聞いた
 
 彼女は常に自由と平等を主張し
 人間を愛し平和を愛し
 全ての人の幸福を願っていた
 
 ☆ケルト風衣装に王冠を頂いた細身の女性全身像。
 
 
(3頁)
 
 だれかが彼女に尋ねれば
 彼女は必ずこう答えた
 
「なぜそんなにしてまで
 おやりになるんです?」
「自分を犠牲にしてまで」 副官、後ろ向きの図
 
「それは……人間が
 悲しむのを見たく
 ないからだわ……
 ……わたくしには
 人間の不幸を全て
 とり除くことは
 できないけれど……」
「それでも戦争や
 差別貧困などに
 よる悲しみは
 減らすことが
 できますもの」 ☆ガーデニング中のリースマリアル
 
「それに……
 死や病気や別離
 失恋孤独などの
 人間が存在する
 限り消えない
 悲しみだって」
「愛や生きがいや
 希望などの
 より多くの幸福に
 よって忘れられる
 かもしれない……
 少くともなぐさめ
 勇気づけられます」
「……だからわたくし
 は幸福を……」   ☆遠くを見上げるリースマリアル
 
「幸福を求めてやまないのです  
 
 ……そんな彼女だったからこそ
 人々は「救い手」と呼んで
 母のように姉のように娘のように
 また秘かなあこがれの女性(ひと)として
 愛したのかもしれない  
 
 
     平和歴26年
     「救い手」リースマリアル死去。
     時に42歳の短い生涯だった……
 
☆花に埋もれて永眠するリースマリアル
 
 
(4頁)

   そして平和歴43年
   あらたな歴史の流れが始まる  

 
 ☆遠景の地球と月の間から太陽が「昇る」瞬間の図
 
 
(5頁)
 
 超能力者物語第一部(サキ)序章
 
 第一話  で あ い 

 
 
 ☆弓と矢を持ち、妊娠した腹部に手を当てて
 左横(未来方向)を見やる、ギリシャ風衣装のサエム夫人全身像。
 (背景に宇宙船ファーツアロウ全景)

 
 
(6頁)
 
 恒星間航法(ワープ)の際に通過する
 亜空間を、一隻の国籍不明の
 外宇宙航行用大型船が無断
 で航行していた。
 
 ☆ビイ……ンとエンジン音を響かせながら航行する宇宙船の図。
 
 
   Part 1.  
 
オペレーター「ワープ終了 50秒前!!」
オペレーター「対探知機(アンチレーダー)バリヤー 準備完了!」
ダーナー船長「よし、通常空間に出ると同時にバリヤーをかけろ」
オペレーター「了解!!」
 
カート「なんでわざわざバリヤーを張るんです?」
   「われわれは早く地球と接触したいんですよダーナー船長」

 ダーナー船長は憮然として答えた

ダーナー「むろん攻撃をさけるために決まっているでしょう」
    「それくらいもわからんのですかなエレンヌ大使」

 彼が笑っているのを見たという者は船内にはいない。

ケイト「あら、でもあたくしたちは国交樹立のための親善使節として
    やって来ましたのよ」
   「それに地球には軍隊がありませんわ
    ……あたくしたちはちゃんと調べたのですからね!」

 あたくしはこの男が大っきらいだった。
 
 
(七頁)
 
 大体、人間が笑わないなんて、それだけでどうかしている……
 
オペレーター「ワープ終了!!」
オペレーター「バリヤースイッチON!!
ダーナー船長「よし! 現在位置確認」
オペレーター「はい!」
 
ダーナー船長「……くだらんですな……」

「我々のリスタルラーナ連邦だって千年も昔に
 軍隊は廃止になっとります……たてまえとしては」

「だが実際のところ、一年として国際紛争のない年はないですな」

「例えばサーク大使、あなたの星などは大規模な軍隊を
 自衛隊などと呼んで ごまかしている」
「連邦会議でひと騒動ありましたな」
 
「ましてわれわれは不法に領海に侵入しとるんですから
 攻撃されても文句は言えんのです」
 
カート「文句言うだけムダですよ ミス・ケティア」
ケイト「だってカートさん……」(怒)
 
 ピーン ピーン(効果音)

 ふいに探知器(レーダー)が鳴り
 観測人(オブザーバー)の一人が
 ふりむいた……

 
観測人「船長(キャップ)!!」
   「地球の客船がバリヤのすぐ近くにワープしてきました
    こっちに向ってきます」
 
 
(頁6の書き直し)
 
   Part I. リスタルラーナ
 
 ビィ……ン ビィ……ン ビィ……ン
 
 ワープ航法の際に
 通過する亜空間を
 今国籍不明の大型船
 が無断航行していた

 
オペレーター「ワープ終了50秒前!!」

 航宙士が緊張してどなり
 副長が復唱する  

 
副長「対探知器(アンチレーダー)バリア準備完了!」
船長「よし通常空間に出ると同時にスイッチを入れろ」
  「タイミングに気をつけろ ここはもう地球の領界の中だぞ」
 
 いつもながら無愛想なダーナー船長の指示!!
 
 ☆不機嫌に着席しているケイトとカート。

(オペレーターが振り向いて報告する横顔アップ)
 
 
 
 ※ Free Tolk Note 中三 (2)参照


 (と、書きこんであって、未完☆)
 
 
 

主な登場人物

ヤスルミナ・ダエイネン(金色長髪の優男)
 星間国際連合
 通称プリンス
 金褐色の髪
 金緑色の瞳
 
マリシェルラ・ダエイネン(金巻毛の美女)
 通称プリンセス
 金髪、青緑色の目

カート・エレンヌ
 リスタルラーナ全権大使
 黒眼黒髪

ケティア・サーク
 リスタルラーナ全権大使
 茶目茶髪

コンピューター・リースマリアル
 通称コンピュート・マム
 ※ ……『テラへ』のマザーコンピュータにそっくり……(^^;)

                .

 
 超能力者たち
 
 第一部 憎しみを食う樹(サキ)
 第二部 社会機構(アビス)

 
 
 レイは「彼」に会いに行くまでは、わりあい髪が長かったのです。
 少女らしく心をはずませて彼に会いに行ったレイは
 そのうち自分の心のずれは
 とりかえしがつかないもので
 あることに気がつきます。
 (すでに自分の心に気づいていたので……)
 
 そして髪を切り、彼のもとから去ります。
 それ以後レイは、
 けしてスカートをはかず、女言葉を使わなくなったのです。
 
 
・エリーの義母 アリス・イザベラ・ドン=レニエータ
 
 
サユリ:
「来ようかどうしようかと
 ずいぶん迷ったわ
 でも結局 人は
 だれかを愛さずには
 いられないものなのね」
 
 

「ハートに一発!」

サキ「ヒマだなー」
レイ「まったくだ、探偵稼業もラクじゃないよ。
   やつらも当分動きそうにないし」

レイ「こういうのはどう?!
   お互い、いつもの反対の性格を演じて
   どっちがなりきれるか競争するってのは?」
サキ「そのカケのった!!」

レイ「あたしが勝ったらキスひとつね」
サキ「わ!! 本気?!
   ……まあいいやどうせわたしが勝つから」

 
 

 
 リスタルラーナ

 スピカ第20番惑星、
 地球からの平均距離250光年、ワープ航法で約2地球年、
 重力 0.93G
 大気成分 酸素5%、二酸化炭素20%、窒素50%……
 自転周期25.8地球時間
 公転周期405日

 
 
                ,
※ まだ漫画家になろうと思っていた頃のやつから文字データのみ抜粋
  それぞれ関連するイラスト等があるのよ☆

 
・サキの、レコードやってる時の偽名:シェリル・ラッド

・リスタルラーナのカエルはゼロゼロ鳴く。

※ ソレル女史、(ケイ)、ティリー、エリー、
  (ケン)、ユリス、アビス、アーシャ、(エリザ)、
  (※相関図※)……わ〜っわからん☆

※ アーシャはだれの娘で、
  ユリスはだれに育てられたか?!


   地球  リスタルラーナ  ジースト  
 新しい星々を出会い、いつかは全銀河へと歩を進めて、
 とどまる所を知らず、発展しつづけていくことだろう。
 そして、その時にはもう
 自分たちは、いないのだ。
 「  見たいね。」
 サキはつぶやいた。
 レイが、何も聞かずに
 うなずいてくれた事が
 なぜだかむしょうに
 ありがたかった。

 
 
 邪夢 邪魔 夢邪魔樹 夢魔邪樹 邪夢魔樹
 
 どこかから始まった、まぎれ込んで来たものの、
 数々のうちの一つ。
 アナビスの精神生命体版
「ビーグル号」
 

  情報総合学  
 
ソレル女史:「あら、それでは情報総合学についての概念は、地球では1000年も昔からあったということになるのかしら?
 リスタルラーナでは、私の両親が20年程前に研究を始めたのが最初なのだけれど」
サキ(11〜12歳):「地球には、まだ事実上存在してません。
 それで、わたし、どうしても総合学やりたかったから  
ソレル女史:「それでバレエを断念してまでここへ来たの?」
サキ:「ええ!? なんでそれ  
ソレル女史:「調べさせてもらったのよ。いろいろね」
 
 
 ソレル女史にとって、年に一度のS.S.S.(スリーエス)での一月は休暇に等しいものなので、服も口調も自然、リゾートっぽくなる。

 
              .
 
(リ)トムベナ便り。
 
 お母さん。毎日手紙書くと約束したのに一向に届く気配がないので、さぞかし心配したことでしょうね、ごめんなさい。でも、(これは言いわけにすぎませんが)毎日書くといったからといってそれは毎日出すということではないのです。今回はここへ着いてからの2週間分、まとめて送ります。リリーサが明日から3日間、村へ買い出しに出るのでそれに便乗させてもらうつもり。だから……着くのは、あたしが出発して2ヶ月もたってしまった頃になるのかな。本当にごめんなさい。
 何故あたしが急にこんな所へ来たのか、
 
 ゆめといったらおかしい
 義務。
 

 リーツ・ミエア、出版しないかと言われて、その価値があるかどうかサキに読ませに来る。
自伝かくとか言ってるプロライターのティなんとかさんにも……

惑星トムナベ(り”・トムナベガ)

 やせて太った話。 「らしいね」


通勤途中の電車の中でMemoったと思しい走り書き。
……清書したやつは、どこへ行った??

 
◎ アリサ・ラン=エフレモヴナ、は、
  サユリ・ラン=エフレモヴナの一人娘。
  したがって、サキの活動年数はもう少し短くいたしませう。
 
「あたしはどうしてもサキが好きになれないのよ。読んでいるとなんだか自分の欠点を見せつけられてるみたいな気がして。」
「ヘエ! そう!? 実を言うとわたしはレイが気にくわない。やっぱりあなたと同じ理由(わけ)でね。」……ふむ。でもいくら作中人物扱いとはいえ、自分の叔母さんの悪口を言われるってのはいい気持ではないねェ。」
「叔母!? だれが!?」
「……あれ〜〜っ! 知らなかったの? わりと有名なんだけどなァ。……あのね、あなた。わたしはサキ・ランの姪っ子なの。」
「え……。ってことは、サユリ・ランの娘?!」
「Yes.ちなみにわたくしめの本名はアリサ・ラン=エフレモヴナと申しま〜す。」
「……! 知らなかった………………。」
「やれやれ、その調子だとユリスの事も知らんのでしょうね。
 ちょっとおいで。」
「……ちょ……ちょっと! どこへ行くの? そっちは生徒の立入り禁止よ。ユリスてだれ?!」
「普通の生徒ならね。わたしは特権階級なの。従姉の所へ行くのに許可なぞいるか」
「従姉!? だってサユリ・ランは二人姉妹で…… ああ、お父さんの方ね?」
「いーや、ユリスは母方。」
「……え  っ!? それじゃ…… サキに子供いたの?!」
 
 
 
               . 
 
 
 
 『ねえ、ティリーさん、おかしな話かな』
 たくさんの、どうでもいいエアメールの束と共に届けられて来た彼女のぶ厚い日記帳には、まずのっけからこんな風に唐突な調子で、いかにも彼女らしく少し行儀の悪い大きく整った字  それでいてどこかに繊細な感情をうかがわせる  でびっしり埋められていた。
 
    四月三日  (第4月23日)
 ねえ、ティリーさん、おかしな話かな。  なんて、あはは、我ながら凄じい書き出し方だとは、思う。しかし、しかしですよティリー女史、約束したのに書き始めが一月も遅れてしまった事への言い訳ってわけでもないけど、元来筆不精で有名なこのわたしに向って、「毎日、日記をつけて来い」って  それはないでしょうが! おまけに結局のところ船旅なんて……何と言ってもこの宇宙船(ふね)、少々快適に過ぎちゃってね、毎日毎日短調でとても日記つけようなんて気分にはなれなかった。
 さて、我らが居住船《スターダスト・エスパッション》は当所の予定通り、現在第一の目的地点である辺境惑星イムニダ目指し、眠くなる程の快適さの中で平穏無事に航行中。万事異常なし。この状態はあとたっぷり二ヶ月は続く予定でありまして、唯一最大の被害は乗り組み員全員の体重が増え始めて来てしまった……と言うくらいのもの。起きて、食べて、読書か調べ物してまた食事。雑談してるとなんとなくお茶の時間になって、そのまま引き続いて夕食。さすがに皆さん食後には何かしら運動してるんだけどね。連日連日その繰り返し。
 で、その調子でだらだらごくのんびり一ヶ月を過した挙げ句にどうして今日になってこの日記帳の事を思い出したかと言うと  それは最初の書き出しに戻って説明しないとならない。つまり、夢を見たのです。
 夢の中でね、わたしは母さんに会った。というよりはそこは夢の夢たる由縁で、わたし、母さんだった。
母さんの目を通して小さかった頃のわたしと姉さんの姿が見えたり、わたし自身が母さんに話しかけている光景を母さんの目とわたしの目とそれから第三者の  おそらくは姉さんの  眼から同時に見ていたり。まあそんな事はどうでもいいんだけれど、中でワンカットだけ、まるで切り抜いてポートレートにでもしたような母さんの立ち姿が出て来た。
他のは全て『オールカラー総立体画像!!』ってところだったのに、その時の母さんだけは無彩色で、白と黒だけの画面  なんて言い方、おかしいか  ……が、「灰色の貴婦人」と異名を取る程だった母さんの、短かい生涯を象徴していたようで、起きてからも目に焼き付いて離れなかった。
 それで、本当におかしな話なんだけどね、ティリーさん、夢の中で小さかった  本当に幼なかった頃のわたしの瞳は、初めて会った頃のお宅と同じで、混じりっ気なしにキラキラ輝やいていた。それなのに、白と黒の世界の中でじっと立ちつくして彼方を  どこかこの世の果てのような厳しく、淋しくてしようがない土地を  見つめている母さんの眼は、今現在のわたしと同じ表情なんだ。
おかしな話だよね、一体どうしたら一人の人間の心があんなにも変わってしまえるんだろう。“あんな”という言い方は、自分自身の上に起った事なんだから妙に聞こえるだろうけれど、実際わたし自身が宇宙のこっち側に立って傍観しているうちに全てが  他でもないやはりわたし自身の  変わってしまった。そんな感じなんだ。
 
    四月五日  第4月26日
 ご免、ティリーさん。昨夜、一昨夜と続けて日記をつけるのを忘れ、そしてやはり、二た晩続けてあの夢を見た。
生活の単調さはあい変わらず。退屈って程でもないが、そろそろ、飽きて来たなあ……
 なんて、ティリーさん、我が精神衛生上の主治医殿。しらばっくれても無駄だろうと思うから素直に白状致しますですがね、約束したにも関ず、わあしが丸一ヶ月と二日もの間これを書くのをサボったのは、いくらなんでも『うっかり』忘れていたからじゃあ、ない。実は  半ばわざと書かないでいたんだ。
とは言えまたぞろ落ち込んでいた訳でも、早くもホームシックにかかっている訳でもないんだから気をまわ過ぎないでよね。
理由の一つは、確かに、毎日が単調で特筆すべき事が何も無かったからという事もある。
だけど、それよりもわたしは考えていたんだ。あなたがわたしに日記をつけろなんて言うからには、どーせまた小説のネタ話の材料にする気な訳でしょう?……って、事は。
毎日食後のディスカッションでどんな事を話しているかなんていうのは共同でとっている議事録見ればいいだろうし、日常的なこまごましい事はケイかエリーの日記の方が余程細かく書いてある。航行記録的な事とか我々全体の中での感情的動静の観察についてなら、レイのあの驚畏的記憶力に頼れば良い。(つけ足りながら、どういう風の吹きまわしか彼女も日記を付け始めた由(よし)。)
つまりわたしが  文章なんぞ書かせたらどの程度のものかって事はよく知っているでしょう  インクの無駄使いをした所で何の意義があるとも思えない訳。で、あなたの期待したものがわたしの心理状態についての報告書だったとするならば、ちょっとわけありで、わたしはこの三ヶ月間  少くとも《イムニダ》へ近づくまでは、一切の考え事悩み事を頭ン中から締め出しておくつもりだしね。
 それで、実は、え〜、早い話が  ちっとも早くないけど  何を言いたかったかと言うとでありますね、この期間を利…
 
             (未完★)(^^;)
 
 
 
 ティリーさんは今メゲテいます。とっても落ち込んでいます。直截に言うと、ひどく深刻に悩んでいるのです。
 ティリーさんの友人たちは、いつも大抵おしゃべりなので、何かしらお互いの間で問題が起こった時にでも、相方言いたいだけ自分の言い分を話してしまうと、あらかたのゴタゴタは解決してしまうのです。
だけど、今度はちょっと勝手が違いました。
 ティリーさんのお友だちのサキが相談を持ち込んで来たのは二日前でした。(つまりティリーさんはそれからずっと悩んでいるわけです。)サキは友だちの一人を自分の友人たちのグループの仲間に入れようと思って遠くの町から連れて来たのですが、サキがどうしても抜けられない用事で一週間程留守にしている間に、どういうわけかその人は  女の人です  何かにひどく腹を立てて、飛び出して行ってしまったのです。
 帰って来たサキは慌てました。連絡しても、その人は元居た所へは戻っていないと言うのです。サキは、その人がもう十分自分の仲間たちに慣れていると思っていたと言いました。その人が何に傷ついて飛び出して行ったのか、解らないと  ……。
 サキがあんなに饒舌に人に愚痴をこぼして行くなんて、あれはいつも自分一人で悩み事を解消しようとしている彼女にしてみれば、泣くのと同じ事なのです。それなのにティリーさんは、彼女の為に何もして上げる事ができないのです。飛び出して行ったその人に理由を聞きに行ってあげようにも、行方が知れないのですから……。
 それでティリーさんは自分の無力さが哀しくて、腹立たしくて、人間がどうしてこんなにも  口に出して言わなければどんなささいな想いも伝わらない程に、そして精一杯想いを込めて語ってさえ、しばしば相手に真っ直ぐには伝わらないほど  悲しくできているのかが解らなくて、やはりどうしても落ち込んでしまうのでした。
 
 
                .
 エスパッション通信。
                        翻訳・(本名)

  その1.我が悪友どものこと。
 
 こんにちわ。
 (夜読んでる人、イチャモンつけるのはやめましょうね)皆様のだしゃべり作家、通称ティリーさん、ことティリス・ヴェザリオでございます。
 いやあ。お陰様で。
 人気投票で賞なんか貰っちゃったおかげで晴れて編集部づとめを引退、今度っからは毎号連載だもんね、毎号連載。いつもいつも、一定のスペースが空いていて、好きなことが書かせてもらえる。
 うわあ。まるで本当に作家になっちゃったみたい。
 (編集部註:この人、まだ自覚がないんですかね)
 もっともこんなミニコミ同然誌3流雑文書の端くれに混ぜて貰っただけじゃ自慢にもなりやしないけど。
 (後日談:編集長がイジケました)
 ともあれ  ですねェ、ともあれ。
 自分が〆切り……なんという響きだ!……に負われる身でありながら他の人の〆切り追いかける、ってのも変な話だろうし。で、やめたんですよね、あたし。“ギャウザー”の編集部。
 もともとが安月給でしょう。科学庁統計局時代の貯金なんてのも既に使い果たしちゃってから久しかったし、退職金でまたマイクロ・カセット棚(ほんだな)増やしてしまった。それでいて、今のところまだ、確実に定期の仕事っちゃこれ1本。うーむ、我ながら無謀だなァとは、思う……
 それで今、生活費をせめて浮かす為、某所にころがりこんでいます。
 
 某所。  《エスパッション号》、という。リスタルラーナ星間連盟内でも屈指の女性科学者・某S女史(ぜんぜん名前を伏せた事になっとらんなー、ハハ☆)の、私設研究所兼長距離航行(ワープ)船。所在と研究内容はナイショね。なんでこんな所にころがり込んだかというと、伝手(コネ)があった。
 自慢じゃないけどと云いつつ何度でも書いてるけれど、実はあたし、天下のスリーナエロスの卒業生でして。(えらいだろー)
そこでひと頃同級生やってたサキって子が、地球人(テラズ)の第1期留学生だったんだけど、その後某S女史に委託教育生(でしいり)して、今、助手兼護衛兼居候  みたいな事をやっている。そこへ頼りついたわけです。
 以前にも何度か遊びに行った事はあったんだけど、割にいー加減なフネでねー、これが。
 研究所区と私邸区とに分かれてて、研究所区の方はもうばっちし、研究用設備と所員用の個室しかない。問題は私邸区でね、素性の知れないのがウロウロいんの。皆んな、一応、S女史の研究目的の理解者でね、出来る事があれば手伝ったりはしてるらしいんだけど  生活費が浮くから、って理由でズブとく居座ってるの、あたしだけ、では談じてないと思う。言い訳だけど。
 この、得体の知れない集団、あたしも含め勝手に寝泊まりしてはまたふらりと出ていく連中を、《エスパッション》では“エスパッション・サークリスト”とか“サークラー”、あるいは単に“お仲間”と呼んでいる。
 “エスパッション”
 この言葉の意味の説明は、とりあえず、はぶくね。
 それで、ですよ。ここ、この《エスパッション》に集まってる人間て、み〜んなユニークな変り者で、スゴイ奴ばっかりなのよね〜〜。某S女史を初めとする諸氏の了解も取りつけた事だし、あたし、これから当分の間、“ギヤウザー”のこのスペースをこの船、と乗り込んでる人間達、に関するレポートで埋めて行きたいと思いますわん♪
 なまじっかなフィクションなんぞより余っ程面白くなることうけあいなので、乞う御期待!!……
 
 さて、今号“ギャウザー”この欄は、あたしの近況報告とこれからの予告を書いておけ  との、編集部サマからの御命令でござえますので……
とりあえず当《エスパッション》シリーズの主要メンバー紹介なんぞに、行っちゃいたいかと。何故か意図もなくこの船は女性上位ですが。
 某S女史:言わずと知れた有名人。研究所長であり全ての運営・出資の責任者でもあるのだけれど、他の仕事あまりにも多忙を極め、不在がち。
 ミズ・クラレン:その個人秘書(パーソナル・セクレタリ)。《エスパッション》関連の全ての実務と、ひと時とじっとしていたためしのない“サークリスト”相互の連絡係を一手に引きうける。血キュ連邦(テラズ)系グリムストン星出身の有能な女性。
 サキ:前述のあたしの元同級生。事実上の《エスパッション》私邸区域中心人物。何か騒ぎがある時には必ずこのコが1枚噛んでいる☆という、やっかいかつ観察対象としては最っ高に興味深い人間。連邦系首都惑星(テラ)出身、現代史に詳しい人ならすぐに彼女の本名を見つけ出せるかも知れない。当年とって20歳。
 レイ:彼女の正体はあらかじめバラしておいてしまおう。
 
 
             (未完)
(p.5)
 「ん。ちょいとね。衣装とか小道具がもっと資料欲しいって言うんで、地球(うち)まで取りに戻ってた。」
 「実家(うち)って……極東平野出身だっけサキは? え、資料って  
 「母の遺した書庫にね、あの時代の古書がごっそりある。」
 「ウソだろだって、俺いま図書館行ってた帰りなんだけど、前アーマゲドン期の伝説に関しちゃそもそも出版点数自体が極端に少ないって」
 「司書コンピューターが言ってた、だろ?」
 「そーそー。いったい作者(まやと)がどうやって脚本を書いたのか今不思議に思ってたとこ。……あれ、どうして……」
 ニッ、とずるがしこっぽくサキが微笑んだ。
 「誰が…

(p.9)
…球的レベルの文化遺産じゃない、かなり個人的な資料が紙に書かれた形のまま大量に保存されてあったってところなんだ。」
 「カミに。へー、そりゃ貴重……」
 「だろ。で、そこの所有権とか版権とかは全部わたしにあるんだよね。管理と研究は一応考古学会に全面委嘱してあって、今、リスタルラーナ科技庁の協力で、研究者用の分子レベルまでの完全コピー、限定制作しているんだけれど  これがで手にはいる。」
 コホム。効果をねらってサキは一息ついた。
 「早い話が資料、翻訳して真谷人のところに持ちこんだの、わたしなんだ。磯原清の日記帳とか、アルバトーレの予言の書の写しとか  まあいろいろあってね。」
 「ぐわっ」
 “清”はうなった。
 「冗談だろ!? まさか、じゃ、あれ全部  ……」
 「実話だよ?」

(p.10/ver.1)
 微笑んだその横顔が光に透ける。
 「地球人は  、わたしらはもっと自信を持っていい。リスタルラーナには5000年の昔からの整理された記録があるからって、みんなついコンプレックスを抱きがちだけれど……地球にだって1000年の『大空白時代』をさらに逆のぼれば、神代の伝説として伝えられた最終戦争前の、6000年以上の有史時代があるんだからね」
 「6000! う〜〜、概念の外だな。神々が世界を創りたもうたのが一千の時の彼方だってェのに俺ンとこの信仰じゃ」
 「あは、何所もそうだよ、地球はね。だからこそいいんじゃない? 若い世界でさ。」
 「10もの世紀をつかまえて若いなんぞと言わんでくれ!」
 悲鳴をあげる“清”をサキはケラケラと笑いとばして。
 「甘い。知りあいでリスタルラーノ考古学かじってる奴がいるけどね。なんと研究の対…

(p.10/ver.2)
 からからっと笑ってのけてサキは平然と言う。
 「う〜〜。ンなわやくちゃなっ」
 伝説はあくまでも架空のものであって欲しい  んだよね、“清”みたいな現実主義者(リアリスト)にとっては。
 「大体あの話、フィクション臭い挿話(エピソード)の方がよっぽど多いじゃないか! 磯原清が実は超能力者(まほうつかい)だった、とか精霊の意志がどうとか、リスタルラーノには理解できないだろう古い概念(ものがたり)ばっかし」
 「ESPと言って欲しい……。すいませんねェ、現実に穴をあけちゃって。」
 「まさかサキは信じてるわけ。その  
 「いわゆる超常現象ってものが実在するってことを知ってるよ
 余裕  というか、かすかな自信とも呼べるものをサキはきらめかせて微笑み。
 それからくしゃくしゃっと前…
 

(p.10上欄(枠外)のMemo)

「連盟文化吸収の弊害だなァ。つい20年前までは地球人は代々のその伝え語りが現実を示しているってことを知っていた筈なのに。なにも『先進(リスタルラーナノ)』文明に染まって自分の“現実”の範ちゅう(境界)をせばめてしまう必要はないんじゃないの?」

 
 
               .
 
   幻(まぼろし) (仮題)
 
 不吉な予感にせかされて、オートロックの具合も確かめず、古めかしい、はっきり言えばとうの昔に取り壊されてしかるべきだった安アパートの非常階段をかけあがる。
ガランとした灰色の空間。
ガランとした空虚な空。
じめじめした路地裏を、彼女の高い靴音だけがカンカアアンと吸い込まれる波紋のように渡って行った。
冬の早朝。
光の無い町。
サキはダンダンとドアをたたいた。
開かない。
彼の気配がない。
ノッブに精神を集中させる。
1、2、3!
ものの三秒とたたぬ間に、鍵は弾かれたようにはねあがった。
 パッ、と目に飛び込んだのは、キャンパスいっぱいにきらめいている虹色のガラス玉と、浮かぶようにまどろんでいる美しい裸身の女神。
その下で彼が冷たく満足気に横たわっていた。
右手に絵筆を、左手に紅く染まったタオルを握りしめたまま、死でさえ彼の頬に浮かんだ幸福の輝やきを消すことはできなかった。
  ああ、そうか。できたんだね……?」
サキはそっとドアを閉め、鍵をかけた。
 
 サキと彼とが出会ったのは真っ暗な、星一つ見えない晩だった。
ビルの谷間を縫ってサキは戦っていた。
相手はおよそ30人。
腕利きの殺し屋集団。
全員がA級(クラス)の超常能力者だから防御(ガード)が固くて精神攻撃は利かない。
跳躍(テレポート)して背後にまわり込み、光線銃(レイガン)を発射して再び移動(ジャンプ)!!
右へ、左へ、後ろへ、下へ、撃つ、跳躍(ジャンプ)、撃つ。
さしものサキも苦戦を強いられていた。
多勢に無勢。
ましてサキは不意打ちの最初の一撃で左肩に傷を負っている。
流れ出る血が生暖かく胸を濡らし、彼女は次第に息が荒くなっていった。
手当てしようにも息つく暇もなく攻撃され、精神を集中して傷口をふさごうとすれば、殺し屋たちが逆に傷口をねらって精神攻撃をしっけてくる。
 それでもようやく半数ほどを倒し、残る15人をまいて走り続けるうちに、いつしか彼女は半ば崩れ始めた旧市街の下町(ダウン・タウン)に迷いこんでいた。
「どうやら追跡をあきらめたらしいな。」
サキは荒く肩で息をしながら、光線銃(レイ・ガン)を握ったまま手の甲で額の汗をぬぐった。
手がこわばってなかなか光線銃(レイ・ガン)がはずれない。
調べてみると、最後の、三個目のエネルギーカプセルを丁度使い果たした所だった。
 緊張感から解放されると同時に恐ろしいほどの疲れが出た。
傷の手当てをする気力もない。
  ここはどこだろう。とにかく歩かなくちゃ。
腕をつたって血が滴たり、前世紀の石畳に跡をつけてゆく。
ガランとした細長い空洞に化け物じみた建て物がのしかかってくる。
こういう所ではなにかが背中からおそいかかってきそうだ。
殺し屋ではなく、人を取って食う幽鬼どもが。
意識が遠のく。
と、その時、奇跡的に生きながらえていたただ一つの灯りの下を、だれかが角を曲って歩いて来た。
見覚えのある髪の色  レイだ。
  レ……イ……」
 
 
 
 虹、虹、虹、見渡す限りにきらめき、飛びかう無数のガラス玉の夢の中で彼が歌うように繰りかえしていた。
  そうだ。そうだ。そうだ。きみのいるべき所はここなんだよ。これがきみのあるべき姿だ。虹だ。虹だよ。虹色のガラス玉の中だよ。忘れちゃいけない。絶対に忘れるんじゃないよ。いいね、サキ。いいね。いいね……。
「待って!どこへ行くのルーカス!?」
ハッと目覚めたサキの目に飛び込んで来たのは、赤く浮きだした壁の時計(デジタル)。
12月2日、午前3時40分。
人は、死の瞬間、恐ろしい程の感能力(テレパシー・エネルギー)を持つという。普通人も、死の瞬間には恐ろしいほどの感能力(テレパシー・エネルギー)を持てるものだと、言う。
サキはその時にほとんど全てを了解した。
知りたくはない、が、行かなければならないのだ。
彼女は手早く服を着て宙艇格納庫へ向かった。
 
 
 
 ……彼、ルーカスにその事を聞かされたのは二度目に彼のもとを訪ずれた時、そう、その日がちょうど三ヶ月前の今日だった。
宇宙の闇と輝きの中をリスタルラーナ母星の小さい方の月、リエスにある古いドーム・シティに向けて宙陸両用のロケット・カーを操りながら、彼女はその日の事を思い出していた。
 ……薄暗い、まもなく閉鎖される旧市街の、高層ビルの谷間の一角。
前時代の遺物のような鉄製の箱型エレベーターさえ故障して動かない彼のアパートのドアをノックすると、少し以外そうな彼の声がどうぞと答えた。
「やあ、きみは……」
「今日は。この間はどうもありがとう。ろくにお礼も言わないで出ちゃったんで気になって……。少しおじゃましてもいいかな。」
「どうぞどうぞ。退屈してた所なんだ。大歓迎だよ。」
「へー。あんたん所(とこ)にお客が来るなんて珍しいじゃん。」
部屋の隅のおよそ旧式なガスコンロで料理していた青年がニヤついた。
「しかもこんな美人!あんたも隅におけないなー。おい、紹介しろよ。」
「バカ言え。さっき話ししたろ。この間ケガして血まみれでころがりこんできた奴だよ。」
「ああ、なーんだ。でもあんたこんな美人だなんて言わなかったじゃん。殺し屋に負われてる女スパイだなんて言うから、おれ、こーんなの想像してたんだぜェ。」
青年が両手で目尻をつり上げて見せたので、サキと彼は一緒にふきだした。
「ところでルーカス、昼メシの仕度はできたんだが、あんたそろそろベッドに戻る時間だよ。」
「おいおい。せっかく久し振りのお客が来てるってのにそうそう重病人扱いしないでくれよ。」
 サキがどこか体の具合が悪いのかと尋ねると、彼はうかない顔をしてたいしたことはないと言った。
青年はニヤニヤしながらお盆を持って来た。
「あっは。どーも不粋な事を言っちまって……。お嬢さん、おれ帰るからこいつよろしくねェ。こいつさァ、このとうりの貧乏暮らしでエーヨーシッチョーにかかってんのよ、栄養失調。だから無茶してまたぶっ倒れるようだったらやさし〜く介抱して、なんか栄養のあるものおごったげてよ。頼んだねェ。」
にぎにぎしく騒ぎたてながら声の主はすっとんで行って、最後の声ははるか階段の下から怒鳴っていた。
「……ルーカスゥ、へんな気おこしておそうなよォ!」
「! あのイカレポンチ野郎!!」
サキは一人で笑いころげていた。
 彼が食事を始めると、しばらくの間部屋の中は食器のカチャカチャあたる音だけになった。
  殺風景な部屋だなァ。
西向きの窓が一つ。
部屋の隅のすり減った流し台と旧式ガスコンロだけの台所(キッチン)。
バスに通じているらしい、ガラスにひびの入ったドア。
味気ない粗末な鉄製のベッドと色のはげたテーブルが一つづつに同じくがたの来たイス二脚。
それから、窓の前の空間をでん、と占領している、かつては豪華であったろうと思われる  今では元の色もわからないほど古ぼけた  ソファーの影にかた寄せられたイーゼルや絵筆、カンヴァスの山……。
「あれ、あなた絵を書いているの?」
「え、……ああ、金が続かなくて美大は中退しちゃったが、一応画家の卵だよ。……ところできみは食事は?」
サキがもうすませて来たと答えると、彼は本も何もなくて退屈だろうから、興味があれば彼の絵を見てもいいと言った。
 職業柄芸術方面にも知人の多いサキは、絵、特に新人や画学生の書く新鮮で荒けずりな絵を見るのは好きだったので、大喜びで手近にあった数枚を手に取った。
 「……きれい……」
灰色の部屋の中いっぱいに、一時(いちどき)に深山(みやま)の春が訪れたようだった。
峰々を望む高原の、キスゲの群れ咲き乱れる6月。
「……これ、女神マイラね!? こっちのは英雄マイルダイ・シャサ?」
「きみ、あの神話を知ってるのかい?!」
  ああ!もちろん!! これはあの双生児(ふたご)の皇子と皇女でしょう?! これは  ああ………………すごい!! イメージどうりだわ!!なんてすてきなの!!」
彼女はルーカスも超能力者であればよかったのに、そうすればこんなたどたどしい言葉ではなしに、思いもかけない場所で愛する人々に出会うのがどんなに幸福(しあわせ)か伝えることができるのにと、灯のともった胸を左手で包むようにして考えていました。
サキの灰色の瞳がまるで貝の火の火明(ほあか)りのふうにして部屋の中の輝やきを増しています。
彼はそんな彼女のかもしだす不思議な輝やきの空間をじっとながめているうちに、不意に食べかけのお皿を置き放したまま立ちあがった。
「きみ、今は休暇中かい?ロケット・カーで来てるんだね?」
「え、……うん。」
「頼みがあるんだ。母星(リスタルラーナ)のサリールカ高原までつれて行ってくれないか。」
 サリールカ高原と言えば地球(テラ)のアルプス山脈と並んで烏忠一と称されている広大な花畑が広がっている所。
サキも長い戦かいで心が疲れた時など、花の中に埋もれてただ涙が流れるにまかせていたことが少なからずあった。
  でも、あなたは  。」
体の具合が良くないのでしょうと言おうとして、サキはその時始めて彼の笑わない悲しい目に気づいた。
  うん。いいよ。」
彼女は持っていた絵をていねいにもとの所へもどすと、そっ、ともう一度触れるか触れないかほどに手を動かして、席を立った。
 
 
             (未完★)
                                 
                                 P1
「おーいだれか、サキ知らないか?」
「知らないっスよ監督。」
「あら、さっき映話室の方へ行くのを見かけたけど?」
「またなんか事件なんじゃないのかい」
『監督』は大袈裟に詠嘆を演じてみせた。
「ああったくもー! 月に一度の撮影日ぐらいちゃんとスケジュールを開けとけないのかね!」
スタジオ中で笑った。みんな忙しい。多忙な中、無理に一日開けて、月に一度は必ず集まって来るのだ。
サキ他数人が特に忙しく、定期的に生活できない仕事にたずさわっているらしい事は、みんな承知していた。
にも関わらず、サキが女主人公(ヒロイン)役を引き受けたのは、全員の熱望と数人の策略  サキ自身は陰謀だ!とわめくが  
によるものだった。
だから彼女になにか不都合が生じて、その日の撮影が予定通りに進まなかったとしても、だれも怒る者はいなかったのだ。
そもそもこのアマチュア総合芸術集団『オリ・キャラズ』自体が、あっちこっちから集まってきたきさくな若い連中ばかりだったから。
 
 (ああったくもー! 月に一度の撮影日ぐらいスケジュールを……)
建物からかけだそうというサキの頭に、ひょいと“監督”の思考
                                 
                                 P2
……が飛びこんできて、サキの感情と重なった。
まったくだとサキも思う。本業副業アルバイトに学校と、一日百時間あってもたりなくなりそうな多重生活者サキは、平日の夜や午後の練習に顔を出せる機会も少ない。
せめて撮影日くらいは、  自分の出番がないにせよ  きちんと仕事を手伝いたかったけれど、どうしてもさっきの映話が気に掛かるのだ。
いや、正確には映話でなく、相手によってあらかじめスクリーンスイッチの切られた、密告電話である。
信憑性がまるで無いばかりか、なんらかのわなである危険性さえもないとは言い切れないのだが、今サキが追っている事件は泥沼で、それこそわらでもつかみたいのだ。
ことわらずに出て来たのは悪かったかとサキは一瞬ちゅうちょしたが、確認するだけですぐに戻ってくれば、午後までには戻って来られるだろうと考えて車に飛びこんだ。
 
 密告電話というのはこうである。
  保安局特捜課(ジャネット)のサキ・ランかい? 暗黒(ブラック)組織クークーのネタが欲しけりゃ1時間以内にジンヴィーズのカフェまで来な。』
ジンヴィーズ通りというのは、首都惑星リスタルラーナの商業区と緑地帯の中間部にある、レストラン等の多いちょっとした街の事だ。
無論このふざけた名前は隠語であるが、そこのとあるこじんまりとしたカフェテラスが、実は裏の世界と表との接点の一つであることは
                                 
                                 P3
サキも先刻承知していた。
 そこへ言われた通りに一時間でつく。
サキは幾人か顔見知りの情報屋たちの姿をおもいうかべてみたが、そこにいるのは一般の、何の関係も無さそうな人々ばかりである。
しばらくたたずんでいたが声をかけてくる者もない。
思念波を探ってみても、見つからぬ。
サキは拍子抜けして車に戻った。一体なんだっていうんだろう。
再びエンジンを始動させて緑地帯  公園区  の方へ抜ける。
スピード制限があるため徐行しながら、あっちこっちへ考えを巡らせていると、角を曲がった所で、不意に一人の子供が視界に飛び込んできた。
ようやっと歩き始めたばかりの頃なのだろう。小さいのが、たっぷり5mはある木のてっぺんでちょこなんと枝に腰かけている。
年のわりにはみごとにバランスを保っているのだが、いかんせん、枝の根かたが重みにたえかねて今にも  折れた!!
ドアを開けるのももどかしく、サキは車から飛び降りた。
そういう時、エア・カーは自動的に停止するようセットしてあるから問題はない。
サキは子供を一旦、一段下の枝にひっかけたが、すぐまたその
                                 
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枝も折れてしまった。
ざざざっ!
悲鳴もあげず、その子は垂直に落下してくる。
3m 2m 1m   ジャスト!
ぎりぎりの所で、サキは子供を抱きとめた。
ショックをやわらげるため、そのまま地面にころがりこむ。
「う〜〜〜!」
サキはうなった。
もろに頭を木の根っこにたたきつけたのだ。
ドジさ加減だけは一生直らない。
子供は怯えた様子もなく、きょとんとして空を見上げている。
サキはなんだかおかしくなった。
「それにしても、まあ、いったいどうやって登ったのかいな」
5mである。
サキは頭をさすりながら上を見あげた。
 本当なら距離から言っても念動力(サイコキネシス)で落下を食い止める方がよほど簡単なのである。
が、場所は人出の多い公園の中。だれにも見られずにすむ心配だけはまずなかったから、めだつことはなはだしいまねは避けねばならなqい。
サキは子供を抱いたまま、ようやっとの事で上半身を起した。
服が泥だらけ。とんだ災難だ。
                                 
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「あっ痛っ!!」
ついでに足までくじいたらしい。
「ペル、ペリル!」
若い父親らしい動てんした声がかけつけてくる。
サキは子供を抱えあげた。
「大丈夫!ほんのかすり傷ぐらいしか負っていませんよ」
ちょうど逆光になって、若い父親の顔はよく見えない。
彼は子供を受け取ろうと両腕を伸ばしたまま、サキに気づくなり、はたと動きをとめた。
  サキ!……」
「え?!」
まぶしくてしかたがないので、サキは木の幹に体をささえて用心しいしい立ちあがった。
手ぐらい貸してくれればいいのにと思う。
わたしを見て驚いているようだけど  だれだろう。
左手を上げてちょっと光をさえぎるようにして、サキはそのよく光る切れ長な灰色の瞳で相手を見やった。
「あっ!」
      セイ!
 それに気づいた時、なぜだかサキは不意に逃げだそうとした。
背後の木をよけるために不自然な方向へ体をひるがえし、
                                 
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ためにサキは今くじいたばかりの足をさらにねじってしまった。
「痛(つ)っ!!」
がくんと前のめりに倒れそうになった彼女の腕を、危うい所でセイが捕えた。
がっしりした力でサキをひき起こし、小刻みに息を荒くしている彼女を、小鳥でも扱うかのように包みこんだ。
  まてよ。」
サキは軽いショックで青ざめている。めまいがして過去にひきもどされそうだ。
セイもこの再会にとまどっているようだった。
「なぜ、逃げるんだ……?」
 ジーイ ジーイ とセミによく似たリスタルラーナの昆虫が鳴いている。
木もれ日が、芝生にもサキの肩にもまだらを作り、ペリルと呼ばれた男の子は、親指をくわえたママ、きょとんとして二人を見あげていた。
一分たったか、十分たったか、かなりに思われる時間が過ぎて、サキはようやく平静をとりもどした。
「ごめん。もう大丈夫。」
なにが大丈夫なのか、サキはゆっくり振りかえった。
「久しぶりだね、セイ。」
 
 
 
              (未完).
 
 「ヤスカ・イルレム少尉、今度の君のおまえの次の任務だ」
 薄汚ないメトロの便所の中で、彼は上司からの伝達を受けとっていた。映像などばく然と人の姿だという事が判る程度のヴィデオ・カセットである。画面には、あまり暗いので、かろうじて男性らしいと思える程度にしか解らない人物がぼんやりと映っている。
「見たまえ」「これを見ろ」
 ぱっと画面が変わって、鮮明な一人の少女の姿が現れる。そのまりの光度差に、一瞬、彼にはその少女自らが銀色の光を放っているかのように見えてしまう。
画面は次々に動いてその少女の様々な角度からの表情、姿勢、体型などを見せてよこしたが  中には変装した(つもりらしい)スナップなども数葉あったが  を送ってよこす。
それと同時にかなりの量の数値的な情報をも、彼は、現われては消える細かな字幕の網から読みとっていた。
「で?」と、無駄と知りつつヤスカは、は、まるで通話中であるかのように低い声で疑問視をさしはさむ。
 
 すると、の事は全て知っているが、彼の方では未だに、そして一生、正体はおろか名も顔つきさえも解らぬ男=暗闇の箱の中の上司が、質問に呼応するようなタイミングでにして、本題を切り出すのだ。
「名前はサキ・ラン=アークタス。サキ・ランの通称で通しているが、地球人だ。この女が、今度特例として特捜養成センターへ入所する。特捜(エス・ピー)課に就任する事になった。おまえの任務は、この女に近づき、S・Pになろうという意志を半年以内にくじかせること。ただし、一切の危害を加えてはならない。できる事なら恋を仕掛けて一生を家庭に閉じ込める事が望ましい。  この女が自然死に至るまでの一生を監視せよ。」
「監視? つまり、ボディーガードが目的か」
 一人問い返す彼の声を尻目に、画面の人影は中途で消えた。  たまにはタイミングをはかり損ねる事もあるものだ。
  は、ついに俺の一生を縛りつけやがったか」
 彼は吐き出すようにつぶやいて、薄汚れた彼本来の世界影の世界を後にした。
 
 
              (^◇^;)
 
 「サキコ・ラン=アークタス。通称サキ・ラン。……フム」
 先に送られて来ていた書類の一部をざっと思い返しながら、“ボス”、リグビー,リテロ(リグビーが名字である)は、目の前に立つ少女を見るともなしにながめていた。
 いや、ながめるなどというのは誤りである。知らぬ者の目から見ればぼんやりした一べつ、ともとれる表情の下で、“ボス”=保安局特殊そう査課長は、瞬時にして少女の全てを把握していた。
 身長171〜2cm、身長約27ピアレス、体重473レア。胸囲B・W・H、上から15−10−14.7。髪・腰の上までの長髪、自毛、青味がかった灰色。瞳、同色、コンタクトなし。はだの色  黄金がかった淡いアイボリー……
いや、そんな事はどうでも良かった。全て書類通り、立体写真通り。ただ彼の冷徹な黒い瞳を(それとわからない程とは言え)ゆらめかせたのは、少女が一見してかなり華しゃそうな外見を持っている事だった。
 27ピアレスと言えば、女性にしてはかなりの長身である。15−10−14.7、すらりと引きしまってはいるが、脚の肉づきも良い。はっきり言って、比類まれな、という程の黄金の優れたスポーツ選手にのみまれに見い出される、完璧に均整のとれたプロポーションと、言って良かった。それが、なぜ、ほっそりと優しげな印象を与えるのか  ……
しばらく、(といっても、コンマ2.3秒)黙思した後に、リグビー=彼、は、解答を後刻に譲って立ち上がった。
どのみち、この少女は今日から完全に彼の指揮下に入ったのだし、観察する機会はいくらでも得られる筈なのである。
 
  彼女=サキは、外見より余程緊張してその会見に臨んでいた。
今日から、この男=彼の指揮下に入るのである。命、及び全運命をゆだねる相手と言って良い。濃色のサングラスのかげにひそんだ暗く、冷たい瞳。しゅう念のように伸びた闇のストレートヘア。細く高い鼻筋、白い肌。サキの目にとまった男の特徴と言えば、せいぜいがこのくらいのものであったろう。しかし、彼女にはそれで十分だった。大丈夫、この人は それ以上を知る必要はとりあえず……
 ないのである。
 
  そこは、とある巨大な地下構築物の中に一室であった。広いフロア。白々と証明が周囲を照らしている。
「良かろう。」リグビーはうなずいた。「今日から君はわたしの指揮下に入る。わたしはリグビー、リグビー,リテロだ。」確認。サキは肯く。
「特捜課の性格は既に知っている事と思う。特捜課は保安局の一分室でありながら、保安局との間に命令系統を置かない。特捜課はありとあらゆる情報の収集と共に刑事・民事・及び国際関係等における大規模な陰謀・犯罪のせん滅を任務とし、物量作戦の必要な時にのみ、保安局長との信頼関係に基づいて協力を要請する。  保安局一般側で我々の手を必要とした場合にも同様で、わたしの所へ出動依頼が来る。」
再びサキは肯く。彼女の場合、弱冠17歳での入課というのは、それと同じ伝手(ルート)をたどった挙句のものだったので、ある。
「君は現保安局長の要請でこの課に受け入れられる事になった。説明を受けた君の“特殊能力”というものについても、わたしなりの認識は持ったつもりだ。  一抹の不安は残るが」
「超能力というものは、理論的には誰しもが持ち得る筈の素養なのです。ただ発現するかしないかと言うだけで」
「それは聞いた」
 リグビーは  書類に記載もれだった彼女の特質を発見して内心きょう嘆しながら  素っ気なく言った。
「書類、資料、それから君を推してきた人間たちの人物に信用をおいて、特捜課は、異例として君を即日採用で活動網にくみ入れる事にした。」
「はい」サキは手で示されて椅子に腰を降ろした。これでリグビーリッガーにはサキに関する疑問点が3つに増える事になった。  最初の一つと、なめらかでどこか優しい芯のある肉声の声楽的な音域分類名称。そして、この地味めだたないが時折り息をのむ程に美しい洗練された挙措動作、及び躾が、いかなる人物のどんな教育によって培われたものであるか  である。
「第一の任務を言う。君はこの後直ちに特捜課養成所に入所。半年以内に第三課程をり修し、いずれの課目も中の上〜上の中程度の成績をとらなければならない。」


     リグビー・リテロ
     リガー
     スガル・リグビー

 
  サキは顔色一つ、顔筋一筋動かしはしなかったがあからさまに表情をかえるような礼儀知らずな真似こそしなかったが、それでも瞳の奥に不満と疑問の色が浮かぶのをまでは隠しおおせる事ができなかった。養成所の卒業までには8年かかる。そのようなムダを費やしたくなかったからこそ、無理を言って伝手をたどらせてもらったのではなかったか。
「にらむな」
彼=スガル,リグビーが、この男にしては打ち解けたといって良い表情で唇の端をつり上げた。彼にしては、会って話をするのこそ始めて直接顔を合わせるのこそ初めてとは言え、目の前の少女の人柄を満更知らないわけではない。これまで2〜3度、この彼女が否応なしにまきこまれてしまった事件を通じて、部下から話を聞きもしたし、映りの悪い映話(ビジフォン)を通じてごしに二言三言かわした事もある。少女=サキは有能だった。銃その他の武器の扱い、格闘技術、探索には不可欠の特有の勘のひらめき  ……。その点では、とても素人だなどとは思えない。即日実戦に投入しても大丈夫だ、という確信がある。しかし。
「第三課程の教育課目は、変装術、暗号学、隠密行動における基礎知識と実習訓練などだ。承知しておいてもらうが、特捜課員の活動においては、これまで君の見てきたようなハードボイルドな面が占める割合は、低いのだ。大部分が地味なスパイ行動に占められていると言っていい。  ちょっとした不満程度でいちいち目の色を変えているようでは、生きて帰っては来られん。
もう一度言う。サキ・ラン=アークタス。君は今から養成所に行き、普通なら最低一年かかる第三課程をり修、半年以内に戻って来る事。それとどうじに……」
サキは座り直した。彼=スガルの言葉に、ただ訓練を命じるのとは異ったを感じたのである。
スガルはふっと言葉を切って、この異常に勘の良い少女  今は、スガルも、サキが少女と女性nちょうど中間点にいるのだという事に気づいていたが  をながめ直した。  これも超能力とやらの一部なのだろうか?
「半年後に、ジーストの国家元首が我がリスタルラーナを訪れる。」
 サキは肯いた。知っている。未だ政府要人の一部にしか通達されていない筈の機密事項ではあるが。
「その際の警護の大半は、通例で、我が特捜課が請け負う事になっている。臨時に大人数を必要とする任務には、指揮者を除いて全て養成所から動員する」
 サキの脳裏にある考えがひらめいたが、先回りして話し出す程、軽薄ではなかった。
  ……その勘の良さも超能力とやらの内か?」
「え?」
サキは不意をつかれてキョトンとする。サキには予知能力は殆ど無い。テレパシーは自己暗示で封じてある。自分の勘の良さと、超能力とを、それまで結びつけて考えた事は無かった。
「まあいい」スガルがあいまいに手を振る。
「その養成所に、逆スパイが潜入。人数・性別・階級などは一切不明だが、かなり組織立った動きを見せて情報を外部へ流し続けている。サキ・ラン、任務は、第三課程の終了、逆スパイを派遣して来る組織の正体の探索、同じくその目的の調査。計3つだ。いずれも半年以内に遣りとげろ」
「了解。」
 りんとした、涼やかで一本芯の通った声で短かく答えると、サキは立ち上がって部屋から出て行こうとした。
「それから」
 少女の野鹿のような後姿に目を遣りながら、男はあわてるでもなしにつけ加えた。
「おまえの任務と正体について知っているのは、わたしの他には養成副所長のみだ。そのつもりで行動しろ。」
 サキは黙って肯くと出て行った。それだけ聞けば、解る。
   つまり、養成所長自身もが、クサイ、のだ…………。
 
 
    (第三者描写!!) 
 
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
 

 養成センターと保安局本部は、きっかり惑星半周分の間を隔てて建造されている。万ヶ一どちらか一方の機能が破壊された場合を想定して、遅滞なく組織の移動ができるよう備えてあるのだ。
 あれから三日後、身の回りの品の入ったショルダーバッグ一つを携えて、サキは幾重ものゲートをくぐり抜けた。
 「ようこそ、サキ,ラン。書類は回って来ている。第三課程に編入。体術訓練ははぶく、だな?」
 「はい、教官。よろしくお願いします」
 「む、わしは第3課教育主任のルゾンだ。」

 
 
 
 
               
ぁぁぁ……☆ スケバン刑事の、影響モロ出し……(^◇^;)……
 
                 .
 
   どうして  ……?
なぜサキはあんな風に、いつも孤独(ひとり)でいようとするのか? それがエリーにはどうしても理解できなかった。サキは、いつも誰よりもほがらかに笑って見せるんだのに、ある時ふっと気がついてみると、その笑顔の下からどうしようもない真実にも似た淋しさがのぞいているのだ。
彼女がいつになくその固く閉じこもったからの存在を見せつけてしまってから、かれこれ3時間近くもエリーはその事ばかりを落ち着かなく考え続けていた。
 それに、サキの安否も気にかかるのだ。
 自分が友人として愛している人間が一人っきりで闘っているかも知れないような時に、側に行って手助けする事ができないという事実は、ひどい劣等感となって心にのしかかって来る。エリーには、彼女について行くだけの能力もないのである。
すぐ隣りではケイが、いかにものんきそうにして何かを五線紙に書きつけていた。
地球の古代楽器に関するレポートの一環なのだろう。指を使うのがおっくうなのか、速度が遅くなるから提出に間に合わないのか、体の左側  座っているひじのちょっと上あたりに  写本している何かの総符を宙に浮かばせて、そのまま残留思念を頼りにあちらこちらとテレコキネシスでページをめくっている。
   悪いくせだわ。やめさせなくては。
 そうは思いながらも声をかけるではなく、エリーは何気なしに壁の時計へ目をやった。あと二時間でレイが戻って来る。
すぐにサキを探しに行ってもらったところで見つけ出せるのはいつの事なのか。
 (それまで何事も無ければ良いのだけれど  ……)全て自分の無力さが災いしているのだ。
 「えっ? 何か言った?」
 知らないうちに心の壁にすき間ができていたのだろう。ケイが彼女の心の断片を聞きかじったらしい。
さらに自分の無能力さを思い知らされて苦々しく思いながらも、エリーはつとめておだやかに首を振った。
 「……なんでもなくてよ、ケイ。それより本を扱う時にはきちんと手をお使いなさいな。サイコキネシスで宙に漂よわせておくなんて、行儀が悪くてよ。」
 ケイは首をすくめて本を引き寄せると、今度はちゃっかり書く方のペンを手から離して動かしている。エリーは少しばかり噴きだしそうにしたが、笑みは頬に張りついたまま、手の平の雪のように溶けくずれていってしまった。
 
 
               .
 エスパッションシリーズ Part 1.
 
 癒えない傷跡 ……第二稿……
 
 宙暦17年。リスタルラーナ上空40万km。  ここまで上って来てしまうと最早“上空”等とは言い難い。
大小2つの月すら足下をはるか横切って行くのである。
そんな高所からの惑星のながめは、なかなかに素晴らしいものだった。
 サキは今、ふと思いついた自室の大掃除が面倒になって、途中で逃げだして来て一服しているところである。と、言ってもロビーは子供達の遊び場をも兼ねているから、そのにぎやかな事と言ったらないのだが、本に頭を占領されているサキにとっては、まあ、存在しないも同然である。
そんな様子の彼女を見て、
「何、読んでるの?」と、前を通りかかった少女が例の調子でちょっかいをかけて来た。
「ん? ああ……万葉集だよ、ケイ。」
字義通り没頭していたサキは、半ば呆けたような表情で顔を上げながら相手に書名をさし示した。
「またァ?」 ケイが愛らしい群青色の瞳をあげて、あきれた声をたてる。
「たっぷり20世紀は前の本なんでしょう?! それ、そんなに面白い?」と言うのだ。
実際には25世紀近く昔に書かれたものらしいね、とサキが答える。
「これの良さが解らない方がどうかしてるのさ」 そう言って本を閉じると、
「あら、まあ、偉そーに……」とケイが反撃する。「なんなら化(バケ)学の面白さでも説明しましょうか?」「ヒエッ!」
 つまるところは、本と言えば少女小説しか読まないケイと、化学と聞くと回れ右して逃げ出すサキとの、いつもの通りのかけあい万才なのである。
そこへ、
「良くやること、ね、おふたりさん」 とばかりに、世紀の金髪美人(ブロンドグラマー)エリザヴェッタ・アリスが割り込んで来た。「お茶を入れたのだけれど……いかがかしら?」
「わっ♪」すぐにケイが手をたたいて喜ぶ。
「サンキュー、エリー!」 サキも笑って手を伸した。「お茶」と言うよりもお茶菓子の手造りケーキの方へである。
 3人がジョークの2つ3つ飛ばしながらお茶に口をつけた時だった。壁の向うの廊下の辺りからレイがテレパシーでサキに話しかけて来た。
(サキ!!)
気づいて、サキの飲みかけた茶碗の動きが止まった。(何!? レイ)
 
 
 
              (未完)。
 
 
 
 サキは追い詰められている。歩いている。本当は走りだしたいのだが、それもできずに、歩いている。
 右を見る。
 左を見る。
 雑踏。人混み。騒がしくさんざめきながら通り過ぎて行く人々の群れ。初夏の太陽。風。
  不意に。目の前が赤く、暗くなって行く。視界がせばまる。
汗。汗。じっとりと冷たい汗が全身を覆う。
サキは耐え切れず、わけもわからない言葉を。喚き、叫び始めた。
頭をかかえこむようにして、。路頭にしゃがみ込んでしまう。
   道行く人々のが彼女にそそがれる。
驚き。好奇。そして疑問に満ちた眼が。
 サキは恐怖に駆られて走り始める。恐慌状態  パニック。必死で走り抜ける彼女の上に、大通りを行き交う人々の視線がからまりつく。
 サキは十六歳。まだ少女だ。が、大人びている。明るい表情をしている時にでも、どこかに暗い陰があった。
長い灰色の髪に、灰色の眼。寄宿舎を抜け出して来たままの、ぞろっとしたネイビーブルーの制服姿。
名門私立校の記章のついたベレー帽を、つかんでいる。無意識につかんでいる。

 いつの間にか川べりについていた。人影がまばらになる。サキは歩調を落とす。
木陰にベンチ。サキは腰を降ろす。
 自分がESPERである事は、十二の年に知った。それから三年間、サキは仲間たちばかりの環境で暮らしていた。四年目に、彼女はそこから飛びだす事を願った。そうして今の学校に入ったのである。
   何から逃げているのか、何を恐怖しているのか。サキは自分でも解らなかった。ただ  ……
善良な人々の間に居る事は耐えられなかった。何の迷いもなしに街を歩いて行く人々。外見だけに魅かれて、サキに慕い寄ってくる無邪気な下級生たち。それら、何の穢さも持ち合わせてはいない顔をした、他愛もない人間。
 むしろ、サキは、自分のドロドロした穢らしさから逃れたくて、逃げまわっていたのだったかも知れない。
 
 市民からの通報を受けたのだろう、素行不良な生徒を捕まえて処罰する為に、川上の方から教師と数人の警官たちが歩いて来ていた。
サキは再び恐怖心に駆られて、見つからないうちにと盲滅法に走り出す。  角を曲がった。
 どすん。
 「気ィつけろ!」
 サキは振り向いてしどろもどろに謝まろうとする。振り向いて相手を見、それからまた跳びすさるようにして走りだそうとした。
  サキ!?」
 一瞬間。相手の方が速い。サキは二の腕を捕まれていた。
 「  ……レイ……。」
 極度の緊張からか、それとも逆に気が緩んだものなのか、腕を抑えられたまま気を失って、サキはのけぞるように倒れてしまった。
 
 
 
          (未完).

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