(p16)
 
「八甲田山になっちまう」
「雄輝!遊ばないでよ!」
 わけのわからない情勢に、兄弟同然に仲がいいとは言え自分の出生にはなんの関係もない2人を下手をすると生命にも関わりかねない巻き込んでしまった内心の罪悪感のおかげで、ついつい真里砂の口調はとんがってきた。
 不機嫌の原因を考えれば本当におかしな話だが、なぜだかやたらに雄輝に当たり散ら八つ当たりしたくなってしまったのであるだ。かろうじて真里砂は抑えていた。と、同時に、(更に矛盾した事には)、2人  特に雄輝が一緒である事を感謝せずにもいられなかったのではあるが。
女の子、という条件は保留するとして、いかに気が強く、勇敢で、年齢以上の判断力を持っているにしても、真里砂はやはり12歳だった。もし2人が来なかったら、あの鳥人の坊やに取り残されたあとの自分がどんなに取り乱していたか  真里砂には容易に想像がついたつく。
だからこそ自分の頼り無さに腹を立てていたのである。挙げ句の果てには(雄輝の後にはりついている限りその要もないのに)辺りの枝に当たり散らして八つ当たりして、荒っぽく押したり引いたりしながら歩いて行った。たのだ。挙げ句の果てには辺りの枝を押したり、引いたり、雄輝の後ろにはりついている限りその必要もないんだのに、やたらに当たり散らして歩いて行った。
 
 一行、わずか3人でそう呼べるものかは知らないが、は、見知らぬ森と雪の中でいたずらに円を描いてしまう愚を避ける為に、鋭の名づけて“3本の樹による直線の書き方”  をで進んでいた。つまり何の事はない、家庭科の時間に物差しの長さが足りなくなるとやる、あの手である。
 
 ↑.....↑.....↑.....↑.....
 (※さし絵ページの説明※)
 
 雄輝と鋭とが真里砂を見つけられたのも、2人が目をさました倒れていた2点をつないで、先に例の“穴”に先に飛び込んだ雄輝の方向に延長してみたおかげだという。
 大体の所要時間の割り合いから自分の推論、というより勘の正しさを証明してみせて、鋭は盛んに一人で得意がっていた。
 
 サワ。サワ。サワ。
 
 

(つづく)          .
 サク。 サク。 サク。
最初に歩き出してから既に2〜3時間は過ぎ、辺りはすっかり暮れてしまった。
 サク。 サク。 サク。
薄い競技用の靴を通して、踏みわける雪の冷たさが、じかに真里砂の足につたわって来た。更に4時間。5時間とたって、辺りはすっかり暮れてしまった。歩くたびに肩へ雪が降りかかる。
 「下手に動くとかえって危なくなってきたね。」 鋭が言う。 「もう目印の木を見つけておくのも難しいよ。」
 それに対して雄輝がまた何か冗談口を言い、真里砂は珍しくぼんやりとそれを聞き流しながら、自分でも何を考えているのか解らないなくなるような何事かを考えあぐねていた。
三人は幾度か野宿に  夏か、せめて春だったなら  良さそうな場所に巡り合っていたのだが、その度に激しくなる風雪が追いたてる。
 「おい真里砂マーシャ! どうした? ぼんやりして」
 わざと景気づけるような雄輝の口調に え?となって、真里砂は、はっと正気にかえった。

 雄輝と鋭が二つの大岩の間のすきまを検分している間に、そのまま歩き過ぎてしまうところだったのだ。おまけに真里砂は鋭の心配げ、不安そうな目つきまで見落としてしまった。
「なんでもないわ  ちょっとボンヤリ考え事してて。そこ、眠れ泊まれそう?」
「マーシャのその袋の中味いかんによるけど  。どっちにせよ今晩はまあ眠らないほうが無難だろうね。とにかくその袋の中味を確かめて、火をたいて少しあたたまらないと」着る物と。食べる物と。どっちも足りないようだったらうとうと以上はだめだろうけど。」
「その前に、火打ち石でも、ほくちでも、マッチでも、ライターでも、ライターでも、マッチでも、火打ち石でも、火打ち金でも、なんでもいいから、何か火をつけるものを探してくれ!」
「がっつかないで何か火をつける道具を探し出しといてくれ。おれはまきになりそうなもの集めて来る。」「QX(キューエックス)。」鋭が答えて片目をつぶり親指でGOサインを出す。
「マーシャ早く入りなよ。えらく狭いけど、向う側に倒木があるんで風は防げる。落ち葉がつまってて結構居心地いいよ。」
 真里砂が腰をかがめて中へ入って見ると事実鋭の言う通りだった。横座りに座り込んでいざ袋の口を開こうとしたのだが、指先がぼんやりしてはっきり見えないようだ。
 なんとなくそれは、口に出せなくて、真里砂は、指がかじかんじゃって……と言って鋭に渡したが、代わりに鋭のやっていた狭い岩穴の中央の落ち葉と土とをかきのけて火を燃す場所を作っているうちにようやく頭が冴えて来て、気を取り直して鋭の悪戦苦闘している手元をのぞきこんだ。と、
「あら、なあんだ。そことそっちを同時に引けばいいのよ、鋭。単なる旅結びの一つじゃない。だわ。」
「え? 旅結び?」
 問い返されて、真里砂はまたさっきの奇妙に頭がぼんやりしていく感覚が戻って来て押しだまってしまった。
 鋭が、しかたなく問いつめるのをあきらめて「こうかい?」と言われた通りにすると、簡単に袋を縛っていたひもはとけた。堕物で2人して単純に喜びながら色々中味を漁っているうちにふと鋭が思い出して聞いた雄輝も戻って来、不思議と手慣れた様子で真里砂が火打ちを扱うと、5分の間には幾本かの枯れ枝が明るく岩穴を照らし始めていた。
 「  で? 袋の中味何だった?」 寒さが少し楽になったところで雄輝が聞く。
鋭が答えて、
「シーツだか毛布だかわけのわからない風呂敷の化け物みたいのが5〜6枚。厚手のシャツみたいのが2枚。下着の包み1つ。服が上下とも2〜3枚。見た事のない食料ひと袋食器ひとそろい。剣と短剣ひと振りづつに弓矢ひとそろいの入ったらしき封印のして包み。あとあともう一つ平べったい袋があるんだけどこれはまだ見てない。」
鋭がまるで暗唱でもするかのように一気にまくしたてたもので雄輝は恐れ入った。
「……おまえ、よくそれだけ一度で覚えるな  ……」「誰かさんとは脳細胞のきたえ方がちがうんでね。」  真里砂はあいまいな微笑をかろうじてもらしただけだった。真里砂がかろうじてあいまいな微笑しか浮かべようとしなかったのにはあとの2人は気がつかない。真里砂は口の端を持たげて少し眠たそうに笑った微笑(わら)った。
 

(途中から大きくバッテン印で没にしてある★)
 
 サク。 サク。 サク。
最初に歩き出してから既に2〜3時間は過ぎ、辺りはすっかり暮れてしまった。
 サク。 サク。 サク。
薄い競技用の靴を通して、踏みわける雪の冷たさが、じかに真里砂の足につたわって来た。更に4時間。5時間とたって、辺りはすっかり暮れてしまった。歩くたびに肩へ雪が降りかかる。
 「下手に動くとかえって危なくなってきたね。」 鋭が言う。 「もう目印の木を見つけておくのも難しいよ。」
 それに対して雄輝がまた何か冗談口を言い、真里砂は珍しくぼんやりとそれを聞き流しながら、自分でも何を考えているのか解らないなくなるような何事かを考えあぐねていた。
三人は幾度か野宿に  夏か、せめて春だったなら  良さそうな場所に巡り合っていたのだが、その度に激しくなる風雪が追いたてる。
 「おい真里砂マーシャ! どうした? ぼんやりして」
 わざと景気づけるような雄輝の口調に え?となって、真里砂は、はっと正気にかえった。

 幅50cm程の、半ば干からびかけた自然の溝に危うく落ち込むところだったのだ。
「なんでもないわ  ご免なさい。ちょっと考え込んじゃってて」 真里砂は慌てて溝を踏み越えた。
「さっき話してた、鳥人とかの事?」後ろの鋭から尋ねられて、あいまいに首肯する。
「ここがどこでおまえが何者なのかって事だろ」
つうかあに雄輝が言い当てて、真里砂の顔を少しく赤くさせた。怒ったように真里砂が答える。
「ええ。  馬鹿みたいだわ。六年間考えても思い出せない事だって言うのに。」
「さあどうかな」と再び雄輝。
「おまえが何者かって事はさて置くとして、ここがどこかって言うのは現時、今一番の大問題だぜ。鋭。おまえはどう思う」
「さーあね〜え」 鋭は少々すねた声で返事をしてからしばらく黙っていた。
「地球上だと仮定すれば、気候からして僕らの居た朝日ヶ森より緯度か高度の高い場所で、さもなけりゃ単に時間がずれただけで、ここは朝日ヶ森のどこかなのかも知れないね。だけど真里砂が言う通り、鳥人有翼人種が住んでるんだとすると……う〜ん。それよりあの灰色の穴(ニュートラル・ホール)  何だったと思う?」
「通路」即座に雄輝が答え、鋭は世にも奇妙な顔をして「へ!?」と言った。「異世界  魔法世界(マジックワールド)への通路さ、要するに。ここは俗に言う妖精界(フェアリランド)なんだ」
 断定形で言われて、鋭は明らかに頭へ来てしまった。
ちょっと待ってよ!僕は待った。その伝で行くなら僕は、次元の裂け目に落ち込んで、異次元もしくは地球以外の別の惑星に飛ばされたんじゃないかと思うんだけどね、幻想(ファンタジー)狂い。」
「なにをっ 自分だってSF気違いだろうが!」
 怒った雄輝がばっと振り向いて言い返したもので、三人の歩みはそれなり止まってしまった。
 
 
(大きくバッテンして没★(^^;)★)
 
 幅50cm程の、半ばひからびかけた小川の跡に危うく落ち込む所だったのだ。
「なんでもないわ  ご免なさい。ちょっと考え込んじゃってて」 真里砂は慌てて溝を踏み越えた。
「さっき話してた、鳥人とかの事?」後ろの鋭に尋ねられてあいまいに首肯する。
「ここがどこでおまえが何者かって事だろ」
つうかあで雄輝が言い当てて、真里砂の顔をさっと紅くさせた。
「ええ。」怒ったように真里砂彼女が答える。「馬鹿みたいだわ。六年かかって思い出せなかった事なのにだって言うのに」
「さあ、そいつはどうかな」と再び雄輝。
「おまえが何者かってのはさて置くとしても、ここがどこかってのは今一番の大問題だぜ。おい鋭、おまえはどう思う?」「さあね」
鋭は生返事をしてつけ加えた。「土台、判断を下そうにも、僕はマーシャの髪が緑色って事以外、何(なん)にも知りゃしないんだからね。」
 すねんなよ、と、雄輝が笑った。当の真里砂もそれ以上の事など何も解っていないのだから。
「だけど多分、  十中八九  ここがどこであろうとおまえの生まれた所だ、って言うのは俺が保証してやるよ、マーシャ」
その言葉を聞いて、瞬間、真里砂と鋭は眉間を寄せた。
真面目に言っているのか  それとも何かの冗談なのか、判断即座には判断がつきかねたのである。もう一度無言の質問を雄輝はいたずらっぽく笑ってうけ流し、鳥人と話す時に使った言葉で『お母さん』と言えるかと真里砂に聞いた。
「まいま  るんなまいま。」 真里砂が少し考えるようにしてから答えるともう一度雄輝は満足そうな笑い声をたてた。
「そりゃ、もちろん真里砂は覚えていないだろうけどな。」と、あとの2人が腹を立てたくなるぐらい秘密めかしてこっそりゆっくりしゃべる。
「6年前、マーシャが朝日ヶ森の奥で熱出して倒れていた時  第一発見者は俺だったんだよな」
 あ! とどちらも察しの速い真里砂と鋭が同時に叫んだ。
「そう。その時マーシャはうわ言でその“まいま”を繰り返し呼んでいたんだ。」
 
 
 

 まゐま
 まるま
 まいま
 るんなまいま
 マイマ
 ルンナマイマ

 
(つづく)         .
 
 …………。
 しばらくの間、なおも木々をかきわけて歩き続け押し進みながら、沈黙が流れた。
真里砂は完全に頭が混乱して自分が何を考えているのかも解らない有り様で、幾度もけつまづいては雄輝か鋭に危うい所で抱きとめら膝をついた。これは森歩きに慣れた彼女にしてはごく珍しい事だった。
 「  そう。」 最後に真里砂はつぶやいた。「それではわたしはここの  この大地の国ダレムアスという世界の人間なのね? ここは  どんなわけがあったのかは解らないけれど、何か恐しい目に遇わされていたわたしを、ひとりぼっちで追い出した故郷(ふるさと)なのね」
 いつのまにか、雪は
「マーシャ、うれしくないのか?!」 雄輝が、驚いた時の常でつい声音が大きくなりながら言った。貿易商だった両親につれられて外国生活を続けた後に、飛行機事故で孤児となって初めて日本へ戻って来た時の安堵感が脳裏にある。2年前の事だ。
 解らないと真里砂は首を振った。
 「もっと落ち着いたなら、もしかしたらうれしいとも思うかも知れないわ。だけど、自分が“帰って来た”のだなんて感じはまるでないのよ。それに  」 真里砂はきつく唇をかみしめた。
 「地球(ティカース)ではわたしは幸わせだったわ。養女とはいえママとパパの娘で、外交官有澄夫妻の令嬢。演劇部の部長で朝日ヶ森学園小等部6年1組の有澄真里砂だったのよ。それがここではどう?! マーライシャという名前以外は何もない。氏素性すら解らない、ひとりぼっちのただの記憶喪失の少女だわ。」
 「落ち着きなよ、マーシャ。」 再び膝をついてしまった真里砂に後から手を差し伸べながら鋭が言い、真里砂は邪慳にそれを振り払った。
 「恐いのよ。あなたには解らないわ!」
 鋭は一瞬傷つけられた瞳をしてひるんだが、それでも辛抱強く真里砂が立ち上がるのを待っていた。
 「マーシャ、そりゃあ僕には記憶喪失になった経験なんか無いから、どのぐらい不安になるのかは察しもつかないよ。だけど……少なくとも自分の親が解らない寂しさは知ってる。  僕は捨て児だったからね。」
 
 
 
 
(つづく)          .

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