一、
二、序章
三、

 
   一、
 
 隣室から聞こえて来るかすかなせわしない物音に、清峰鋭(きよみねえい)はふっと浅い眠りを起こされた。
耳をそばだてて静かに息を殺して壁に耳を当ててみる。
が、用心して室内ばきを脱いでいるのか、聞きわけられるのは物の上げ下ろしや戸棚の開閉の音。 それに開け放してるらしい窓が風でかすかにきしんでいる音が混ざる。
   どうやら今夜決行する気らしい。
 気づいて鋭はわけも知らぬわからぬままに背筋を何かが走るのを覚えた。ゾクッとなった。
なにか、自分と、自分たち三人の一生を左右するような、とてつもない事件が起こりそうな気始まるんじゃないか  !?
予感が身内を走り抜けたのだ。
 マーシャは、彼女は、この間からいったい何を考えてるんだ。
いやそれより、これからどうしようとしているのだろう?
鋭はぐずぐずしている暇がないのを思い出してベッド寝台の上に体を起こした。
振り向いて、反対隣のベッドに寝ている雄輝(ゆうき)の背中をつつく。
トン。トントントン。
 雄輝の方で指定した約束の合図である。
  就寝時間から午前一時までは雄輝俺が不寝番をする。それから朝までは勘が非常にいい鋭の方が、何か起きればすぐに目をさます覚悟で壁際のベッドに移る。で仮眠するしてろ……。
しかし一向に目をさます気配がないので、
 鋭はもう一度雄輝を突つこうと腕を伸ばした。かどうしようかとためらった。、一旦伸ばしかけた指をまた止めた。
これで気がつかないようならお手上げだ。
下手にゆすったりして寝ぼけ声をたてられたら、鋭同様五感の発達したマーシャ真里砂(まりさ)には、様子をうかがっていた事がすぐにばれてしまうだろう。
 ゴソリ。
鋭の指が動きかけた丁度その時、雄輝の体がごく自然に寝返りを打った。
両目を開け、既に目を覚まし、その顔んは驚いた事に一片の眠気の陰すらの形跡を見せない。すらない。
 「  どうした。何かあったのか」
声帯をまったく使わず、口唇だけ動かして雄輝が尋ねた。世に言う読唇術という奴である。鋭がまだこの方法に慣れていないのを知っているので極くゆっくり唇を動かした。
「マーシャが今夜決行する気らしい。  だけど、なにを、だろう?」
  さあ、な。」
 真里砂とは6年越しのつきあいの、幼な慣じみ幼馴染みで、かつ一人っ娘の彼女の兄貴変わりでもある雄輝は、鋭ほどさほど不安を感じていないのか、さして鋭ほど深刻な顔はしていない。
ヒョイ、とかがみこんで、ベッドの足元からかねて用意のリュックサックを持ち上げた。
<行くぞ。非常階段用のはしごから先回りしてどっちへ行く気か確かめよう>
鋭もうなずいて彼に続いた。
 
 
                .

森の中はしんと静まりかえっていた。
たき火には土がかぶせられ、(こうすると、少しのたき木で一晩
火がもつのだ)すきまから細いけむりがたなびいていた。
木々の上に大きくて明るい満月が顔を見せ、地上に
光と影を作った。
それは、地球の月の倍ほどもあり、この上もなく美しく、
さえざえとした銀色の光をはなっていた。
そして、身が軽く翼の強い鳥たちならば、一日で行って帰って
くることができるくらい近くにあった。
さて、月がゆっくりと上がってくるにしたがって、
木々の葉ずれの音のようなささやきが森中に広がった。
それは、ごくわずかなざわめきだったのだが、
真里砂たちは気づいて、体を起こした。
「なんだ、あなたたちも起きていたの。」
互いに、他の人は寝たのだろうと思いながら考え事を
していたのだった。
「あの音は何なんだろう?」 鋭が言った。
「風もないのに木々がザワついてるね。」
しばらく三人は無言のままその音を聞いていた。
そうするうちに、その音はどんどん大きくなり、
かすかな地鳴りのような響きをともなった、たからかな
歌声にと変わっていった。
その声は地の底から響くのかと思えば、次には木々の
こずえの向こうから降り落ちて来ると思われるぐらい
すばらしい二部合唱だった。
「ねえ、あの声はなんて言ってるのかわかる?」
「いや、まるで聞いた事ないね。」雄輝が答えた。
「少なくとも学校でならった言葉  全地球語  にはないよ。」
「私だってそうよ。でも私、どこかでこの歌を聞いたことが
あるの
。いつだったかしら………………
真里砂は懸命に思い出そうとしていた。
  <歌、歌…………大きな銀の月…………満月の歌声……
……すんだソプラノ、やさしい指、銀の服のあの人は  
「 マ マ ン ! 」
真里砂はがく然とした。
古い記憶が突如よみがえってきたのだ。
  そう、真里砂はここの人間だった。
ここで生まれ、ここで育ったのだ。
3才の誕生日まで        
「誕生日の日に何が起こったのかわからないかい?」
真里砂は悲しそうに首をふった。
なぜ捨てられたりしたのだろう    
「きっと、なにかわけがあったんだよ、真里砂(マーシャ)」
しかし、真里砂は雄輝の声を聞いてはいなかった。
その目は大きくひらかれ、驚きのあまり声を発する事ができなかった。
鋭と雄輝はとっさに剣をとって身がまえた。
こんなわけのわからない世界ではなにが起きるかわかった
ものじゃない。
    しかしその必要はなかった。
ふりむいた二人が最初に見たものは、空き地の向こうがわ
にずらりと並んだ大木たちだったが、次の瞬間
それらは背の高い美しい人に変わった。

            (未完)


「でも大事な事なんだ、真里砂(マーシャ)。
きみが有澄家の前で泣いていたのはたしか
9年前  いや、10年前の今日だったね。
その日がきみの誕生日になったんだから。
きみは捨て子で、3才以下の時の記おくはまったく
わからない、それに髪の色がふつうの人とは
ちがう。」
「それがどうしたって言うの!! そんな事は
気にするなって言ってくれたのは雄輝じゃないの。」
さっきから歯をくいしばってふるえていた真里砂は
それだけ言うと泣き出してしまった。
「ひどいよ!先輩。いくら真里砂(マーシャ)が気が強く
たって、女の子にそうはっきり、言うことないじゃ
ないか!」 鋭は、まだ自分では気づいていなかった
が、真里砂が好きだった。
だから、真里砂が悲しむのを見たくないのだ。
「ちがうんだ。ぼくが言いたいのは真里砂(マーシャ)が  
真里砂(マーシャ)の両親が、この世界の人間  住人じゃ
ないかと思うんだ。」 恐ろしい沈黙が訪れた。
この考えはほかの二人の心にもあったが、
とても信じられない、いや信じたくない事だった。
「でも、  もし、それが本当の事だとして    
たしかに真里砂は妖精みたいに身が軽いし、
髪は地球人ばなれした緑色だからね    
なぜ、地球に 捨てられていたんだろう?」
「わからないわ。でも…………でも、私、本当にここの
この世界の娘なのかしら?」
真里砂が涙をふきながら言った。
あまりにもめまぐるしくいろいろな事が起ったので、
いまなら何を言われても信じられるような気がした。
「たぶんね、それも王家の血すじなんじゃないかな。
王女様(プリンセス)  。」
雄輝も鋭も王女(プリンセス)という肩書は真里砂にぴったりだと
思った。
たき火が音たててはぜた。
もう話すこともつきたように思われた。
「今夜は野宿だわね。」 真里砂が言った。
「うん。」 と雄輝が答えた。
再び沈黙が訪れた。
 
 
 
             


「だれかいるのかい!?」
おどろいてかけつけてきた二人が同時に聞いた。
「わからないわ、ただ……すぐ後ろでだれかどなったん
だけど、ふりむいたらだれもいなくて…………」
「ハハア、さては宙に飛んだか地にもぐったか……」
「まじめにやれよ、鋭。いったいなにものなんだろうな?」
「いくら話したって結論は出ないわよ、ここは魔法の森だもの。
いくらでも想像できるわ。」
真里砂が肩をすくめて言った。
「また真里砂(マーシャ)の童話狂いが始まったね!
 ぼくは別の惑星だと思うんだけどなァ」
それを聞いて雄輝がふき出した。
「それを言うならきみだってSF気狂いじゃないか!
 そんなことより真里砂(マーシャ)の荷物は全部見たのかい?」
「いいえ、まだよ。この方位磁石を見ていたら声がしたんですもの」
「じゃあ早いとこ調べよう。それから会議だ。」
彼がふくろをひっくりかえすのを見て真里砂はためいきをついた。
  <とにかく、方位磁石だけは無事だったわよ……>  
 
彼らは議論が好きだった。
それは、彼らが小さい時から通った朝日ヶ森学園が、すべて
生徒会議の決定にたよっていたせいもあるし、
ギリギリの瞬間まで頭を働かせて相手を降参させるのは
スポーツではあじわえない独特なスリルがあった。
 そこで、彼らはたき火をかこんですわると話し始めた。
「まず第一の疑問はここがどこかってことだよ。」
「それからなぜここへ来たのか、ね。偶然なのか、それとも
だれかにつれてこられたのか」
「……きみが王女(プリンセス)だってのも気にかかるな……
 それにこの荷物! どうも旅の仕度に思えるんだけど
 ……ここの住民  真里砂(マーシャ)の言う山羊足人(フォーン)や
妖精(フェアリー)  は、ぼくたちの事をどう思っているのかな。」
「きりがないわね! 紙と鉛筆があるといいんだけど」
雄輝がポケットから採点用紙をひっぱりだして、鉛筆と
いっしょに真里砂にわたした。
「今日はもう使わないからね。」



     疑 問          結 論
1.ここはどこか
2.なぜここへ来たのか
3.私が王女だということ
4.荷物はなんのためか
5.住民はわれわれを
  どう思っているのか




「まだあるわ。ねえ、あなたたちはここへ来た時、
こわかったって言ったでしょう? でも、私、たしかに
こわいし、おどろいたんだけど、同時に うれしくて
なつかしいような気分におそわれたのよ。」
しばらく沈黙がおとずれた。
パチパチと火のはぜる音がここは別世界なのだと
語っていた。そして、いつになったら両親のもとへ帰れる
のか、いや、帰れるのかどうかもわからないということを。
「こういう仮説がなりたたないかな…………。」
雄輝がふいにしゃべり出した。
「真里砂(マーシャ)、きみが今の両親  有澄のおじさんと
おばさん  の本当の子じゃないってことはみんなが知ってる。」
((真里砂の体がピクッとふるえ、鋭がするどくさけんだ。))
「先輩! そのことは………………。」
「わかってるよ、真里砂(マーシャ)が内心そのことを気にしている
 ことも、みんなが気づかって口に出さない事もね……。」
雄輝は言いにくそうに口を切った。

             

 
お盆の上にはルビー色の液体の入った水差しと、
   雄輝はワインだと思いました       
湯気を立てているシチュウの入った大きなおなべ
がありました。
「あれっ!スプンやお皿がないや?」
最初その事に気づいたのは鋭だった。
つづいて真里砂も言い出した。
「コップもよ! そっちの大きい包みに入ってない?」
そこで三人はめいめい一つづつふくろを開けて
みる事にした。
雄輝がふくろをしらべてみると、それぞれ、色のちがうひもで
口の所をくくってあったので、
彼は青いひものかかったふくろを選び出して少し、ひものはじを
ひっぱって見た。
「開けたら ドカ  ン! なんてことにならないだろうね」
と、鋭が笑いながら言った。
「もっとも、殺すんだったら、食事に毒をまぜた方が、早いけどね!」
「たとえ毒入りであろうとも……、ええい。このひもほどけないな
……ぼくは食べるね! 空腹でぶったおれそうだよ。
……ああ、やっと開(あ)いた。」
「わ!なにが入ってる?」とあとの二人がのぞきこんだ。
雄輝がふくろの中に手をつっこむと、すぐに何かかたいものにぶつかった。
「イテッ、これは何だろう? 手の甲をすりむいちゃったよ。  
やあ!これは剣だよ。しかも本物だ。………………………………
束に何かついてるけど、暗くて見えないな。火のそばへ行こうよ。」
その剣は長さが50cmほどで、黄金(こがね)細工のさやには
海のように深い青色をした宝石が、ちりばめられ、
それに光があたってキラキラとひかり輝いていた。
「ほら!こっちのふくろにも同じのが入ってるよ!」
さっきから 緑色のひものふくろと とっくんでいた鋭が呼んだ。
彼の手にも光輝く黄金の剣(つるぎ)がにぎられていた。
「あらっ?でも少し違ってるわ。ほら、こっちの剣、さやについて
いる宝石(いし)青いでしょう? 鋭 のは緑色だもの」
「へえ、本当だ。他の所は寸分違わず同じ造りなのにな。」
「私、こっちのふくろも開けてみるわ。これにも入ってるかも
しれないもの……」
こう言って真里砂(マーシャ)は赤いひものかかったふくろを取り上げた。
「あ、あったあった。これにも剣が入ってるわ。……
 ! ちょっと来て、この剣(つるぎ)は銀製よ、他のと違うわ!」
確かにその剣は他の二本とは違っていた。
第一に それは 輝くばかりの白銀でできており、
束とさやには炎のようにゆらめく光を秘めた真紅の石が
はめこまれていた。
そして、他の二つの剣よりも小型で、真里砂の身長にぴったり
あう大きさだった。
それぞれに剣が一本づつか! 他になにが入ってるのが見てみようよ。」
と、雄輝が言った。三人がめいめいのふくろに手を入れると
一番ほしがっていた物    コップとお皿とスプーン    
が入っていた。
「やっと食事が食べられるわ! でも、この底の方に入っているのは
何かしら?」
「先に食事をしようよ。“腹がへっては戦(いく)さができぬ、だよ」
と、鋭が言った。
「賛成!」と、あとの二人が同時にさけんだ。
みんな胃ぶくろがからっぽだった。
 
しばらくの間、森は静かになった。
聞こえるのは ただ、三人の使っているスプーンがお皿にあたって
コトコトいう音とたき火がパチパチとはぜる音だけだった。
 シチュウはとてもたくさんあったので、三人がめいめいたっぷり
取っても、まだ少し残っていた。
「それ以上おかわりしようなんて気はないでしょうね」
「今日の所はね。明日になればもっと食べるよ。」片目をつぶって鋭が答えた。
「さあ!」雄輝が立ちながら言った。「ふくろの中味を全部調べちゃおう。」
雄輝と鋭はそれぞれ受け持ちのふくろ(最初に自分で開いたやつ)を取って、中味を地面にぶちまけた。
しかし、真里砂はそうはしなかった。
「だって、こわれものが入っているかもしれないじゃない。」
これは非常に懸命な考えだった。
なぜなら、彼女のふくろには小さな方位磁石がはいっていたので。
そしてそれには細い銀のくさりがついていて首にかけるように
なっていた。
「なんて細かい細工なのかしら! 剣にスプーン、ナイフや
フォークも。まるで童話に出てくる小人の細工物みたい
だわ。」真里砂が一人つぶやきながらそれを首に
かけようとした時、
「そのとおりじゃ!」
 真里砂の背後でわれ鐘を打ち砕いたような
さもなければ大砲を百発同時に打ったような
ものすごいドラ声が響いた。
もちろん鋭や雄輝の声ではない。
ではいったいだれがいるというのだろう?
真里砂はこわごわふりむいた。
しかし、後ろにはだれもおらず、ただ5mほど向こう
にある老かしが、さもゆかいそうに枝をゆすっている
だけだった。

              


真里砂は気を失なってたおれていた。
5000mの全力しっ走の後(のち)、疲労した体で暗黒の穴
(ブラック・ホール)に落ち込む事は彼女にとってさえ少し衝撃
(ショック)が強かった。
 
そこはほの暗い森の中の小さな空き地で、かたわらの
小川がさらさらと音をたてて流れていた。
そして、太陽はたった今しずんだばかりで、まだなごりおし
そうな夕焼雲(あかねぐも)が最後のわかれをつげていた。
その時、小川のわきでカチッという音とともに
明るい炎がもえ上がった。
「ふう!やっとついたよ、先輩」
音をたててもえるたき火のわきには二人の少年が
すわっていた。
1人は翼 雄輝  真里砂の先輩  で、
もう1人は 真里砂と同級の 清峰(キヨミネ)鋭(エイ)だった。
この二人は真里砂の後を追って暗黒の穴(ブラック・ホール)に
飛び込んでいた。
「真里砂は?先輩」と、鋭が聞いた。
「まだねむっているよ」と、雄輝が答えた。
すると
「もう起きてるわよ!」と、鋭の背後で真里砂が笑った。
「この妖精の国(フェアリーランド)自体が夢なら別だけどね」
「妖精の国(フェアリーランド)だって!?」鋭と雄輝が同時にさけんだ。
信じがたい話だったが、真里砂は本気だった。
かと言って真里砂が、あれしきのショックで気が狂ったり、夢と現実をとりちがえるとは思えなかった。
「じゃあ、きみはここが……地球(テラ)じゃないっていうのかい?」
「地球(テラ)どころか、別次元らしいわよ」真里砂はかたをすくめていった。
「私がねむっていたらね、だれかが私の名前を呼んでいたのよ。
『真里砂(マーシャ)、王女(プリンセス)真里砂(マーシャ)』てね。」
  <王女(プリンセス)だって!?>  鋭はおどろいたが、
口には出さなかった。
作家志望である真里砂が自分の話しをじゃまされるのを
とてもいやがることを彼はよく知っていたので、
真里砂は話しを続けた。
「私が目をあけると、そこに三人の人が    
 人といえるならの話しだけど    すわって、
いいえそうじゃないわね。
  とにかく、私の顔をのぞきこんでいたのよ。
 一人は 美しい黄金(こがね)色の髪を持った女の人で
 不思議な事に 下半身がまっ白い馬の体でね、
 その人が私に言ったの。
『ああ、やっとお目がさめたようですね王女(プリンセス)』
 その声は黄金(こがね)の鈴のようにやわらかかった。
『急ぎましょう。人間(ティクト)たちが来るかもしれない』
 と、その人の後ろにいた山羊足人(フォーン)が(本当に山羊足人
(フォーン)だったのよ、あなたたち、わたしの話、信じてないわね)」
真里砂はあわてていった。

あらわれたの、そして何だか意味のないような
事をさけんだのよ
『ウェルズ橋(ブリッジ)に月(ムーン)が来た!』てね。
とたんに四人ともかき消えたように見えなくなって
みんなのいたあたりにこれがのこっていただけだったのよ。」

真里砂は話し終えると後ろから大きなつつみを四つ
とりだした。
その中の三つは かれ草色の布ぶくろで
リュックサックほどの大きさだったが、
もう一つは 丸い銀のお盆に うすもも色の布が
かかっているだけだった
「そのお盆の中味が夕食でないとしたら
 ぼくを まぬけだと思っていいよ!」
鋭が楽しそうにいった。
 彼は 朝食のサンドイッチから後、何も口にして
いなかったのだ。
「先に その荷物の中を見た方がいいんじゃないかな」
雄輝が考えながらいった。
「私 うえ死にしちゃうわ!」と、真里砂が悲鳴を上げた。
「私が5000m走ったんだって事忘れないでよ」
その一言で 事は決まった。
 
 
              

第一章
 
 魔 法 の 国 の 真 里 砂
 
 
 
 1、 運 動 会
 
 ダーン!! ピストルが音高くひびいた。
 最前列の選手が一斉に走り出す。
 中等部女子の障害走が始まったのだ。
 二列目にいた真里砂は前列の選手たちを見ながら
 ほほえんだ。
  結局20000m(メートル)のコースを走りぬける人は少ないんだわ。  
 事実、じょじょにむずかしくなる障害物の前で
 立ち止まる者が数多くいた。
 真里砂がどのぐらいの速度(スピード)で走るか考え始めた、
その時、ピストル係の少年が話しかけて来た。
 「この分じゃ真里砂(※マーシャ)が優勝だな!」
 「ありがと! 翼(つばさ)先輩」
 真里砂はふざけて答えた。

 (※真里砂の愛称(ニックネーム))


翼(ツバサ)雄輝(ユウキ)は陸上部の先輩だが、真里砂とは
親しかったので、ふだんは名前で呼びあっていた。
「ねえ、雄輝(ユウキ)……」 真里砂が話し始めようとした時、
「おーい! いつまでまたせる気だあ?」
しびれをきらした観客がさけんだ。
一列目の選手達はとっくに林間コースへ移っていたのだ。
雄輝はあわてて席にもどった。
「用ー意! ダア  ン!」
真里砂は飛び出した。
だんだん高くなってくるハードルを全部飛びこすと、
次はロクボクの間の綱わたり……etc…………
次々と出てくるむずかしい障害物の前に
何人かの仲間が落後していったが、真里砂は
走りつづけた。
4000mある林間コースを通りすぎ、校庭に出ると
1段から12段までの飛び箱がならべてある。
残っていた者の半数近くがキケンを申し出たが
真里砂(マーシャ)は進み続けた。
最後の12段に飛びつき、飛びおりようとした瞬間
 
すべての声が、かき消されたかのように止まった。
飛び箱の下のマットが突如消えうせ、いやその下の大地まで
が暗黒の空間に変わってしまったのだ。
真里砂は音もなくすいこまれて行った。
1秒2秒と時が過ぎていったが、だれも身動き
する者はいなかった。
1秒 1秒が恐しく長く感じられた。
 
その時、消えかけていた暗黒の穴(ブラック・ホール)の
中に1人の少年が飛びこんだ、続いてもう1人……
暗黒の穴(ブラック・ホール)は完全に消滅した。
 
長い長い時が過ぎた。ふいに1人の女性が泣きだした。
真里砂(マーシャ)の母親だった。



(※大学ノートに鉛筆書き。直しの嵐☆)(^◇^;)”)

◎就学年齢の年に、皇女は隠れた館で
 育てられるため大つ森に向かったが、
 ボルドムにおそわれ(!?)絶体絶命の
 ところを白狐に引き入れられ、
 夢が夢中で反対側に飛び出してしまった…… 資料No.1

 
   一、
 
 少女が森の中の有澄(ありずみ)夫妻の別荘に現われたのは、昭和の時代が終って新しい天皇が即位してより六年目のことだった。
十月の高地の嵐の晩に、別荘の裏手を流れる急流の天然のダムに打ちあげられていた所を有澄夫人に発見されたのである。
三日三晩の生死の境をさ迷う高熱が引いた後、小女の心の中には過去の一切の記憶が既に残っていなかった。
 が、不思議なことに、この少女は自分に記憶がないことになんの恐怖も疑問も抱かないようであったばかりか、長い戦いが過ぎて久し振りの休暇をもらった戦士のような一種の雰囲気、  開放された者の明るさ  さえ持ち合わせていた。
 少女は明るく、愛らしく、無邪気で、慣れぬ耳には絶えず旋律の変化する歌のようにも聞こえる風変わりな言葉を使い、(有澄夫妻には通じないのは承知の上で)しょっちゅう楽しげに話しかけた。
まるで生まれたばかりのまだ空を飛べそうな赤ちゃん(バリの『ピーターパン』参照)のようだったと後に有澄夫人が語っているが、とにかく言葉が通じないのではしかたがないと夫人が身振り手振りを混えて教え始めた日本語を、あっと言う間に驚くべき速さで身につけてしまった。
一月もたつうちには、発音や言い回しを別にして、年相応に(推定で6歳前後と見られた。)正確な日本語をしゃべることができるようになったのである。
 
 
 
(★「昭和の時代が終って新しい天皇が即位してより六年目」
 ……と、いう、文章を書いていたのは、私が中学校の頃だから、つまり
 昭和の50年代前半です☆ (<「近未来FT」だったのね〜☆)


(☆「コクヨ ケ−60 20×20」原稿用紙、シャーペン縦書き。)
P7.
 
 冴子(さえこ)夫人は嵐の窓辺に立って森の荒れ狂う様をながめていました。
繰り返し聞こえる悲しい呼び声は、いくら幻聴だと自分に言い聞かせてみても激しく心をゆさぶります。
  助けて  。ママ   暗くて寒いよ。恐いよォ!」
 それは、遂に産声(うぶごえ)を聞かせてくれることのなかった冴子夫人の娘、真里子の救いを求め泣き叫ぶ声です。
結婚5年目に待ちに待った最初で最後の子供を流産し、二度と子供は持てないと宣告された時、夫人は半狂乱になって三日三晩泣き続けたものでした。
以来、朝に夕に真里子の泣き声が遠くから聞こえてきました。医者は、ショックによる精神衰弱から来る幻聴だと言い、勧められるままに森の奥深いこの小さな別荘へ療養に来てから1年が過ぎ、今、冴子夫人は辛い決心を固めようとしていました。
 ピカッと稲妻が走り、寸暇をおかずに雷鳴が地をゆるがし、また一陣の突風が窓ガラスに大粒の雨をたたきつけて来ます。
が、その一瞬、冴子夫人は確かになにか動くものを見ました。
彼女の方をふいとふり返って見た透(とおる)氏は、そのひきつった表情を見てぎくりとしました。
「どうした!? また発作なのか!」
  もう、治ったと思っていたのに……。
彼の言葉にはそんな悲痛な想いがこもっていました。
「いいえ、いいえ違うの。幻覚じゃないわ。あそこ……柵の所に、なにかがいるの」
「まさか、この嵐の中を出歩ける奴がいるものか」
 その時、ひときわ明るい雷が空全体を紫色に浮かびあがらせました。
「まちがいないわ、透。ほら!」
 
 
P8.
 
 とめる間もなく、冴子夫人は嵐の中へ飛びだして行きました。
「冴子!? おい冴子!!」
一足遅れて、透氏が追いかけてみると、柵の外に全身泥まみれになって小さな女の子が座っていました。
その傷だらけの姿を見て、透氏は冴子夫人が悲鳴をあげるのだろうと思いました。
が、冴子夫人も根はしっかりした心の強い女性です。
蒼ざめた顔できっと目を見開いてはいましたが、けっしてうろたえた真根はしませんでした。
「あなた、あなた! しっかりしなさいっ! 眠るんじゃないわよ!」
 冷えきった体でぼうぜんと空を見つめていた少女は、冴子夫人に頬をたたかれてはっと我に帰りました。
「アルテス! アルテス ダレマヌウク!」
  助けて。助けて、お母さん。
聞いたこともない言葉でしたが、言っていることは容易に理解できました。
少女は冴子夫人を自分の母親とまちがえて必死ですがりついてきたのです。
「スタクアラム ドル マリーク イマルスア?」
  どうしたらこの森から出られるの……
それだけ言って再び沈み込むようにくずおれた少女の瞳は恐怖でいっぱいになっていました。
 
 少女を暖かい家の中に運び込んだ時、透氏はまず夫人に服を替えてくるように言いましたが、彼女はがんとして聞き入れませんでした。
壁の中央に切り込みになっている古めかしい暖炉に、どんどん石炭をくべて部屋の中が暑くるしく感じられるほどになりました。
泥だらけの服を脱がされて、かわいた暖かい所に移された少女は、額も頬も燃えるように熱く、それでいて手足は冷えきったまま、少しもぬくもりが戻ってきません。
   もし、この子がこのまま死んでしまったら……。
 
 
P9.
 
必死で少女の看病をしている冴子夫人を見て透氏はぞっとしました。
どこから来たとも知れないこの少女が、もし、このまま死んでしまうような事になったら、彼女は今度こそ本当に気が狂ってしまうのではないでしょうか。
 夫人自身もやはり同じことを考えていました。
少女が夫人にしがみついた時の顔が、夫人の心の中で、死んだ真里子の幻影と重なります。
生まれる前に死んでしまった娘、と、今ここで生死の境をさ迷っている見知らぬ少女と、面影が似ているというわけでは決してないのですが、どうしても、もう一人の自分の娘、さもなければ死んだ真里子の生まれ変わりのように思われてしかたがないのです。
 
               …………続…………
 
 
 
             .
P1

 大地の国(ダレムアス)物語・「皇女・緑の炎」
 第一部 地球  森の少女

 
 どうどうとたけぶ荒れ狂う嵐の森の中を、少女は必死で逃げていました。
雷(いかづち)が天をさき、風が木をひき倒し、大つぶの雨は横なぐりにたたきつけて、闇の中、一寸先も見ることはできません。
枝の先や鋭い下草が、少女の手足を刺し、衣服をとらえてひきちぎります。
冷たい雨に打たれて、少女はすでに感覚を失っていました。
あるのはただ恐怖と、少しでも遠くへ逃げなければというあせりだけです。
追手があるのか、ないのか、どちらへ行けばこの樹海から抜け出ることができるのか。今の少女にはそんなことは何もわかりません。恐怖に耐えるにはあまりに幼なすぎて、無我夢中で遠くへ、遠くへと走って行く以外、他に何ができましたろう。たでしょう。
   安全な所へ
 足を踏みはずしたその一瞬、自分をかばうために後に残った、おそらくはもう殺されてしまったろうトルザン卿の、最後の声が頭に響きました。
「お逃げなさい。少しでも遠くへ。安全な所へ。そして身を隠すのです。
 けっして御身分をあかしてはなりませんぞ。けっして
けっして けっして けっして ....
がんがんと割れるような頭の中に最後まで残っていたのはそれだけでした。
濁流に足下を大きくえぐり取られていた崖のふちは、少女の重みに耐えかねて、ぐらりとばかりに傾くと、少女を乗せたまま数メートル下の激しい流れの中に落ちて行きます。
遠のいてゆく意識の中で、少女は渦巻く水面(みなも)に見えかくれする黒くなめらかな腕が、稲光りの中にぼうっと浮かびあがるのを見たような気がしました。
腕の主たちはとても美しく、猛々しくて、かみつき、ひきさき、踏みにじって、およそ思いつく限りの乱暴をしながらも、なぜか少女にだけはその荒々しい手を出そうとはしませんでした………。

P2.
 
 次に気づいた時、少女は川の中州にうちあげられていました。
嵐はいっこうにおとろえる気配を見せず、川の水位はどんどん上がってきます。
このままここにいれば、再びこの濁流に飲み込まれてしまうでしょう。
そうなったらおしまいです。
少女の体は冷えきっていて、これ以上川の中にいて、生きのびられるだけの体力は残っていないのです。
少女にはそれがわかりました。
それでもいいような気もしました。
全ての望みを失ってしまったように思える今、幼ない少女にとって死ぬということはそれほど怖しい意味を持たなかったのです。
 少女の心の中に、死人(しびと)の霊魂(たましい)を冥界へ運ぶ者たちの誘う声が響きました。
   おいで。おいで。少し体をずらして、川の流れに身をまかせるのだ。
   おまえの肉体(からだ)は川がいいようにしてくれるよ。海へ運んでゆくよ。
「海へ?」 少女はなんとか体を持ち上げて尋ねました。

   そうさ、この世界では人間の肉体(からだ)は海から生まれ、海へ還ってゆくのだ。この丸い地の国(ティカース)ではな。
「……ここは大地の国(ダレムアス)ではないのね……」
   そうだ。ここはおまえの故郷からは遠くはなれているよ。
「大地の国(ダレムアス)へ帰りたい。お母さまの所へ帰らせて。」
“声”たちはしばらく答えませんでした。そのうちに一つの“声”が言いました。
   残念だがそれはできない。……わしらにその力は与えられていないのだ。わしらにできるのはおまえを冥界へつれてゆくことだけなのだ。
「そこにはなにがあるの。」

P3.

   なにもない。冥界にいるのは魂(たましい)の司(つかさ)たちと、たくさんの眠っているたましいだけだよ。
 “声”の語る言葉を夢現(ゆめうつつ)に聞きながら、少女は川の中へ体を入れました。冷たい水がすぐに少女の心を肉体からひきはなします。
   そうだ。それがいい。おまえの背負った運命(さだめ)はおまえには重すぎる。別の世界へ行った方が良いのだ。 さあ、もう足下に道が見えるだろう。真直ぐ行くのだよ。
言われた通りに少女は歩きはじめました。
気がつくとすぐ隣になにか明るいものを掲げた人がいます。
それが少女を導く“声”の主(ぬし)でした。
暗くて悲しい闇の中の道にぽつんぽつんと同じようなかすかな明かりが動いてゆきます。
すぐ前にいるのはトルザン卿なのでしょうか?
それは自分自身を送る死者たちの葬列でした。
「これからどうするの?」
   なにも。冥界では人はなにもしないのだ。ただ、眠って自分の過ごしてきた一生の夢を見る。
   夢が終った時、また別の世界へ、新しい人生に向って船出する……。
   おまえの次の人生が今より楽なものであることを祈っているぞ。
   ……ほら、あそこじゃ。
前の方に死者と生者を隔てる大いなる扉がありました。
いかなる賢者、魔法使いといえど、生きてあの扉の内に入ることはかないません。
「あれは……?」
少女は扉のわきを通ってはるかにのびていくもう一本の道を指して尋ねましたが、答えを得ることはできませんでした。
扉が音もなく開かれました。
   ここへ入れば、今までのことはすべて忘れられる。眠って心の傷をいやすがいい。
 
 
P4.
 
少女が恐るおそる扉の内へ踏み込むと、とたんになんとも言いようのない安らかな眠気があたりを覆います。
少女がその中に自分を委ねようとした、その一瞬。    扉の外から一本の腕がのびて、ぐい、と少女を引き戻しました。
扉の外のもう一本の道から、不意に現われた影があったのです。
「無礼者はなしてっ
突然の事にかっとなって少女が叫びました。
いまだかつて手荒な扱いを受けたことのない高貴な生まれの者に対して、なんというまねをするのでしょう。
心地(ここち)良い眠りから引き戻された怒りと相まって、激怒している少女の頬に、ばしり と 平手打ちが飛びました。
「お目をお覚ましなさい!」
厳しい口調にはっとして顔をあげると、そこには、少女の故郷の衣服をつけた女戦士の姿がありました。
どこかで見たことのある女性です。
そしてその人は生きていました。
少女を追って、生きたまま、世界の外へやってきていたのです。
「おまえは……」
女戦士は片ひざをついて少女の手をとりました。
「皇女…」
深いまなざしがまっすぐ少女にそそがれているので、おのずから視線をかえさずにはいられません。
いつのまにか、少女は女戦士に対する怒りを忘れていました。
「皇女。あなたにはまだ、この扉を越えることの意味がわかっておられないのです。この扉の内側に入った時、人は全ての記憶を失ってしまわれるうのですよ。」
信念を持って話しているのは確かでしたが、なぜかひどくつらそうな顔をしていました。
「今現在あなたがその事をどう思われようと、あなたは皇の御息女としてお生まれになられました。そしてそれは過去の幾多の人生の中
 
 
P5.
 
の行動を通して、あなた御自身がお選びになられた事なのです。
行末の困難が案じられるからといって、今になってそれからお逃げになるのですか? あなただけの事ならばともかく、皇女は国の存亡の鍵を握る方なのです。あなたがいなくなれば、大地の国人(ダレムアト)たちはどうなるのです。……皇女、幼ないあなたに対してむごいことだとは思います。思いますがどうか、どうかお戻りになられますよう…………。」
戦士が言葉を切った時、冥界への導びき手が吼えるように叫びました。
    ならん。ならんぞ。いかな不死人(ふしびと)のおまえでも、一度(ひとたび)扉の内に足を踏み入れた者を連れ帰ることはできぬ。来るのが遅かったのじゃ。その娘は既に冥界の人間ぞ
「わたしが連れ帰るのではない。御自分の意志で帰られるのだ」
戦士はきっとなって言い返しました。
「皇女にはそれだけの“力”がある!」
    力があってもそんなことはせぬ。おまえたちがこの娘に負わせた運命は重すぎるぞ。好き好んで身にあまる重荷を背負おうとするものがどこにいる。
戦士はうなだれて、言い返す言葉を持たぬようでした。
    これで決まりだな。……さ、こちらへおいで。おまえはもっと自分にふさわしい人生を歩むべきだ。
少女はなおも扉に目をうばわれながら必死で後ろへさがりました。
あの安らかな眠りの中に入りたくて入りたくて泣きたいくらいです。
でも、でも……。
「辛い所より楽しい所に行きたいと思うのは逃げることになるのね」
    逃げることは罪ではない。おまえにはそうする権利があるのだ。
少女は懸命にかぶりをふりました。
だめだめ
涙があふれて扉の姿がぼやけました。
「わたしは皇女なの。皇の娘はどんなことがあっても逃げてはいけないって、
 
 
P6.
 
お母さまに言われたの……」
「皇女!」
戦士は叫び、導びき手は低くうなって扉を閉じました。
「行きます! 帰ります! つれて行って下さい! ……もう、もう道がわかりません!」
少女はそのまま泣きくずれてしまいました。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
(☆大学ノートにシャーペン書き。翌頁に鉛筆と色鉛筆で、多彩な闇黒の中に聳える「扉」と宝珠のついた「杖」を掲げる「導びき手」と、幼い少女と、ひざまずいて少女の手をとる女戦士(黒百合)の「挿し絵」あり。……たぶんに山田ミネコの影響が散見される……☆(^◇^;)☆”)
 
 
 
 業火。
美しかったルア・マルライン  麗しの真白き都  の皇城が、二人が生まれ育った場所が地獄の炎に滅ぼされようとしているからといって、嘆いたりひるんだりしている暇はありません。
「こっちだ、マ・リシャ!」
「はい、兄様(にいさま)!」
心を引き裂く程の苦しく辛い想いを、今、二人は考えてはならないのです。
駆け抜けて行く幾筋もの闇。火の手。
どこから現われるか知れない卑劣な地獄の群れ。
射かけられる火矢の一つ一つに対してさえも、互いにかばいあっている余裕はありません。
全神経を張りつめて走ってゆくさなかにあっては、涙で視界を乱す事、即ち死です。
 幸いにも城のこちらの翼へは、まだあの悪鬼たちも入り込んでいないようでした。
二人が後にして来た皇の執政の間から、鈍い戦いの音がかすかに追いかけて来ます。
父母たる皇と女皇への強い愛情が、きりきりとちぎれんばかりに二人の眉をしめ上げ、唇からは細い糸のような血の筋が、涙の代りをつとめるかのように湧れ出してゆきました。
 今はもう、聞こえる音といえばどこかで城が燃え落ちるゴウッという響きと、駆け続ける二人の足音と、荒い自分の息だけです。
マーライシャ皇女は必死で嗚咽をかみ殺しました。
皇統連綿たる女神マリアヌディアイムの直系、是が否でも生き残らねばならぬ皇位継承者であるという誇りと責任とだけが、この年若いというよりはあどけなさの多く残る幼い皇女を走り続けさせている全てでした。
回廊を一つ曲がると、そこはもう奥宮の西のはずれ。
自らつけた炎に照らされて、地獄鬼(ガラゴドム)どもの一隊が聞くもおぞましい下卑た喚声と共にちょうどその時攻めのぼって来ました。
 建物の中の暗さが幸いして、まだ二人は見つかってはいません。
が、厩舎へ向う以上遅かれ早かれ真向からぶつからねばならない難関です。
皇子と皇女はほんの一瞬だけ立ち止まって互いに目を見交わし、それだけで全てを了解し、二振りの剣が同時にひき抜かれました。
もはや自分の二本の腕、二本の脚で、打って出るより他生きのびる道はないのです。
 不意に皇女がのびあがって、兄皇子の頬に唇を触れました。
「どちらか一人だけでも」と皇女は言いました。
「必ず生きて逃げましょうね。」
兄皇子はすぐにその言わんとするところを悟り、思わず空いていた左手で妹を張りつけました。
剣において勝っているのは自分です。
足の速さにおいても、運の強さにおいても、生きのびる事のできる確率が高いのは妹皇女(ひめ)ではないのでしょう。
皇子はぎゅっと皇女を抱きしめました。
 大地の国の明日のために、瀕死の深傷を負った父皇や全滅したに等しい軍を率いて最後を守ろうとしている母皇に、別れを告げて走って来る事はできても、妹皇女(ひめ)マーライシャを見殺しにする事だけは皇子マリシアルにはできませんでした。
正式の習練はまだ積んでいないとはいえ、生まれつき『見はるかす眼』と心話の術(すべ)とを身につけている兄妹にとって、相手の悲しみは過敏にすぎる程の鋭さをともなって互いの心につきささります。
皇子の皇女に対する愛が、単に妹を思う兄のそれからはるかにかけ離れている事は、とうの昔から二人ともが認識している事実でした。
 マーライシャ皇女  マ・リシャは、しばらくじっと抱(いだ)かれたまま、兄の嵐のような感情が心の中を駆け抜けて行き過ぎるのを待ちました。
こんなにも近く頬と頬とが触れているような時には、二つの心が近くにいる段階を通り越して、まるで一つの魂に二つの心が迷い混んでしまったようです。
縛(いまし)めをひきちぎらんばかりにして叫んでいる半馬神の激流が兄の心なのか自分の姿なのかを見誤らないために、マ・リシャは全ての心を閉じ、渦巻きだそうとする淡い夢を押えつけて、深い沼の底の歩んで来た年月と共に降り積むった泥層深くにまで打ち込まれた、呪縛にさえ似た楔を見つめ続けました。
 マ・リシャの心をつなぎとめているものに気づいて、皇子の心に雷撃にあったようなふるえが走り、それからぱったりと静かになりました。
マ・リシャが顔を上げると、攻めのぼって来る地獄鬼どもの足音が先程よりはかなり近くに響いています。
 「マーライシャを……」言ってマ・リシャは口ごもりました。
「ダレムアス皇女“マルラインの若葉”マーライシャを、ガルゴドム達は殺さないわ。
ここで捕えられて地獄の帝王(ボルドゴルム)の後宮に放りこまれるのも、生きのびていつか西の皇のもとへ嫁(ゆ)くのも、わたし個人  マ・リシャという小娘一人  にとっては同じ事なのかも知れないけれど、
「ダレムアスの皇女は、母なる大地の災いとなる事を望みません。」
マ・リシャは一瞬、細い首をきっぱりと持たげ、それからまた目を伏せました。
  だってそうでしょう? もし兄さまが皇位につく時に、わたしがボルドゴルムの妃にされていたら、その時はお兄さま、わたしを見殺しにしてくれる事ができますか。」
皇子には答えられない質問でした。
 マ・リシャは大きく息を吐き出しました。
「だから万ヶ一敵の手に陥ちるようならば、わたしは潔く舌を噛むわ。 兄さまは必ずかたきをとってくれるわね?絶対に。」
 無言のままマリシアルはうなづきました。
「マ・リシャ……」
「え、なあに兄さま」
マ・リシャが顔をあげると、城の焼け落ちる炎に照り映えて、兄の頬に流れるものが光っています。
マリシアルは目を閉じ、顔を上に向けたまま、声のふるえを隠そうともせずに言いました。
「わたしのかわいそうなマ・リシャ。……生きるね? 西との婚儀はきっとわたしが何とかする。この先どんな辛い事があろうとおまえを守ってやる。だから生きるんだ。いいね!?」
「兄さま」
マ・リシャはゆっくり答えました。
「わたしは女神の直系、大地の皇女。お父さまとお母さまの娘です。誓って逃げたりはいたしません。」
 マリシアルの黒い太陽のような瞳が、真っ直ぐにマ・リシャの瞳を射抜きます。
正統なる女神の子孫であり、母の娘であることの誇りをかけて、マ・リシャはその視線を受けとめました。
「父の息子であることにかけて言っているんだぞ。」
「母の娘であることにかけて答えていてよ。」
マ・リシャは両腕を交差させて胸の上に置き、肩をつかんでいる兄の腕に手の平を重ねました。
「大好きよ兄さま。大地の上のだれよりも。」
 
 二人は再び走り始めました。
遂に皇女皇のいた執政の間すらも陥ちてしまったのでしょうか、城の中心をついて天高く火の手が上がるのを二人は見ました。
思わず濡れそうになった悲鳴をふせぐために、噛みしめられた左の指から、紅い涙のような血が流れだします。
皇子と皇女を探せ!という声が、口々に叫ばれ始めました。
 幼ない頃から毎日かくれんぼをしてきた宮殿内です。
植え込みの中の秘密の通路を通り抜け、渡殿の下に秘み、中庭から中庭へと流れる小川に身をしずめて、二人はじりじりと厩舎に近ずいて行きました。
全ての地獄鬼が二人を探そうとくり出して来ている今、もはや二振りの剣のみで切り抜ける事は不可能です。
明る過ぎる炎がより一層闇の暗さを濃く見せていたという事実がなければ、二人は半時間と無事にいる事はできなかったでしょう。
 
 
 
 
(※「コクヨ ケ−10 20×20」原稿用紙、シャーペン書き。)

 
 彼(か)の昔

 哀しみの姫てふ侍女なる娘の

 皇女(おうじょ)に問ひける。
 
 「国がため
 
  未だ見ざる男(ひと)に嫁ぐ。
 
  これ幸福(しあわせ)であられるや」
 
 
 
 皇女答ふること能はざりき。
 
 
 

 
 
 
 序章
   一、  語り部の口承より  
 
 その昔、危機皇治世の時代58年、第一皇子マリシアル様御成人と第二皇女マーライシャ様“学び始め”のお式がちょうど重なった年のこと、一人の娘御が皇女付きの侍女として“麗しの白き都(ルワ・マルライン)”のお城に上がられました。
そのお方は実はアーシュラ・グィドと申される、帰化地球人(ティクト)自治領のとある大国の姫宮であられましたが、皆にはそれを伏せてただ“哀しみの姫”とだけ呼ばれておりました。
 さて、折しも始まった大異変のために、長い平和の時代を裂いて諸侯会議が開かれたのは、丁度この年の事でございます。
御存知の通り大異変の原因は母なる大地の女神よりの急を告げる警告。
諸侯会議の際に遂に明らかにされたその内容が実に恐ろしいものでありました事は、今更申すまでもございません。
その危機に立ち向かうためには、長い間二つに割れて戦争(いくさあらそい)の原因にさえなってきた高貴な血筋を今こそ一つに戻し、全ての確執を取り払って大地の国(ダレムアス)全体を一つに統べる事のできる皇を誕生させなければならない。
その場に集った皇と王たちとがそう断を下した時が、全ての物語のそもそもの始まりでありました。
この時を境に、大地は大いなる歴史の流れの上を巡り始めたのでございます。
 
 

(※「コクヨ ケ−10 20×20」原稿用紙にシャーペン書き。)
P3
 
第一章
 
 雲一つなく晴れわたっているはずなのに、空の光は遠く、空と大地の間に薄い浅黄色の幕が張りめぐらせてあるようでした。
大人たちの話では、その目に見えないほど細かい火山灰は、はるか彼方の、母神マリアンドリームが眠る炎の山より風に乗って飛んできたものなのだそうです。
マーライシャは一人窓辺にほおづえをついて、少し行儀の悪い恰好で空と、その青い布に時折現われる、様々な色合いの光のレース模様を見るともなしに見ていました。
つまらないのです。たいくつなのです。
かなり前から始まった地震や雷、加えて一昨日(おととい)からのこの火山灰天気で、遠乗りやらはともかく、庭へ出ることさえ禁止されてしまったのです。
それでなくても、こう空気中が黄色い細かい灰でいっぱいでは外に出る気などおこるものではありません。
マーライシャは朝から三十と六回目のため息をつきました。
まだ十時のおやつにさえなってはいなかったのですが。
すると、幸わいにも兄上のマリシャル皇子が戻ってきました。
「マ・リシャ、遅くなってごめん。待たせた?」
「ほんの少しだけだわ」
マ・リシャというのはマーライシャのごく内輪の愛称で、皇と女皇と皇子、それにフエヌイリ姫の兄、フエラダル四人しか使いません。
マリシャル皇子は少しばかり偵察に出て、食物倉から少々お菓子を失敬し、それと共に一大ニュースも聞きかじってきていて、すっかり興奮していました。
ところがマーライシャときたら、皇子が口を開くよりも早く、彼を一目見るなり聞きました。

「一体何が起こったというの!?」
「これはしたり。まこと皇女(ひめ)の勘の良さには敬服せざるを得ませんな。」
皇子が、秘密を言い当てられた時のトーザン卿の憤慨ぶりそのままに、おまけにひげをしごくまねまでもしてみせたもので、マーライシャはことこと笑いころげ、つられて皇子も笑いました。
「まったく、内緒にしておいてあとで驚ろかせようと思ったのに、おまえときたらすぐに見抜いてしまうのだからなあ。当てられたからには仕方ない、話すけれど……。」

 
 深皿に入ったすてきにべとべとする煮りんごを突つきながら、皇子は聞きかじってきたことを全部妹君(いもうとぎみ)に話して聞かせました。
皇女と皇子の年の差を考えれば当然のことなのですが、彼女には皇子がその時に教えてくれたことのうち三分の一は理解できず、わからなかった事柄や、理解はしても直接自分に関(かか)わりがなさそうに思える所は聞くはじから忘れていきました。
 
西の谷の村で、突然季節はずれの大雨が降って、折(おり)からの地震と共に山津波(やまつなみ)となって村を襲い、逃げ遅れた人達が十人近く死んだこと。
同じような災害が各地におこって、その救済のために多勢の力有る者(ちからあるもの)、すなわち魔法使いや精霊、神々の血を受けた者たちが力をつくしてはいるものの、着(き)の身(み)着(き)のまま全財産を失ってしまった人たちが大勢いること。
話を聞いているうちに、マーライシャはだんだん興奮してきました。
「ひどいわ。いったいなぜ、だれがそんなことをしているの!?」
「いや、だから、そこが不思議なところなんだよ。ぼくらの住んでいるこの美わしの白い館(ルア・マルライン)近辺は、土地そのものに護りの魔力が強いからまだ被害が少ないけれど、“異変”はダレムアス三百六十六国、程度の差こそあれ、全ての国を覆っているんだ。特に大地の背骨山脈の周囲の国は、ひどい地震がかた時も休まらないそうだよ。女神の山が火を噴く前ぶれだなどと言いだした者もいる。根も葉もないうわさで、すぐに消えたそうだけど」
「当り前だわ。女神の山が火を噴く時は世界の終る時ではないの。」
「だから単なる流言だよ。……ただ、おかしいのは、だれもそんなことは

P4.
 
ことなんだ。」
「だれも!?」
「そう。だれも。これだけの大異変を引き起こすには恐ろしく強い魔力が必要だ。最も力の強い精霊でもそれだけの力はないよ。父上と母上が力を合わせても無理だろうな。とにかく、それ程の魔力が振るわれていれば、どんなに当人が気を使ったところで、心の瞳をいっぱいに開けば、見つけられないはずがない。」
「それでもわたしは見つけられないわよ。もう何回も試しているのに、」
「だろう!? だからこの異変は大地の国人(ダレムアト)が魔法を使っておこしたものではない。と、すれば、残るは神々か、あるいは聖なる霊達御自身の力しかない。ここまでは父上達にもすぐわかったんだ。問題はそこから先さ。何のために? 力有る者は皆、災害を食い止めるのに急がしかったから、異変後一週間たってから、やっと理解した。神人(かみうど)の長(おさ)、女神マリアンドリームを始めとした諸神が“大地の言葉”を借りて、ぼくらに何かを伝えようとしているんだとね。」
「大地の言葉って、この世の始まりに女神が聞いたというあの声と同じものなの?」
「うん。どうもそうらしいよ。ぼくにもよくはわからないんだけど。
それから後は、危うくばあやに見つかりそうになってね。聞いている暇がなかったんだ。」
 
 
(☆窓辺に寄りかかって林檎を囓りながら語る黒髪の皇子と、足下に座って話を聞く緑黒髪の皇女の「挿し絵」あり。シャーペン書き、色鉛筆塗り。)

これを読んでくださるもう大人になってしまった方々へ
            童心にかえって読んで下さい。
これを読んでくださるまだ大人に、なっていない方々へ
            わからないところはじぶんでじしょをひいてね

 
P1.
 
序.
 
 その昔、皇女(おうじょ)マーライシャがまだ幼なく、現実よりも、ふわふわとした突拍子もない夢の中に暮らしている方が多かった頃、父皇(ちちおう)の片腕たる、がんこ頭の『曲(まが)り赤松』・トーザン卿にこんな質問をうけた事があるといいます。
「皇女(ひめ)さまが大きくなられたら、一体何になるおつもりなのですかな」
それというのも、マーライシャには、地球式に数えたなら六つ違いの兄上、マリシアル皇子がいて、彼が皇位につくことになっていたし、勝気な皇女(おうじょ)のこと、普通の皇女(ひめみこ)や王女(おおきみ)が望み夢見るような少女らしい憧れは持たぬだろうと、トーザン卿は思ったのです。
少々からかいをこめたこの質問を、幼ない皇女は真顔でうけて、さらりと、こう言ってのけました。
「わたしは、大人になったら男の子になって、兄上の右腕として戦さにでます。」
皇女は決して俗に男女と呼ばれる類(たぐい)の乱暴な少女ではなかったのですけれど、この時からすでに『男の子』になって少年たちと駆け回ることを夢見ていたのだそうです。
 
 はっはっは、と、皇(おう)の愉快そうな笑い声が、南に張り出した一段高い庭の、低い石垣の上から聞こえてきました。
そうかそうか。このあいだまでは戦(いく)さ乙女(おとめ)になるとか言うていたのに、ついにそんな事を言いだしたのか。……しかし、大人になったら男の子とは……はははは。さすがはわたしの娘だけある。」
「笑いごとではございませんぞ、皇(おう)よ。実際、皇女(ひめ)のお転婆(てんば)は少し度が過ぎます。」
「良いではありませんか。あの子はわたくしの血を受けて身が軽いのですもの、少々高い木や塔の上に登っても、危険なことはないでしょう。」
「しかし女皇(めのきみ)、マーライシャ様は年も満たぬうちから馬や弓のみならず剣の稽古(けいこ)まで始めているのですぞ。」
女皇(めのきみ)、とは、もちろん皇女の母フエヌイリ姫のことです。
 
 
P2.
 
姫にはトーザン卿の苦い顔した様子(さま)がおかしいらしく、五月の森と歌われた美しい緑色の髪をふるわせて、あきらかに人間のそれとは異なった、泉の湧くような澄んだ笑い声をたてました。
その立ち姿の麗(うるわ)しさといったら笑んだ口もとの指先から銀の光が飛びちるようです。
「知っておりますとも。なんといってもわたくしがそれを許したのですから。
そろそろわたくしたち精霊の天翔(あまか)ける技(わざ)を教えてみようと思うのですけれど。」
「本当!? お母さま!」
いきなり頭上からはずんだ声が降(ふ)ってきて、屋根の上で立ち聞きしていたマーライシャは、礼儀をわきまえぬ行(おこな)いをたっぷりと叱られて、それでも次の誕生式から『お空の歩き方』を教えてもらえることになりました。
「叔父さまみたいに最果(さいは)ての月立(つきたち)の国までも飛べるようになるかしら? いいえ、わたしはうんとたくさん練習して、お月さままでだって飛べるようになるの。」
「それではおみやげにうさぎ人(びと)のおもちをとってきてもらえますかな?」
「ええいいわ、トーザン卿。……でも、うさぎ人(びと)はすぐにおもちをくれるかしら? なにかかわりにあげるものを持ってゆかなければだめかしら。」
皇と女王は目を見かわして微笑(ほほえ)みました。
かわいい二人の宝。
彼ら流の数え方でやっと18年目、幼児期の終りにさしかかろうかという皇女に、月(レリナル)とこの大地の国(ダレムアス)の間にひろがる距離がわかるはずもなく、無邪気に行けると信じるその愛らしさは、国と国とのもめごとや国民の幸福といったものによる心の痛みや疲れを、すぐにいやしてくれるのでした。

 けれども、フエヌイリ女皇と皇女との約束は遂に果たされませんでした。
ちょうどマーライシャの誕生式に前後して始まったあの『異変』が、皇と女皇から平和な団欒(だんらん)の時間をうばってしまったのです。
大地に住む人々(ダレムアト)にとって最も大切な母なる大地は小刻(こきざ)みに震え続け、

P3.

青天(せいてん)には霹靂(へきれき)が、獣たち家畜たちには恐怖が訪ずれました。
ダレムアス全土の国々を統べる、女神の子孫たる皇には休むいとまもなく、ただちにダレムアス中の力有る者たちに招集をかけました。
かの血なま臭い戦国時代より、皇家五代の長きに渡って封じられていた、ルア・マルラインの『会議の間』の扉が遂に開かれることになってしまったのです。
 けれどマーライシャにとってそれが意味するところは難しすぎて、幾度となく裂ける天を恐ろしく思い、聞きかじった父皇たちの話から何事かがおころうとしていることを感じとりはしましたが、それでも何よりも悲しく思ったのは、母フエヌイリ女皇がいなくなったことでした。
アイデルフ皇と結ばれてルア・マルラインで暮らすようになってからも、精霊の一族(エルフエン)としての彼女の魔力の強さは変わらず、

 
 
「 Martia [Marlitia]」なるタイトルで、「K子姉・筆」と私が注釈を入れている、シャーペン描きに色鉛筆塗りの、稚拙なイラストあり。

 ……この頃すでに1歳半上の姉よりも私の画力のほうが上達してしまい、それがバレたら虐待を受けるのは明白だったので……、
 必死で姉の目から自分の画帳を隠していたために、まだ自分のほうが「絵が巧い」と思い上がっていた姉が、勝手にエラソウに「イラスト、描いてやったぞ!」と、ひとのノートにラクガキしやがったのでした……………………o( ̄^ ̄;)o”

 コドモ心に傷ついた。なんで私は「虐待(暴力)」を怖れるあまり、自分の描きたい絵を堂々と描いて、誰かに見せて誉めて貰いたい、という成長途上の子どもとして当然の欲求を、満たすことが出来なかったんでしょうか………………。

(※ で、そのすぐ後に結局、実力全開で描いていた漫画の練習帳を姉に目撃されてしまい……………………「ふぅぅぅぅ〜ん………………★」と、ものすごい目で睨まれて……………………

 今に至るまで続く、実姉による暴力支配(虐待or家庭内暴力)の日々が、始まってしまったのでした……………… (T_T)/"

 私の「基本的人権」って…………どこよ?
 と、実家や親戚宅に顔を出すたびに思う人生って……

 って、……あ、全然本文とは関係のないオハナシでしたっ★

 ||||(-_-;)>”||||

(大学ノートにシャーペン横書き)
P1.

 
 昔、はるかなるダレムアスの大地に幸せの花が咲き乱れていた頃、王の中の王の都、ルア・マルラインが美しく栄えていた頃、国中の祝福の中で、王の第2子、王女マーライシャが生まれました。
 王女は、母君の美わしきエルフェリヌ(エルフ乙女)、水面月のフェイリーシャ様に似て、透けるような白い肌と美しい声を、そして、王家の誇りたる豊かな黒髪と星の光る夜の空の色の瞳をしていました。
 ただ、その髪の色は普通の黒ではありませんでした。
母君の深緑色の髪のせいか、陽の光のもとでは濃い緑色に見えるのです。殊に王女が笑っている時には緑の色が強くなるようで、兄君と一緒に遊んでいる時などには、夏の山のような緑色の炎が王女のまわりでゆれました。
 
 ある年のこと、ダレムアス全体に、わけもなく不安な空気が広がりました。
草も、木も、太陽の色も、どことは言えず、なにかがおかしいのです。
賢者や魔法使いなど、ダレムアスに住む力有る者たちはこれを神々からの警告であると判断しました。
 即座に賢者会議が開かれ、魔法使いや賢者は言うまでもなく、天翔けるエルフェリ族や、異世界から来たエルシャマーリャ(天上人)、名高い王侯騎士たちなど、ダレムアス世界の主だった力有る者が続々と王都ルア・マルラインの城中に集まってきました。
 彼らは城の奥深くにこもり、異変を告げる数々の兆候を、ありとあらゆる角度から調べ上げ、検討し、数週間に渡る会議のあげくに、遂に一つの恐ろしい結論にたどりつきました。
「 おのおのがたにけしてこのことを他言なさらぬようお願い申す。」
賢者団の議長、予見者グラウドは老いと数週間の心痛のあまりにふるえる声で、しかし厳しく一同に言いわたしました。
 
 そして更に数週間、語るべきことは全て語りつくして、会議の出席者たちは旅出って行きました。
ある者は故郷へ、またある者は長い放浪の旅路へ、不安げな顔もあり、悲痛な面持ちもあり、ただ、皆一様に厳しい決意の色を表して、来るべき嵐を向え打つために、長い孤独な戦いに踏み出しました。
 
 
P2.
 
 けれど、最も苛酷な運命を負うことになったのは、まだやっと馬に乗り始めたばかりの幼ない王女でした。
王女は、万ヶ一王城が陥ちた時の事を考えて、王家の血統を絶やさぬため、また来たるべき日のための隠し刀として、今は絶えて行き来のない、かつての姉弟世界、異世界ティカースへ移されることになったのです。
 ある月の晩、うばとたった二人の騎士と共に、王女は異世界へ抜ける魔法の通路(みち)を歩いて行きました。
丸い大地の国(ティカース)へ。
 王女も、また、他のだれもが、かの恐るべきボルドムの魔手がすでにティカースへさえ伸びていることを知りませんでした。
 そして、それがこの物語の始まりだったのです。
 
(☆8歳ぐらい?の略武装の剣と宝冠を身に付けて暗い不安げな表情の
 王女マーライシャのシャーペン描きのイラストあり)

 
 

 
     1.嵐の晩に
 
 「ひどい嵐になったわね」と、有澄夫人。
窓ガラスに両手をあてて、雄輝は外の暗がりをながめていました。
「うん。まるで川の中にいるみたいだよ、おばさん」
外の景色があまりものすごいもので、この嵐のせいで小学校最初の運動会が流れてしまったことなど、すっかり忘れてしまった様子です。
 ピカッと光った雷に「キャ  !!」とすっとんきょうな声。
これは雄輝の母、翼夫人です。間髪を入れずに
 グァラ グァラ グァラ ドッシーン!!
「うわあ、今のはどこかに落ちたぞ」
森の中の一軒家は気楽なものです。
「カーテンをひいて下さらない、冴子さん。わたし雷って苦手で。」
「なァんでさ、お母さん。こんなにおもしろいのに」
 こんなやりとりをしり目に、翼氏と有澄氏は優雅にチェスに興じています。
旧式の大きな暖炉に、照り返しでチカチカ光る石炭をたすと、ゴォッとかすかな音をたてて燃え上がりました。
 
 時計が9時を打った時、
  

(未完)
               .

 魔 法 の 国 の 戦 い

 
序章
  ダレムアスと三つの国々
 
 
 はるか昔 四つの国あり
 
 四つの国 治める 四人の神あり
 
 四人の神は兄弟で、
 
 宇宙の神の子であった。
 
 
 
 四人の神はそれぞれに
 
 別の世界を治めていたが
 
 魔法を使い 行き来した。
 
 
 
 一番上の姉君は
 
    気高き女神 リーシェンソルト
 
   治める国こそ エルシャムーリア
 
  天使が暮す 気高き国よ
 
 
 
 二番目兄君 ダーギング
 
   世界でもっともおそろしき
 
   ボルドム軍を指揮しておった
 
   ああ ボルドム軍こそ悪魔の国よ
 
 
 
 三番 弟 アスールは
 
    人間たちを 治めていたが
 
    すごいよくばり いばってた
 
 
 
 最後の四番目 妹君が
 
   治めていたのが ダレムアス
 
   妖精、人魚、魔法使い、
 
   だれでもここに住んでいた
 
 
 
 リーシェンソルトとダーギング
 
 たいそう仲が 悪かった
 
 
 
 ある時ダーギング 女神に聞いた
 
 
 
「姉君リーシェンソルトよ、
 
 なぜ、私(わたくし)のボルドム軍を
 
 エルシャムーリアより追いだしたのか?」
 
 
 
 女神は答えた弟に
 
 
 
「私の国は天使の国、
 
 そなたの家来の悪魔ども
 
 いれるわけにはいきませぬ」
 
 
 
 かくてダーギングの いかりは はげしく
 
 ボルドム軍を けしかけて
 
 貴(とうと)き エルシャムーリアを
 
 一夜のうちに ほろぼした
 
 
 
 しかしダーギングのいかりは おさまらず
 
 なげき悲しむ姉君を
 
 世界の果ての魔の山の
 
 氷の室(むろ)に閉じこめた。
 
 
 
 それ以来、
 
 三つの国は つながりを断ち
 
「時」は静かに歩(あゆ)んで行った。
 
 
 
 悪魔はどんどん ふえて行(ゆ)き
 
 ついに 地球まで占領したが
 
 それでも まだまだ ふえつづけ
 
 ダレムアスに魔の手がのびた。
 
 
 
 かくてダレムアスに戦いは起こる。

 
 
 
 
 
                .
 
 さらに時代は下って、ハジメノハラには人間の“国”と呼べるだけのものができあがりました。
ハジメノハラの北西にあたる山地のはずれ、なだらかな丘陵地帯のふもとに築かれた神宮(じんぐう)マドリアノビ(マドリアナビ?)を中心に、暖かな地方に向って肥沃な畑や、実り豊かな水田が広がり、その所々に、いくつかの村、いくつかの町、いくつかの庄がありました。
 神宮殿(マドリアノビ)はそれだけで一つの都市であり、同時に一つの家であって、工芸や建築にたけた神々が何年もかかって造り上げた美しい都(みやこ)でした。
塔や二階建は少なく、土地の起伏に沿って、点在する小さな白い館を三つ四つ、五つ六つと渡り廊下でつなぎ、中庭表庭なども含めて生け垣や白い土塀で囲いました。
とりわけ長い廊下には優しい東屋をもうけ、垣と垣の間や中庭や広場などには質素な輝きを持つ石段や石畳の細径小径。大道、大路には泉水や、虹のようなたいこ橋、目もあやな歌舞殿などが随所に設けられていました。
 マドリアノビができて数十年たつと、神々は異世界へ通じる“道”の扉を除々に開け放ってゆきました。
まず初めは女神マライアヌの姉リーシェンソルトの治める
 

(※未完※)

(☆文中に「庄」という語を発見!! (^◇^;)”
   ……と、いうことは、『指輪物語』は読んだ後
  (中学1年以降)ということですね………………☆
  山田ミネコと古事記の影響もバリバリ入ってます☆)A^-^;)”

 
               .
P1.
 
 概 略 ・ 創 世 記
 
 昔々、神人(かみびと)の長(おさ)なる女神(ドライム)マライアヌがこの地に来たるる時、大地は、まだその姿を定めず、うなうなと優しいこがね色にたゆたい、たゆたい、見渡すかぎりにまどろんでおりました。
それから長いながい年月(としつき)のあいだ、女神はひとつの巌の上に一人で眠っておりました。
そうしている間(ま)に地は熱く猛(たけ)りまた凍(い)てつき、その繰り返しの内に、聖なる大地の霊から空とそれを司(つかさ)どる霊が生まれ、無慈悲な虚空を追い払って母なる大地の囲みをかためました。
それから、大地のおもてより、幾たりかの水乙女たちが抜け出でて白い雲、黒い雲、灰色の雲となり、星々の目から大地を護って、女神の目覚めのその時までひたりと動こうとはしませんでした。
うねり、また炎を噴き上げ、身震いをし、大地はゆるゆるとその形を整えてゆきました。
 
     ×               ×
 
 また長い時が過ぎて、ようやく女神の目覚めの日がきました。
女神が目覚めた時、東の地平から雲が退き、太陽は初めてこの世界を見ることを許されました。
彼女はやさしいままの姿で朝陽の祝福の輪の中に立っていました。
彼女にとって大地の新しい姿を見るのが初めてなら、自分の新しいからだを見るのもこれが最初のことでした。
彼女の名前はマリアンドリーム。
かつて、幾度も生まれ変り生まれ変りして、まだ普通の人間であった最後の一生に、彼女はその同じ名で呼ばれていました。
それから、彼女は記憶を失わない者、この世の外にあってこの世に含まれる者、不思議の探求者、彼ら流に言えば“真実を探す者”の一人となったのです。


P2.

 女神は、まず、空気から着物を作ると、そのまま歌いながら歩いてゆきました。
ちょうど六節歌ったところで三羽の渡り鳥が現われました。
「渡り鳥、渡り鳥、私(わたくし)の兄弟たちはどうしました。」
「姉君様は光の国(エルシャムリア)に」
「双子の弟君は地球星(ティカセルト)に」
「兄君様は空虚の洞窟(ボルドガスドム)に」
「それぞれ国造りを始めておられます」
それを聞いて、女神は真赤な血を燃やし、紅蓮の炎から三羽の鳳凰鳥を作って尋ねました。
「そして私(わたくし)はどこにいます?」
「大地(ダレムアス)に」
それから鳳凰たちは女神(ドライム)の目覚めを兄弟神たちに告げに飛び立ってゆきました。
 
(☆平城京風、というか山田ミネコ風のハルマゲドン・シリーズ風…A^-^;)…薄桃色の肌着に青碧色の衣装に、朱色の袖くくい紐と軽翠の地金に金の鈴が輪状になった飾り鈴クシロを身に付けた、黒髪巻毛に翠の瞳のマライアヌの図、あり。シャーペン描きに色鉛筆塗り。)
 

P3.

 女神は更に歩いて行って、土から六人の人間を作り、マルダノビメ、マライヒメ、サルルヒメ、クルスタカワケ、オルノミコ、アスタイラツコと名づけました。
これが今日の大地の国人(ダレムアト)の始まりであります。
女神はこの地をハジメノハラと名づけ、それから七十二たび、お山の上を太陽が横ぎるまで(※1)そこにとどまって、人間に食物を与え、言葉を与え、考える力を与えて、喜びと悲しみと愛することを教えました。
生まれる者、死んだ者、女神の庇護のもとに人の数は三十と六人になっていました。
 ある日、女神はさびしさ、と、いう感情を思いだしました。
大人が乳飲み児の世話だけでは生きていくことができないように、女神もまだほんのわずかな感情しかしらない幼ない人間たちの間では孤独な存在でした。
「いまぞ時は至れり。」
女神は立ちあがってそう言うと、まだごく小さい大地(ダレムアス)の世界をとりまく深遠なる淵を超えて、遠く、遠く、心の輪を広げ、深く、深く、呼びかけました。
 
 きてください
 きてください
 きてください
 きてください
  わたしの仲間たち
 きてください
 きてください
 きてください
 きてください
 

※ お山、つまり後に時の果てまで山と呼ばれるようになるかの山の頂上はハジメノハラから見ると、一年に一度、春分の日にしか太陽がかからない。
 
 
P4.
 
   真実を求める者よ
   わたしのそばへ
   わたしの国へ
   ただ束の間であろうとも
   一時(いっとき) この国 わたしと共に
   一つの道を
   共に
 
 それからまた長い時が過ぎて、女神は“誰か”が大地(ダレムアス)にやって来たことに気づきました。
一人、また一人。
別の世界、別の宇宙、別の大地より、さながらほうき星のごとく輝く尾をひいて、女神の呼び声に応(こた)える者たちが、次々と大地(ダレムアス)の懐(ふところ)に集って来ます。
遂に女神(ドライム)マライアヌのもとにそろった神々は三十と五(いつ)柱。
ここに大地の国(ダレムアス)の最初の神人(かみうど)、三十六神がそろったのです。
「我々は何をしたらよろしいでしょう。我ら六人をのぞけば、皆、我らの仲間に加わったばかり。何をなすべきかを知りませぬ」
「どうぞお指し図を、マライアヌ」
「……この大地(ダレムアス)は、生まれて間もない、若い国なのです。若い世界に若い者が来て国を造る。なんの怖れる事がありましょうや。
 わたくしとて国を造るような大いなる業(わざ)をなすのは初めてです。が、これが我(われ)らに与えられた課題ならば、必ずや見事になしとげてみせましょう。」
 
(女神のうしろななめ横顔のイラストあり)
 
 
P5.
 
 ここに至って、神々(こうごう)しい集団に驚いて物陰に隠れていた人間たちがようやく顔を見せました。
「まあ心配はいらないのですよあなたたち。このかたがたは、わたくしの仲間。これからわたくしと共にあなたたちを導びく役目をします。あなたたちは、わたくしたちから様々な事を学ぶでしょう。そうすれば、もう今までのような純粋な幸福を手にすることはなくなるのです。……この大地の国(ダレムアス)は人間の国。やがてわたくしたちに替わってあなたたちが大地の国(ダレムアス)を統べるようになるでしょう。
今、大地の国(ダレムアス)の歴史が始まるのです……。」
 
 
(誇らしげに語りかける女神のイラスト、描きかけ☆)
 
               .
 有 澄 真 里 砂 様

 久しく会っていないけれど、
あなたの事だから、たぶん元気で
いるのでしょうね。
こちらはろくに雪もふらず、
ごく平凡な毎日です………………
…………あなたは、なんで私が
こんなにしらじらしい書き方を
するのか首をひねっている事でしょう。
実を言うと、今は国語の授業中で
一度先生に提出しなければなら
ないのです。
 したがって秘密の話もできないし、
ましてこの間ついたリーナからの手紙
を同封する事もできないのです。
(中継役はつらいなぁ)……
…………あら、いやだ!
はげしく話が飛んじゃっ
たわね……………………
 前文終り、次へ

 (改頁)

 さて、いよいよ先生の言う所の
本文に入ったわけですが………………
あなた…………やめた! およそ
しらじらしい敬語なんてもうつかわ
ないわ。
マーシャたちがそちらへ行ってから
1年以上……2年近くかな……
たちます。
あのとき私もいっしょに行けばよかった。
そうすれば ずっとあなたたちと一諸に
いられたのに。
こちらの生活は単調で退屈で
ほとんど変化がありません。
安全すぎるのです。
「それがこちらのいい所さ」
と言ってしまえばそれっきりだけど……
 本当にマーシャが
  うらやましい。

 (改頁)

さて、いよいよ「重大な用件」
に入るわけですが………………
 別にないなあ。
だって先生が目を通すものに
本当の用件を書けるわけがない
 でしょう?(リーナからの手紙は
定期便の方で送るわね)…………
あ!あったあった!
最近また本の中の気に入った詩
やセリフを集め出したの。
少し書き送るから、鋭や雄輝たち
に聞かせてあげて。
 
   地球を発つ恋人へ
そんなに遠くへ行けば
 あなたは私の事を忘れるわ
そんなに長い時間がたてば
 あなたは私の事を忘れるわ
だから行かないでここにいて
だから行かないでここにいて
 
     萩尾望都「少年よ」より

  ハンプティ・ダンプティ
  死んでしまった白ねずみ
  くだけたガラス
  たべちゃったお菓子
    すべてもとにはもどらない

         萩尾望都

船よ帆かけて進め
 空の下
 星の下
東へ 黎明へ

 私の心は
はるか …… あの果てを行く

         萩尾望都

妖精人の国は
 どこにあるのかしら
そこでも星は同じかしら

          花郁悠紀子

バラの小道たどって
白いドレス着て
 あなたに会いに来たの
早く来てキスして
 パパにもないしょよ
 ママにもないしょよ
 牧師様にもないしょよ
早く来てキスして

        萩尾望都

また今度 いいのがあったら書くわね。
鋭や雄輝たちによろしく。
             かしこ
1月27日
           □屋○△子
有澄真里砂 様

P・S サキからの手紙も送ります。

 
 
 
 


 リツコへ。

 理事長に就任したとの報、聞きました。まずはおめでとう。大人しかったきみが、そういった組織に携さわることになっていたとは少なからぬ驚きだったけれど、たしかに僕はきみを覚えていました。よく気にいった本を貸してくれたりしてましたよね。給食の時間いっしょに食べましたよね。
もう大昔のことです。
 きみが、キヨセ律子が、(ごめんなさい字を忘れました)、そちらの、代表としてこの大地世界を訪れたいと言っていると、マーシャ……旧名、有澄真里砂……から聞かされた時には、僕は、まだ小学生だったあのきみにもう一度会えるものだと一瞬なつかしく、それから、地球という世界における50年という歳月の意味を思い出して、おばさん(失礼!)になったきみを想像するのに苦労をしていました。ところが門を抜けて姿をあらわしたのは、ぼくの記憶にあるままの、頭に白いリボンをつけた女の子だったわけです。
(※>p.2.)きみの、息子さんの、お嬢さん……孫、ですね、つまり……タカハラのほうの律子、責任を持ってお預かりします。僕自身にかえても次の月踊の蝕には再び門の前へお返ししますので、安心して下さい。……もっとも、この手紙はその高原律子ちゃんへ託すわけですから、このノートが手元へ届いた時には、僕の言葉は実証されているわけですが。
 それにしても、ほんとうにきみにそっくりです。僕自身がまだ少年と言って通る外見でいるうちに、かつての幼ななじみに、僕の妹で通るようなのようなとしの、孫がいるとは!!
 ……かつて決裂の3マグチュアリ(大歴または上歴とでも訳せばいいでしょうか、1マグチュアリは約4000年にあたります。)の昔以来、相似た文化と文明を持っていたはずのダレムアス(大いなる母神ダーレム=大地、の世界ウアス)と地球(ティカーセル)(ころがる世界ティクス・ウワセル)が何故ここまで違ってしまったか。結論はここにつきるような気がします。
 神を喪った地球の人類は、世代交代が早い!!
 現代医学、なる術のすべてをつくしても僕がいたころの平均寿命の公称は男女とも80歳前後だったと思います。先進国の日本で、です。一方ダレムアスでは病気や事故で(ご存知の通りこれに近年は "戦争" が加わりますが)でなく200歳を迎える前に死ぬ者というのは、ごく稀なのではないでしょうか。 "統計" だの "戸籍調査" だのは、そもそも概念からしてありませんから正確かつ科学的なことは何も言えないのですが。つけ加えるならマルクス(王族、つまりダレムアスにおける創世主、女神マリアンディアの子孫)の直系であるマーシャなどは、前例からして400年前後はかるく生きるのではないでしょうか?
 
 なにはともあれ、タカハラのほうの律子、責任をもってお預かりします。僕自身にかえても次の月踊の蝕には再び門の前へお返ししますので、安心して下さい……もっともこの手紙はその高原律子ちゃんへ託すわけですから、手元へ届いた時には僕の言葉は実証されているわけですが。
 
         今日は見張り番の時間ですので、このへんで。
 
 
 
   第二日、

 孫のほうの律子嬢はよく眠れたようです。 "リツコ" という音はダレムアスの言語体系にはなじみにくいもので、早速に愛称がつきました。 "リーツ" 。平野にいる小動物です。このあたりでは見られないようなので絵に描いて説明したところ、本人も気にいってくれた様で、ふだん、口語で呼ぶときにはこれに接頭の美辞がついて "マリーツ" になります。
 
 それにしても、そちらから律子=マリーツに託された "さし入れ" がこのノートと筆記用具だった、という事実! ……あいかわらずの洞察力ですね。朝日ヶ森は。
たしかにダレムアスには、紙の製法は知られていないわけではないのですが、あまり流布していません。街道をゆく隊商や一部の商人は和紙と不織布のあいのこのようなものを帳簿として使っていますが、一般のダレムアトは "樹が泣く" と言って、そのような加工法を好みません。昔の日本画のように絹布をその都度洗いなおして使うか、木簡、石板、あるいは交易路ぞいではイムエレ樹の広葉。ダレムアスにおける文盲率はいたって低いのですが、おおむね、 "すぐに消すものなら書く必要はない" 式の、口頭伝達の方が好まれます。優れた記憶力であるからこそでしょう。
 
 で、話は戻りますが、朝日ヶ森の洞察力と親切が、しっかり下心に裏打ちされたものであることも忘れていませんでしたよ、僕らは。どうせこちらに "物書きぐせ" があるのを見込しての(ずい分長いあいだ忘れてましたが!)ことでしょう。それに、こちらの国内で広く保存・利用するには、シャーペン、消ゴム、安価な紙、という三種の神器は、文明のレベルも文化の質も違いすぎるものですし。

 暗黙裡の御要望通り情報入力の後、そちらの世界へお返し致します。
三者協議の結果、マーシャはダレムアスの代表たる女王の公文書として、ダレムアスの歴史(神話と)のあらましと現在の地誌、情勢、それらを含んだ対地球との関係をどうありたいと望んでいるか……を、雄輝は将軍メイデリオの資格でもっぱら現在の対 "地球・ボルドム連合軍" 戦争の経緯を、そして僕は、あくまでも在地の地球人として僕ら3人自身のこと、こちらでの文化・生活など気づいた事をルポとして片はしから補足する……という分担が決まりました。
 まぁ実際には、身辺雑記を兼ね、私信を兼ねているのは御覧の通りです。
 なにしろ日本語で長文など書くのは数十年ぶり(たいていは3人で話す時にでもダレムアナロクです……地球の言語類は、まぁ "暗号" ですね)、間違いがいっぱいあると思います。
 あと、残りのノートは 3人協同で、ダレムアナロク<>日、英、の、簡易文法書と主要語辞書をあむことになるでしょう。出来上がりがいつになるかは判りませんが。


 
 
 
 ……さて。
 まだ小学校高学年〜中学2年までの間に、漫画家になることを目指して書き溜めていたイメージイラストや絵コンテもどきがかなり残っているのですが、それはまた、スキャナの使い方をマスターした頃に、改めて……(笑)。

 予定通り、沈没原稿のサルベージあんど虫干しの、「大地世界編」は、これにて終了です。

 明日からは、「地球世界の日当たり編(プラスアルファ付き)」行きます♪

 (^_-)☆

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