「………………おかしいとは思ってたんだよなァ」
 ようやく息を吹き返した次の日の午後遅く、牢屋代わりらしい倉庫の屋根裏の薄暗い一隅で、雄輝はしきりにぼやいていた。
 真里砂の高熱に気がついてやれなかった事だ。
「あれだけ鼻っ柱が強くて弱音を吐きたがらない奴が口に出して恐いなんて言うし、おまえの手ははねのけるし。思えばあの時にはもうかなり具合が悪かったんだろうなあずい分と具合が悪かった筈だよな。……畜生(チキショウ)。もっと早く気がついていりゃ、無理して歩かせたりしないでおぶってやったのに」
「実際ああやって倒れるまでは、一言だって自分から言いそうにないもんね。マーシャは。根っから気が強いみたいだ。」と鋭。気が強いなんて生優しいもんじゃないさ、と磊落に雄輝は笑った。
「しかし鋭、真里砂の奴、結局おまえにちゃんと謝ったのか? あの時。」
……『あなたには解らないわ!』。いくら気が動転していたからと言って、ヒステリックにそんな言葉を投げつけるなど、普段の真里砂からはとても考えられないセリフだ話しだ。
「うん……。いや、仕方無いよ、あの場合」「……しようがないな、まったく!」雄輝は真里砂に向けて口で怒りながら、真面目に鋭の報へ顔を向けた。
「だけど、おまえのあの話が本当だとすると、俺は何度か気に障るような事を言っちまってたようだな。悪かった。」
 言われて鋭にももちろん心当たりはあったが、半月以上の前の事だけに、いきなり謝られるとかえって面食らった。
「雄輝はそんな古〜〜い事をわざわざ謝るのかい?」
 すると雄輝が意外そうに答える。「当然だろ? 何たって悪いと思うのと人を傷つけた事に関しちゃ時効なんぞないんだから。」
(……僕はとてもそこまでは潔くはなれない。) 瞬間的に表情に現れてしまった鋭の内心の動きには気づかずに、雄輝はどさりとわら床の上にひっくり返った。
「マーシャはどうなったかな……」 ぶん殴られてあっさり倒れてしまったのが何とも言えず残念なのだ。
「彼女は多分心配ないんじゃない? 熱が高いったって死ぬような事はないだろうし、大事そうに扱われてたもの。それより問題は僕らだよ。」
「そっちこそ問題ないだろ。奴の意識が回復しさえすりゃ、少なくとも俺たちとは合流できる。
 三人いりゃ何とか後の事は何とかなるさ。」
「……そう、うまく行くのかなぁ……」「何?」「うん、いや何でもないけど……」
 鋭は根っから自信に満ちた人間を見ていると必ず不機嫌になる自分の事を根っから嫌な人間だなあとののしりながら、同時に不安も抱え込んでいた。
(聞きかじった話を総合してみると)、真里砂が6年前に記憶を失ったのは原因は、何か恐ろしい目に遭わされて逃げていたを持っていた時に、雨に打たれて高熱にさらされたを出した事らしい。それも発見されたのは森の中を何時間もさ迷って、ようやく人家  有澄家の別荘  にたどりついた時にだそうだ。どうも今度と条件がそろう。
(まさか、もう一度僕らの事まで忘れたりはしないだろうな……)
 S.F的に発想を飛躍させながら、鋭はどうしてか“真里砂に忘れられる”事ばかりを恐ろしがっていた。
 
(第5号連載文)   .





(2009年10月30日追記)
 続き?の設定変更メモ。
 http://85358.diarynote.jp/200910302342577899/

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