「いまム?! ……ディゑあるざ!」
声……おそらく誰何の言葉なのだろう……は、かなり厳しい調子だった。子供3人と見て安心はしたものの、警戒をとく気はないらしい。もともとケンカっ早い雄輝が(真里砂を抱いたまま)すきあらば囲みを破って逃げ出そう……と油段なく目を走らせているのに気がついて、鋭はこの上もなく慌てた。
 人類皆兄妹。鋭は平和主義者なのだ。その割には剣道をやっていたりしてケンカも弱い方でないのは確かだが、SFマニアである関係上、異種族が出っくわした時にいきなりドカンと突っかかる程、馬鹿な事はないと固く信じている。
第一、熱で気を失っているような真里砂を連れて、この冷たいどしゃぶりの中をどこへ逃げろと言うのだろう?
「僕は……」
害意がないのを精一杯見せようと、かじかんだ手の平を広げて肩の前に上げ(つまりはホールドアップだ)、半ばは必死、半ばはやけっぱちで鋭は前に進み出た。が……
「まいま!」
この一言で全ての状況が変わってしまった。
気を失ったまま雄輝に抱かれていた真里砂が、悪夢にでも襲われたのかいきなりうわ言で口走り、何かから逃げ出そうとするかのようにもがき始めたのだ。村人たちの目には、真里砂が雄輝の手から逃れようとしているのだとしか見えなかった。そのはずみに、ずれかけていた黒いかつらが外れ、短く刈り込まれた緑色の髪が松明の灯りに照らし出される。
「マ ダレムアト まりゅしぇやん く カラ!」
大地の国人(くにびと)の少女じゃないか! 一言叫んで、雄輝の腕から若者が真里砂をさらい出した。
「何をするっ!!」とり戻そうと必死に、前後の見境を失くした雄輝がつかみかかり、別の何人かに叩き伏せられる。止めに入ろうとした鋭の喉頸を、後ろから誰かが羽がいじめ羽交い締め式にしめ上げた。
「違うっ! 違うんだ。僕たちは……!」 もがこうとした鋭だったが、息がつまりそうになる目の端で真里砂が無事に女性達の手に引き渡されて、暖かそうな灯のともった大きな家へ運び込まれたのを見て、やめた。
その頃には雄輝は散々抵抗した挙げ句に斧の柄で強打されて気絶していた。
文字通り引きずられるようにして村へ入れられた二人の背後で、重い木戸門が音をたてて閉じられた。
 
 
(つづく).

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