…………。
 しばらくの間、なおも木々をかきわけて歩き続け押し進みながら、沈黙が流れた。
真里砂は完全に頭が混乱して自分が何を考えているのかも解らない有り様で、幾度もけつまづいては雄輝か鋭に危うい所で抱きとめら膝をついた。これは森歩きに慣れた彼女にしてはごく珍しい事だった。
 「  そう。」 最後に真里砂はつぶやいた。「それではわたしはここの  この大地の国ダレムアスという世界の人間なのね? ここは  どんなわけがあったのかは解らないけれど、何か恐しい目に遇わされていたわたしを、ひとりぼっちで追い出した故郷(ふるさと)なのね」
 いつのまにか、雪は
「マーシャ、うれしくないのか?!」 雄輝が、驚いた時の常でつい声音が大きくなりながら言った。貿易商だった両親につれられて外国生活を続けた後に、飛行機事故で孤児となって初めて日本へ戻って来た時の安堵感が脳裏にある。2年前の事だ。
 解らないと真里砂は首を振った。
 「もっと落ち着いたなら、もしかしたらうれしいとも思うかも知れないわ。だけど、自分が“帰って来た”のだなんて感じはまるでないのよ。それに  」 真里砂はきつく唇をかみしめた。
 「地球(ティカース)ではわたしは幸わせだったわ。養女とはいえママとパパの娘で、外交官有澄夫妻の令嬢。演劇部の部長で朝日ヶ森学園小等部6年1組の有澄真里砂だったのよ。それがここではどう?! マーライシャという名前以外は何もない。氏素性すら解らない、ひとりぼっちのただの記憶喪失の少女だわ。」
 「落ち着きなよ、マーシャ。」 再び膝をついてしまった真里砂に後から手を差し伸べながら鋭が言い、真里砂は邪慳にそれを振り払った。
 「恐いのよ。あなたには解らないわ!」
 鋭は一瞬傷つけられた瞳をしてひるんだが、それでも辛抱強く真里砂が立ち上がるのを待っていた。
 「マーシャ、そりゃあ僕には記憶喪失になった経験なんか無いから、どのぐらい不安になるのかは察しもつかないよ。だけど……少なくとも自分の親が解らない寂しさは知ってる。  僕は捨て児だったからね。」
 
 
 
 
(つづく)          .

コメント

お気に入り日記の更新

最新のコメント

日記内を検索