サク。 サク。 サク。
最初に歩き出してから既に2〜3時間は過ぎ、辺りはすっかり暮れてしまった。
 サク。 サク。 サク。
薄い競技用の靴を通して、踏みわける雪の冷たさが、じかに真里砂の足につたわって来た。更に4時間。5時間とたって、辺りはすっかり暮れてしまった。歩くたびに肩へ雪が降りかかる。
 「下手に動くとかえって危なくなってきたね。」 鋭が言う。 「もう目印の木を見つけておくのも難しいよ。」
 それに対して雄輝がまた何か冗談口を言い、真里砂は珍しくぼんやりとそれを聞き流しながら、自分でも何を考えているのか解らないなくなるような何事かを考えあぐねていた。
三人は幾度か野宿に  夏か、せめて春だったなら  良さそうな場所に巡り合っていたのだが、その度に激しくなる風雪が追いたてる。
 「おい真里砂マーシャ! どうした? ぼんやりして」
 わざと景気づけるような雄輝の口調に え?となって、真里砂は、はっと正気にかえった。

 雄輝と鋭が二つの大岩の間のすきまを検分している間に、そのまま歩き過ぎてしまうところだったのだ。おまけに真里砂は鋭の心配げ、不安そうな目つきまで見落としてしまった。
「なんでもないわ  ちょっとボンヤリ考え事してて。そこ、眠れ泊まれそう?」
「マーシャのその袋の中味いかんによるけど  。どっちにせよ今晩はまあ眠らないほうが無難だろうね。とにかくその袋の中味を確かめて、火をたいて少しあたたまらないと」着る物と。食べる物と。どっちも足りないようだったらうとうと以上はだめだろうけど。」
「その前に、火打ち石でも、ほくちでも、マッチでも、ライターでも、ライターでも、マッチでも、火打ち石でも、火打ち金でも、なんでもいいから、何か火をつけるものを探してくれ!」
「がっつかないで何か火をつける道具を探し出しといてくれ。おれはまきになりそうなもの集めて来る。」「QX(キューエックス)。」鋭が答えて片目をつぶり親指でGOサインを出す。
「マーシャ早く入りなよ。えらく狭いけど、向う側に倒木があるんで風は防げる。落ち葉がつまってて結構居心地いいよ。」
 真里砂が腰をかがめて中へ入って見ると事実鋭の言う通りだった。横座りに座り込んでいざ袋の口を開こうとしたのだが、指先がぼんやりしてはっきり見えないようだ。
 なんとなくそれは、口に出せなくて、真里砂は、指がかじかんじゃって……と言って鋭に渡したが、代わりに鋭のやっていた狭い岩穴の中央の落ち葉と土とをかきのけて火を燃す場所を作っているうちにようやく頭が冴えて来て、気を取り直して鋭の悪戦苦闘している手元をのぞきこんだ。と、
「あら、なあんだ。そことそっちを同時に引けばいいのよ、鋭。単なる旅結びの一つじゃない。だわ。」
「え? 旅結び?」
 問い返されて、真里砂はまたさっきの奇妙に頭がぼんやりしていく感覚が戻って来て押しだまってしまった。
 鋭が、しかたなく問いつめるのをあきらめて「こうかい?」と言われた通りにすると、簡単に袋を縛っていたひもはとけた。堕物で2人して単純に喜びながら色々中味を漁っているうちにふと鋭が思い出して聞いた雄輝も戻って来、不思議と手慣れた様子で真里砂が火打ちを扱うと、5分の間には幾本かの枯れ枝が明るく岩穴を照らし始めていた。
 「  で? 袋の中味何だった?」 寒さが少し楽になったところで雄輝が聞く。
鋭が答えて、
「シーツだか毛布だかわけのわからない風呂敷の化け物みたいのが5〜6枚。厚手のシャツみたいのが2枚。下着の包み1つ。服が上下とも2〜3枚。見た事のない食料ひと袋食器ひとそろい。剣と短剣ひと振りづつに弓矢ひとそろいの入ったらしき封印のして包み。あとあともう一つ平べったい袋があるんだけどこれはまだ見てない。」
鋭がまるで暗唱でもするかのように一気にまくしたてたもので雄輝は恐れ入った。
「……おまえ、よくそれだけ一度で覚えるな  ……」「誰かさんとは脳細胞のきたえ方がちがうんでね。」  真里砂はあいまいな微笑をかろうじてもらしただけだった。真里砂がかろうじてあいまいな微笑しか浮かべようとしなかったのにはあとの2人は気がつかない。真里砂は口の端を持たげて少し眠たそうに笑った微笑(わら)った。
 

(途中から大きくバッテン印で没にしてある★)

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