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 おまけに鋭は最後尾で、並はずれた図体でぐいぐい枝を押しのけてゆく雄輝と、その後ろにちゃっかり小判ざめよろしく張りついてほとんど枝にさわりもせずに歩く真里砂のはねっかえりを全部うけて、とを通した後の枝のはねっかえりをもろに受けていたもので、もう不平たらたら、悪態ばかりついていた。
 おまけに、加えて、くしゃみ、である。
 「ちぇっ、ちぇっ、ちぇ!! くしゃん!くしゃん!くしゃん! ちぇっ!」
 とうとう雄輝が笑いだして、
 「腐るな、腐るな。しかし、“河童”でも風邪はひくんだなァ……」
 妙な事に感心するものだが、実際転校早々に“河童”のニックネームを頂だいした鋭は転校以来1日も欠かさず、10月に入ってもまだ、元気いn天然屋外プールへ飛び込んでいたのだ。
 「“コンピューター”は温度変化に弱いんだよ。」と鋭がやりかえす。「雄輝こそよく平然としてるね。まあ、ナントカは風邪ひかないって言うからなァ、あ、僕はだれかさんと違って夏風邪はひかなかった。」
 「抜かせ☆」
 ……と、自称“コンピューター”で“河童”の鋭が相手では、単細胞の雄輝ははるかに分が悪い。
 雄輝のぶ然とした表情に、真里砂と鋭は顔を見合わせてクスクス笑った。
 辺りの様子は、鋭に言わせれば温帯性の安定樹林だそうで、小さい頃から朝日ヶ森のただ中で育っている真里砂と雄輝にはおなじみの風景だったが、鋭にはひどく古びていて寂しげに見えた。 冬の森、はまるで廃跡のようなのだ。
 天気のせいか鳥影一つ見えず、暗い枝々を通して時折のぞける空模様は、ますます重苦しく雪雲がたれこめている。
 雪は少しずつはげしさを増している様子で、小一時間も歩く頃には、かきわけた枝から積りたての綿雪が降りかかってくるまでになった。
 「どんどん暗くなって行くね」 鋭がつぶやいた。「夜までには避難場所を見つけないと……」
 
 
 「太陽系」第四号連載分。
 
 
 
(つづく)       .

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