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 「野営できそうな場所を探そう。」 雄輝が言った。
 
 袋の中には真里砂用の着変えも入っているという事だったが、袋の口は固く縛ってあって、開けると、後が面倒そうだった。
 不意に「あ、」と鋭がかすかな驚きの声をあげた。「雪だ……」。
 確かに白いものがちらつき始めていた。
 多分風向きが変わったのだろう、先程までわずかにさしこんでいた薄陽は姿を消して、代わりに灰色の厚くたれこめた雲が空を覆っている。「雪雲だわ……」と真里砂。
 樹木の間にいて風から護られているのがせめてもの幸いだった。
 下やぶを押しのけかきわけ悪戦苦闘しながら、先頭にたっていた雄輝が、手の空いたすきにジャージの上着を脱いで雄輝が後ろに袋を持ってついて来るかかえて続く真里砂に手渡した。
 「あ、いいんだ。僕は?」最後尾の鋭が半畳入れると雄輝があきれて
 「おまえなあ、一応男だろ」「あら、女だからって特別扱いになんかしないでちょうだい!」
 憤慨して鋭にジャージを渡そうとしたする真里砂の腕を、振り返った雄輝が素速く引き戻した。「真里砂マーシャ半袖だろ。」
 いつになく有無を言わせぬ口調である。 それでも真里砂がぐずぐずしていると、
 「俺はに借してやったんだぞ。兄貴の言う事が聞けないのか?を聞かない気か」
 「  はいはい。……兄上サマ?」
 なんとなくとはないsに気押された感じで真里砂はやむなく引き下がった。
 確かに幼な慣じみ兄妹同然に育ってはいるが、たまたま一つ年が違ったというだけで兄貴風を吹かされるのはどうも気に喰わない。
 とは言え、正直な所、朝昼抜きプラス5000mの全力疾走の後では、この寒さはひどくこたえていたのだ。真里砂は幼な慣じみの荒っぽい優しさに感謝した。
 湿ったジャージがなぜだかとても暖かかった。
 そんな二人のやりとりを見て、すねたのはまだつきあいの浅い転校生中途編入生の鋭である。
 
 
(つづく)        .

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