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 つかんで押した枝を、そのままへし折って前に出ながら、雄輝は空いている方の手でバサバアサになった髪をかき上げた。
 ただでさえ切るのを面倒がって伸ばしっ放しだった黒髪が、小枝やらくもの巣やらでひどい有様だ。
 「どうしてって……何が“どうして”だよ?」雄輝が聞きかえす。
 「だってだって  なんだってあなた達がここにいるのよ」
 「決まってんだろ。おまえを追っかけて来たんだ。……ふう! あ〜あ、ひでえ目に会った。」雄輝は中途半ぱに言葉を切って髪をかきあげ、足りない分を鋭が注意深く捕捉する。「つまり、僕らもあの“穴”に飛び込んだんだ。君と違ったのは自由意志だって点だけで」
 しかし、それを聞いて真里砂はあきれかえった。あきれるとそうすると言葉がひどく速くなる。
 「なァんですってェ!? 馬鹿な! 何が起こったのだか解っているの? 帰れないかも知れないのよ!!」
 と、翼(つばさ)雄輝の答えて曰く、
 「面白そうじゃん!」
 「おも☆」    ズル。
 真里砂は絶句した。大いにズッこけた。
(なんて神経! これでわたしよりも年上だなんて……)
 いや、だが、何の事はない。確かに雄輝は無邪気にできているが、それにも増して真里砂が、並の子供にしては年不相応に大人びているだけなのである。
 それにしても、雄輝はともかく普段は科学者ぶっている冷静な筈の鋭までがここにつっ立っているのは何とも言えない。
 「鋭! あなたもなの?!」……面白がっているのか、と、詰め寄る、という言葉がぴったりの表情で顔で形相で真里砂は問いつめた。
 無論、そうだとでも答えようものならひっぱたいてやろう  と完全に頭に来ている。
 「いや、僕は……」返事に窮した鋭の報こそいい迷惑であるだった。
 
 
 
(つづく)          .

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