大地の国物語皇女戦記編 I “記憶の旅” 〜連載第二回〜
 
 第一章 森の中で    1.ここは地球じゃない。

                         ※ 本 名 ※
 
 
「あ、痛(いた)。いたた……あち☆」
罵声とも悲鳴ともつかない声を発しながら、真里砂はやっとの思いで立ち上がった。
頭がひどく痛む。
  寒い!」と思わず口に出してつぶやいた程、彼女の体は完全に冷え切っていた。
気がつけば、どこでどうしたものだか薄手の体操着がすっかり濡れそぼって体にまとわりついている。
辺りの景色を見るに及んで、真里砂はしっかり腹をたててしまった。
木、木、木、    一面の樹。 うっそうと頭上に生ひ茂る森の樹々が、陽の光さえもさえぎって真里砂を取り囲んでいるのである。  なんてこと!」。
一旦はかんしゃくを爆発させようとした彼女も、怒鳴った声を事も無げに吸い込んでゆく森の静かさを悟って怖じけづいてしまった。
「一体……何が起ったって言うの……!?」
ここは、何処かしら  さしもの真里砂も除々に声が低くなった。実を言えば、彼女はしばらくの間、自分の身に起ったことを思い出せなかったのだ。それから、ようやく自分はとんでもない冒険に巻き込まれたらしい、ということに思い当たった。
 その時である。
真里砂の背後で木々の下枝をかきわけ押しのける音がして、
「お  っ!! いた、居た!!」
声と共に2人の少年達が姿を現わした。
「雄輝!鋭!……どうして!?!」

(☆驚いている真里砂のシャーペン描きイラストあり。)

つかんで押した枝をそのままへし折って前に出ながら、雄輝は開いている方の手でバサバサの頭をかき上げた。
ただでさえ着るのを面倒がって伸ばしっぱなしだった黒髪が、小枝やらくもの巣やらでひどい有様だ。
「どうしてって……何が“どうして”だよ?」
「だって、だって  なんだってあなた達がいるのよ」
「決まってんだろ。おまえを追っかけて来たんだ。
 ……ふう! あーあひでえ目に会った。」

(☆髪を掻き上げながら蜘蛛の巣だらけの藪から出て来る雄輝と、
 その後ろでげーっという顔をしながら蜘蛛の巣をくぐっている鋭の
 シャーペン描きのイラストあり。)

「つまり僕らもあの穴に飛び込んだんだ。
 君(きみ)と違うのは自由意志だって点だけで」
これには真里砂もあきれかえった。
「なんですってェ!? 馬鹿な!
 何が起ったのだか解っているの?
 帰れないかも知れないのよ!」
真里砂は同時にひどく腹が立った。
自分は恐怖していたと言うのに、この
のほほんとした言い草はどうだろう!
と、雄輝の答えて曰く、
「面白そうじゃん」。
「おも☆」  ズル。
真里砂は絶句した。おおいにズッこけた。
なんて神経! これでわたしより年上だなんて……
「鋭!あなたもなの?!」
無論、そうだとでも言おうものなら
ひっぱたちてやろう  と完全に頭に来ている。
「いや……僕は……」返事に窮した鋭の方こそいい迷惑だった。
「僕はまずあの暗黒穴(ブラックホール)まがいの正体を突き止めてやろうと思ってたんだよ。
 それを雄輝が先に飛び込んじゃったんでやむなく……さ」。
「そう   」と真里砂。「なら、まあ、あなたは許してあげるわ。  雄輝!」「あん?」
 ところが、真里砂が凄じい剣幕でまくしたてようとした時である。
「くしゃん! くしゃん!」不意に鋭がくしゃみを始めた。
一旦は三回で止んだもので、真里砂が、「あら、3でほれられ、ね……」と言おうとした途端にまた「くしゃん!」
後はたて続けに くしゃん くしゃん くしゃん くしゃん …… くしゃみの大安売りである。
そのうちに真里砂までが鼻をむずむずさせだしたので雄輝が笑いだした。しかし、
「わ、笑ってる場合じゃないわよ雄輝。くしゃん! わたしもだけど、あなたたちの服だって濡れてるじゃないの。それに、そうでなくってもここずい分寒いと思わない?」
それを聞いて初めて雄輝も少しばかり真面目な顔になった。
「確かにこりゃ12月頃の気温だよな……おい、鋭! そこら辺に乾いた木ぎれにストーブかなんかないか? 無けりゃ火炎放射器でもなんでもいいぞ!」
「ちぇっ、なんでも茶化すんだから……」今度は鋭の方が恨めしげな声で言う。
それでもなんとかかんとか20分もすると小さな火の手が3人を暖め始めた。
もっとも、その頃にはくしゃみのしすぎで、鋭の横隔膜はしっかり痛くなってしまっていたが……「ちぇっ!」
「腐るな腐るな。しかし“河童”でも風邪はひくんだなあ」と雄輝が妙な事に感心して見せるのに反論して、
「“コンピューター”は温度変化に弱いんだよ。雄輝こそよく平然としてるね。まあ、ナントカは風邪ひかないって言うからねえ。あ、僕はだれかさんと違って夏風邪はひかなかった。」
「抜かせ!」
自称“コンピューター”で“河童”の鋭が相手では、単細胞の雄輝は、はるかに分が悪い。
「お腹が空いたわね……」クスクス笑っていた真里砂がそうつぶやくと、辺りは急に静かになった。
 不意に、あ、と鋭がかすかな驚きの声を上げた。「雪だ……」。
なる程、確かに白いものが散らつき始めていた。多分風向きが変わったのだろう。先程までわずかにさし込んでいた薄陽は姿を消して、代わりに灰色の厚くたれこめた雲が空を覆っている。
樹木の間で風から守られているのがせめてもの救いだ。
急に、雄輝が自分だけ羽織っていたジャージのジャンパーを脱いで、半袖短パンのまま左隣にうずくまっていた真里砂に着せかけた。
「あ、いいんだ。僕は?」 鋭が半畳入れると雄輝があきれ、
「おまえなあ一応男だろ」「あら女だからって特別扱いになんかしないでちょうだい!」 憤慨して鋭にジャージを渡そうとする真里砂の腕を素速く雄輝が引き戻した。「マーシャ。半袖だろ。」
いつになく有無を言わせぬ口調である。 それでも真里砂がぐずぐずしていると、「俺はに貸してやったんだぞ。兄貴の言う事が聞けないのか?!」
……「はい  兄上サマ……」?。 なんとなく気圧されたのを感じながらも、真里砂は茶目っぽく笑ってジャージを羽織った。
正直なところ、朝、昼(食)抜きプラス2000mの全力疾走の後では、この寒さはひどくこたえていたのだ。
真里砂は幼な慣じみの荒っぽい優しさに感謝した。湿ったジャージがなぜだかとても暖かかった。

(☆ジャージを羽織って小さな焚き火にあたる、
  おかっぱ頭の真里砂のシャーペン描きのイラストあり)

 
 「……面白そうな冒険、と思ったんだがなあ……」と、口先程には嘆いている様子も見せないで雄輝がぼやいた。
 
 
 
 
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