「 りゅーん!! 」
やぶかげから二人の人影が現われた時、木によりかっかって考えにふけっていた真里砂は思わず驚きの声を上げた。
「 ゆまゆ た くむる る・る・る! (あなたたちがどうしてここに!)」
「 ふぇろうぐん! (まぬけ!)」
雄輝が唯一覚えていたダレムアス語で切り返した。
「俺たちにわかるわけないだろ!」
鋭はあ然として二人の顔を交互に見比べている。気が狂ったのかと言わんばかりだ。
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと、待ってよ! よけい頭が混乱して来たじゃないか」
 
 3人は今、見も知らない森に迷い込んでいた。辺りは速やたそがれて、夕闇がせまっている。
真里砂が座っていたのは、とあるちょっとした空き地の片すみで、どうやってつけたものか小さな焚き火が明々と燃えていた。
 そして火の上には小さな白い美しい行平(ゆきひら)がかかっていた。
その火の上に小さな鼎がかけてあり、ぐつぐつと心地良い音をたてて何かが煮られているのを見つけた時、雄輝は無言のままどっかと座りこんであぐらをかいた。
「やれ、やれ。助かったぜ。そろそろ寒くてたまらなかったところなんだ。うん? なんだこの鍋?   いーや、今日はもう何が起ころうとも驚くのはやめだよ。実のところ空腹でメゲちまってるんだ。
 おら、鋭も座れよ。」
  あ、うん。」
 ここの気候は明らかに、3人がいたはずの朝日ヶ森の学園よりも厳しかった。
さもなければ、季節がずれているのだ。かすかに西陽をとどめている空の向うを除いて、そびえたつ針葉樹の上に広がっているのは、どんよりとして鈍い、今にも降りだしそうな雪雲だった。
 「俺の推測は当たっていたらしいな」 雄輝が鼎に指を突っ込みながら言った。
「あちっ! つっつっつっ  なんだよその顔は。」
鋭はどうせさっきからひどいすっとんきょうな顔をし続けていたが、今は真里砂の方がひどかった。驚く、とか慌てる、とかではなく、何かに脅かされた者の眼をして雄輝と鋭を交互に見比べているのである。
正直言って真里砂は怯えていた。何故この2人がここにいるのだろう? もしかしたら自分はとんでもない
 
 
 
   たしか、あれは、今日の昼の事だった  と、正気づいた後痛む頭を左右に振りながら、真里砂は一人で必死に考えをまとめようとしていた。混乱してしまっていたのだ。
そう、そう、そうだわ。足下にあったはずの土が灰色の薄ぼんやりした霧に変わってしまった時、わたしは確かに飛び箱の上にいたのよ。そう。
それから?   吸い込まれたんだわ。そして、気を失った。
「良ろしい」 真里砂は口に出してつぶやいた。「それから?」
気がついた時には、ここに倒れていたんだわ。ここ  ここ、とは、何処なのだろう?   ? 「森の中」、そうね。単純な事だわ。
 だが、何処の森の中かということになると、事は単純などとは言っておられなくなった。ここは明らかに少女の育くまれた朝日ヶ森とは別の場所であり、どこまでも常緑針葉樹ばかりが連っている。
早や傾き始めた薄陽と雪雲を見つめながら、真里砂は今日が6年目の日に当る事を思い出してぎくっとなった。
真里砂が濡れそぼち、傷だらけになり、記憶すらも失って、嵐の晩に現在の養父母に救われたのが    つまり6年前の今日なのだ。
6年。それは真里砂にとって深い意味を持つはずの数だった。
「でも、でも、    それじゃ    ?!」
真里砂はおののいた。 いつか、いつかは自分が故郷へ還る時が来るのだろうとは思っていた。だが、こうも早くだとは考えてもいなかったのだ。

                          (10/4分)


 北
東+西
 南

               >翼人の村

                    ↑
         樹          
        真里砂
         ↑
       雄輝・鋭


コメント

りす
りす
2007年9月20日0:11

(緩和及第……じゃなくて、閑話休題☆) 9月16日

 
(う〜ん……。
 諸般の事情により、御無沙汰してしまいましたっ☆
 留守の間に、カウンタが9206になってました……☆
 また、ぼちぼち復活しますので、よろしく☆)

 _(_^_)_”

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