大地の国物語 皇女戦記編
失なわれた記憶 記憶の旅
P1.
序章 障害物競走
緑の黒髪、と言う言葉があるが、今年12歳の美少女・真里砂の髪は、正真正銘まがいものなしの緑色だった。
それも、後世地球の一部学生たちから『にせ緑』色と呼ばれる事になる人為的な緑とは異って、萌え出でる春の炎を思わせる純粋な森の明るい緑色だった。
その瞳すらも、ほとんどそれとわからない程にかすかに青緑色のかかった濃い色合いを帯びている。
象牙色の肌 これもまた日本人離れした。
年の割に背が高く、すらりと伸びた手足は、一見、ほっそり、というよりは華奢と言う言葉を連想させる。(それだけ効率良く筋肉がついている証拠だと、彼女の主治医が保障した。)
そしてギリシャ彫像よりははるかに雛人形に近く、さらには最も似通ったところで森の妖精といったに最も酷似した容貌を備えていた。
自身の故郷では、有澄(ありずみ)真里砂は愛称で、『森の木洩れ陽(マダ・リクルメス)』もしくはマ・リシャと呼ばれていた。
自分の生い立ちにまつわる事を彼女はそれしか知らない。
気がつけば故郷(ふるさと)を遠く離れて『丸い地の国(ティカース)』の森の奥に記憶を失って倒れており、行くあてとてないので、言葉を教え世話をしてくれた、子供のいない有澄夫妻の養女になった。
これが6年前 マーシャ(現在の真里砂の愛称)6歳の時の事である。
真里砂は現在(いま)、外交官である養父母のもとを離れて、日本の、とある大森林の片隅にある寄宿制の世界的名門私立校、朝日ヶ森学園にて小等部最後の一年を過ごしていた。
秋のことである。
P2.
× × ×
ポンポンポンポーン
「選手招集をします。5000m障害物競走“小等部上級〜中等部低級”に参加希望の男女、大至急正門脇に集合して下さい。繰り返します。……」
「あっ!いけない!」
そろばんを放り出して真里砂は勢い良く立ち上がった。
時計は2時10分前を指している。集計係の仕事の忙しさにとりまぎれて、真里砂はまだ昼食を摂り損ねていたのだ。無論、もう食べている暇などない。
朝だってろくに食べてやしないのに 。真里砂は慌てて机上を片づけようとして3度も筆箱をひっくり返し、イライラしながら正門脇へ到着した時には「遅いぞ」と委員の小言を喰わなければならなかった。
障害物競走。それは陸上部のエースで脚には自信があるとは言え、 特に長距離は最も得手とする種目であったが 中等部課2年の“男子”までもが同時に走る競技である。全国2位の記録の保持者としても、体格が大人に近づきつつある、走り込んでいる陸上部の先輩達が相手では……いささか心もとなかった。互格に走れるのかしら……。
「いよっ! マーシャ!!」
ばん★ インディアンのようにつややかで風になびいている黒い髪、黒い瞳、陽に焼けて浅黒く、中二にして身長170160cmの体格を誇る 真里砂だって155cm/145はあるのだが そして午前の部最終の中・高等部の騎馬戦において、一人で二十騎を引き倒し、並いる上級生たちを押しのけて、最多制覇記録を打ちたてた闘争本能の権化とも言うべき古強者、雄輝が、真里砂の背中を力まかせにぶったたいた。
「……ケフッ。少しは手加減したらどうなの」相手が頭一つ分ばかり高かったところで真里砂が容しゃするわけがない。とはいえ、もうなれっこになってしまっているので、真里砂はいたずらっぽく眉を上げてみせた。
雄輝にデリカシーなんてものを理解させようったって、そりゃ無理と言うものだ。
P3.
「おまえ少しあがってるみたいだな」
おやおや。6年越しの幼な慣じみはどういう吹きまわしだかわけだか兄貴風を吹かしたがっている様子で、開いている方の左手で真里砂の頭を気やすくポンポンたたく。
右手は(午前中いっぱい暴れまくった後なので午後からは委員会を手伝わねばならず)ピストルと薬きょうの入った箱でふさがっていた 雄輝はスタート係なのだ。
「ハチマキずれるでしょ」
真里砂はぱんと雄輝の手を払いのけた。雄輝も慌てて手をひっこめる。
真里砂のみごとな黒髪がかつらとばれたら大事(おおごと)だ。緑色の髪の地球人人間だなんて。
今の所、学園内で真里砂の秘密を知っているのは、真里砂本人を除いてわずかに2人だけなのである。
そしてその残りの一人、真里砂のクラスへ1ヶ月前に転入して来たばかりの鋭は、広い校庭の反対端で、上級生の群れに見え隠れしながら競技用の障害物の最終点検をやっていた。背は高くないので探しにくいのだが、混血児(ハーフ)らしい色の白さと明るい色合いの髪が結好良い目印になるのである。
「ところでおい、おまえ障害コース見てまわる余裕あったのか?」
名物障害物マラソンの障害物は、科学部建築クラブ等の面々が毎年毎年技術の粋と意地の悪さを存分に発揮して毎年毎年違った新しいコースをこしらえあげる。
それは大会体育祭当日朝のうちに組みたてられるまでは、極秘、が建て前だったから、障害物競争に出場しようと思っている人間は空き時間を利用して確認してくるのが常だった。
ところが真里砂は3つの委員会とクラブを掛け持ちで、食事すら朝昼満足に摂っていないのである。
「雄輝だって知ってるでしょ、そんな暇あるわけないじゃない」
真里砂は茶目っ気たっぷりに(そう見えるように見せようと半ば意識しつつ、)小さく肩をすくめた。
でも、大丈夫かしら。本当に勝てるかしら。速さの点では後半でなんとか喰らいついて行けるはずだわ、長距離は体力の問題だから。5000mなんて軽いものよ……。
P4.
真里砂が実は優勝候補の一人であることは無論周囲の良く知るところだった。
殊に真里砂の後背 陸上部や演劇部 の女の子達は、熱心にその事を願っている。憧れの先輩を応援している。
真里砂はそんな風に周囲から期待を寄せられるのは嫌いではなかった。むしろその期待を裏切ってしまうような事の方が不慣れである。
障害物は これはもう機転と判断力の問題だわ。そしてそれならもちろん心配な……
……あらっ!?
してみると不安に感じる理由などないではないか 真里砂はいぶかった。彼女は自分がなんのいわれもなく不安になるような人間ではない事を良く知っていたのだ。
では、わたしが心を騒がせている原因は、どこか他にある。
断定してみて真里砂はほくそ笑んだ。思考法が段々、向こうで作業中の清峰鋭に似て来てしまったようだ。
鋭の異名をコンピューターと言う。IQ260の天才少年と人は呼ぶ。
「おーい!」 呼ばれて雄輝はスタート係の仕事をしに走って行った。
真里砂はどうせもうしばらく暇なのだからと意識を集中させて自分の不安の原因を突き止めようと試た。 いや、“不安”と言うのは的当でない。それは何か予兆に似ていた。春の始めに猫柳の若枝が、今にもはじけそうではじけない新芽のむずがゆさにおののいている そんな感じだった。
障害物の最終点検が終了したらしい。鋭が何事かを伝達しに審判・スタート係のたむろしている場所へ走って行った。各走者一斉に身構える。雄輝の拳銃が天高く秋の空に響き……真里砂は先頭を切って走り出した。
× × ×
実にとんでもないコースだった。実に、実に。
きっとこれは鋭の立案によるものに違いないわ、と、自分自身も予測のつかない難コースに
P5.
辟易しながらも真里砂は十分楽しんでそう考えた。
図体がでかいばかりで総身に知恵の回り兼ねている連中は、早くも最初の網くぐり、尾瀬沼(1)辺りでひっかかって、ゴキブリホイホイよろしくジタバタやっている。下見をしていなかった真里砂は、置いてある器具をどのようにしてどうやって通ったら良いのかわからなくていちいち立て札を見なければならなかったので、最初はかなりきつかった。が、コースの設計者の方も楽しんでしまっているから、半分も行く頃には落伍者も半分、4分の3行程行けば走者は4分の1なのである。真里砂はどの障害も気前良く追い越した。(無論人間も)
前に残っているのはもう中等課の2・3人だけ。ものすごい応援合戦が繰り広げられている事が、夢中で走っている真里砂にも良くわかった。
「フレー!フレー!真 里 砂!!」
「フレー!フレー!マー シャ!!」
残るは2m間隔に並べられた12段の飛び箱のみ。計4つ。それを越えれば(規定では側面に足をかけずによじ登る事ができれば良い事になっていた)後は、300mの直線コースで勝負が決まる。
飛び箱は4列用意されていた。真里砂が助走に入った時、隣の列の2つ目の所でもう一人残っていた中等課の女子が足をくじいてうずくまった。男子2人陸上部の先輩達は2つ目と3つ目の所でよじ登ろうとあせっている。
真里砂は陸上部に入る前、半年ほど体操部だった事があった。
飛び箱の向うにきちんとマットが置いてある事を頭のはしで一瞬確認すると、真里砂はためらわずに思い切り蹴って飛び跳び越した 。
1つ。2つ。3つ。
深く着地し、すぐに体を起こして助走に入り、そのまま一歩半でまた跳ぶ。
いや、跳ぶというよりはむしろ飛ぶに近かった。
※(1) 10cm幅の細い板の両側に、一面粘着性の強い塗料がしきつめてあり、平均台と同じような役割を果たすが、一度足をつっこむと抜け出るのが大変なばかりでなく、後々までベタベタ走りにくくなるので、よりタチが悪い。
P6.
半年やそこら何をしようとも普通の人間にできる真似ではとてもない。
白い閃光がひらめいて行くようだった。応援はもう熱狂して叫んでいる。仙の白鹿のようなスピードで速技で真里砂はトップに踊り出た。
そして4つ目に飛びつき飛び降りようとした時 。
ひゅっ! と短く息を吸い込み、真里砂の体は呪縛にかかったかのように動かなかった。
腕を飛び箱の上に突っ張り、両脚を前に降り出して今にも着地に移ろうという姿勢のまま それでも、地球の重力(若しくは慣性の法則)だけは動き続けているらしかった。真里砂は落ちた。
いや、陥ちた、と言った方が正しかったかも知れない。逆らおうとするだけの意志が動き始めるその間もなく、不意に眼下着地点に現われた(若しくは消滅した)灰色の虚空に音もなく吸い込まれたのだ。熱狂していた観客は、一瞬、視神経に伝わったものを脳に吸収し切れなかったることができなかった。斧で断ち切ったような静寂が訪れた。誰もがその存在する空間にはり付けられてしまったかのように動けかなかった。
唯、雄輝だけは別だった。唯二人を除いて。
雄輝はゴールでストップウォッチを握っており、最初、真里砂は単に着地に失敗しただけなのだろうと思っていた。考えていた。
だが、かけつけて見て、そうではないとわかっても、彼は一瞬たりと足をとめず、信じ難い現実の向うに真里砂の姿がかすかに薄れて行くのを見た時、彼は一刻もぐずぐずはしていなかった。思考が脳細胞をかけ巡るのより速く、筋肉に命令が伝わるのが彼だったのだ。雄輝の行動の全てだったのだ。
そして、校庭の反対側に居た鋭もまた一瞬の遅れをとっただけだった。一瞬たりとも遅れてはいなかった。
鋭は熱心な科学絶対主義の信奉者だったが、それと同じくらいS・F
P7.
小説に傾倒してい、さらに彼の伝で言わせれば「全ての現象は科学的に説明される事が可能」なはずだったので、“科学的に説明”できる物事を彼が恐れて彼がパニックに陥るなどという事はありえなかったのだ。
虚空は、わなにはまった一人の少女と、おくれてかけつけ、自らの意志で身を投じた少年二人をわけもなく飲み込んで姿を消した。
その間1分とはかからなかった。長い沈黙を破り、不意に真里砂の養母が泣き出した。
そして、その後の学校側の必死の捜索にも関らず、三人の生徒が大衆の面前目前で姿を消した原因も、あの虚空の正体も、姿を消した子供達自身すらをも、遂に地球上において発見される事はなかったのである。
物語の舞台は“大地の国”へと移行する。
かつての四国神が治めた四界の一つ、地球の姉なる大地の国(ダレムアス)へと移行する。
☆シャーペンで描きかけでハンパに消した、体操服姿で斜めに振り返っている「見返りマーシャ」の胸像画あり。
(「太陽系」第三号連載分)
P1.
序章
緑の黒髪、と言う言葉があるが、今年12歳の美少女・真里砂の髪は、正真正銘まがいものなしの緑色だった。
それも、後世地球の一部学生たちから『にせ緑』色と呼ばれる事になる人為的な緑とは異って、萌え出でる春の炎を思わせる純粋な森の明るい緑色だった。
その瞳すらも、ほとんどそれとわからない程にかすかに青緑色のかかった濃い色合いを帯びている。
象牙色の肌
年の割に背が高く、すらりと伸びた手足は、一見、ほっそり、というよりは華奢と言う言葉を連想させる。(それだけ効率良く筋肉がついている証拠だと、彼女の主治医が保障した。)
そしてギリシャ彫像よりははるかに雛人形に近く、
自身の故郷では、有澄(ありずみ)真里砂は愛称で、『森の木洩れ陽(マダ・リクルメス)』もしくはマ・リシャと呼ばれていた。
自分の生い立ちにまつわる事を彼女はそれしか知らない。
気がつけば故郷(ふるさと)を遠く離れて『丸い地の国(ティカース)』の森の奥に記憶を失って倒れており、行くあてとてないので、言葉を教え世話をしてくれた、子供のいない有澄夫妻の養女になった。
これが6年前
真里砂は現在(いま)、外交官である養父母のもとを離れて、日本の、とある大森林の片隅にある寄宿制の世界的名門私立校、朝日ヶ森学園にて小等部最後の一年を過ごしていた。
秋のことである。
P2.
× × ×
ポンポンポンポーン
「選手招集をします。5000m障害物競走
「あっ!いけない!」
そろばんを放り出して真里砂は勢い良く立ち上がった。
時計は2時10分前を指している。集計係の仕事の忙しさにとりまぎれて、真里砂はまだ昼食を摂り損ねていたのだ。無論、もう食べている暇などない。
朝だってろくに食べてやしないのに
障害物競走。
「いよっ! マーシャ!!」
ばん★ インディアンのようにつややかで風になびいている黒い髪、黒い瞳、陽に焼けて浅黒く、中二にして身長
「……ケフッ。少しは手加減したらどうなの」相手が頭一つ分ばかり高かったところで真里砂が容しゃするわけがない。とはいえ、もうなれっこになってしまっているので、真里砂はいたずらっぽく眉を上げてみせた。
雄輝にデリカシーなんてものを理解させようったって、そりゃ無理と言うものだ。
P3.
「おまえ少しあがってるみたいだな」
おやおや。6年越しの幼な慣じみはどういう
右手は(午前中いっぱい暴れまくった後なので午後からは委員会を手伝わねばならず)ピストルと薬きょうの入った箱でふさがっていた
「ハチマキずれるでしょ」
真里砂はぱんと雄輝の手を払いのけた。雄輝も慌てて手をひっこめる。
真里砂のみごとな黒髪がかつらとばれたら大事(おおごと)だ。緑色の髪の
今の所、学園内で真里砂の秘密を知っているのは、
そしてその残りの一人、真里砂のクラスへ1ヶ月前に転入して来たばかりの鋭は、広い校庭の反対端で、上級生の群れに見え隠れしながら競技用の障害物の最終点検をやっていた。背は高くないので探しにくいのだが、混血児(ハーフ)らしい色の白さと明るい色合いの髪が結好良い目印になるのである。
「ところでおい、おまえ障害コース見てまわる余裕あったのか?」
名物障害物マラソンの障害物は、科学部建築クラブ等の面々が毎年毎年技術の粋と意地の悪さを存分に発揮して
それは
ところが真里砂は3つの委員会とクラブを掛け持ちで、食事すら朝昼満足に摂っていないのである。
「雄輝だって知ってるでしょ、そんな暇あるわけないじゃない」
真里砂は茶目っ気たっぷりに(そう
でも、大丈夫かしら。本当に勝てるかしら。速さの点では後半でなんとか喰らいついて行けるはずだわ、長距離は体力の問題だから。5000mなんて軽いものよ……。
P4.
真里砂が実は優勝候補の一人であることは無論周囲の良く知るところだった。
殊に真里砂の後背
真里砂はそんな風に周囲から期待を寄せられるのは嫌いではなかった。むしろその期待を裏切ってしまうような事の方が不慣れである。
障害物は
……あらっ!?
してみると不安に感じる理由などないではないか
では、わたしが心を騒がせている原因は、どこか他にある。
断定してみて真里砂はほくそ笑んだ。思考法が段々、向こうで作業中の
鋭の異名をコンピューターと言う。IQ260の天才少年と人は呼ぶ。
「おーい!」 呼ばれて雄輝はスタート係の仕事をしに走って行った。
真里砂はどうせもうしばらく暇なのだからと意識を集中させて自分の不安の原因を突き止めようと試た。
障害物の最終点検が終了したらしい。鋭が何事かを伝達しに審判・スタート係のたむろしている場所へ走って行った。各走者一斉に身構える。雄輝の拳銃が天高く秋の空に響き……真里砂は先頭を切って走り出した。
× × ×
実にとんでもないコースだった。実に、実に。
きっとこれは鋭の立案によるものに違いないわ、と、自分自身も予測のつかない難コースに
P5.
辟易しながらも真里砂は十分楽しんでそう考えた。
図体がでかいばかりで総身に知恵の回り兼ねている連中は、早くも最初の網くぐり、尾瀬沼(1)辺りでひっかかって、ゴキブリホイホイよろしくジタバタやっている。下見をしていなかった真里砂は、置いてある器具を
前に残っているのはもう中等課の2・3人だけ。ものすごい応援合戦が繰り広げられている事が、夢中で走っている真里砂にも良くわかった。
「フレー!フレー!真
「フレー!フレー!マー
残るは2m間隔に並べられた12段の飛び箱のみ。計4つ。それを越えれば(規定では側面に足をかけずによじ登る事ができれば良い事になっていた)後は、300mの直線コースで勝負が決まる。
飛び箱は4列用意されていた。真里砂が助走に入った時、隣の列の2つ目
真里砂は陸上部に入る前、半年ほど体操部だった事があった。
飛び箱の向うにきちんとマットが置いてある事を頭のはしで一瞬確認すると、真里砂はためらわずに思い切り蹴って
1つ。2つ。3つ。
深く着地し、すぐに体を起こして助走に入り、そのまま一歩半でまた跳ぶ。
いや、跳ぶというよりはむしろ飛ぶに近かった。
※(1) 10cm幅の細い板の両側に、一面粘着性の強い塗料がしきつめてあり、平均台と同じような役割を果たすが、一度足をつっこむと抜け出るのが大変なばかりでなく、後々までベタベタ走りにくくなるので、よりタチが悪い。
P6.
半年やそこら何をしようとも普通の人間にできる真似ではとてもない。
白い閃光がひらめいて行くようだった。応援はもう熱狂して叫んでいる。仙の白鹿のような
そして4つ目に飛びつき飛び降りようとした時
ひゅっ! と短く息を吸い込み、真里砂の体は呪縛にかかったかのように動かなかった。
腕を飛び箱の上に突っ張り、両脚を前に降り出して今にも着地に移ろうという姿勢のまま
いや、陥ちた、と言った方が正しかったかも知れない。逆らおうとするだけの意志が動き始めるその間もなく、不意に眼下着地点に現われた(若しくは消滅した)灰色の虚空に音もなく吸い込まれたのだ。熱狂していた観客は、一瞬、視神経に伝わったものを脳に吸収し切
雄輝はゴールでストップウォッチを握っており、最初、真里砂は単に着地に失敗しただけなのだろうと
だが、かけつけて見て、そうではないとわかっても、彼は一瞬たりと足をとめず、信じ難い現実の向うに真里砂の姿がかすかに薄れて行くのを見た時、彼は一刻もぐずぐずはしていなかった。思考が脳細胞をかけ巡るのより速く、筋肉に命令が伝わるのが
そして、校庭の反対側に居た鋭もまた
鋭は熱心な科学絶対主義の信奉者だったが、それと同じくらいS・F
P7.
小説に傾倒してい、さらに彼の伝で言わせれば「全ての現象は科学的に説明される事が可能」なはずだったので、“科学的に説明”できる物事を
虚空は、わなにはまった一人の少女と、おくれてかけつけ、自らの意志で身を投じた少年二人をわけもなく飲み込んで姿を消した。
その間1分とはかからなかった。長い沈黙を破り、不意に真里砂の養母が泣き出した。
そして、その後の学校側の必死の捜索にも関らず、三人の生徒が大衆の
物語の舞台は
かつての四国神が治めた四界の一つ、地球の姉なる大地の国(ダレムアス)へと移行する。
◎「銀のイス」参照に、もっとちゃんとした伏線を
ひいてから移動する事。
☆シャーペンで描きかけでハンパに消した、体操服姿で斜めに振り返っている「見返りマーシャ」の胸像画あり。
(「太陽系」第三号連載分)
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