『 序 章 (2) 』 (@高校?)
2007年6月29日 連載(2周目・大地世界物語)× × ×
雄輝が口を切ってしまったので、鋭はしばらく話が再開されるのを待っていた。
が、雄輝の方は勝手に物思いにふけってしまって、なかなか話が続きそうにないので、「それで?」と鋭の方からもう一度尋ねた。
「それでって?」
「記憶がないって答えて、それからどうしたのさ」
「
となりゃ話は速いだろ? 小父さま小母さまはマーシャを“天から降って来た”子供だと思う事にして黒髪のかつらを作り、一ヶ月遅れてで警察に届けた後、あらためて養女としてマーシャを引きとったんだ。
幸いマーシャが“マ・リシャ”って自分の愛称覚えてたんで、あて字で有澄真里砂って名前にしてさ。」
「ふ〜〜ん」
「で、小父さまの任地がちょうどヨーロッパ方面に変わったんで、休暇の時なんか、よく俺たち一諸になったんだよな。その頃からあいつとは結構仲良かったんだが、三年前に親父とおふくろが殺され……と!」
雄輝は慌てて口をふさぎ、ちらと気遣わしげに鋭を見た。
鋭の方はとっさにお得意のポーカーフェイスで、しゃっと表情を押し隠す。
知りたい事を探ろうと思ったら、まず興味がない振りをするに限る。
……案の定、雄輝はひっかかった。 ほっとして再び話し始める。
「親父とおふくろが死んで、小父さまたちにひきとられたろ俺。以来三年間は毎日ほとんど一諸に過ごしてるからな、あいつの性格はだいたいわかる。
鋭、おまえマーシャの友達に対する態度見てて何か気づいた事ないか?」
「、え
「ああ。さすがに鋭だ、やっぱり気づいてたか。あいつも昔はもっと素直だったのが、2年前からあんな風になったんだ。
……「二年前まで、つまり奴が地球に来てから四年たつまでは、あいつはいつもものすごく素直で、記憶のない、自分の素性も覚えていない人間だとはとても思えないほど、自信に満ちてた。
小母さまに連れられて初めて大人だらけの社交場に顔を出したのが、確かあいつが8つの時だったっけが、居並ぶ各界のお偉方相手に一歩も動じる所がないんだな。
ガキが無理に背伸びをしたって感じじゃなくて、ごく自然に対等に話ができるんだ。堂々たる気品というか威厳めいたものまで持って生まれてた感じでな、まるでどっかの小女王って顔ですらりと立ってるんだ。さすがの俺もいささか気押されたね。で……
そのパーティーの後で俺はマーシャに聞いたんだよ。真面に、
『おまえ本当はどっか別の世界から来た王女かなんかで、記憶がないなんてうそなんだろ』って。
そしたらなんて答えたと思う。
『わたしは本当に自分の事は何も覚えていないけれど、自分がそうなるべくして記憶を失っているのだという事はちゃんと知っているの。』って、『だからよけいな事に気をまわして、やたらあせる必要は一切ないのよ。
自信満々な即答だぜ。すごく率直に思った通りの事をさ。
今はそんな事めったにないだろ?
無論、あの頃は進んでいくらでも友達を作ったし、他の奴から好意を示された時に適当にはぐらかして逃げちまうような真似もしなかった。」
「二年前から
「ああ」
「何があったんだい」
「何も。」
「なんにも?……?」
(☆シャーペン描きで清峰鋭と翼雄輝の顔のイラストあり)
「これはあくまでも俺の推測なんだがな」と雄輝は続けた。「問題は2年前じゃなくて、マーシャが記憶を失ってから4年目、って方じゃないかと思うんだ。ほら、マーシャが縁起をかつぐ時、よく4とか6って数字にこだわってるだろ?」
「うん」
「思うにあいつは自分の素姓をまるっきり知らないわけじゃない。少なくとも自分がどんな所から来たかくらいは覚えてるはずだ。
なぜって奴は言葉は覚えてるんだし、記憶喪失者って普通バスに乗ったり買い物したりはできるだろ?
たぶん、4年目がマーシャの言ってた“時”だったんだ。
ところが4年目に起きるはずだったなにかが起きなかった。
鋭。そしたらおまえどうする
「原因を突きとめる」
「
「バッカバカしい。かぐや姫みたいに月からお迎えが来るってのかい? さっきっから聞いてりゃ、まるでマーシャが人間でないみたいじゃないか。」
「じゃ、おまえ、“科学的”に考えてみて緑の髪の地球人種がいるって言うのか?」
「……う……」
「まあ俺の言う事を信じろよ。おまえは科学万能主義だから無理もないが、6年つきあって来た俺の言う事だ。
事、奴に関する限り、何があろうと俺は驚かないね」
「やれやれ」
鋭は肩をすくめて苦笑いした。
「僕にも慣れろっていうんだね?」
「そういうこと」
二人は、同時に笑った。
「で、とにかく俺は、奴がやろうとしている事は、何とかして自力で故郷へ帰る事らしい、と信じてる。
だからこのとんでもない森の中を、夜の夜中に後つけて歩いたりしてるわけさ」
……「でも、いったい何のためにさ雄輝…………?」
(☆シャーペン描きの雄輝の顔のイラストあり。)
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