一、
二、序章
三、

 
   一、
 
 隣室から聞こえて来るかすかなせわしない物音に、清峰鋭(きよみねえい)はふっと浅い眠りを起こされた。
耳をそばだてて静かに息を殺して壁に耳を当ててみる。
が、用心して室内ばきを脱いでいるのか、聞きわけられるのは物の上げ下ろしや戸棚の開閉の音。 それに開け放してるらしい窓が風でかすかにきしんでいる音が混ざる。
   どうやら今夜決行する気らしい。
 気づいて鋭はわけも知らぬわからぬままに背筋を何かが走るのを覚えた。ゾクッとなった。
なにか、自分と、自分たち三人の一生を左右するような、とてつもない事件が起こりそうな気始まるんじゃないか  !?
予感が身内を走り抜けたのだ。
 マーシャは、彼女は、この間からいったい何を考えてるんだ。
いやそれより、これからどうしようとしているのだろう?
鋭はぐずぐずしている暇がないのを思い出してベッド寝台の上に体を起こした。
振り向いて、反対隣のベッドに寝ている雄輝(ゆうき)の背中をつつく。
トン。トントントン。
 雄輝の方で指定した約束の合図である。
  就寝時間から午前一時までは雄輝俺が不寝番をする。それから朝までは勘が非常にいい鋭の方が、何か起きればすぐに目をさます覚悟で壁際のベッドに移る。で仮眠するしてろ……。
しかし一向に目をさます気配がないので、
 鋭はもう一度雄輝を突つこうと腕を伸ばした。かどうしようかとためらった。、一旦伸ばしかけた指をまた止めた。
これで気がつかないようならお手上げだ。
下手にゆすったりして寝ぼけ声をたてられたら、鋭同様五感の発達したマーシャ真里砂(まりさ)には、様子をうかがっていた事がすぐにばれてしまうだろう。
 ゴソリ。
鋭の指が動きかけた丁度その時、雄輝の体がごく自然に寝返りを打った。
両目を開け、既に目を覚まし、その顔んは驚いた事に一片の眠気の陰すらの形跡を見せない。すらない。
 「  どうした。何かあったのか」
声帯をまったく使わず、口唇だけ動かして雄輝が尋ねた。世に言う読唇術という奴である。鋭がまだこの方法に慣れていないのを知っているので極くゆっくり唇を動かした。
「マーシャが今夜決行する気らしい。  だけど、なにを、だろう?」
  さあ、な。」
 真里砂とは6年越しのつきあいの、幼な慣じみ幼馴染みで、かつ一人っ娘の彼女の兄貴変わりでもある雄輝は、鋭ほどさほど不安を感じていないのか、さして鋭ほど深刻な顔はしていない。
ヒョイ、とかがみこんで、ベッドの足元からかねて用意のリュックサックを持ち上げた。
<行くぞ。非常階段用のはしごから先回りしてどっちへ行く気か確かめよう>
鋭もうなずいて彼に続いた。
 
 
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