森の中はしんと静まりかえっていた。
たき火には土がかぶせられ、(こうすると、少しのたき木で一晩
火がもつのだ)すきまから細いけむりがたなびいていた。
木々の上に大きくて明るい満月が顔を見せ、地上に
光と影を作った。
それは、地球の月の倍ほどもあり、この上もなく美しく、
さえざえとした銀色の光をはなっていた。
そして、身が軽く翼の強い鳥たちならば、一日で行って帰って
くることができるくらい近くにあった。
さて、月がゆっくりと上がってくるにしたがって、
木々の葉ずれの音のようなささやきが森中に広がった。
それは、ごくわずかなざわめきだったのだが、
真里砂たちは気づいて、体を起こした。
「なんだ、あなたたちも起きていたの。」
互いに、他の人は寝たのだろうと思いながら考え事を
していたのだった。
「あの音は何なんだろう?」 鋭が言った。
「風もないのに木々がザワついてるね。」
しばらく三人は無言のままその音を聞いていた。
そうするうちに、その音はどんどん大きくなり、
かすかな地鳴りのような響きをともなった、たからかな
歌声にと変わっていった。
その声は地の底から響くのかと思えば、次には木々の
こずえの向こうから降り落ちて来ると思われるぐらい
すばらしい二部合唱だった。
「ねえ、あの声はなんて言ってるのかわかる?」
「いや、まるで聞いた事ないね。」雄輝が答えた。
「少なくとも学校でならった言葉
「私だってそうよ。でも私、どこかでこの歌を聞いたことが
あるの。いつだったかしら………………?」
真里砂は懸命に思い出そうとしていた。
……すんだソプラノ、やさしい指、銀の服のあの人は
「 マ マ ン ! 」
真里砂はがく然とした。
古い記憶が突如よみがえってきたのだ。
ここで生まれ、ここで育ったのだ。
3才の誕生日まで
「誕生日の日に何が起こったのかわからないかい?」
真里砂は悲しそうに首をふった。
なぜ捨てられたりしたのだろう
「きっと、なにかわけがあったんだよ、真里砂(マーシャ)」
しかし、真里砂は雄輝の声を聞いてはいなかった。
その目は大きくひらかれ、驚きのあまり声を発する事ができなかった。
鋭と雄輝はとっさに剣をとって身がまえた。
こんなわけのわからない世界ではなにが起きるかわかった
ものじゃない。
ふりむいた二人が最初に見たものは、空き地の向こうがわ
にずらりと並んだ大木たちだったが、次の瞬間
それらは背の高い美しい人に変わった。
(未完)
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